贈与税の配偶者控除は、婚姻期間・居住等の条件を満たす贈与について、贈与税の計算から最高2,000万円を引く制度だ。税額が0円でも、使うには申告が必要になる。
相続税の配偶者の軽減や、遺産分割の取り分の計算とは、別に確かめよう。
夫の昌平は、妻の美津子へ自宅を生前に渡したい。美津子は住まいを確保したいが、登記や税にいくら現金が要るのか気になる。
息子の康太は、父の相続と、その後に母が亡くなった場合の扱いも知りたいと話した。架空の家族の例で考えよう。
何のための控除かを、住まいと財産の移転から考える
長年の夫婦間で住まいを移すことや、配偶者の生活保障等に配慮した特例だ。
愛情の表明や名義変更だけで自動的に使えるわけではない。本人同士の贈与の合意と、対象財産・居住・申告の条件がある。
この特例を使わず夫婦間で贈れば、通常の贈与税の計算が問題になる。一方、相続で渡す場合には、別の税や特例がある。
2,000万円という数字だけで、生前贈与が家族に必ず有利だと判断しない。
昌平と美津子は、家の所有権を今移すことと、生活費を確保することを分けて検討する。現金が少ない場合には、名義を取得しても維持費や税を払えるかを確認したい。
婚姻・住まい・申告の五条件
- 婚姻期間20年以上の法律上の夫婦間で、条件に沿って贈与する。
- 国内の居住用不動産、またはその取得に充てる金銭を対象にする。
- 受贈年の翌年3月15日までに贈与を受ける人が現実に居住し、その後も引き続き住む見込みである。
- 同じ配偶者からの贈与について、過去にこの控除を利用していない。
- 必要書類を添えた贈与税申告をする。控除により税額が0円でも申告が必要になる。
婚姻期間は、届出による婚姻から贈与までで確認する。内縁の期間をそのまま含めない。
移す土地・建物の部分、使い道、持分と権利の内容も調べる。同じ配偶者からの控除は一生に一度で、毎年2,000万円ずつ使うものではない。
生活費として自由に使う現金や株式を渡すだけでは、居住用不動産・取得資金の条件を満たさない。必要な贈与の合意と実行は生前贈与のやり方で整理できる。
2,000万円と110万円は、別々の控除として計算する
美津子へ贈る対象財産の贈与税評価額を2,110万円とする。同じ年のほかの暦年贈与はなく、特例の条件をすべて満たす架空の例だ。
2,110万円−配偶者控除2,000万円−基礎控除110万円=0円となり、この例の贈与税はかからない。ただし、特例の申告は必要だ。
2,110万円は、説明用の贈与税評価額だ。家の売値、固定資産税評価額や手元の現金とは違う。
家全体か持分かによっても、対象の評価は変わる。ほかの贈与も調べてから、控除額を計算しよう。
不動産の贈与には、登録免許税、不動産取得税、登記・評価等の費用も確認する。贈与税が0円でも、それらの支出まで一律に0円になるわけではない。相続で移す場合の税や手続とも比較する。詳しくは不動産を生前贈与するときの費用と特例を参照してほしい。
相続税への加算は、配偶者控除を受けた部分と分ける
亡くなった人から受けた一定期間内の暦年贈与は、取得者等の条件によって相続税の計算へ加える。
ただし、贈与税の配偶者控除を受けた金額に相当する部分は、加算から除く扱いがある。
前の2,110万円の例で、昌平の相続時の加算を考える。
その控除額に相当する部分は、相続税への暦年贈与の加算から除かれる。
贈与税がかからなくても、相続税へ加える対象になり得る。美津子が相続等で取得する財産、贈与日と加算期間等を調べる。
2,110万円全額が、必ず相続税の対象外になるという意味ではない。土地等を渡す際の他の税や費用とも、別の話だ。
加算期間は、2026年末までに始まる相続では原則3年だ。2027〜2030年は2024年1月1日以後、2031年以降は原則7年という経過措置がある。
経過措置は、新制度へ切り替わる時の特別な扱いだ。配偶者控除の部分を除く扱いと、期間・対象者の判定を別に確かめよう。毎年の基礎控除は110万円の贈与と相続税への加算も参照できる。
民法の持戻免除の推定と、贈与税の控除を混ぜない
民法903条4項は、20年以上の夫婦間で、住まいの建物や敷地を贈与・遺贈した場合の規定だ。遺贈は遺言で財産を渡すことをいう。
贈与等を特別受益として取り分の計算へ戻さなくてよい、という本人の意思を推定する。これが持戻し免除の推定だ。
特別受益は、一定の遺贈や生前贈与を取り分へ反映する仕組みである。家を受け取った配偶者が、残りの財産を受け取るときに調整するか、という問題になる。
家を贈られたことを、相続で受け継いだとみなす規定ではない。相続税の加算を除く税法の根拠でもない。
贈与税の配偶者控除とは、対象・条件・効果が違う。推定に反する本人の意思や、一定の相続人の最低限の取り分である遺留分等も、別に確認する。
康太は、父が家を母へ渡す希望と、自分の遺産分割上の取り分を同じ計算にしないことにした。父の意思を確認できる資料を残し、税の特例を使ったから民事上の問題まですべて解決したとは判断しない。
申告書類と、相続で渡す案の比較を準備する
戸籍謄抄本・戸籍の附票等は、贈与日から10日を経過した日以後に作られたもの等を準備する。取得を証する書類、不動産そのものの贈与なら評価明細等も確かめよう。
不動産番号の記載等で、登記事項証明書の添付を省ける場合がある。現在の申告書と案内に沿ってそろえる。
通常は、贈与年の翌年2月1日〜3月15日の贈与税申告を確認する。
贈った年に昌平が亡くなる場合等は、別の扱いもある。贈与日と死亡日、特例の適用を分けて相談しよう。書類があるだけで、作成時期まで条件を満たすとは限らない。
全部または持分を今贈る案と、遺言等で相続時に渡す案を比べる。
相続なら、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使える場合がある。受け取る人、居住、分割・申告等の条件を調べ、この案も比較に入れよう。
美津子が元から持つ財産も含め、後に妻が亡くなった場合の相続を別に試算する。
将来の価格や支出で結果は変わり、亡くなる順序も決まっていない。一回の税額だけでなく、夫婦の生活資金と子への配分も考えよう。
昌平たちは、評価2,110万円、二つの控除、名義を移す費用と毎年の維持費を並べた。
美津子の住まいを守りたいという希望を出発点に、康太への説明と、相続で渡す案の比較をしてから、贈与するかを考える。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前贈与の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
同じ配偶者から毎年2,000万円の控除を使えますか?
同じ配偶者からの贈与については一生に一度だ。婚姻期間、対象財産、居住、過去の適用と申告を確認する。
内縁期間を含めて20年なら対象ですか?
法律上の婚姻期間を確認する。内縁の期間をそのまま含めず、届出による婚姻から贈与までで判断する。
税額0円でも申告が必要ですか?
この特例を使うには必要書類を添えた贈与税申告が必要だ。不動産の移転にかかる他の税や費用も確認する。
2,110万円全額が必ず相続税の加算対象外ですか?
配偶者控除相当額と、110万円の基礎控除の部分を分ける。後者は取得者や期間等によって加算対象となる場合がある。
民法903条4項と贈与税の配偶者控除は同じ制度ですか?
異なる。前者は遺産分割の特別受益の計算における持戻免除の意思の推定で、後者は一定の贈与の贈与税を軽減する制度だ。



