仲の良かった兄弟が、相続で壊れるまでの経緯

兄弟間の相続トラブルとは、親の死亡を契機に、きょうだい間で遺産の分割をめぐって感情的・金銭的な対立が生じる問題のことです。

結論から言うと、兄弟間の相続トラブルは当事者の人間性や仲の良し悪しに関わらず構造的に発生しやすいとされており、事前の備えが重要になる可能性があります。

焦り顔

親が亡くなったばかりなのに、兄弟ともう険悪な雰囲気になってきた…どうすればいいんだ。

兄弟というのは、親が死んだ瞬間に「他人」になる可能性がある

幼い頃、同じ布団で眠った。同じ食卓で飯を食った。喧嘩しながらも、笑いながらも、同じ屋根の下で育った。そんな兄弟が、親の死を境に、まるで見知らぬ債権者同士のような顔をして向き合う。

これが、兄弟間の相続トラブルだ。

感傷に浸る時間など、ない。悲しみを消化する前に、現実という名の荒波が、容赦なく全身に叩きつけてくる。なぜなら、法律という冷酷な時計は、親が息を引き取った瞬間から、一秒の猶予もなく刻み続けているからだ。

で、結論から言うと。兄弟の相続トラブルは「構造的に」起きる

「うちの兄弟は仲がいいから大丈夫」。そう思っているあなたに、申し上げたい。それは「まだ揉めていないだけ」である。

兄弟間の相続トラブルは、人間性の問題ではない。仲の良し悪しの問題でも、ない。これは構造的に発生するトラブルなのだ。親の財産という、突如として目の前に現れた「分けるべき何か」が、それまで眠っていた感情と打算を、一気に叩き起こす。

特に危険なのは、次の三つのパターンだ。

  • 長男・長女が親の介護を一手に引き受けていたケース……「自分はこれだけ犠牲にしたのに」という、蓄積された怨念が爆発する
  • 生前に特定の子どもだけが多額の援助(生前贈与)を受けていたケース……「特別受益」(民法903条)として遺産分割に影響する可能性があり、そこに「なぜあいつだけ」という感情が重なる
  • 遺言書が「特定の一人に有利」な内容だったケース……穏やかな日常が一瞬で吹き飛び、脳内で「不公平の大運動会」が開幕する

そして、これらが複合して発生した日には。もはや語るまでもない。

図解

※【比較表イメージ】遺言書あり・なし × 介護貢献あり・なし の4パターン別トラブル発生リスクマップ

遺産分割協議という名の、全員一致ゲーム

さて、ここで冷静に法律の話をしよう。民法906条は、遺産の分割は「遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定めている。

つまり、兄弟全員が顔を突き合わせ、話し合い、全員が合意する必要がある(民法907条)。一人でも「納得いかない」と言えば、それで終わりだ。協議は不成立。先に進めない。

これがどれほど恐ろしいか。相手が「あの兄弟」だと、わかるだろうか。

なお、よく誤解されるのだが、遺産分割協議そのものに法定期限はない(民法に「○ヶ月以内に分割せよ」という規定はない)。ただし、現実問題として、相続税の申告期限が「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」(相続税法27条)に設定されており、この期限までに分割が整っていると手続きがスムーズになる場合がある。

「協議が終わっていないから申告できない」と諦めないでほしい。分割前でも法定相続分による仮の申告(未分割申告)が可能で(相続税法55条)、協議成立後に修正申告または更正の請求で正しい税額に修正できる(相続税法32条、国税通則法23条)。ただし、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)は、原則として申告期限までに分割が必要な点には注意が必要だ(「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出により後から適用できる場合もある)。

「寄与分」と「遺留分」。兄弟トラブルを炎上させる二大燃料

話を戻そう。兄弟間で最も火花が散るのは、この二つの論点だ。

① 寄与分(民法904条の2)

介護や家業への貢献が特別に大きかった相続人は、その貢献分を遺産から先取りできる可能性がある制度だ。しかし「特別の貢献」の証明が、これが想像を絶するほど難しい。介護日誌、領収書、医療記録……証拠がなければ、どれだけ骨身を削って親の世話をしていても、法的には「ゼロ」扱いになりかねない。これが怒りの導火線に火をつける。

② 遺留分(民法1042条)

遺言書が「長男に全財産」と書いていたとしても、他の兄弟は黙って引き下がる必要はない。法定相続人には「遺留分」という、最低限の取り分が保障されている。これを侵害された場合、遺留分侵害額請求権(民法1046条)を行使できる可能性がある。ただし時効に注意が必要だ。相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、または相続開始から10年で権利が消滅する可能性がある(民法1048条)。「まあいいか」とモタモタしていると、この権利ごと、消えてなくなる。

図解

※【タイムラインイメージ】相続発生から各種期限(死亡届7日・準確定申告4ヶ月・相続放棄3ヶ月・相続税申告10ヶ月・遺留分請求1年)の流れ

「自分のケースがどれに当たるか判断できない」という人は、一度プロに聞いてみた方が早い。

一つ、絶対に間違えてはいけないことがある

兄弟の誰かが「俺は相続放棄する」と言ったとする。口約束で、LINE で、握手で。

これは、法的にはゼロだ。

相続放棄は、家庭裁判所への申述が必要であり(民法938条)、相続人間の話し合いで「放棄する」と約束しただけでは法的効力は生じない。そして期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」(民法915条)。被相続人の死亡日からではなく、「知った時」から起算される点が重要だ。

「まだ大丈夫」と思っているうちに、気付けば3ヶ月が経過。負の遺産ごと相続確定、という悪夢が現実になる可能性がある。

絶望するな。ただし、今日動け

ここまで読んで、「複雑すぎて無理だ」と感じた人は正常だ。これは素人が一人で解決できるようなものではない。

だが、絶望は禁物だ。専門家は、存在する。弁護士は、遺産分割協議の交渉から調停・審判まで対応できる。税理士は、申告期限に間に合うよう、税負担を最適化しながら手続きを進めてくれる可能性がある。

やるべきことは、シンプルだ。

  • 死亡届の提出(死亡の事実を知った日から7日以内/戸籍法86条)
  • 遺言書の有無の確認(自宅・貸金庫・公証役場・法務局での保管制度)
  • 相続人の確定(戸籍謄本を取り寄せ、全員を把握する)
  • 財産・負債の調査(通帳、権利証、信用情報機関への照会)
  • 相続放棄の要否の判断(3ヶ月という期限を意識して)
  • 準確定申告の準備(相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内/所得税法124条・125条)
  • 専門家への相談(早ければ早いほど、選択肢が広がる)

兄弟との関係を壊すのも、守るのも、この数ヶ月間の動き方で決まる可能性がある。感情が冷静なうちに、プロの力を借りてほしい。

手続きが終わった後。「もっと早く相談すればよかった」と、清々しいほどスッキリした朝を迎えるために。

早めの相談が、唯一の正解だ。伝わりましたかね。

ホッとした顔

早めに専門家に相談すれば、兄弟関係も財産も守れる道があるんだな。とにかく今日動こう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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