書類の入った封筒を、今日も引き出しへ戻す。相続税の期限を過ぎている気がする。確かめるのが怖いし、今すぐ払えるお金もない。税務署から連絡が来ていないなら、もう少し後でも——と考えてしまう。
だが、期限を過ぎた後にも、できる手続はある。税務署の決定があるまでは期限後申告ができ、申告する時点の状況によって加算税の扱いも変わる。「今さら出しても同じ」とは限らないのだ。
まず確認するのは、本当に申告義務があるか、期限はいつだったか、税務署からどのような連絡が来ているかの三つ。払える額の相談も並行してよい。封筒を開けて、現在の状態を確かめるところから始めたい。
税額ゼロと、申告不要は同じとは限らない
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。課税価格の合計が基礎控除以下で、申告を要する別の事情もなければ、原則として申告は不要だ。法定相続人の数には、放棄や養子について税法独自の扱いがあるため、家族の人数だけで計算しないようにする。
一方、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額がゼロになる場合は、その適用のために申告が必要になる。「母が全部受け取るから税金はかからない」という家族の理解だけで終わらせず、申告書が提出されているかも確認する。
預金の残高だけで基礎控除と比べていたなら、不動産、保険、証券、生前贈与、家族名義の財産などの扱いも調べる。名義が家族だから除外する、現金だから計算しないということはできない。原資や贈与の実態などを確認する必要がある。
分割が終わっていなくても、10か月の期限は来る
申告・納付期限は原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内だ。通常は死亡を知った日を基に数える。期限が土日祝日等に当たる場合の扱いも確認する。
遺産分割の話がまとまらないことは、それ自体で申告期限を延ばす理由にはならない。未分割で期限を迎える場合も、法定相続分等を基に申告し、分割後に必要な修正申告や更正の請求を検討する。
未分割では使えない特例もある。後の分割で適用を受けるために分割見込書などが必要になる場合があるので、「分けてから出せば同じ」と考えないことだ。すでに期限を過ぎているなら、今から利用できる特例と必要書類を個別に確認したい。
期限後申告には、三つの時点がある
無申告加算税は、単に何日遅れたかだけでは決まらない。調査通知があったか、調査による決定や更正を予知して申告したかが関係する。
以下は、法定申告期限が2024年1月1日以後のものについて、加重や不適用の例外がない場合の基本的な区分だ。税額全体に最も高い率を掛ける表ではなく、それぞれの部分に率を掛ける。
1.調査通知前で、決定等を予知せず自主的に申告した場合
原則として納付すべき税額の5%となる。税務署から何も来ていないことを、申告しなくてよい理由にするのではなく、義務に気づいた時点で申告を進めたい。
2.調査通知後で、決定等を予知する前に申告した場合
- 50万円以下の部分:10%。
- 50万円を超え300万円以下の部分:15%。
- 300万円を超える部分:25%。
3.決定等を予知して申告した場合、または税務署が決定した場合
- 50万円以下の部分:15%。
- 50万円を超え300万円以下の部分:20%。
- 300万円を超える部分:30%。
たとえば納付すべき税額400万円で、過去の申告等や例外のない単純な例なら、3の区分は「50万円×15%+250万円×20%+100万円×30%=87万5,000円」。400万円全体に30%を掛けるのではない。
実際には、以前の期限後申告や修正申告等に係る税額の累積、納税者に責めのない事情、過去の無申告等による加重も確認する。古い相続に現在の表をそのまま当てはめず、法定申告期限と適用法令を確かめる必要がある。
「電話が来た」だけでは、どの区分かは決められない。行政指導なのか調査通知なのか、何を指摘され、いつ何を知ったのかを、書面や連絡記録とともに税理士へ示したい。
加算税がかからない場合も、条件がある
期限内に申告しなかったことに正当な理由がある場合など、無申告加算税が課されないこともある。ただし、相続人同士が争って財産の全容を把握できなかったことや、分割協議ができなかったことは、国税庁の事務運営指針では正当な理由に当たらないとされている。
また、決定を予知していない期限後申告を法定申告期限から1か月以内に行い、期限内に申告する意思があったと認められる一定の条件を満たす場合にも、不適用の制度がある。税額全額を法定納期限までに納付していることや、過去の加算税・同制度の適用歴などの確認が必要だ。「1か月以内なら誰でも無条件にゼロ」とはならない。
逆に、過去の一定の無申告加算税・重加算税や、前年・前々年の一定の無申告等がある場合は、10%相当の加重が問題になる。相続税では別の相続での申告も関係し得るため、過去の申告資料があれば一緒に示す。
無申告だから、直ちに重加算税40%ではない
重加算税は、財産など計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装し、それに基づいて申告しなかった場合などに問題になる。無申告に係る基本割合は40%で、対象部分について無申告加算税に代えて課される。一定の加重措置もある。
申告を忘れたこと、財産評価を誤ったこと、家族名義の預金の帰属が争われることと、事実を隠したり偽ったりすることは、分けて判断する。申告していないという一事だけで重加算税が決まるわけではない。
今から取引を装う書類を作ったり、税理士へ財産の一部を伝えなかったりすると、確認すべき問題を増やしてしまう。分からない事情も含め、そのまま資料を示す方がよい。要件の詳しい整理は相続税の重加算税を参照してほしい。
申告書を出す日と、お金を納める日を別々に予定する
延滞税は、原則として法定納期限の翌日から納付までの日数に応じて計算される。申告書を提出しただけで止まるわけではない。期間ごとの率や、その年の割合、計算期間から除く特例などもあるため、一つの年率を全期間に掛けるだけでは正しく計算できないことがある。
期限後申告で納める本税は、原則としてその申告書を提出した日が納期限になる。申告をしてからゆっくり資金を探せばよいという話ではないので、準備の段階から、納付可能額と予定を確認する。
一括納付が難しければ、税務署へ納付相談を行い、猶予制度などの要件を確認する。申告しないまま資金ができるのを待つのではなく、申告と納付の相談を並行して進めたい。猶予や分割が当然に認められると考えず、財産や収支の資料を基に相談する。
「5年か7年待てばいい」という読み方では、判断できない
国税通則法70条は、更正・決定について原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合などは7年という期間制限を定めている。
ただし、更正の請求や国外財産に関する情報提供の要請など、個別の要件で期間に関わる特則がある。税額を決める処分の期間と、決まった税を徴収する権利の時効も別で、徴収の時効には完成猶予や更新の規定がある。
死亡から何年たったかだけで、もう申告しなくてよいとは判断できない。古い相続なら、死亡日、法定申告期限、提出済み書類、税務署の通知や処分を時系列にして、どの制度の期間が問題なのかを確認する。資料を処分して確かめられなくすることは避けたい。
税務署が知っているかより、自分の申告を確かめる
税務署は、申告情報や法定調書、金融機関等への照会、質問検査などを通じて財産を確認する。国外財産についても情報交換等の仕組みがある。死亡届だけで全国の全財産が完全に自動一覧化されるわけではないが、現金や家族名義、海外の財産なら分からないという保証もない。
把握される確率を推測しても、申告義務や納付額は決まらない。いま整理したいのは、次の資料だ。
- 死亡日、相続人、遺言、分割の状況。
- 預金、証券、不動産、保険、会社の株式等の資料。
- 債務・葬式費用、贈与、名義財産について確認できるもの。
- 贈与税申告、相続時精算課税の届出など、過去の申告資料。
- 税務署の通知・照会、その受領日と対応内容。
- 今すぐ納付できる額と、今後の資金の見通し。
自分で申告する場合の作業は相続税申告を自分でする方法でも確認できる。ただ、すでに期限を過ぎているなら、資料不足のまま迷い続けず、税理士へ現状を伝えたい。
封筒を開けた日を、次の連絡の日にする
相談予約では、「相続税の申告をしていない。死亡日はいつで、税務署からこの連絡が来ている。納付できる額はこれくらい」と伝えればよい。正確な財産額がまだ分からないことも、そのまま伝える。
期限を過ぎた事実は戻せないが、その後の対応は変えられる。引き出しへ戻す前に、申告義務と提出・納付の段取りを確かめよう。書類を開けた今日を、手続が再び動き出す日にしたい。
公的資料・根拠
よくある質問
相続税は期限後でも申告できますか
税務署の決定があるまでは期限後申告ができる。申告義務と現在の連絡・処分の状況を確認し、提出と納付の準備を進める。
調査通知前の自主申告なら無申告加算税はいくらですか
調査による決定等を予知せず、調査通知前に自主的に期限後申告する場合は原則5%だ。不適用の条件なども個別に確認する。
無申告なら重加算税40%ですか
無申告というだけでは決まらない。隠蔽・仮装と、それに基づく無申告等の要件を確認する。
分割が終わらなければ申告期限は延びますか
分割が終わらないことだけでは延びない。未分割での申告と、後の分割に応じた税務手続を検討する。
期限後申告書を出せば延滞税は止まりますか
提出だけでは止まらない。本税の納付状況、期間ごとの率、計算期間の特例などに従って確認する。
本記事は一般的な情報提供です。個別の申告・税額・対応は、相続開始日、申告状況、税務署の連絡内容と資料を示して税理士・弁護士へ確認してください。



