遺留分の計算方法|基礎財産・生前贈与・債務・1年の期限

遺留分の計算方法|基礎財産・生前贈与・債務・1年の期限

相手から届いた計算書には「遺留分4分の1」とある。そこは、自分が調べた数字と同じだ。なのに、最後の金額が何百万円も違う。

電卓をたたき直しても合わない。よく見ると、実家の値段が違う。兄が家を買ったときの援助が入っていない。自分が昔もらったお金だけは、きちんと引かれている。「4分の1」で一致していても、その前後に何を足し引きするかで、結論は変わってしまう。

遺留分の計算は、割合よりも、その割合を掛ける財産と、本人がすでに受けた利益の確認が難しい。計算書を受け取ったら、最終行だけでなく、一つ上の数字の出所をたどりたい。ここでは2019年7月1日以後に始まった相続の遺留分侵害額請求を扱う。それより前の相続は、旧制度の確認が必要だ。

まず「4分の1」の持ち主を確かめる

遺留分があるのは、兄弟姉妹以外の相続人だ。配偶者、子やその代襲相続人、相続人となる直系尊属が対象になる。兄弟姉妹にはなく、兄弟姉妹を代襲する甥・姪にもない。親や祖父母であっても、子がいて自分が相続人にならない場合には、遺留分を持たない。

相続放棄、欠格・廃除、養子縁組などで相続人の範囲は変わる。戸籍や家庭裁判所の書類を見ず、家族の人数だけで割ると、最初から分母が違ってしまう。

全員分の遺留分は、直系尊属だけが相続人になるときは基礎財産の3分の1、それ以外は2分の1。そこに各人の法定相続分を掛けると、その人の遺留分になる(民法1042条)。たとえば配偶者と子1人なら、法定相続分は各2分の1なので、遺留分は各4分の1だ。

計算書の最初の金額は、預金残高とは限らない

遺留分の基礎財産は、次のように組み立てる。

死亡時に持っていた財産の価額 + 算入する贈与の価額 − 債務の全額

これが民法1043条の出発点だ。預金のほか、不動産、株式、貸付金なども確認する。借金を差し引く一方で、生前に渡されて手元からなくなった財産を足す場合がある。「死亡時の通帳に載っていない」は、計算から外す理由にならない。

相続税申告書の数字をそのまま写すのも早計だ。税金のための評価と、遺留分を求める民事上の評価は、同じとは限らない。不動産なら取引事例や鑑定、非上場株式なら会社の資料など、相続開始時の価額を判断する根拠をそろえる。評価方法や利用権、共有関係などが争点になることもある。

相手の評価に納得できなくても、すべて合意するまで請求を待つ必要はない。金額を詰める作業と、期限内に権利を行使する作業は、並行して進める。

兄の住宅資金と、自分が昔もらったお金は、同じ欄に入るのか

生前贈与は、「誰が」「いつ」「何のために」受けたかを調べる。基礎財産へ加える範囲は、民法1044条で分かれている。

  • 相続人以外への贈与:原則として相続開始前1年間。
  • 相続人への贈与:原則として相続開始前10年間のうち、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた特別受益に当たるもの。
  • 贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を加えると知っていた場合:これらの期間より前の贈与も算入対象となる。

住宅購入資金や事業資金の援助が問題になるのは、このためだ。ただし、家族間の送金をすべて特別受益と決めつけるわけではない。趣旨、金額、扶養の範囲などを確認する。

ここで、もう一つの「10年」に注意したい。請求する本人が受けた特別受益を、本人の遺留分から差し引く場面には、この10年制限は及ばない。11年以上前の贈与でも、本人の侵害額を減らすことがある。相手への贈与を基礎財産に加える話と、自分がすでに受けた利益を引く話は、別の計算なのだ。

「あのお金は相続で差し引かなくてよい」と持戻し免除の意思が示されていても、遺留分の計算から当然に外れるわけではない。また、遺産分割における特別受益の扱いや、相続開始後10年を経た分割の規律(民法904条の3)も別問題だ。何の計算で使う10年なのか、分けておく必要がある。

贈与された財産が、もうなくなっていたら

受け取った人が売却した、取り壊したというだけで、贈与が計算から消えるとは限らない。受贈者の行為によって財産が滅失したり価額が増減したりした場合には、原状のまま存在するものとして評価する規定がある(民法1044条2項が準用する904条)。

市場の値動きと、受贈者自身の行為による変化は区別する。贈与時、相続開始時、処分時の資料があれば、何が変わったのかを検討しやすい。

2,000万円の遺留分が、そのまま請求額になるとは限らない

計算の順序を見るため、相続人が配偶者と子1人、基礎財産が8,000万円の例を考える。贈与や債務などの調整はないものとする。

  1. 全員分の遺留分:8,000万円 × 2分の1 = 4,000万円。
  2. 子の遺留分:4,000万円 × 法定相続分2分の1 = 2,000万円。
  3. 子が遺言で1,000万円を受け取り、ほかに取得すべき遺産も特別受益もないなら、不足する額は1,000万円。

最後の引き算を飛ばすと、二重にもらう計算になってしまう。民法1046条2項による侵害額の基本形は、次のとおりだ。

本人の遺留分 − 本人が受けた遺贈・特別受益 − 相続により本人が取得すべき遺産の価額 + 本人が承継する相続債務

債務は基礎財産で全額を引き、ここでは本人が承継する分を加える。段階が違うため、同じ借金を無造作に二度引かないことが大切だ。保証債務やすでに弁済された債務などは、個別に内容を確かめる。

生命保険の支払明細なども相談資料に含めたい。受け取ったお金がすべて遺産や特別受益になると決めつけず、契約、保険料負担、受取人などから、その扱いを検討するためだ。

請求額が分かっても、相手を一人に決め打ちしない

現行制度は、不足分に相当する金銭を請求する仕組みだ。請求しただけで、実家の持分が当然に戻るわけではない。

遺贈や贈与を受けた人が複数いるときは、民法1047条に従って負担を分ける。遺贈を受けた人が贈与を受けた人より先に負担し、複数の受遺者は原則として目的価額に応じて分担する。ただし、遺言に別段の意思がある場合の扱いも確認する。

贈与が複数なら、原則として新しい贈与を受けた人から順に負担する。同時の贈与は価額に応じた分担となる。各人の負担には限度があり、相続人が受けた遺贈・贈与では、その人自身の遺留分相当額を控除する規律もある。

一人に資力がないからといって、その不足を別の人へ自由に回せるわけでもない。請求を受ける側は、裁判所に支払期限の許与を求めることができる。金額だけでなく、誰から、いつ、現実に支払を受けられるかまで考える必要がある。

計算が終わるのを、1年の期限は待ってくれない

遺留分侵害額請求権は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅する。相続開始から10年を経過した場合も消滅する(民法1048条)。一律に「死亡日から1年」と数える制度ではないが、知った時期が争われることもある。

遺言の写しを受け取った日、生前贈与を知った連絡、財産資料が届いた日を残しておく。自分に都合のよい日だけを起算点にして、先延ばしにしないことだ。

請求の意思は、負担すべき相手に伝える。内容証明郵便に配達証明を付けるなど、内容と到達の証拠を確保する。遺言執行者や他の家族へ話しただけで十分とは限らず、調停の申立てだけで相手への意思表示が済むわけでもない。金額がまだ確定しない場合の通知も含め、期限が気になるなら先に弁護士へ確認したい。

その後は交渉、調停、必要に応じた訴訟や保全を検討する。遺産分割協議とは、相手や手続が同じとは限らない。請求後に生じる金銭債権の時効も別に管理し、遺留分請求後の相続税手続も必要に応じて税理士へつなぐ。

昔の念書が出てきても、そこで計算をやめない

「生前に放棄すると書いてもらった」と念書を示されることがある。しかし、相続開始前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要だ(民法1049条)。家族間の書面だけで、その効果が生じるわけではない。

一人が遺留分を放棄しても、ほかの人の遺留分は増えない。遺留分放棄と相続放棄も別の制度で、遺留分を放棄しただけで相続人の地位や債務の承継がなくなるわけではない。

相談には、合わない二つの計算書をそのまま持っていく

数字を一つにまとめようとして、相手の計算を消してしまう必要はない。「自分はこの贈与を加えた」「相手は実家をこの金額にした」という違いこそ、相談で確認すべき点になる。

  • 戸籍、遺言書、協議書案など、相続人と分け方が分かる資料。
  • 死亡時の預金・証券残高、不動産や会社の評価資料。
  • 贈与契約書、振込記録、登記、贈与税申告書。
  • 借入金・未払税・保証などの債務資料、保険の資料。
  • 相手の計算書、贈与や遺言を知った時期が分かる連絡。

全部そろわなくても、期限が近いなら手元のものからでよい。相談予約では「遺留分の計算が合わない。相続開始日はいつで、遺言や贈与を知ったのはいつか」と伝えると、まず急ぐべき作業を整理しやすい。

4分の1という分数は同じでも、その下に積まれた家族のお金の履歴は同じではない。電卓をもう一度押す前に、計算書の数字に、一つずつ根拠を付けていこう。

公的資料・根拠

よくある質問

兄弟姉妹にも遺留分はありますか

兄弟姉妹にはない。兄弟姉妹を代襲する甥・姪にもない。配偶者、子など、兄弟姉妹以外の相続人が対象になる。

生前贈与はすべて計算に入りますか

基礎財産への算入は、相手、時期、特別受益に当たるか、当事者双方の認識などで変わる。請求者自身が受けた特別受益の控除は別に確認する。

10年以上前に自分が受けた贈与も差し引きますか

遺留分侵害額から請求者自身の特別受益を控除する場面には、基礎財産への算入に関する10年制限は及ばない。古い贈与も確認が必要だ。

持戻し免除があれば遺留分の計算から外れますか

当然には外れない。遺産分割の持戻しと遺留分の算定は分けて検討する。

請求すれば不動産の持分が戻りますか

2019年7月1日以後に始まった相続では、侵害額に相当する金銭を請求する制度だ。請求だけで持分が戻るわけではない。

遺留分の期限は死亡から1年ですか

一律ではない。相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年だ。起算点と通知の方法を早めに確認したい。

本記事は一般的な情報提供です。個別の判断は、相続開始日、資料、契約内容などを示して弁護士へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律と税務を分けずに確認

相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

確認日

最終更新:

相続の全体整理が必要な方へ

相続税申告・相続登記・不動産処分まで、ひとつの窓口で相談できます。

税理士、司法書士、不動産会社、金融機関に別々に説明する前に、まずは相続全体の地図を作ることが大切です。ATBでは、遺産分割、相続税申告、登記の段取り、不動産や非上場株式の処分までまとめて整理します。

相続ワンストップサービスを見る

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ