相続対策は、希望だけでなく、家族の権利、書面の作り方、使える現金、税と期限まで確かめる。準備しなければ必ず争うわけでも、準備すればすべてを避けられるわけでもない。
架空の家族で考えよう。父の礼二は、家を長男の達也へ残したいが、遺言はまだない。達也は家に住み続けたく、娘の千晴は受取額を知りたい。
妻の信子は、夫婦の介護費を先に確保したいと思っている。
準備の後に、残った作業を調べる
遺言の作り方、財産と借金等の調査、贈与の契約と税、不動産を受け取った後の現金を点検する。
一つの制度を使っただけで、家族の希望すべてを実行できるわけではない。礼二たちは、まだ決まっていない点を調べることにした。
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

① 口頭の希望と遺言を分ける
遺言がない場合等には、複数の相続人で、誰がどの財産を取るかを決める必要がある。話合いで分割するなら、参加すべき全員の合意が必要だ。
ただし、相続人が一人等の場合もある。遺言がなければ、すべての相続で分割の話合いが必要、という意味ではない。
同じ額ずつ分ける案でも、家族の希望が一致するとは限らない。家に住みたい人と、現金を受け取りたい人では、必要な準備が違う。
相続人が介護等で、亡くなった人の財産を特別に維持・増加させた場合には、寄与分が問題になることもある。
介護をしただけで、自動的に取り分が増える制度ではない。具体的な働きや財産への効果、資料等を調べる。礼二が生きている今の希望と、亡くなった後の判断も分けて考える。
遺言は、本人の希望を、亡くなった後の引継ぎへ反映する制度だ。口頭で伝えるだけでは、有効な遺言と同じ効果にならない。
書いた後も、法定の方式、本人の判断能力、遺留分、実行する人と方法、指定した財産の変化を確認する。
遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分で、兄弟姉妹以外の相続人に認められる。全体の割合は、父母・祖父母等の直系尊属だけが相続するなら1/3、それ以外は1/2だ。それに各人の法律上の相続割合を掛ける。
遺言で全財産を一人に渡すと書いても、ほかの人が、足りない分のお金を請求できる場合がある。
相続が始まったことと、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年等の期間がある。遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

② 贈与の契約と税を確認
贈与は、本人の財産を、生きている間に相手へ渡す契約だ。暦年課税の基礎控除110万円は、受け取る人が一年間にもらう贈与の合計で考える。
本人の生活費を残し、双方の合意、引渡し、誰が管理し使えるかを確認する。110万円以内なら、誰でも必ず節税できるとは限らない。
贈与税がかかるかと、相続税の計算にその贈与を加えるかは、別に判定する。
2024年1月1日以降の暦年贈与では、加算する期間を、段階的に7年へ延ばす仕組みがある。
相続等で財産を受け取る人について、亡くなった人から受けた一定の暦年贈与を、相続税の計算に加える期間だ。
死亡の日からさかのぼって
3年以内
2024年1月1日から
死亡の日まで
死亡の日からさかのぼって
7年以内
①③は各期間の始まりの日から、死亡の日までを含む。贈与税がかからなかった贈与も、対象になり得る。
延長された3年超の部分は、贈与時の価額の合計から100万円まで加算しない。毎年100万円を引ける制度ではない。対象者、非課税財産等の例外、相続時精算課税は別に確かめる。
相続対策と贈与の組み合わせ|生活資金・税金・遺言を整える
贈与は生前に財産を移し、遺言は原則として亡くなった時の財産の行き先を定める。両方…

③ 家の使い方・費用・売却を確認
不動産の共有が、常に失敗というわけではない。持分を決めた後も、誰が住むか、修理、税、使用の対価、連絡方法、将来の売却を話し合う。
分割前の遺産共有と、分割後に通常の共有とした場合も、区別する。
不動産全体を売るには、原則、共有者全員の合意が必要だ。
自分の持分を売る、財産を保存する、通常の管理をする、重大な変更をする場合では、ルールが違う。管理は持分の価格の過半数で決め、保存は各人ができる等の原則と例外を確かめる。
意見が一致しない場合に使う手続も、権利関係に応じて相談しよう。
本人の生活と家の利用を確認し、財産をそのまま分ける現物分割、代償分割、換価分割、共有、遺言等を比べる。
家を先に売る方法を、すべての家族へ勧めるわけではない。
- 代償分割:不動産を一人が取得し、他の相続人に代償金を支払う方法
- 換価分割:不動産を売却し、売却代金を分割する方法
- 生前の遺言書・信託の活用:誰が引き継ぐかを明確にしておく方法
不動産の相続対策|共有・空き家・納税資金で揉めない準備
不動産の相続対策は、誰が受け取るかと、住み方、評価、必要なお金、税、管理を一緒に…

礼二の財産を、家3,600万円と預金1,200万円だけとする。相続人は信子と子二人で、借金やほかの調整はないと仮定する。
法律の割合を目安にすれば、信子が2,400万円、達也と千晴が各1,200万円だ。
達也が家を一人で受け取るなら、ほかの財産の配分と、調整のために払う代償金の資金が問題になる。家の価額3,600万円は、使える現金ではない。税額の試算とも区別する。
自分で進める三つの準備
まずは、手持ちの資料で次の三つを進めよう。分からない部分は、確認が必要な点として残す。
ステップ1:財産と負債の一覧を作る
不動産、預貯金、証券、生命保険、借入れと保証等を一覧にする。手持ちの資料を使い、確認日と資料がない項目も残す。
財産と借金等の全体を調べてから、対策を考えよう。
ステップ2:相続人と法律の割合を調べる
誰が相続人で、法律の割合ではどのくらいになるかを確かめる。
記憶だけで決めず、必要な戸籍等で家族関係を確認する。割合が分かっても、家を誰が受け取るかまで決まるわけではない。
ステップ3:遺言書の作成を検討する
自筆証書遺言は自分で作れるが、本文、日付、氏名を自分で書き、押印する等の方式が必要だ。
添付する財産目録は自書以外も認められるが、各ページへの署名押印等を確かめる。法務局の保管には手数料がかかり、内容すべての有効性を保証する制度ではない。
準備メモを作ることと、有効な遺言を残すことを区別しよう。
相続対策を早めに始める理由。時間が味方になる、その仕組み
早めに始める利点は、財産をすぐ移すことではない。本人の意思を確かめ、権利と資料を…

毎年の贈与については、次の記事も確認できる。
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

契約・権利・評価・現金・実行を点検
贈与の合意と引渡し、契約や振込の資料、現在の権利者、税の評価、使える現金、書類や登記等の実行を、それぞれ確かめる。
不動産を買って税の評価が下がっても、借入れ、維持費、空室、売却の問題まで消えるわけではない。
遺言の財産を売った、受取人が先に亡くなった、家族関係が変わった場合には、遺言と今の資料を比べる。
新しい契約を増やす前に、未確認の点、調べる担当、確認日を一覧にしよう。
あわせて確認する手続と資料
ほかにも確認する手続がある場合は、生前の全体計画の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
対策しなければ必ず相続税が高くなりますか?
財産評価、債務、非課税、贈与の加算、基礎控除等で異なる。税だけでなく、承継と生活資金、必要な申告を確認する。
贈与は今から始めても意味がありますか?
本人の生活、契約の目的、贈与を受ける人と課税方式、相続への加算等で判断する。暦年課税と相続時精算課税を比較し、財産を移す前に確認する。
協議が長引けば、税の申告も待てますか?
申告義務がある場合、未分割でも期限までの申告・納付が必要だ。後の特例に向けた分割見込書や修正申告(少なく申告した税額などを、自分で直す手続き)・更正の請求等を確認する。
相続しないと家族で決めれば借金も引き継ぎませんか?
遺産を取得しない合意と、家庭裁判所への相続放棄は別だ。原則3か月の熟慮期間(相続を受けるか、放棄するかなどを決めるための期間)と、借金・保証の調査を確認する。
点検は何から始めますか?
本人の希望と生活費、家族関係、財産・負債、既存書類とその作成日を並べる。税・登記等の期限や、特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)・寄与分の10年のルールと例外も確認する。
信子は生活費の必要額、達也は家を受け取った後の支払い、千晴は受取時期を持ち寄ることにした。
礼二は口頭の希望で済ませず、資金と作り方を確認して、遺言を考える。仮の金額を合意済みとせず、資料と希望をそろえて見直していく。



