不動産の遺産分割は、現物分割、代償分割、売却して分ける方法、共有を、使い方・費用・支払える資金まで比べて決める。
以下の敦史と由奈は架空の兄妹だ。母はすでに亡く、父の相続人は二人だけとする。兄が住まいを残せることと、妹が約束どおり受け取れることを、一緒に考えたい。
父の実家の雨漏りを直す見積書が届き、兄の敦史はすぐに工事を頼みたいと思った。父と暮らしていた家へ、このまま住み続けたい。一方、遠方に住む妹の由奈は、住宅ローンの返済もあり、持分だけでなく現金を受け取りたいと考えていた。
持分の数字をそろえるだけでは、雨漏りの修理代を誰が負担するかは十分に決まらない。二人は家の権利と価額、各自の希望、当面の修理を分けて確認することにした。
分け方を選ぶ前に、その家の現状を知る
誰が住んでいるか。空き家なら、鍵を持ち、管理しているのは誰か。賃貸中なら、家賃を受け取り、修繕を手配しているのは誰か。まず、家が今どう使われているかを確かめる。
登記事項証明書で、所有者、持分、借金等を担保する抵当権を確かめる。固定資産税の資料、ローン残高、賃貸借契約書、修繕の履歴も集めよう。
登記に抵当権があることと、今もその額の借金が残っていることは、同じではない。
遺言がある場合は、誰に何を引き継がせる内容かを先に読む。遺言の有効性や遺留分(一定の近い家族に法律で保障された最低限の取り分)が争われているなら、その問題を置いたまま「全員で自由に分け直す」とは進められない。
民法906条では、財産の種類や性質に加え、相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況等も考慮して分割すると定めている。
家の値段と、そこで続いている暮らしの両方を確かめる必要がある。
現物分割――一つの土地を切る方法だけではない
現物分割は、遺産そのものを割り振る方法だ。複数の不動産があれば、一人が実家、別の人が別の土地を取得することも考えられる。不動産と預金を別々に取得する組合せもある。
一つの土地を「分筆」し、登記上の区画を分けて、それぞれ取得する方法もある。
ただし、面積が等しくても、価値が同じとは限らない。道路との関係、形、建築の制限、建物の配置によって、使いにくい土地になる場合がある。
境界確認や測量の費用、分筆後の価格まで確認してから判断したい。土地の分筆費用と高くなる条件も、比較する材料になる。
代償分割――家を受け取る人の「払う」を確かめる
一人が家を取得し、他の相続人へ代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)を支払う方法だ。住み続けたい人がいる場合や、事業用の不動産を引き継ぐ場合に検討しやすい。
家の分割時の価額を3,000万円とし、敦史が取得する例で考えよう。相続人は二人だけで、ほかの遺産・借金、遺言、特別受益・寄与分等の調整はないとする。
この条件なら、由奈へ1,500万円を払う案が考えられる。数字は釣り合うが、兄がその資金を用意できるかが問題だ。
貯金で払うのか、融資を受けるのか。融資の見込みを確認したのか。分割払いなら何年かかり、その間に事情が変わった場合はどうするのか。「売らずに済む」という安心と、代償金を受け取れる安心は、両方必要になる。
- 支払額と支払期限を定める。
- 分割払いなら、各回の額、期限、遅延時の扱いを確認する。
- 担保や公正証書等、支払を確保する方法を検討する。
- 登記の時期と支払の関係、融資が成立しない場合の対応を決める。
代償金が払われなくても、約束を守らなかったという理由で、遺産分割協議を一方的に解除して元へ戻せるとは考えない方がよい。
成立後は、支払いを求めたり、強制執行を検討したりする問題になる。代償分割(一人が家などを受け取り、ほかの相続人へ調整のお金を払う分け方)の進め方を確認し、約束の段階で確実に支払ってもらうための備えを検討したい。
代償金の基準額と、相続税の計算は分ける
代償金を実際の取引価額に基づいて決めた場合、相続税の計算では、相続税評価額との関係で調整が必要になることがある。
実際に払う現金の額を、そのままどの申告にも使えるとは限らない。
現金の代わりに、取得者がもともと持っていた不動産を渡す場合、その人に譲渡所得課税が生じる取扱いがある。
相続の話合いでも、税が相続税だけとは限らない。実行前に税理士へ確かめよう。
具体的な計算と協議書の確認事項は、代償分割の代償金・相続税・譲渡所得の注意点で整理している。支払額を決める前に、使う評価額と支払いに使うお金をそろえておこう。
敦史の自己資金が500万円なら、代償金1,500万円との差は1,000万円だ。家の査定が3,000万円でも、その差額をすぐ払えるわけではない。
融資を使うなら、審査、返済できる見込み、抵当権等も確かめる。
由奈が長い分割払いを受け入れるかも、別に確認する。家を取得した後の固定資産税、修理費、生活費と返済を並べ、支払いが続けられるかを考えよう。
家族だからと備えを省くと、取得の手続だけ終わり、代償金を支払う義務が残る場合がある。
換価分割――売値ではなく、手元に残る額を比べる
不動産を売り、お金に換えて分ける方法だ。誰も使う予定のない実家や、現金での取得を希望する相続人が多い場合などに候補になる。
売値が3,000万円でも、その全額を分けられるとは限らない。仲介手数料、測量、解体や必要な修繕、税負担などを確認する。売る前に工事をするなら、費用を誰が立て替え、売却時にどう精算するかも決める。
売出価格、値下げを判断する条件、買主への引渡し時期、居住者の転居、売却代金の受取と分配方法まで、合意の中身を具体化したい。代表者だけの名義にして売る場合は、協議内容と税金を計算するときの扱いも先に確認する。
空き家の管理から売却までの流れは、誰も住まない実家を売る場合でも整理している。
仮に3,000万円で売れ、仲介・測量・片付け等の費用が計180万円なら、残るのは2,820万円だ。税を引く前は各1,410万円になる。
ただし、これを最終的な手取りと決めない。父の取得費や取得時期、売却による所得、各人の税と使える特例を別に確かめる。
兄の転居費や、新しい住まいを探す時間も必要だ。由奈は、最低価格、値下げ、引渡し、費用の立替えと報告の条件を兄と比べることにした。
180万円は、説明用に置いた費用だ。相場や、一律に必要な額を示しているわけではない。
共有分割――残すなら、次の見積書の扱いまで決める
一つの不動産を、複数人が持分で取得する方法だ。共有を選ぶこと自体が間違いなのではない。共同で使う目的があり、利用方法や費用について合意を保てるなら、選択肢になる。
ただ、「今は決めたくないから共有にする」と、修繕や売却の際に同じ話が戻ってくることがある。誰が住むか、使用の対価をどうするか、税金や管理費を誰が負担するか、家賃収入をどう分けるか。取得後の運営も話しておきたい。
共有者が亡くなれば、その持分についてさらに相続が起こる。将来の買取りや売却の相談をどう始めるかも考え、共有関係を解消する方法まで見て判断する。
修理も賃貸も、全部が「全員同意」ではない
共有不動産全体の売却は、原則として共有者全員の合意が必要だ。一方、管理や修繕のすべてに、同じルールが当てはまるわけではない。
- 保存行為は、各共有者が単独で行うことができる。
- 管理に関する事項は、原則として持分の価格の過半数で決める。人数の多数決ではない。
- 形状や効用の著しい変更を伴う変更は、原則として全員の同意が必要になる。著しい変更を伴わない軽微な変更は、管理の問題として扱う。
雨漏りへの応急措置なのか、建物の使い方まで変える工事なのかで、検討は違う。費用が高い修繕を、金額だけで自動的に全員同意の変更と決めることもできない。工事の内容を確認する。
共有者間で決めた内容に従って使っている人へ、特別な影響を及ぼす場合は、その人の承諾が要る。
賃貸も、期間や契約の種類、借地借家法による更新等が関わる。短く貸すというだけで、持分の過半数でよいとは決められない。
具体的な同意の範囲は、共有不動産の管理行為で確認したい。行方不明や無回答の共有者がいる場合にも裁判所を通す制度があるが、連絡がないことを勝手に賛成と数えてよいわけではない。
すでに貸している物件では、相続した賃貸物件の契約・敷金・賃料の引き継ぎも確認する。分け方の話し合いと、入居者・管理会社への連絡を並行して整理したい。
当面共有にするなら、敦史の使い方、由奈への使用対価、税・修理費の立替えと報告、将来買い取る場合の評価と期限も話そう。
持分が各2分の1なら、一方だけでは通常の管理を決める過半数に届かない。工事が保存・管理・変更のどれかを確かめる必要がある。
目の前の雨漏りについても、被害を広げない応急措置と、住まい全体の改修を一つにまとめない。見積書、写真、連絡の記録と領収書を残し、急ぐ部分を確認しながら、分け方の協議を続ける。
「もう共有登記だから分割は済んだ」とは限らない
相続人どうしで、未分割の遺産を分ける
→ 遺産分割協議、家裁の調停・審判が基本
通常の共有を、後から解消する
→ 共有物分割の協議・訴訟等を検討
協議書と、持分を取得した経緯を確認する。相続人以外の持分が混ざる場合や、相続後の期間に関する特則等もあるため、登記の数字だけで手続を選ばない。
相続人以外の持分が混在する場合、相続後の期間に関する特則が問題になる場合もある。登記の持分だけを見て手続を決めず、協議書や取得の経緯を確認する。相続不動産が共有名義で売れない場合では、この整理から始めている。
評価額が合わなければ、数字の出どころをそろえる
一人は固定資産税の評価額を見ており、もう一人は不動産会社の査定を見ている。その状態で「高い」「安い」と言い合っても、同じ値段を比べていない。
現実に分ける遺産は、原則として分割時の価額で評価する。一方、特別受益や寄与分を反映した具体的な相続分の計算では、死亡時の価額が問題になる。
評価する目的と、いつの価額かを分けよう。
査定を比べるときは、現況のまま売る想定か、更地にする想定か、どれくらいの期間で売る想定かを確認する。借地や賃貸中の物件、共有持分がある場合も条件が違う。開きが大きければ、複数社の査定や不動産鑑定を検討する。
売却への反対が出たら、その理由を一つずつ聞く
安すぎるという不満なのか。転居先がないのか。自分が買い取りたいのか。思い出の家を残したいのか。同じ「反対」でも、提案できることは違う。
相続人の一部だけで、全員の合意が必要な遺産分割協議を成立させることはできない。一方、反対が出たから永久に手段がないわけでもない。資料を整え、調停などを検討する。共有不動産の売却と同意も参照し、全体の売却と自分の持分だけの処分を区別したい。
遺産分割調停が不成立なら、原則として自動的に、裁判官が判断する審判へ進む。
どの分け方を求める場合も、希望だけでなく、代償金を払う資金と、今の利用状況を示す資料が重要になる。
特別受益や寄与分を取り分に反映したいなら、死亡から10年経過後の分割では原則として考慮しないルールも確かめる。
期間内に家裁へ請求した場合等の例外、2023年4月1日前の相続の経過措置、全員合意による分割は区別する。話合いを続けているだけで、期限への対応が済むとは限らない。
敦史や由奈が生前の援助や貢献も主張するなら、不動産の分け方と一緒に、どの資料で何を調整したいかを示す。10年を過ぎると不動産の権利がすべて消えるという意味ではない。
分け方の結論を待たずに、登記と税の期限を確認する
相続登記は、自分のために相続が始まったことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請する。
2024年4月1日前の相続にも義務がある。すでに取得等を知っていた場合は、原則として2027年3月31日までとなる。
分割がまとまらない間は、相続人申告登記等で当初の義務に対応することを検討する。その後の分割成立に応じた登記義務も別に確認する。申告だけで買主への売却登記まで済むわけではない。相続不動産の名義変更を参照し、司法書士等に段取りを確認したい。
相続税の申告義務があるなら、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。分割が終わらないだけでは延びない。
未分割での申告と、分割後の手続を確認しよう。小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、売却後の譲渡所得も、税理士と検討する。
見積書を、家の将来を決める材料にする
手元に集めたいのは、登記事項証明書、固定資産税の資料、ローン残高、査定、賃貸借契約や修繕費の資料だ。全部そろわなくても、相続人の関係と、今までの提案・反対理由が分かれば相談を始められる。
反対が続く、評価が合わない、代償金を払う見込みがない、家賃や管理費でも争っている。そうした場合は、登記書類を作るだけでなく、弁護士と分け方そのものを検討したい。
敦史は住み続ける案の資金と毎年の負担をまとめ、由奈は受取時期と確実に支払ってもらうための備えの希望を書いた。雨漏りの対応を記録しながら、代償金を払える案と、売却した場合の転居・手取りを比べる。家を誰が受け取るかだけでなく、その後の支払と暮らしまで確認して分け方を決めたい。
公的資料・根拠
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産の登記・分割・処分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
不動産は共有にしない方がよいですか
一律には決まらない。共同で使う目的、管理費用、修繕、将来の売却や次の相続まで考え、他の分け方と比較する。
代償金は不動産の評価額だけで決まりますか
他の遺産、相続分の調整、相続人同士の合意等も関わる。額だけでなく、支払えるだけのお金があるか、期限、担保等も確認する。
共有の修繕や賃貸は全部全員同意ですか
全部ではない。保存、管理、変更の区分で条件が異なる。修繕内容、賃貸の期間や種類、利用する共有者への影響を確認する。
一人が売却に反対すると何もできませんか
全員の合意が必要な協議を一部の相続人だけで成立させることはできないが、反対理由を確認し、調停等を検討することはできる。
共有登記なら遺産分割は完了していますか
登記だけでは判断できない。未分割の遺産共有か、協議により共有取得を決めた後か、協議書と取得の経緯を確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の対応は、死亡日、取得と利用の経緯、契約や財産の資料を示して、弁護士・税理士等へ確認しよう。



