暦年課税の贈与税の基礎控除は、もらう人一人につき、1年間で110万円だ。父と母が別々に渡しても、同じ子へ渡したなら、贈る人ごとに110万円ずつ使えるわけではない。まず「誰が受け取ったか」で一年分を集める。
咲子が引っ越す年、父の俊夫は「新生活の足しに」と100万円を贈った。半年後、母の洋子も自分の預金から100万円を贈った。父も母も「一人110万円までなら大丈夫」と読んだつもりだった。
咲子の口座には合計200万円が入っている。「二人とも100万円だから申告はいらないよね」と母が言ったとき、父は初めて自分も渡していたことを話した。家族の中で、贈った額の確認が別々になっていた。
咲子・俊夫・洋子は制度を説明する架空の家族で、実際の相談例ではない。父母からの贈与はどちらも暦年課税で、ほかの贈与や非課税・特例はないと仮定する。
咲子が受け取った200万円から110万円を引くと、税率を掛ける額は90万円。通常の計算では、90万円×10%=贈与税9万円となる。
なぜ、贈った人でなく、もらった人を中心に集めるのか
贈与税は、個人から財産を無償でもらった人に関する税金だ。暦年課税では、その人が一年間にどれだけの財産を受け取ったかをまとめて計算する。誰が何回に分けて渡したかだけで、受け取った人の控除がどんどん増える仕組みにはしていない。
もし「贈る人一人につき110万円」なら、咲子が父母から合計220万円を受け取る場合と、一人から220万円を受け取る場合で、人数を分けただけで控除が倍になる。実際は、咲子がその年に受け取った暦年課税の贈与を合計し、110万円を一度引く。
逆に、父が咲子と別の子へ110万円ずつ渡すなら、受け取った人が二人なので、それぞれの年間の贈与を調べる。同じ「二人」でも、贈る側が二人なのか、もらう側が二人なのかで、数え方が違う。
「基礎控除」は、税金を計算する前に一定額を差し引く仕組みだ。贈与を成立させる許可でも、父と母が一人ずつ使える予算枠でもない。
また、通常必要な生活費や教育費に税金がかからない仕組みとは、理由も条件も違う。
「誰が、誰から、1年にいくら」の順で整理する
暦年課税では、1月1日から12月31日までを一つの年として数える。口座や振込み、贈った親族ごとに110万円を引くわけではない。
現金だけでなく、不動産や株式なども含め、贈与を受けた時点の税金計算用の評価額を合計する。
| 贈与の組合せ | 暦年課税の計算 |
|---|---|
| 父から子Aへ100万円 | Aの他の贈与がなければ基礎控除後0円。 |
| 父100万円+母100万円を子Aへ | Aは計200万円。基礎控除後90万円。 |
| 父が子A・子Bへ各110万円 | A・Bを別々に計算。他の贈与がなければ各0円。 |
| 父100万円+祖父30万円を子Aへ | Aは計130万円。基礎控除後20万円。 |
例えば父母から計200万円を受け、他の特例等がない通常の計算なら、90万円に10%を掛けて贈与税は9万円となる。基礎控除後200万円以下の税率は、一般税率でも特例税率でも10%である。
祖父母が孫への贈与を親に知らせていないと、親側の一覧だけでは年間総額が分からない。本人が受け取った贈与を確認し、家族それぞれの送金記録と照らし合わせる。取り扱いは国税庁「複数の人から贈与を受けたとき」に示されている。
咲子は、自分の受取一覧を作り、父母にもそれぞれの送金日を確認した。父の口座を見ただけでは、母から受け取った100万円は分からない。祖父母などから別に贈られた財産がないかも、本人を中心に確認する。
暦年課税と相続時精算課税が混在するとき
父について相続時精算課税を選んでおり、母について選んでいない場合、父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税として分けて計算する。2024年以後の精算課税の年110万円は、暦年課税の年110万円とは別枠である。
仮に父から精算課税で110万円、母から暦年課税で110万円を受け、ほかに贈与がないなら、それぞれの基礎控除後は0円となる。ただし父について初めて選択する年には、期限内の選択届出書が必要である。二つの枠を使うためだけに、撤回できない選択を軽く決めないようにしたい。
洋子が「父さんの分だけ別の制度にすればよかったの」と聞いた。だが、相続時精算課税は、その年の枠だけを見て自由に付け替える制度ではない。贈与者・贈与を受ける人の年齢や続柄などの条件、選択届出、選択後はその贈与者について暦年課税へ戻れないこと、相続時の扱いも確認する。
初めから咲子の家族がどの制度を選んだかを確認せず、「父母だから別枠」と結論づけない。暦年課税か、相続時精算課税かを、贈与者との組合せで区分する。
父母とも精算課税でも、年110万円は2倍にならない
父母の両方について相続時精算課税を選び、同じ年に父から220万円、母から110万円を受け取ったとする。この制度で受け取った合計は330万円だ。
110万円の基礎控除を、贈与額の割合で分ける。父の分は約73.3万円、母の分は約36.7万円となる。これは考え方を示す概数なので、申告では決められた計算と端数処理を使う。
分かりやすく同額の例なら、父母から各110万円を受けると、基礎控除は各55万円となる。その後の2,500万円の特別控除は父母それぞれで残額を管理する。特別控除で税額が0円になっても、年間の精算課税贈与が110万円を超えているため、申告を省略できるわけではない。
税率は、贈与を受ける人の年齢と贈与者との関係で分かれる
暦年課税の特例税率は、贈与年の1月1日に18歳以上の人が、自分の父母・祖父母など直系尊属から取得した贈与に使う。夫の父、妻の母から受けた贈与は、養子縁組等がない限り自分の直系尊属からの贈与とはならない。
父と夫の両方から贈与を受けるなど、一般贈与財産と特例贈与財産が混在する場合も、110万円をそれぞれ丸ごと控除しない。国税庁の計算では、全額を一般税率で計算した税額に一般贈与財産の割合を掛け、全額を特例税率で計算した税額に特例贈与財産の割合を掛けて、両者を合計する。
この場合は、贈与税の計算と税率の混在する場合の計算例を参照する。金額が大きいほど税率区分で差が出るため、続柄、年齢、各人からの金額を正確に記録する。
生活費・教育費や特例は、集計前に条件を確かめる
扶養義務者から通常必要な生活費・教育費を必要な都度受け取り、直接その用途に使う場合は、贈与税の非課税財産となることがある。このような非課税財産と、自由に使える資産としてもらった贈与を分けて整理する。
例えば学費の支払に使う金銭と、将来のために多額を預金しておく金銭を一括して「教育費」と扱わない。支払先、支払日、領収書、残額の使い道を確認する。住宅取得等資金など申告が必要な特例もあるため、110万円以下かどうかだけで提出が必要かどうかを決めない。
今回の100万円は、自由に使える財産として贈ったという仮定だった。もし別の場面で、親が必要な学費をその都度直接負担していたなら、同じ「子のためのお金」でも先に非課税の条件を調べる。名称を新生活費や教育費に変えれば、自由に預金するお金が全部非課税になるわけではない。
110万円以下でも、贈与の成立と相続時の加算は別に確認する
子名義の口座へ入れただけで、子が贈与を知らず親が自分の資金として管理していれば、名義預金の問題が残る。110万円は成立した贈与に対する税額計算の仕組みであり、贈与を成立させるための条件ではない。
また、暦年課税で贈与税がかからなかった財産も、相続等で財産を受け取った人が対象期間内にもらったものなら、原則として相続税へ加算される。2026年末までに相続が始まる場合は3年、2027年から段階的に延長し、2031年以後は7年となる。
毎年の贈与と定期金の契約の違い、延長部分の総額100万円の控除は、毎年110万円の贈与と生前贈与加算で整理している。「贈与税0円」と「相続税の計算に入らない」は、分けて判断する必要がある。
申告前に確認する一覧の作り方
- 贈与を受ける人を1人ずつ分け、その年に受けた贈与をすべて書き入れる。
- 贈与者、続柄、贈与日、財産の内容、評価額を書き入れる。
- 過去の選択届出を調べ、暦年課税と精算課税を区分する。
- 非課税財産や特例の条件を確認してから、各区分の控除と税率を計算する。
- 翌年の原則2月1日〜3月15日の申告・納付と、初回の選択届出を確認する。
金銭以外の贈与では、110万円以下と思っていた財産の評価が実際には上回ることもある。契約書や振込記録に加え、評価資料を保存し、判断が難しい財産は期限前に税理士へ相談する。
咲子たちは、贈った人のメモを別々に持つだけでなく、咲子が一年間に受け取った財産と、使った制度を一覧へまとめた。確認したいのは「一回が110万円以下か」ではなく、同じ受取人の一年分を、正しい区分で数えられているかだった。
父母の好意が、申告の見落としへ変わらないようにする。金額だけでなく、贈与の合意、送金、受取後の管理も残しておくことが、その後の相続の説明にも役立つ。
確認に使った公的資料
ほかにも確認する手続がある場合は、生前贈与の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
父母から110万円ずつなら贈与税はゼロか
両方が暦年課税なら合計220万円から110万円を控除する。贈与者ごとに控除することはできない。
子2人に110万円ずつ贈ることはできるか
各子が受けた年間の贈与を別々に計算する。他の人からの贈与がなければ、各子の基礎控除後は0円となる。
暦年課税と精算課税の110万円は別枠か
2024年以後は別枠である。ただし、同じ贈与者について両方式を自由に使い分けることはできない。
父母とも精算課税なら控除は220万円か
精算課税の基礎控除は贈与を受ける人ごとに年110万円である。複数の特定贈与者から受けた場合は、その贈与額の割合で分ける。
贈与税を申告すれば贈与の成立は確実か
申告だけでは確定しない。合意、財産移転、取得後の管理・利用などの実態も確認する。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



