自分に不利な遺言が見つかっても、それだけで遺言が無効になるわけではありません。「遺言そのものが無効か」と「有効な遺言により遺留分を侵害されたか」は、要件も手続も異なります。
方式違反、偽造・変造、遺言能力を疑う具体的資料があれば無効確認を検討します。遺言が有効な場合に備える必要があるときは、遺留分侵害額請求の1年・10年の期間を別に管理します。
「不公平」と「無効」は同じではない
遺言者は、法定相続分と異なる財産の取得方法を定めることができます。そのため、「一人だけが多く取得する」「自分の取得がない」という結果だけでは、直ちに遺言無効とはいえません。
対応は、次の三つに分けます。
| 争点 | 主な確認事項 | 主な手続 |
|---|---|---|
| 遺言そのものの有効性 | 方式、自書・署名・押印、偽造・変造、遺言能力 | 調停、遺言無効確認訴訟など |
| 有効な遺言による遺留分侵害 | 請求資格、基礎財産、贈与・債務、1年・10年 | 意思表示、交渉、調停、訴訟 |
| 遺産の範囲・権利関係 | 名義財産、使途不明金、贈与、所有権 | 遺産に関する紛争調整調停、民事訴訟など |
遺言無効を検討する主な理由
方式違反
自筆証書遺言は、原則として全文・日付・氏名の自書と押印が必要です。財産目録には自書を要しない特則がありますが、各頁への署名・押印などの要件があります。東京高裁平成18年10月25日判決は、署名・押印を欠く文書について自筆証書遺言として無効と判断した事例です。
遺言能力
民法963条により、遺言者は遺言時に遺言能力を有する必要があります。診断名や年齢だけで一律に決まるのではなく、作成時の病状・認知機能、遺言内容の複雑さ、受け答え、作成経緯、医療・介護記録、前後の言動などを総合します。
偽造・変造、本人の意思ではない疑い
原本、筆跡資料、印影、作成に関与した人、公証人とのやり取り、録音・メモ、医療記録を保全します。疑いだけで無効になるわけではなく、無効原因を具体化して証拠で示す必要があります。
詳しい確認項目は遺言書が無効になる原因と証拠で整理しています。
遺留分侵害額請求は別に期間管理する
遺留分を持つのは、兄弟姉妹以外の相続人です。侵害がある場合、受遺者・受贈者に対して侵害額に相当する金銭の支払を請求します。遺言が遺留分を侵害しても、当然に遺言全体が無効になるわけではありません。
民法1048条は、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年という期間を定めます。裁判所も、遺留分侵害額請求調停を申し立てただけでは相手方への権利行使の意思表示にならないため、調停とは別に内容証明郵便等で意思表示をする必要があると案内しています。
LegalScapeで確認した実務書・裁判例解説でも、遺言無効を主張している間に旧法上の遺留分減殺請求期間を徒過した事案を踏まえ、必要に応じて予備的に遺留分の権利行使を検討すべきことが指摘されています。現行法でも、無効確認と遺留分の期限は別々に管理する必要があります。
通知、調停、訴訟の進め方は遺留分侵害額請求の方法と期限、請求後に生じる金銭債権の時効は遺留分請求後の時効で確認できます。
最初に集める資料
- 遺言書原本、検認調書、遺言書情報証明書、公正証書遺言の謄本
- 作成時前後の診療録、介護記録、認知機能検査、服薬記録
- 過去の署名・筆跡・印影、作成に関与した人との連絡記録
- 相続人関係を示す戸籍、遺産・債務の一覧、評価資料
- 遺言を知った日、相手方、通知・交渉の到達記録
公的資料・裁判例
- e-Gov法令検索「民法」963条・968条・1042条以下
- 東京高裁平成18年10月25日判決(自筆証書遺言の方式)
- 裁判所「遺留分侵害額の請求調停」
- 名古屋家庭裁判所「遺産分割調停」
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度・証明書について」
よくある質問
不公平な内容なら遺言は無効ですか
取得差があるだけでは無効になりません。方式違反、偽造・変造、遺言能力など、具体的な無効原因と証拠を確認します。
公正証書遺言なら争えませんか
公正証書でも遺言能力や作成経緯などが争点になることはあります。ただし、公証手続を経た事実も重要な証拠なので、具体的資料で検討します。
遺言無効の裁判が終わってから遺留分を請求できますか
裁判中に民法1048条の期間を過ぎるおそれがあります。無効主張と並行して、必要なら期限内に遺留分の意思表示をするか検討します。
調停を申し立てれば1年の時効は止まりますか
裁判所は、調停申立てだけでは相手方への意思表示にならないと案内しています。別途、内容証明郵便等で権利行使の意思表示を行います。
兄弟姉妹にも遺留分がありますか
ありません。遺留分権利者は兄弟姉妹以外の相続人です。ただし、遺言無効や遺産の範囲など別の争点があるかは確認します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。遺言の種類、作成時期、相続開始時期、旧法・現行法、証拠、遺産・贈与・債務により対応は異なります。期限前に弁護士へ原資料を示して確認してください。



