相続人全員の合意等によって、遺産の一部だけを先に分けられる場合がある。ただし、残った不動産の分け方や、税金・費用のために使う現金まで先に分けてよいかは別の問題だ。
父の実家を誰が取得するか決まらず、姉の亜希と弟の涼は半年間話し合っている。涼は「銀行の預金だけは、先に半分ずつ受け取れないか」と提案した。亜希は納得しかけたが、実家の価格差を調整するお金がなくならないかが気になった。
全部が決まらなくても、一部を分ける道はある
民法907条は、共同相続人が協議で遺産の全部または一部を分割できると定める。ただし、遺言による禁止や分割しない旨の契約等も確認する。分割に参加する人を確定し、一部だけだから協力している人の合意だけでよいとは考えない。
不動産の評価が決まらない、売却の準備に時間がかかるなどのときに、合意できる預金等を先に分ける方法が役立つことがある。制度は、すべての財産が解決するまで何も動かせないという不便を減らすためのものだ。
一方、一部だけを先に分けた結果、残りの分割が一層難しくなる場合もある。亜希と涼は、対象にする預金を選ぶ前に、遺産全体と今後の支出を一覧にすることにした。
分ける対象と、今回決めない対象をはっきりさせる
銀行名、支店、口座、金額、分ける割合、払戻しと送金の担当、費用を確認する。今回の対象はこの口座全額か一部の金額か、利息や解約後の端数はどうするかも具体化する。
合意書では、今回の一部分割の範囲と、残った財産について別途協議することを明確にする。今回の配分を残りの分割でどう考慮するか、既に受け取った分を含めて最終的に何を調整するかも確認したい。
一部の預金を分けたことが、争いのある生前贈与、使い込み、寄与分等への主張を全部取り下げた意味になるのか、互いの理解を合わせる。曖昧な「これで相続は解決した」という文言を混ぜない。銀行の提出書類も事前に確認する。
不動産を残すなら、調整と支払のための現金を見積もる
実家3,600万円、預金1,200万円、相続人二人で等分を目指す例を考える。合計は4,800万円なので各2,400万円が目安になる。亜希が家を取得し、涼が預金全額を取得するなら、亜希から涼への代償金は1,200万円という案になる。
先に預金を各600万円ずつ分け、その後に亜希が家を取得する案では、各人が受け取った総額から、さらに1,800万円の調整が必要になる。亜希が先に受け取った600万円を使っていれば、資金を用意できない問題が出てくる。単に家の価値があることと、払える現金があることは違う。
税金、登記・売却費、管理費、借金や葬式費用の精算も別に確認する。一部分割の対象から調整用の預金を残す、先に分ける金額を抑える等の方法を、全員の合意と今後の見通しで選びたい。
家裁での一部分割と、期限のある別の手続を確かめる
話し合いができない場合など、遺産の一部の分割を家庭裁判所に求めることもできる。ただし一部を分けることによって他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合は、その部分の分割はできない。申立てれば希望する預金だけ必ず先に得られるわけではない。
一人で一定額の預金払戻しを求める制度や、家裁の仮分割等とも区別する。一部分割の合意、仮払い、使途の立替えは、それぞれ権利と精算の仕組みが違う。必要な資金の用途と時期を示して方法を検討する。
亜希と涼は、当面の必要額だけを先に分け、残りの預金を家の分割の調整に残す案を相談することにした。一部を分けても、未分割の財産の相続税申告等の期限が止まるわけではない。合意した範囲、実際の入金、その後に残った課題を記録する。
関連する手続は、遺産分割の方法と進め方|協議・調停・審判と財産の分け方からも確認できる。
よくある質問
協力している相続人だけで預金を分けられるか
一部の分割でも、分割に必要な当事者の有効な合意等が必要だ。参加すべき人を外してよいという制度ではない。
家裁なら預金だけ必ず先に分けてくれるか
他の相続人の利益を害するおそれがある一部分割はできない。残りの財産も含めた公平な分配の見通しが重要になる。
一部分割をすれば残りの申告期限は延びるか
自動的には延びない。未分割でも必要な申告・納税や特例のための手続を期限内に確認する。
確認に使える資料
2026年10月21日時点の一般的な説明である。登場人物と金額は説明用の架空の例で、実際の相談事例ではない。具体的な判断は資料と事情を確認して行う。



