亡くなった時の法律上の配偶者と、前の婚姻を含む法律上の子は、共に相続人になる。同居の長さや連絡の頻度だけで、参加する人を選ぶことはできない。
以下は再婚家庭の架空の例だ。恵子と夫の間には成人した娘の遥もいる。人物・金額は説明用で、放棄・養子縁組など相続権が変わる事情は別に確認する。
夫を亡くした恵子は、実家の鍵を握ったまま、夫の前の婚姻の子である亮からの手紙を読んだ。「父の財産を確認したい」。恵子には、この家で暮らした日々を知らない人に、生活の場所まで分けろと言われたように感じられた。一方、亮は「自分も父の子なのに、何も知らされない」と感じていた。
家族の記憶や感情だけで分ける人を決めれば、離れて暮らす子の権利が消えたり、残された配偶者の暮らしを検討する入口が失われたりする。まず共通の出発点を置くのが、相続人の範囲と法定相続分(法律で決められた相続の割合)の役割だ。その先で、自宅の残し方や現金の用意を具体的に考える。
現在の配偶者と、前の婚姻の子は共に相続人になる
民法890条は亡くなった時の配偶者を相続人とし、887条は亡くなった人の子を相続人とする。前の婚姻で生まれた実子も、現在の婚姻の実子も、法律上の子という点では同じである。長年会っていないことだけで相続権は消えない。
| 亡くなった人との関係 | 原則的な扱い |
|---|---|
| 亡くなった時の法律上の配偶者 | 相続人になる。 |
| 前の婚姻・現在の婚姻の実子 | いずれも子として相続人になる。 |
| 離婚した元配偶者 | 元配偶者というだけでは相続人にならない。 |
| 現在の配偶者の連れ子 | 亡くなった人との養子縁組等がなければ、子としての相続権は生じない。 |
認知、養子縁組、特別養子、相続放棄、欠格・廃除、子の死亡に伴う代襲相続等があれば、確認事項が増える。「前妻の子」「後妻の子」という呼び方だけでは、亡くなった人との親子関係を確定できない。出生から死亡までの戸籍をたどる必要がある。
法定相続分は配偶者2分の1、子全体で2分の1
配偶者と子が相続人なら、法定相続分は配偶者2分の1、子全体で2分の1である。子が2人なら各4分の1、3人なら各6分の1になる。前の婚姻と現在の婚姻のどちらで生まれたかによる差はない。
例えば、現在の妻、前の婚姻の子1人、現在の婚姻の子1人が相続人で、遺言や特別受益等の調整がなく、遺産の評価額が8,000万円なら、妻4,000万円、子各2,000万円が割合に対応する額となる。
法定相続分は分け方を考える基準であり、「配偶者が必ず自宅を取得する」「子には現金だけを渡す」という財産ごとの割当てではない。遺言、全員の合意、特別受益や寄与分等によって、具体的な受け取る内容は変わる。
自宅を残すなら、評価と代償金の支払えるだけのお金があるかを確かめる
現在の配偶者が自宅に住み続けたい場合、まず自宅以外の預金や保険金、今後の生活費を確認する。不動産の評価額だけを分けても、子へ代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)を支払う現金が足りないことがある。
自宅5,000万円と預金3,000万円を、同じ妻と子二人で分ける例を考える。妻が家を単独取得し、子は預金を各1,500万円受け取るとする。
妻が子へ各500万円を払えば、妻は差引4,000万円、子は各2,000万円となり、法定割合に対応する。ただし、妻が合計1,000万円を支払えることが前提で、税や費用は別だ。
これは計算を説明するための例である。実際には、合意する不動産の評価、売却案、代償金の時期や方法、配偶者居住権を設定する案などを比較する。安易に共有にすると、将来の管理や売却で調整が必要になるため、分割時点だけでなくその後の利用も考える。
恵子たちに当てはめると、夫の前妻自身は離婚しているため元配偶者としては相続人にならないが、亮は夫の子として残る。恵子、亮、遥の三人が相続人で、調整事情がないと仮定する。上の8,000万円の例なら、基準額は恵子4,000万円、亮と遥が各2,000万円だ。
けれど、恵子が望む自宅5,000万円だけで、恵子の基準額を1,000万円超える。預金3,000万円を亮と遥へ各1,500万円とするなら、恵子から各500万円を支払う案が考えられる。「税金がかからないから自宅は全部もらえる」という説明では、この現金の不足は埋まらない。
恵子は自分の預金を調べ、生活費を残して1,000万円を払えるか確認した。亮も、すぐに家を売ってほしいのか、支払時期の調整なら検討できるのかを伝えることにした。双方の希望を金額と時期に置き換えると、人格への非難よりも、合意できる案を比べやすくなる。
遺産分割協議は、相続人全員で行う
相続人である前の婚姻の子を外して、現在の配偶者側だけで協議書を作っても、その子の権利を処分することはできない。連絡を無視された、疎遠である、葬儀に来なかったという事情だけでは、協議への参加を省略する理由にならない。
連絡先が分からない場合は、戸籍の附票等で調査できるかを検討する。調査をしても所在が分からない場合と、所在は分かるが回答しない場合では、その後の手続が異なる。事情を整理し、必要に応じて不在者財産管理や遺産分割調停等の手続を検討する。
未成年の子と親権者が共に相続人となる協議では利益相反が生じ、原則として子のための特別代理人選任が必要になる。同じ親権者の下の複数の未成年者が参加する場合も確認が必要である。裁判所の案内に沿って、協議書案や戸籍等を準備する。
遺言が有効かと、遺留分が侵害されたかを分ける
有効な遺言で配偶者へ多くの財産を取得させることは可能である。ただし、配偶者と子には原則として遺留分(一定の近い家族に法律で保障された最低限の取り分)がある。遺留分を侵害する遺言であることだけを理由に、遺言全体が自動的に無効になるわけではない。
配偶者と子二人の例では、遺留分全体は計算の基礎となる額の1/2。各人の割合は、配偶者が1/4、子が各1/8になる。
計算の基礎には、一定の生前贈与や債務も関わる。実際の不足額は、各人が既に取得した財産や、負担する債務も踏まえて求める。
遺留分を侵害された場合、現行法では原則として金銭の支払いを求める。相続開始と、侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年という期間に注意する。
調停で話し合っていても、それだけですべての請求期限を守れるとは限らない。何を請求し、いつ期限を迎えるかを別に確認しよう。
生前贈与や介護の主張は、対象と証拠を具体化する
死亡前に配偶者名義へ移された財産があれば、贈与が成立していたのか、そもそも亡くなった人の財産が名義だけ変わっていたのかを確認する。贈与契約、資金の出所、管理・利用、対価の有無、入出金履歴、登記事項、税務申告等を時系列に整理する。
贈与であっても、直ちにすべてが特別受益として持戻しの対象になるわけではない。贈与の目的、性質、持戻し免除(生前の援助などを相続の取り分の計算に戻さないという意思表示)の意思表示等を確認する。介護に関する寄与分も、期間、具体的な行為、負担、遺産の維持・増加との関係を検討する。
「長年連れ添った」「世話をしなかった」という評価だけで結論を決めず、どの財産移転や寄与を、どの金額と資料で主張するかを明らかにすると、争点を絞りやすくなる。
配偶者の税額軽減は、財産を受け取る権利とは違う
相続税の配偶者の税額軽減は、実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い額までであれば、配偶者に相続税がかからないという制度である。配偶者がその額まで自動的に遺産を取得できるという意味ではない。
この制度で初めて納税額が0円になる場合も、使うための申告が必要である。申告期限までに未分割の財産には原則として適用できないが、分割見込書と所定期間内の分割、更正の請求等により後から適用できる場合がある。隠蔽・仮装された財産は対象外である。
詳しくは国税庁の配偶者軽減の説明を確認できる。分割の合意を待って申告期限を過ぎないよう、税務の準備も同時に進める。
婚姻外の子の相続と、前の婚姻の子の相続を混同しない
父の遺産を巡り、婚姻外で生まれた子の取り分を、婚姻内で生まれた子の半分としてよいかが争われた例がある。本人が選べない親の婚姻関係による区別が問題となり、相続分を半分とする旧規定が違憲と判断された。ただし、同時期の他の相続で、裁判や協議等によって既に確定的となった法律関係への影響は制限されている。
この決定は、前の婚姻の子と現在の婚姻の子の取り分を直接争ったものではない。前の婚姻の子を非嫡出子と混同したり、過去の協議をすべてやり直せると解釈したりしない。
話し合いを前に進める確認順序
- 戸籍ですべての相続人と、代理が必要な人を確認する。
- 遺言と遺言執行者の有無を確認する。
- 財産・債務と、生前贈与等の資料を一覧化する。
- 不動産の評価額、各人の取得希望、代償金の資金を比較する。
- 合意できない事項と、その根拠を絞る。
- 相続放棄、遺留分、相続税等の期限を別々に管理する。
話し合いがまとまらないときは、相手の人格評価を重ねるより、資料が足りないのか、評価額が違うのか、分け方に合意できないのかを分けて考える。遺産分割調停は、相続人の1人または一部が他の相続人全員を相手方として申し立てる手続である。
三人は、まず同じ財産目録と不動産の評価資料を見るところまで合意した。恵子がここに住み続けたい理由も、亮が資料を求める理由も、相続分だけで消えるものではない。だから、住居の確保、代償金、今後の生活費、相続税の申告を別の欄に書く。
遥は、二人の間で伝言役を続けるより、確認できた資料を三人へ同時に共有することにした。合意が難しければ調停を検討し、合意できたとしても、支払いが可能か、税務の期限を守れるかまで確かめる。家を残すという希望を実現するには、誰かの相続権をなかったことにするのではなく、残せる案を具体的に組み立てる必要がある。
関連する手続を、次の段階まで確認する
配偶者の住まいと子の取得分を調整する場合、登記と生活資金を含めて確認する。 配偶者居住権の設定と登記で詳しく確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、相続人・家族関係の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
前の婚姻の子と現在の婚姻の子で相続分は違うか
いずれも亡くなった人の子であれば、現行法上の法定相続分に差はない。配偶者と子が相続人なら、配偶者2分の1、子全体で2分の1となる。
離婚した前妻も相続人か
元配偶者というだけでは相続人にならない。ただし、その人との間の子は、亡くなった人の子として原則相続人になる。
現在の配偶者の連れ子は相続人か
再婚だけでは亡くなった人の子にならない。養子縁組等による法律上の親子関係があるかを戸籍で確認する。
疎遠な子に連絡せず協議できるか
その子が相続人なら、協議には参加と合意が必要になる。所在不明と回答拒否は区別し、必要な調査や手続を検討する。
配偶者は1億6,000万円まで優先取得できるか
配偶者の税額軽減は税の制度であり、その額の財産を自動的に取得する権利を与えるものではない。遺言や分割と税務を分けて判断する。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



