遺言書の偽造が疑われるときは、原本を保全し、検認、作成時の筆記能力・経緯、筆跡対照資料、保管・発見状況を確認します。筆跡鑑定だけで結論が決まるわけではありません。
検認は遺言の真正・有効性を保証しません。民事上の遺言無効、民法891条5号の相続欠格、刑法上の私文書偽造・行使は、それぞれ要件と手続が異なります。証拠を改変せず、争点ごとに進めます。
最初に原本を保全する
- 遺言書、封筒、同封物をそのまま保管し、書き込み・消去・補修をしない
- 発見者、発見日時、場所、封の状態を記録する
- 公正証書遺言、法務局保管遺言かを確認する
- 検認が必要な遺言は、家庭裁判所へ速やかに申し立てる
- 生前の手紙、申込書、日記など筆跡対照文書の原本を集める
- 診療記録、要介護資料、面会記録など作成時の状態を確認する
封印された遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの下に開封するのが原則です。誤って開封しても直ちに遺言が無効になるわけではありませんが、原本を保全して検認を申し立てます。
検認は有効性を判断しない
検認は、遺言書の形状、加除訂正、日付、署名、押印などの状態を確認し、後日の偽造・変造を防ぐ証拠保全手続です。東京家庭裁判所の案内も、遺言が有効か、遺言者の本心に基づくかまで決定する手続ではないと説明しています。
したがって、検認済みでも偽造・方式違反・意思能力を民事訴訟で争えます。反対に、検認前に開封したことだけで遺言が当然無効になるわけでもありません。
偽造を判断する資料
- 遺言書と、生前の複数の筆跡対照文書の原本
- 作成当時の書字能力、視力、手の震え、認知機能
- 文章の複雑さ、語彙、遺言内容と生前の意向
- 用紙、筆記具、印章、訂正方法、作成日付の整合性
- 作成への立会い、保管者、発見までの経緯
- 遺言によって利益を受ける人との関係・連絡記録
筆跡鑑定は一つの証拠ですが、筆跡は健康状態、速度、筆記具などで変化します。裁判例・実務文献でも、鑑定だけでなく作成能力、体裁、動機、保管・発見状況を総合して判断すると整理されています。
相続欠格は行為だけで機械的に決まらない場合がある
民法891条5号は、相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄または隠匿した人を欠格事由として定めています。
最高裁昭和56年4月3日第二小法廷判決(民集35巻3号431頁)は、押印を欠く自筆証書遺言に配偶者が押印して有効な外形を作った行為を「変造」に当たるとしつつ、遺言者の意思を実現するため形式を整えたにすぎない事情の下で相続欠格を否定しました。
最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決(民集51巻1号184頁)は、遺言書の破棄・隠匿について、それが相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは相続欠格に当たらないとしました。この判旨を、すべての偽造事案で必ず欠格意思が必要、または家族のためなら偽造してよいという意味へ広げてはいけません。
民事と刑事を分ける
| 論点 | 主な目的 | 主な手続 |
|---|---|---|
| 遺言の真正・有効性 | 遺言に法的効力があるか確定 | 遺言無効確認訴訟等 |
| 相続欠格 | 行為者が相続資格を失うか判断 | 民事訴訟上の争い・登記手続等 |
| 私文書偽造・行使 | 刑事責任の有無 | 捜査、起訴、刑事裁判 |
刑事告訴をしなければ民事で遺言無効を争えないわけではなく、刑事処分がないから遺言が有効と確定するわけでもありません。刑法159条・161条は作成名義、権利義務等に関する文書、行使目的、実際の行使など固有の要件を持ちます。
方式違反・意思能力を含む遺言無効は遺言書が無効になる場合、種類別の検認要否は遺言書の種類も参照してください。
公的資料・判例
- e-Gov法令検索「民法」891条、968条、1004条
- e-Gov法令検索「刑法」159条、161条
- 東京家庭裁判所「遺言書の検認」
- 裁判所「裁判例検索」(最高裁昭和56年4月3日・平成9年1月28日判決)
よくある質問
検認済みなら遺言書は本物ですか
検認は遺言書の状態を確認する証拠保全手続で、真正・有効性を保証しません。
筆跡鑑定で偽造か決まりますか
鑑定は一つの証拠です。筆記能力、文書の体裁、内容、保管・発見状況などを総合して判断します。
遺言を変造すれば必ず相続欠格ですか
最高裁は行為の目的・事情を考慮して欠格を否定した例を示しています。行為類型と判例の射程を個別に確認します。
刑事事件にならなければ遺言は有効ですか
そうではありません。遺言の民事上の有効性、相続欠格、刑事責任は別の要件・手続で判断されます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。遺言の方式・真正、相続欠格、刑事責任は証拠と行為目的により判断が異なります。原本を改変せず弁護士へ確認してください。



