長年一緒に暮らしていても、法律上の婚姻関係がない内縁のパートナーには、配偶者としての法定相続権はない。住民票の続柄欄だけで相続権を判断するのではなく、婚姻関係、財産の名義、遺言や契約を確認する。
法律上の婚姻関係がない内縁のパートナーは、民法上の配偶者として法定相続人にはならない。共同生活の長さや実態だけで相続権は生じない。
財産を残すには、公正証書遺言による遺贈・生命保険の受取人指定・死因贈与を生前に設計する必要がある。居住保護は建物の所有・賃借と相続人の有無で根拠が変わり、税の扱いも法律婚の配偶者とは異なる。どの手段を選ぶかは、財産の種類・遺留分権者の有無・税負担を確認してから判断する。
婚姻届一枚が、長年の共同生活を法律の外に置く
民法739条は、婚姻が届出によって効力を生ずると定める。同法890条の「配偶者」は、法律上有効な婚姻の配偶者を指す。外国で成立した婚姻などは別途確認する。どれだけ長く一緒に暮らしていても、その事実だけで法定相続人になるわけではない。
では、死亡時に離婚と同じような財産分与を求められるか。内縁関係が死亡によって終わった場合、離婚時の財産分与の規定をそのまま使って遺産を受け取ることはできない。生前の契約や遺言を整える必要がある。
つまり、何も準備しなければ、内縁のパートナーは相続から外れたまま手続が進む。感情と制度を分けて確認することが、次の手を考える出発点になる。
生前に設計できる三つの手段
法定相続権がない以上、財産を渡すには生前の設計が要る。代表的な手段は三つ——公正証書遺言による遺贈、生命保険の受取人指定、死因贈与だ。それぞれ仕組みが違い、使える場面も異なる。
公正証書遺言による遺贈
遺言で内縁のパートナーを受遺者に指定し、特定の財産または割合を遺贈することができる。遺言を作る際には、法律婚の配偶者や子など遺留分を持つ相続人がいる場合の侵害額請求の可能性、遺言執行者の指定、受遺者が先に亡くなった場合に備えた予備条項を確認する。公正証書遺言の作り方と証人の要件も参照してほしい。
生命保険の受取人指定
生命保険の受取人が契約の当事者以外の人である場合、その人は契約による利益を直接受ける。死亡保険金の請求権は受取人固有の権利となるのが原則だ。受取人に指定された内縁のパートナーは、遺産分割とは別に保険会社へ直接請求できるのが原則だ。
ただし、指定できる受取人の範囲は保険会社の取扱いによって異なる。契約前に確認が必要だ。
税の扱いについては後述するが、保険料負担者・被保険者・受取人の組み合わせで、相続税・所得税・贈与税のいずれが課されるかが変わる。国税庁の案内で組み合わせごとの課税区分を確認してほしい。
なお、相続人が受け取る保険金の扱いでは、原則として特別受益ではないが、共同相続人間の不公平が到底是認できないほど著しい特段の事情がある場合に、民法903条による調整が問題になる。この取扱いは共同相続人間のもので、内縁の受取人へそのまま当てはめる説明ではない。
死因贈与
死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が生じる贈与契約で、受贈者との合意が必要になる点が遺言と異なる。遺言は単独でいつでも撤回できるが、死因贈与は契約であるため撤回に制約が生じることがある。どの手段を選ぶかは、財産の種類と相手方の状況を見て判断する。
税の扱いは、法律婚の配偶者と別の話になる
財産を渡す設計ができても、受け取った後の税負担まで含めて考えないと、想定より手元に残る金額が変わる。
相続税基本通達19の2-2は、内縁関係にある人が配偶者の税額軽減の対象外であることを明記している。法律婚の配偶者であれば法定相続分または一定額まで相続税がかからない仕組みがあるが、内縁のパートナーにはこれが適用されない。
また、相続人以外が受け取る死亡保険金には、死亡保険金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)が適用されない。受け取った保険金の全額が課税対象になる可能性がある。遺言で財産を遺贈する場合も、内縁のパートナーは相続人ではないため、相続税額の2割加算の対象になる。遺言を作る段階で、納税資金の手当てまで確認しておく必要がある。
住み続けられるかどうかは、建物の種類と相続人の有無で変わる
パートナーが亡くなった後、今の家に住み続けられるかどうか。この問いへの答えは、建物が被相続人の所有か賃借か、そして相続人がいるかどうかで、根拠ごと変わる。三つの場面を分けて確認する。
被相続人が所有する建物の場合
所有権は相続人へ移るのが原則だ。共同生活の経緯や双方の事情によっては、相続人からの明渡請求が権利の濫用として認められない場合もある。しかし、内縁のパートナーに一般的・永久的な居住権があるわけではない。住み続けられるかを死後の争いに委ねず、遺言や契約を生前に整えたい。
被相続人が賃借する建物で、相続人がいる場合
賃借権は相続人が承継する。内縁のパートナーが相続人の賃借権に基づいて賃貸人へ居住を主張できる場合はあるが、本人が当然に共同賃借人になるわけではない。相続人との関係が悪化した場合も含め、契約と共同生活の経緯を個別に確認する。
被相続人が賃借する建物で、相続人がいない場合
借地借家法36条により、事実上の夫婦と同様の関係にあった同居者が、建物賃借人の権利義務を承継する場合がある。ただし、この場面は相続人がいないことが前提だ。居住用建物の賃借人と死亡当時に事実上夫婦として同居していたなどの要件があり、相続人なしの死亡を知った後1か月以内に賃貸人へ反対の意思を表示すれば承継しない。相続人がいる場合の援用とは根拠が異なる。
三つの場面を混同して判断しないことが重要だ。まず賃貸借契約の名義と、相続人の有無を確認する。
法定相続人が誰もいない場合——特別縁故者という選択肢
被相続人に法定相続人が誰もいない場合、内縁のパートナーが特別縁故者として財産分与を申し立てられる可能性がある。根拠は民法958条の2だ。
ただし、自動的に財産を取得できる制度ではない。相続人捜索の公告期間が満了してから3か月以内に家庭裁判所へ申し立て、清算後に残るべき財産について、裁判所が相当と認めた範囲で分与される。清算がすべて終わるまで申立てを待つと期限を過ぎるおそれがある。遺言や保険で設計できる場合と比べると、不確かさが大きい。相続人がいない場合の清算人と特別縁故者の流れで手続の全体像を確認してほしい。
設計を始める前に、手元で確認すること
どの手段を選ぶかは、三つの確認から始まる。
一つ目は、財産の名義だ。不動産・預貯金・保険契約それぞれの名義人と、内縁のパートナーとの関係を整理する。名義によって使える手段が変わる。
二つ目は、遺留分権者の有無だ。法律婚の配偶者や子がいる場合、遺言で全財産を内縁のパートナーへ遺贈しても、遺留分侵害額請求が生じる可能性がある。誰が遺留分を持つかを先に確認する。
三つ目は、税負担の見積もりだ。配偶者の税額軽減が使えない分、受け取る側の税負担は法律婚の場合より重くなりやすい。渡す財産の金額と、受け取った後に手元に残る金額は別の話だ。
この三点が紙の上に出てくると、遺言・保険・死因贈与のどれをどう組み合わせるかが具体的に見えてくる。法律上の配偶者でなくても、生前の設計で埋められる空白は少なくない。手元の資料と現在の状況を整理したうえで、専門家への相談につなげてほしい。
よくある質問
内縁のパートナーは法定相続人になるか
長年の共同生活だけで配偶者としての法定相続権は生じない。遺言、死因贈与、保険の受取人指定などを検討する。
内縁でも配偶者の税額軽減を使えるか
内縁のパートナーには適用されない。相続税の2割加算や、死亡保険金の非課税の対象外となる点も確認する。
住んでいた家には必ず残れるか
所有か賃借か、相続人がいるか、契約や生前の合意によって変わる。一般的・永久的な居住権が自動的に生じる制度ではない。
特別縁故者への財産分与はいつ申し立てるか
相続人捜索の公告期間満了後3か月以内に申し立てる。自動的な取得ではなく、清算後の残余財産と家庭裁判所の判断による。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



