遺留分請求には1年という壁がある。気づいた時には終わっている

遺留分侵害額請求とは、遺言書によって法定相続分を下回る財産しか受け取れなかった相続人が、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができる法律上の権利です。

結論から言うと、遺留分侵害額請求権には民法1048条に基づく時効があり、相続の開始および遺留分の侵害を知った時から1年以内に行使しなければ消滅するとされているため、遺言書の内容に疑問を感じた場合は早期に専門家へ相談することが重要とされています。

焦り顔

遺言書に自分の名前がない…これって、もう取り返しがつかないのか?

「もう遅い」と思った、その瞬間が、実は分岐点だ。

遺言書を開いた。そこには、自分の名前がなかった。

全財産が、特定の一人に集中していた。

頭の中が、真っ白になる。次の瞬間、真っ赤になる。怒りなのか、悲しみなのか、それとも単なる混乱なのか、自分でもよくわからないまま、ただ時間だけが、容赦なく流れていく。

そして数週間が経ち、数ヶ月が経ち、気付けば「あの時、何かできたはずなのに」という後悔だけが、脳の片隅にこびりついたまま、じっとりと居座り続ける。

これが、遺留分を巡る相続トラブルの、典型的な末路だ。

だが待ってほしい。まだ、終わっていないかもしれない。

で、結論から言うと。

遺言書の内容が「どう考えても不公平だ」と感じる場合、あなたには法律上の武器が与えられている可能性がある。

それが、

「遺留分侵害額請求」だ。

そして、この武器には「時効」という名の、静かに、しかし確実に迫ってくる刺客が存在する。

民法1048条。これが、今日の主役となる条文だ。じっくり付き合ってほしい。

「遺留分」とは何か。一言で言うと、法律が保障した「最低限の取り分」だ。

遺言というものは、原則として被相続人の意思が最大限に尊重される。「全財産を愛人に」でも、「全財産を慈善団体に」でも、法的には有効になりうる。

だが、それで遺族が路頭に迷うのは、さすがに酷だろうという話だ。

だからこそ、民法は一定の相続人に対して「最低限これだけは守られるべき割合」を設定した。それが遺留分(民法1042条)である。

  • 配偶者・子(直系卑属):法定相続分の2分の1
  • 直系尊属のみが相続人の場合:法定相続分の3分の1
  • 兄弟姉妹:遺留分なし(注意!)

兄弟姉妹には遺留分がない。ここを見落として「請求できる!」と息巻いた後に、弁護士から「残念ながら……」と告げられる案件は、決して少なくない。まずは自分が遺留分を持つ相続人かどうかの確認が先決だ。

図解

「遺留分侵害額請求」とは、金銭で取り返す手続きだ。

かつての民法では「遺留分減殺請求」として、財産の共有持分を取り戻す形をとっていた。しかし2019年の民法改正により、現在は「金銭での請求」に一本化された(民法1046条)。

つまり、「土地の持分をよこせ」ではなく、「侵害された分を金銭で払え」という形になったのだ。実務上の混乱は減ったが、逆に「相手に現金がなければ払ってもらえない」という現実も、同時に発生した。世の中というのは、なかなかシンプルにはいかない。

で、ここからが本題だ。請求する権利があっても、ぼんやりしていると、その権利は静かに消滅する。

「時効」という名の刺客が、二方向から迫ってくる。

民法1048条を、きちんと読んでおこう。

「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。」(民法1048条)

つまり、時効のルートは二本立てだ。

  • ①短期時効:「相続開始と遺留分侵害の両方を知った時」から1年
  • ②長期時効:「相続開始」から10年

①は、「知った時」がスタート地点になる点が肝だ。遺言書の存在を知らなかった、内容を確認できていなかった、そういった事情がある場合には、カウントダウンがいつ始まっているかの判断が複雑になりうる。

②は、知っていようが知るまいが、相続開始から10年が経過した時点で、すべてリセットされる。これは絶対的な期限だ。「知らなかった」では通じない。

この二本の刃が、あなたに向かって、それぞれ異なるスピードで近付いてくる。どちらが先に到達するかは、状況次第だ。いずれにせよ、気付いた時には既に「手遅れ」という結末だけは、何としても避けなければならない。

図解

「時効を止める」方法がある。だが、方法を間違えるな。

時効は、手をこまねいていれば確実に完成する。しかし、適切な行動をとれば「時効の完成を阻止する」こと、すなわち時効の更新(旧:中断)が可能だ。

具体的には、以下のような手段が考えられる場合がある。

  • 内容証明郵便による請求(催告):これで6ヶ月間、時効の完成を猶予できる可能性がある(民法150条)。ただし、6ヶ月以内に裁判上の請求等を行わなければ、猶予の効果が失われる点に注意が必要だ。
  • 調停の申立て:家庭裁判所への調停申立ても、時効の完成猶予事由となりうる(民法147条等)。
  • 訴訟の提起:最も確実な手段の一つだが、それなりの準備と労力を要する。

ここで一つ、絶対に覚えておいてほしいことがある。

「相続人同士で話し合って、請求しないことで合意した」——これは、法的な意味での放棄には該当しない可能性がある。遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可が必要なのは相続開始前の話(民法1049条)だが、相続開始後の放棄についても、口約束レベルでは後々の争いの火種になりうる。感情のままに口頭で約束するのではなく、法的に有効な形での処理を検討してほしい。

「自分のケースがどれに当たるか判断できない」という人は、一度プロに聞いてみた方が早い。

絶望している場合ではない。動くなら、今だ。

「もう1年近く経っている」「あの時のことを思い出したくない」「どうせ負けるだろう」。

そう思って、脳の引き出しに鍵をかけようとしていないだろうか。

その引き出し、まだ開くかもしれない。

①の短期時効について言えば、「知った時」の認定は、ケースによって異なりうる。遺言書の内容を正確に把握したのがいつか、そもそも遺言書の存在を知ったのがいつか。これらの事実関係次第で、時効の起算点が変わってくる可能性がある。

そして②の10年という長期時効は、まだカウントダウン中という人も、当然ながら多いはずだ。

重要なのは、「もう遅いかもしれない」と自分で判断して、何もしないことだ。これが最も危険な選択だ。専門家に状況を話してみれば、「まだ間に合う」という答えが返ってくるケースもある。逆に「残念ながら時効が完成している可能性が高い」と判明した場合でも、それはそれで、前に進むための情報だ。

いずれにせよ、自分の脳内だけで「積分」しようとするのは、もうやめよう。

まとめ:遺留分侵害額請求と時効、整理すると。

  • 遺留分は、法律が一定の相続人に保障した最低限の取り分(民法1042条)
  • 請求は金銭での支払いを求める形に改正済み(民法1046条)
  • 時効は二本立て。①知った時から1年、②相続開始から10年(民法1048条)
  • 内容証明による催告で、6ヶ月の時効完成猶予が可能な場合がある(民法150条)
  • 兄弟姉妹には遺留分がない点に注意(民法1042条)
  • 「知った時」の認定は個別の事情によって異なりうる

期限という名の刺客は、あなたの感情など、一秒も待ってくれない。待っているのは、行動した人間だけだ。

早めの相談が、唯一の正解だ。伝わりましたかね。

ホッとした顔

諦めずに専門家に相談してみてよかった。まだ間に合う可能性があるなら、すぐ動かないと。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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