親の会社の非上場株式は、すぐに売れなくても相続財産として調べる必要がある。ただし、評価額がそのまま税額になるわけではなく、株式を受け取った全員に必ず納税が生じるわけでもない。遺産全体の税額と、期限までに各人が使える現金を別々に計算する。
架空の家族で考えよう。父の康弘の株式を相続することになった娘の奈緒は、会社で働いていない。弟の浩司は事業を継ぎたいが、母の玲子は自宅と生活費を確保したい。奈緒は「株をもらっても売れないのなら、税をどこから払うのか」と尋ねた。
以下の家族と金額は説明用の仮定である。会社の継続、家族の配分、相続税の評価、納税資金の四つを並べると、必要な資料と選択肢が見えてくる。
株式の評価額が出た後は、他の相続財産や控除を含めて各人の税額を計算する。株価に一律の税率を掛けた額と、実際の納税額は同じではない。
株式があることと、相続税の納付額が出ることを分ける
相続税は、株式だけに税率を掛けて計算するものではない。預貯金・不動産のほか、対象となる保険金や贈与等も調べる。
非課税財産、控除できる債務・葬式費用、基礎控除を確認し、遺産全体から計算する。その後、各人の受け取る内容、特例・税額控除等を反映する。
法定相続人が妻と子二人なら、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円だ。
調整後の課税価格の合計8,000万円から引くと3,200万円だが、これが誰か一人の税額ではない。法定相続分で税の総額を仮計算し、実際の取得割合で割り振る計算が続く。
会社を継がない奈緒が株式を取得しても、納税の有無と額はその計算による。一方、経営者でないから自分の株は相続財産から外してよい、ということにはならない。
評価方式は受け取る人の株主区分、会社規模と資産構成等から確認する。算定方式の詳細は評価専用の記事へ進む。 非上場株式の相続税評価|株主区分・会社規模・3方式の使い分けで詳しく確認できる。
評価額・税額・現金の差を、一人ずつ数字にする
奈緒の株式評価が2,000万円、遺産全体等から計算した奈緒の相続税が250万円、納税に使える個人資金が100万円と仮定しよう。
資金表での不足は250万円−100万円=150万円だ。株式評価2,000万円が、そのまま税額になるわけではない。
この不足額は、延納や物納の許可額を示すものでもない。各制度の金銭納付困難額は、相続人固有の財産、生活費等、所定の申請資料から判定する。数字は説明例で、実際の税率計算や許可を約束するものではない。
会社の預金は法人のお金だ。奈緒が納税に自由に使える個人資金ではない。
配当、会社による自己株式の買取り、会社からの借入れ等を考えるなら、会社法上の手続と分配できる額、税金、返済条件、会社の資金繰りを確かめる。
奈緒と浩司は、株式を誰が受け取るかを変える案も比べる。税額のほか、浩司の経営権、玲子の生活費、他の相続人へ払う代償金の準備も考えよう。代償金は、多くの遺産を受け取る人が、ほかの人へ渡す調整のお金だ。
相続税の評価額を、そのまま分割や買取りの価格にするかも、別に検討する。
不動産や代償金を含む資金計画は、財産はあっても納税の現金が足りない場合も参照したい。
非上場株式なら何でも物納できるわけではない。金銭での納付が難しいか、財産の順位と適格性等を確認する。延納の許可、納税猶予の条件、売却で得られる現金も、それぞれ別に調べる。
税額と現金の差が分かったら、延納・物納・事業承継税制・売却等を比較する。それぞれの条件と手続は、非上場株式の相続税が払えないとき|評価・延納・物納・事業承継税制で確認できる。
会社資料と家族の資金資料をそろえる
- 定款、株主名簿、種類株式・自己株式・株券発行の有無。
- 直近数期の法人税申告書、決算書、勘定科目内訳書、重要な資産・負債の資料。
- 親族・関係会社を含む議決権関係図と、役員構成・就任予定。
- 土地、有価証券、保険、貸付金、保証、退職金等の契約や明細。
- 遺産全体と取得案、相続人ごとの税額概算、納税へ使える現金と生活費等。
- 会社や金融機関への照会、売却・借入れの見込み、認定等の申請状況。
資料が足りなければ、不足分と問い合わせ先を一覧にする。
税理士へ依頼するときは、株価の評価だけか、遺産全体の申告や納税資金の比較まで含むかを、費用とともに確かめよう。相談しただけで依頼が成立したとは思わず、担当と期限を決める。
相続税申告の必要書類|相続人・財産・控除と添付資料の集め方
相続税申告では、相続人と取得内容の資料、財産・借金等を計算する資料、特例や申告に…

相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

康弘家では、奈緒の150万円の不足、浩司の事業計画、玲子の生活資金を並べて案を比較することにした。株価を知ることは出発点であり、その額をいつでも現金に換えられることを意味しない。評価と税、納税資金を別々に確かめることが、家族にも会社にも実行できる案につながる。
制度ごとの比較は非上場株式の納税資金が足りないときの選択肢、基本は国税庁の株式評価、延納、物納の案内を確認したい。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
あわせて確認できる説明
よくある質問
会社を継がない場合でも、非上場株式に相続税はかかりますか?
取得した株式は課税財産として調べる。経営をしないことだけで対象外にはならないが、納税額は遺産全体、基礎控除、受け取る内容、特例等から別に計算する。
評価方式(類似業種比準・純資産価額・配当還元)は自分で選べますか?
株主区分・会社規模・特定の評価会社等を判定する。その区分内の通達上の選択を確認するのであり、誰でも一番低い方式を自由に選ぶわけではない。
事業承継税制は、株を相続するだけでも使えますか?
受け取る人、会社、代表権・議決権、認定・申告・担保等の条件がある。単に株式を受け取るだけでは適用が決まらず、引き継いだ後の管理も必要になる。
相続税の申告期限はいつですか?
申告・納税が必要なら原則として相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内である。株価評価や遺産分割が未了でも自動的には延びない。
延納の担保として、相続した株式自体を使うことはできますか?
延納の担保は法定の種類と適切な価値・手続を確認し、税務署の審査を受ける。非上場株式なら必ず認められるとは限らない。物納や事業承継税制の担保とも区別する。



