親子で絶縁しても、絶縁状を公正証書にしても、分籍しても、親子関係と、第1順位の相続人としての子の相続権・遺留分は消えない。相続させたくない親は遺言・廃除・遺留分の生前放棄を、関わりたくない子は相続放棄を検討する。
親子の相続は、兄弟姉妹の相続と違う点が多い。子には遺留分があるため、遺言で「全部を他の子へ」と書いても、絶縁した子が最低限の取り分を金銭で請求できる。この記事では、親の側と子の側に分けて、今できる手続と、その限界を整理する。
絶縁しても、子は第1順位の相続人のまま
民法887条1項は「被相続人の子は、相続人となる。」と定める。配偶者がいれば配偶者とともに、いなければ子だけが相続人になる。親の側から見ると、絶縁した子も、そばにいる子と同じ順位・同じ法定相続分を持つ。
親子の縁を法律上切る手続は、実子については用意されていない。絶縁状を書く、連絡先を消す、何十年も会わないといった事実があっても、相続の場面では親子として扱われる。
分籍も同じだ。戸籍法21条により成年に達した人は分籍して新しい戸籍を作れるが、これは戸籍の記載を分けるだけで、親子関係は戸籍をたどれば確認できる。相続手続では、亡くなった親の出生から死亡までの戸籍を集めるので、分籍した子も相続人として出てくる。
逆の場面にも注意する。子が先に亡くなり、その子に子(親から見た孫)がいない場合、親は第2順位の相続人になる(民法889条1項1号)。子の側が「親とは縁を切った」と考えていても、配偶者がいなければ、親が子の遺産を相続することがある。
なお、兄弟姉妹との絶縁については絶縁状を公正証書にしても兄弟の相続権は消えない|代わりにできる対策で整理している。兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言だけで足りる場面が多い。親子では遺留分があるので、同じ対策では足りない。
公正証書で「できること」と「できないこと」
公正証書は、公証人が作る公文書だ。合意や意思表示があったことの証拠としては強いが、法律が認めていない効果を生み出すものではない。公証人法26条は、無効な行為について公証人は公正証書を作れないと定めている。
生前に「相続を放棄する」と約束する制度はない。相続放棄は、相続が始まった後に家庭裁判所へ申述して行う(民法915条1項、938条)。親が生きているうちに公正証書で放棄を約束しても、その約束だけで相続権はなくならない。
| やりたいこと | 公正証書でできるか | 代わりに必要なこと |
|---|---|---|
| 親子関係そのものを終わらせる | できない | 実子との親子関係を合意で解消する制度はない |
| 子の相続権を生前に放棄させる | できない | 相続開始後に子本人が家庭裁判所へ相続放棄を申述する |
| 財産を特定の人に渡す | できる(公正証書遺言) | 遺留分を請求される可能性は残る |
| 子の遺留分をなくす | できない | 子本人の申立てで、家庭裁判所の許可を得る(民法1049条1項) |
| 子を相続人から外す | 遺言に廃除の意思を書くことはできる | 家庭裁判所が廃除を認める必要がある(民法893条) |
| 今後連絡しない・金銭を求めない等の合意を残す | 合意の記録としてはできる | 相続権・遺留分・扶養義務を消す効果はない |
「絶縁の公正証書」は、互いに連絡しない約束や、すでに渡したお金の清算を記録する意味はある。ただ、相続で頼れるのは、遺言、廃除、遺留分の放棄許可、相続放棄という法律上の手続だ。
絶縁した子に相続させたくない親の手段
親の側の基本は遺言だ。遺言で、財産を他の子や配偶者、第三者へ渡すと決めておく。遺言がないと、絶縁した子も遺産分割協議に加わる必要があり、協議は全員がそろわないと成立しない。
ただし、子には遺留分がある(民法1042条)。直系尊属だけが相続人の場合を除き、遺留分全体は遺留分を算定するための財産の2分の1で、これを法定相続分で分ける。
例:配偶者はすでに亡く、子が長男と次男の2人。遺産3,000万円を全部長男に渡す遺言を作った。次男の遺留分は3,000万円×1/2×1/2=750万円で、次男は長男に750万円の支払を請求できる(借金や生前贈与があれば計算が変わる)。
遺留分侵害額の請求は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年、相続開始から10年で行使できなくなる(民法1048条)。請求されるかどうかは子次第なので、遺言を作る側は、請求された場合の支払原資も考えておく。
遺留分を算定する財産には、相続人への贈与のうち、相続開始前10年間にした婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与が加わる(民法1044条3項)。生前に他の子へ渡しても、計算から完全には外れないことがある。
親だけで作れる。財産の行き先は決められるが、子の遺留分は残る。
家庭裁判所が認めれば相続権も遺留分もなくなる。虐待・重大な侮辱・著しい非行が必要で、不仲だけでは足りない。
子本人が申し立て、家庭裁判所が許可したときだけ有効。親が代わりに申し立てることはできない。
廃除を選ぶ場合は、その子に子(親から見た孫)がいれば、孫が代襲して相続人になる点も確認する。
推定相続人の廃除(民法892条)は、遺留分を持つ推定相続人が、親に対して虐待をしたとき、重大な侮辱を加えたとき、その他の著しい非行があったときに、家庭裁判所へ請求する手続だ。生前に親が申し立てる方法と、遺言に書いて遺言執行者が死亡後に申し立てる方法がある(民法893条)。
家庭裁判所は、原則として廃除を求められた子の陳述を審問期日で聴く(家事事件手続法188条3項)。「長年連絡がない」「親の言うことを聞かない」という事情だけでは、廃除は認められにくい。実務書では長期の音信不通も「著しい非行」の例に挙がるが、親子の信頼関係を壊すほどの行為かを、親の側の事情も含めて総合的に判断するとされ、実際に認められる割合は少ない。暴力の診断書、警察への相談記録、脅迫のメッセージなど、具体的な行為を示す資料が要る。
廃除が認められても、その子に子がいれば、孫が代襲相続人になる(民法887条2項)。また、親はいつでも廃除の取消しを請求できる(民法894条1項)。手続の違いは相続欠格と廃除の違い|条件・手続・代襲相続を条文で整理で確認できる。
遺留分の生前放棄(民法1049条1項)は、親が生きている間に、子本人が親の住所地の家庭裁判所へ許可を申し立てる。子が「親の財産は要らない」と考えているときに使える方法で、親が一方的に放棄させることはできない。家庭裁判所は、子本人の自由な意思によるか、放棄の理由に合理性があるか、生前贈与などの見返りを受けているかといった点を見て許可するかを決める。詳しくは遺留分の生前放棄|家庭裁判所の許可・判断要素・相続放棄との違いにまとめている。
遺留分の放棄が許可されても、相続権そのものは残る。遺言がなければ、その子も相続人として遺産分割に加わるので、放棄の許可と遺言はセットで考える。
遺言には、理由を伝える「付言事項」を書くことができる。法的な効力はないが、請求するかどうかを考える子に、親の考えを伝える材料になる。
付言の文例:「次男とは平成〇年から連絡を取っていない。この間、長男が私の通院と生活を支えてくれたため、財産は長男に託す。次男にも事情があったことは理解している。遺言の内容を尊重してもらえればありがたい。」相手を責める言葉は、かえって争いの火種になるので避ける。
親の相続に関わりたくない子の手段
子の側で、親の財産も借金も受け継がず、遺産分割にも関わりたくないなら、相続放棄を検討する。相続放棄をした人は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされる(民法939条)。
期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月だ(民法915条1項)。財産や借金の調査が間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を請求できる(同項ただし書)。申述は、親の最後の住所地の家庭裁判所に、収入印紙800円分と郵便切手、戸籍等を添えて行う。
絶縁していた親の財産は、子からは見えにくい。プラスの財産があるのか、消費者金融の借入れや保証債務があるのか分からないまま放棄するか決めることになりやすい。調べ方は亡くなった人の借金を調べる方法|信用情報・保証債務・3か月期限で確認できる。
相続放棄の前に、親の預金を引き出して使う、親の家財を売るなどの処分をすると、単純承認をしたものとみなされることがある(民法921条1号)。絶縁していた親の家に入るときは、片付けや処分を急がない。放棄した後も、親の財産を現に占有していれば、引き渡すまで保存の義務がある(民法940条1項)。
借金はないと分かっていて、財産は欲しくないが他の兄弟姉妹と関わりたくない、という場合は、相続分の譲渡という方法もある。ただし、譲渡しても親の借金の債権者との関係で支払義務を免れるかは見解が分かれ、確立した裁判例もないため、借金の可能性があるなら相続放棄の方が安全だ。
子が相続放棄をすると、相続権は次の順位へ移る。子全員が放棄すれば、親の父母(祖父母)が存命ならその人に、いなければ親の兄弟姉妹に移る(民法889条1項)。放棄した後、次順位の親族に連絡するかどうかは自分で決めてよいが、親族が借金を知らずに期限を迎えることがある点は知っておく。
絶縁していても、直系血族の間には扶養の義務がある(民法877条1項)。ただし、扶養の程度や方法は当事者の協議、まとまらなければ家庭裁判所が、扶養を受ける人の必要、扶養する人の資力その他一切の事情を考えて定める(民法879条)。絶縁の経緯も事情の一つになり得るが、それだけで義務が消えるとは言えない。
親を介護してきたきょうだいは、遺産分割で寄与分を主張できる(民法904条の2)。絶縁していた子は、相続分を受け取る場合でも、介護をしたきょうだいの寄与分の分だけ取り分が減ることがあると考えておく。
絶縁中に親が亡くなったと知ったとき
絶縁中の親の死亡は、家族から知らされないことが多い。次のような経路で後から知ることがある。
- 親族や親の配偶者からの連絡
- 市区町村、病院、施設、警察からの連絡(遺体の引取りや身元の確認)
- 家主・管理会社からの、賃貸住宅の明渡しや家賃の連絡
- 債権者や債権回収会社からの請求書・通知
- 他の相続人や専門家からの、遺産分割協議書への署名の依頼
- 固定資産税など、亡くなった親名義の財産に関する通知
3か月の期限は、親が亡くなった日ではなく、自分のために相続の開始があったことを知った時から数える(民法915条1項)。死亡を知った日、どの書面で知ったかを記録しておく。親の死亡から3か月を過ぎていても、知った時から3か月以内なら申述できる。
知った時から3か月を過ぎてから、親の借金を知ったという場合もある。事情によっては申述が受理されることもあるが、一律ではなく、受理されるかは家庭裁判所が事情を見て判断する。督促状が届いた日付と封筒を残し、早めに相談する。
死亡を知った後のチェック表:
- □ 死亡を知った日と、知った経路(電話・書面)を記録した
- □ 親の最後の住所地と、管轄の家庭裁判所を確認した
- □ 遺言があるか、他の相続人から知らされているかを確認した
- □ 借金・保証・未払家賃などの通知を保管した
- □ 親の財産を処分・使用していない
- □ 3か月以内に決められないなら、期間伸長の請求を検討した
相続放棄が受理された後、債権者から請求が来たときは、受理を伝える。
通知の文例:「〇〇(被相続人)の相続について、私は〇〇家庭裁判所において令和〇年〇月〇日に相続放棄の申述が受理されました(事件番号:令和〇年(家)第〇号)。したがって、同人の債務を支払う立場にありません。必要であれば相続放棄申述受理証明書の写しをお送りします。」支払の約束や、一部の支払はしない。
関連する手続は、相続放棄の手続き方法|3ヶ月期限・必要書類・家庭裁判所への申述からも確認できる。
よくある質問
親子の絶縁を公正証書で証明する方法はありますか?
絶縁の合意や連絡を絶った経緯を公正証書に残すことはできるが、親子関係や相続権、遺留分は消えない。相続に効果を持たせるには、遺言、廃除、遺留分放棄の許可、相続放棄といった法律上の手続が必要だ。
親と絶縁していた場合、相続はどうなりますか?
絶縁していても子は第1順位の相続人で、遺言で財産を外されても遺留分を請求できる。借金を含めて受け継ぎたくなければ、死亡を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄を申述する。
娘から絶縁された母親はどうすればいいですか?
相続の面では、財産の行き先を遺言で決めておくことが基本になる。娘には遺留分があるため、全部を他の人に渡す遺言でも請求される可能性があり、娘の側が望む場合は娘本人の申立てによる遺留分の生前放棄という方法もある。
確認に使える資料
- e-Gov法令検索:民法(887条、889条、892条〜894条、915条、921条、938条〜940条、1042条、1044条、1048条、1049条など)
- e-Gov法令検索:戸籍法(21条・分籍)
- e-Gov法令検索:家事事件手続法(188条・推定相続人の廃除)
- e-Gov法令検索:公証人法(26条)
- 裁判所:相続の放棄の申述
- 裁判所:相続の承認又は放棄の期間の伸長
- 裁判所:遺留分放棄の許可
2026年10月31日時点の一般的な説明である。例の金額と文例は説明用である。具体的な判断は資料と事情を確認して行う。



