相続放棄の費用は、「裁判所の印紙代」「郵便料・戸籍などの実費」「専門家へ頼む場合の報酬」に分けて考える。800円は申述人1人の印紙代であり、手続全体の料金ではない。
何人が放棄し、どの仕事を頼むのかをそろえて総額を比べよう。以下は、父を亡くした雅志・千佳・岳の架空の例だ。
父の借金の通知を見て、雅志、妹の千佳、弟の岳は相続放棄を考えた。母はすでに亡くなっている。雅志が調べたページには「収入印紙800円」とあり、「三人で2,400円なら、まずそれを用意すればよさそうだ」と家族のメッセージに書いた。
ところが千佳が取った専門家の見積りは、もっと大きい金額だった。岳は遠方で戸籍を取りに行く時間も少ない。「どれが本当の値段なの?」。三人とも同じ手続の費用を見ているつもりで、実は違う部分を比べていた。これは説明のための架空の家族の話だ。
申述人1人につき収入印紙800円が必要
裁判所の相続放棄の案内では、申述人1人につき収入印紙800円が必要とされている。兄弟3人がそれぞれ放棄するなら、収入印紙は合計2,400円となり、別に郵便料や書類取得費を見込む。
相続放棄は各人が行う手続であり、代表者1人が申述すれば家族全員の放棄になるわけではない。遺産分割の話合いで「何も受け取らない」と合意することも、家庭裁判所への相続放棄の申述とは異なる。
どうして「一家で800円」ではないのか
放棄するかどうかは、相続人それぞれの選択だからだ。雅志が兄として家族の書類を集めても、それだけで千佳と岳まで放棄したことにはならない。三人がそれぞれ申述するなら800円×3人=2,400円。そのうえで、共通の書類と一人ずつ必要な書類を分けて確認する。
兄弟三人がそれぞれ申述する例なら、印紙代は合計2,400円。
提出先の裁判所、必要な戸籍の通数、取得・発送方法で確認する。
人数と仕事の範囲をそろえ、実費・消費税・追加対応を含むか確認する。
未確認の費用を0円として足さない。専門家に頼むかどうかと、どこまで頼むかで総額は変わる。
郵便料は、申述先の家庭裁判所で確認する
収入印紙とは別に、連絡用の郵便料が必要になる。裁判所の案内には、郵便切手で納める方法のほか、保管金として電子納付する方法も示されている。利用する方法と必要額は、申述先の家庭裁判所へ確認する。
古い記事や別の地域の裁判所の金額を、そのまま使わないようにしたい。提出先は、原則として故人の最後の住所地を担当する家庭裁判所であり、自分の住まいに近い裁判所とは限らない。
郵送で申述する場合の発送費、書類の追加提出にかかる郵送費なども別に考える。手続の時点で、裁判所の案内にある切手の組合せや納付方法を確かめると、買い直しや追加対応を減らせる。
戸籍費用は、必要な範囲によって変わる
通常は、放棄する本人の戸籍と、亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票などを用意する。さらに、亡くなった人の配偶者、子、親・祖父母、兄弟姉妹のどの立場で放棄するかに応じて、必要な戸籍が変わる。
死亡の記載がある戸籍だけでよいのか、出生までたどる戸籍や、先に亡くなった親族の戸籍も必要かを、裁判所の案内で確かめる。
同じ家族でも、取得する戸籍の通数や請求先が同じとは限らない。転籍や改製が多い場合は、複数の戸籍をさかのぼって取得することがある。証明書の交付手数料に加え、郵送請求なら往復の郵送料や手数料の支払方法も確認する。
広域交付などを使える場合もあるが、請求できる人や取得対象に制限がある。すべての親族の戸籍や住所資料を一度に取れると決めつけず、市区町村と裁判所の案内を照らし合わせる。
同じ故人について、先行する相続放棄の事件で提出済みの戸籍は、裁判所の案内上、再提出が不要とされる場合がある。家族で手続するなら、誰が何を提出したかを共有し、事件番号などを確認してから同じ書類をもう一度取る必要があるかどうかを尋ねる。詳しい準備の順序は相続放棄の手続き方法を参照できる。
雅志は「父の戸籍を三人分ずつ取る」とメモしたが、先に確認することにした。同じ裁判所へ同じ故人の事件として出す資料なら、重複提出が不要なものもある。一方、本人ごとの戸籍や関係の確認は別に必要になる。「三人だからすべて三倍」「兄が取ったので弟の資料は何も要らない」と両極端に考えないようにしたい。
専門家の見積りは、仕事の範囲をそろえて比べる
専門家の報酬は、相続放棄なら全国一律というものではない。相談だけを依頼する場合、書類作成を依頼する場合、期限や処分行為の検討、裁判所への対応まで依頼する場合では、仕事の量が異なる。
見積書では、少なくとも次の項目を確認したい。
- 報酬に消費税が含まれるか、印紙・郵便料・戸籍取得費は別か
- 相続人1人分の金額か、複数人を含むか
- 戸籍収集と財産・債務調査のどこまでを含むか
- 申述後の照会書への回答、書類の補正、受理結果の確認を含むか
- 債権者への連絡、交渉、訴訟への対応は別の依頼になるか
- 追加費用が発生する条件と、不受理・途中終了時の精算方法
「手続一式」と書いてあっても、何をしてもらえるかは依頼先で違う。自分がする作業と、依頼先がする作業を説明してもらおう。表示された最低料金だけを見るより、支払う総額が分かりやすくなる。
3万3,000円と5万5,000円を、そのまま比べてよいか
申述人1人分の弁護士への依頼について、仮にAの見積りが税込3万3,000円で書類作成を含み、戸籍の収集は家族が行うものだったとする。Bは税込5万5,000円で戸籍収集と申述の代理まで含むとしたら、表示額の差2万2,000円だけでは、同じ仕事の高い・安いを比べたことにならない。
これは相場を示す例ではなく、見積りの読み方の仮定だ。各依頼先に、何を含み、実費や追加対応が別にかかるかを確かめる。Aへ同じ作業を追加したらいくらになるか、自分で引き受ける時間があるかも合わせて考える。
岳が遠方でも、雅志が全員の調査や返答を全部引き受けられるとは限らない。費用の節約と、期限までに実際に作業できるかは、一緒に考える必要がある。
期限経過や財産処分がある場合は、最初に伝える
死亡から時間がたっている、故人の預金を使った、お金を請求する側から訴状が届いている。このような事情は、見積りを頼む時点で伝える。
相続を受けるか放棄するかを選ぶ3か月を、いつから数えるのか。また、遺産を使ったことなどで単純承認した扱いになるのか。通常の書類作成に加えて、こうした検討が必要になる。
依頼後に分かると、追加調査や見積りの変更につながる。死亡を知った日、借金の通知を受け取った日、すでに行った払戻し・支払い・処分を、資料と一緒に伝える。事実を隠して安いプランに合わせるのではなく、必要な対応と費用を先に確認することが大切だ。
相続放棄の手続費用に充てるつもりでも、故人の預金を自由に引き出してよいとは限らない。費用を誰の資金から出すかも、処分行為との関係を含めて相談する。
費用の比較中も、3か月の期限は進む
民法915条の熟慮期間は、原則として自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月だ。費用の準備や見積りの比較を理由に、自動的に停止するものではない。
調査しても財産・債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)の状況が分からず判断できない場合は、満了前に熟慮期間の伸長を申し立てる方法を検討する。費用を用意できない事情だけで自動的に伸長されると考えず、期限と調査状況を具体的に確認する。
戸籍がすべて集まらない場合には、裁判所の案内上、申述後の追加提出が認められるものもある。書類がそろうまで待って期限を過ぎる前に、申述先へ相談する。自分で進める範囲は相続放棄を自分で行う場合の手順で確認できる。
見積りを取る前に、人数・期限・手元の書類を整理する
放棄を考えている人数、故人との関係、期限の見込み、手元の戸籍、借金の通知、すでに行った財産の扱いを一枚にする。費用に制約がある場合も、どの作業を自分で担えるかと合わせて示すと、必要な依頼範囲を整理しやすい。
雅志は、最初の「2,400円で済む」というメッセージを訂正した。印紙代2,400円は確認済み、郵便料と必要な戸籍は確認中、専門家へ頼む範囲は三人で検討中。未確認の欄を0円にしないことで、何を調べれば費用が見えるかも分かった。
三人の負担の分け方はまだ決まっていない。それでも、印紙代の話と、千佳が取った見積りは矛盾していなかった。どこまで自分たちで行い、何を頼むかを決めてから、その範囲の総額を比べればよい。
ほかにも確認する手続がある場合は、相続放棄・債務の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
家庭裁判所へ払う費用はいくらですか?
申述人1人につき収入印紙800円が必要だ。別に連絡用郵便料がかかるため、郵便切手または保管金の納付方法と金額を申述先の家庭裁判所へ確認する。
戸籍の費用は家族全員で同じですか?
同じとは限らない。故人との関係や必要な戸籍の通数、請求先によって変わる。同じ故人の先行事件へ提出済みの戸籍は、再提出が必要かどうかを裁判所に確認する。
弁護士・司法書士の費用は法律で一律ですか?
相続放棄の専門家報酬は一律ではない。相談、戸籍収集、書類作成、裁判所への対応、債権者対応のどこまでを含むかと、実費・追加料金を確認する。
費用が用意できるまで3か月を待てますか?
費用の準備で熟慮期間が止まるわけではない。まず期限を確認し、調査しても判断できない場合は、満了前に期間伸長の申立てを検討する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の期限や必要な手続は、相続の経緯と資料を示して管轄窓口や専門家へ確認したい。



