子の口座にお金を振り込む前に、誰に、何を、いつ渡すのかを本人と確認したい。生前贈与は「あげる」という意思表示と「もらう」という受諾によって成立する契約である。節税の計算に加え、財産が実際に受け取る人へ移ったことを説明できるように進める必要がある。
基本の順序は、目的と金額を決める、課税方式を確認する、合意を記録する、財産と管理を移す、申告・届出を確認する、という流れになる。以下では、国内の親子間の金銭贈与を中心に、不動産や株式では追加で何を調べるかも整理する。
1 贈与する目的と、手元に残す資金を決める
住宅購入の援助、教育費の支援、事業の承継では、必要な時期も利用できる制度も違う。まず受贈者がいつ、何に使うのかを確認する。贈与する側も、自分の生活費、介護費、住宅の修繕費などを見込んで金額を決める。渡した後で生活資金が不足するような計画は避けたい。
他の子との公平についても整理する。税務上の非課税と、将来の遺産分割で特別受益になるかは別問題である。「税金がかからない額なら、相続でも全く考慮しない」とは決めつけられない。大きな援助では、目的、他の相続人への配慮、遺言との整合を弁護士と確認する。
2 振込前に、誰についてどの課税方式か確認する
| 方式 | 確認の要点 |
|---|---|
| 暦年課税 | 受贈者が1年間に受けた対象贈与を合算し、110万円を控除する。贈与者ごとの110万円ではない。 |
| 相続時精算課税 | 対象者の要件と期限内の選択届出が必要。2024年以後は年110万円、その後に累計2,500万円の特別控除を使う。同じ贈与者について暦年課税へ戻れない。 |
| 住宅等の特例 | 資金の用途、年齢、取得・入居期限、所得、申告等を個別に確認する。単なる振込で適用が決まるものではない。 |
過去に父から不動産をもらった際に相続時精算課税を選んでいれば、その後の父からの現金贈与にも同じ方式が適用される。財産の種類が変わっても選択は消えない。過去の贈与税申告書と選択届出書の控えを取り出してから計算する。
扶養義務者から、通常必要な生活費や教育費を必要な都度受け取り、直接その支払に使う場合の非課税は、年110万円の基礎控除とは別である。何年分もまとめて受け取って預金に残した額まで、同じ扱いになるとは限らない。目的と支払の実態を確認する。
3 贈与の内容を本人同士で確認し、記録する
民法549条・550条によれば、贈与は口頭でも成立するが、書面によらない場合は履行が終わっていない部分について解除できる。後から合意内容を確かめられるよう、通常は贈与契約書を作成しておく。
- 贈与者と受贈者の氏名、住所
- 贈与する財産と金額。不動産なら登記記録に沿った表示、株式なら会社名・種類・株数
- 契約日、贈与の効力が生じる日、振込等の実行日
- 振込口座、引渡方法、費用負担、条件がある場合はその内容
- 双方が内容を確認したことを示す署名等
実際は後から作った契約書なのに、過去の日付で締結したように見せることは避ける。過去の口頭合意を今確認するのであれば、確認書を作った日と、当時の合意・実行の事実を分けて記載する。資料が不足する場合は、既存のメールや取引履歴から事実を整理する。
本人の意思能力に問題があるときは、家族が署名すればよいわけではない。未成年者の贈与では親権者等の関与が必要になることがあり、負担付き贈与などは利益相反も確認する。年齢や判断能力に応じ、誰が受諾できるかを先に確かめる。
4 財産と、その管理を受贈者へ移す
金銭では、贈与者の口座から受贈者の口座へ振り込むと、日付と金額を残しやすい。受贈者へ着金を知らせ、取引明細と契約書を一緒に保存する。現金で渡す場合は、受領書だけでなく、出金の記録や渡した経緯も残したい。
口座名義を子にしても、子が入金を知らず、親が通帳、カード、暗証番号やオンライン認証を握って自由に出し入れしていたなら、贈与が成立したか、誰の財産かが問題になる。振込と申告の形式だけで決まるわけではない。
受贈者が自分の財産として管理・利用できる状態にすることが基本である。幼い子のために親が管理する場合も、誰のための管理か、子の財産と親の財産をどう分けたかを説明できるようにする。名義預金の判断では、資金の出所、管理運用、利益の帰属、家族関係、名義を付けた経緯を総合的に見る。
不動産は贈与契約に加えて所有権移転登記、登録免許税、不動産取得税等を確認する。株式は贈与時の税務評価と、譲渡制限・株主名簿等の会社手続が必要になる。「現金と同じように110万円分を渡す」つもりでも、評価を誤ると申告額が変わる。
5 年末に全贈与を集計し、申告と届出を判断する
贈与税の申告・納付は原則として翌年2月1日から3月15日までで、手続をするのは受贈者である。祖父母など別の人から受けた贈与も集め、暦年課税分と相続時精算課税分を区分して計算する。申告期限が休日に当たる年や、特別な期限の扱いはその年の案内で確認する。
相続時精算課税を初めて選ぶ年は、110万円以下で贈与税申告が不要でも選択届出書が必要である。2,500万円の特別控除は期限内申告が条件なので、「控除を使えば税金ゼロだから何も出さない」という進め方はできない。
年末の贈与では、税務上の取得時期にも注意する。国税庁は、口頭贈与は原則として履行時、書面による贈与は原則として契約の効力発生時と整理している。すべてを銀行の振込日だけで年分判定しない。契約と実行の日付が異なる場合は、取得時期の取扱いを確認する。
6 翌年以降も使える記録を一組にする
受贈者ごとに、年、贈与者、財産、評価額、実行日、課税方式、申告・届出、精算課税の特別控除残額を一覧にする。契約書、振込明細、評価資料、申告書控え、受信通知や納付記録の保存場所も合わせて記録する。
暦年課税では、死亡時の取得財産や贈与時期によって生前贈与加算が必要になる。精算課税では、原則として贈与時の評価額から各年の基礎控除を差し引いた額を相続時に加算する。将来の相続申告を担当する家族にも、資料の所在を知らせておくとよい。
毎年贈る場合の契約と加算期間は毎年110万円の生前贈与、制度の選択は相続時精算課税の仕組みで確認できる。
よくある質問
契約書がない贈与はすべて無効か
口頭でも合意により成立する。ただし書面がなければ、履行が終わっていない部分について解除でき、後日の立証も難しくなる。
子の口座へ振り込めば贈与は完了か
振込だけでは判断できない。受諾の有無、資金の出所、実際の管理や利用、財産を渡した経緯も確認する。
110万円以下なら何も提出しなくてよいか
課税方式と他の贈与等による。相続時精算課税を初めて選択する年は、税額がなくても期限内の選択届出が必要である。
毎年日付や金額を変える必要があるか
形式を変えること自体が要件ではない。毎年独立した贈与を合意・実行したのか、最初に複数年の給付を約束したのかが重要である。
贈与の記録は誰が保存するか
受贈者を中心に、契約・振込・評価・申告等を一組で保存する。将来の相続申告でも必要になるため、家族にも所在を共有する。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、相続開始日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



