遺留分の請求は、期限内に相手へ権利を使う意思を伝え、金額の調査と支払交渉を進める。家の査定や金額の確定を待って、通知が遅れないようにしよう。
以下は架空の兄妹の例だ。遺留分は、一定の相続人に保障される最低限の取り分である。請求だけで、家の持分が自動で戻るわけではない。
母の遺言を読んだ和也は、財産の大部分を妹の美和へ渡す内容に戸惑った。父はすでに亡く、相続人は二人だけだ。美和は母と同居してきた家を残したいと考え、和也は自分の取り分をどう確かめればよいか知りたかった。家の査定が終わるまで待つべきかも迷っていた。
現行法が金銭で調整するのは、遺言等による取得の効力を維持しながら、保障される価値を確保するためだ。和也たちは、相手への通知、資料の調査、実際の入金をそれぞれ確認することにした。
最初に、亡くなった日と請求できる立場を確認する
2019年7月1日以後に開始した相続では、民法1046条に基づき、遺留分を侵害された額に相当するお金の支払いを求める。不動産の持分が自動的に自分へ戻る制度ではない。
それより前に始まった相続には旧制度が適用されるので、亡くなった日を先に確認しよう。
遺留分があるのは、故人の兄弟姉妹以外の相続人だ。配偶者、子やその代わりに相続する孫等、相続人となる父母・祖父母等が当てはまる。
「亡くなった母の子である兄妹」と、「故人自身の兄弟姉妹」が相続する場合を混同しないようにしよう。
相続放棄や遺留分放棄の有無も確認する。単に「取り分が少ない」と感じるだけで請求できる額が決まるわけではない。基本は遺留分の仕組み、不公平に感じる分配の確認は兄弟間の相続が不公平に見える場合も参照できる。
1年と10年の期限を別に管理する
民法1048条は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈(遺言で財産を渡すこと)があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって請求権が消滅すると定める。さらに、相続開始の時から10年という期間もある。
1年は、どの場合も死亡日から数えるわけではない。ただし、正確な評価額を計算し終えるまで始まらない、弁護士に制度を教わった日からでよい、とも限らない。
いつ遺言や贈与を知り、その時にどのような財産状況が分かっていたかが問題になる。
遺言を受け取った日、贈与の資料を見た日、家族から説明された日を、メールや郵便物とともに残す。期間を数え始める時点に争いがありそうな場合も、遅い日を採用できると期待して待たず、早い段階で権利行使の方法を確認する。詳しくは遺留分の時効と知った時期にまとめている。
請求する相手を特定し、権利行使の意思を伝える
請求の相手は、遺留分を侵害する遺贈や贈与を受けた人だ。
遺言を実行する遺言執行者や、家族の代表者に相談しただけで、請求すべき全員へ意思が届いたとは限らない。
相手が複数いれば、誰が何を受け取ったかを整理しよう。
民法1047条は、遺言で財産を受け取った人が贈与を受けた人より先に負担すること、時期の異なる贈与は後の贈与から負担すること等を定める。相手ごとの順序と限度を確かめ、通知先を漏らさないようにする。
通知では、誰の相続について、どの遺贈・贈与により遺留分を侵害され、遺留分侵害額請求権を使うのかを、明確に伝えよう。
財産を教えてほしいと求めたり、「納得できない」と抗議したりしただけでは、請求する意思を示したか争いになることがある。
和也は美和へ「今の内容では納得できない」と話していた。しかし、その言葉だけで遺留分を行使したと判断せず、何を伝えたかを記録する。遺言執行者がいる場合も、その人へ質問したことと、負担する美和への通知を分けて確認する。
金額が未確定でも、通知を後回しにしない
遺留分侵害額請求権を行使する時点で、具体的な金額まで確定している必要はないと解される。期限が迫る場合には、権利行使の意思を明確に伝えたうえで、調査・評価を進めて請求額を算定する方法を検討する。
内容証明郵便は、法律上唯一の通知方法ではないが、伝えた内容を証拠に残すために使われる。
配達証明等も付け、相手へいつ届いたかを確認できるようにしよう。内容証明の控えだけで、届いたことまで証明できるとは考えない。
発送した郵便が戻ってきた、相手の住所が不明、受取人が違っていたという場合は、そのまま放置しない。意思表示の到達や適切な送付方法が問題になるため、戻った封筒や追跡記録を保存して対応を相談する。
財産・贈与・債務を集め、請求額を計算する
通知後は、故人の財産一覧、遺言、贈与の資料、不動産の評価、預貯金・有価証券、借金の資料等を集める。
自分が受けた贈与や、取得する遺産、引き継ぐ借金等も請求額に関係する。相手が得た財産だけを見て計算しないようにしよう。
戸籍で相続人を確定し、遺留分の算定基礎となる財産を整理して、自分の遺留分と実際の侵害額を計算する。そのうえで、相手方ごとの負担額を検討する。計算の入口は遺留分の計算方法を参照できる。
不動産の評価額や過去の贈与に争いがある場合は、争点と根拠資料を分ける。何が不明で、どの資料を誰から集める必要があるかを明らかにすると、その後の交渉を進めやすい。
相続人は母の子である和也・美和だけ。基礎財産は5,600万円、贈与・借金等の調整はなく、遺言で和也が400万円、美和が5,200万円を取得する架空の例だ。
5,600万円
× 全体の遺留分の割合 1/2
× 和也の法定相続分 1/2
= 1,400万円
遺留分 1,400万円
− 遺言で取得する 400万円
= 1,000万円
通知だけでは入金まで終わらない。実際の財産・贈与・借金、相手の負担順序と限度も確認する。
法定相続分相当の2,800万円から、取得する400万円を引く計算ではない。遺留分と法定相続分を区別しよう。
実際には、生前に受けた一定の贈与等である特別受益、取得すべき遺産、相続で引き継ぐ借金等があれば確認し直す。美和の取得が家中心なら、1,000万円を何で、いつ払うかも別に考える。
話合いが難しい場合は家庭裁判所の調停を利用する
当事者間で話合いがつかない場合や、直接の協議が難しい場合は、遺留分侵害額の請求調停を利用できる。申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所だ。
裁判所案内では収入印紙1,200円分と連絡用郵便料が必要で、戸籍、遺言書の写し、遺産や債務の資料などを提出する。申立書の写しは相手方の人数分を用意する。郵便料の納付方法や追加資料は、申立先の案内を確認する。
裁判所は、調停を申し立てただけでは、相手へ遺留分の権利を使う意思を伝えたことにならないと案内している。
期限が近い時は、申立書が相手に届く時期だけに頼らず、申立てとは別に通知しよう。
調停で合意できなくても、遺産分割調停のように、自動で審判へ移って金額が決まるわけではない。
請求を続けるなら、請求額等に応じて、地方裁判所か簡易裁判所での民事訴訟を考える。調停資料や相手の回答を引き継げるように残そう。
和也は請求額を示すだけでなく、評価が一致する部分と争う部分を分けた。美和も、家を残したい理由と、自己資金・融資等の見込みを整理する。
分割払いなら、一回ごとの額、期日、遅れた時の扱い、必要な担保等を確認し、入金を記録しよう。
請求を受けた人の求めにより、裁判所が支払期限を延ばす制度もある。ただし、「払えない」と言うだけで、支払う義務が消えるわけではない。
相手の資産処分等が心配なら、財産を守る手続が必要かも相談する。税や費用を引いた手元資金も、請求額だけでは決まらない。
請求後に生じる金銭債権にも、別の時効がある
遺留分侵害額請求権を使うと、具体的なお金の支払いを求める権利である、金銭債権が生じる。この権利にも、1048条の1年とは別の消滅時効が問題になる。
現行民法166条は、権利を使えることを知った時から5年、権利を使える時から10年という期間を定める。
いつから数えるか、旧法が適用されるか、時効の完成が一時待たれる「完成猶予」や期間を数え直す「更新」があるかは、個別に確認する。通知済みなら回収はいつでもよい、と考えて放置しないようにしよう。
請求額が決まった後は、具体的な支払請求、支払期限、分割払いの条件、合意内容の書面化を検討する。詳しくは遺留分請求後の金銭債権の時効を参照できる。
相談には、通知の履歴と期限の資料を持参する
相談には、遺言書、家族関係と財産の資料、いつ何を知ったか、相手へ伝えた内容を示す。内容証明や調停書類があれば、控えと届いた記録も用意しよう。
資料が不足していても、期限が迫っていることを先に伝える。通知を含め、急ぐ対応を整理しやすくなる。
和也は通知の文面と到達記録、計算資料、交渉、合意と入金を一つの一覧に残した。美和の住まいへの希望を聞くことと、期限を守ることを混ぜず、次に必要な確認を決める。通知を出した、調停書類を出したという途中の段階だけで、請求全体が終わったとは考えない。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺留分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
遺留分の1年は死亡日からですか
一律に死亡日からではない。相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から数える。亡くなってから10年という別の期間もある。
内容証明郵便は必須ですか
法律上唯一の方式ではないが、通知内容の証拠を残すために利用される。配達証明等も用い、相手方への到達を確認する。
調停を申し立てれば意思表示になりますか
調停の申立てだけでは相手方への権利を使うという意思を相手に伝えることにならないと裁判所は案内している。申立てとは別に通知する。
請求時に金額確定が必要ですか
権利行使の意思を明確に示せば、具体的な金額の確定前でも行使できると解される。その後、資料に基づいて侵害額を算定し、支払いを求める。
兄弟姉妹も請求できますか
故人自身の兄弟姉妹には遺留分がない。故人の子としてきょうだい間で相続する場合とは区別する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。期限や必要な手続は、相続の経緯と資料を示し、管轄窓口や専門家へ個別に確かめよう。



