遺言書の偽造が疑われたとき、相続人が取れる具体的な対抗手段

遺言書の偽造とは、被相続人(亡くなった方)が実際には作成していない遺言書を、相続人や第三者が意図的に作り上げる行為とされています。私文書偽造罪(刑法159条)や有印私文書偽造罪などの刑事罰の対象となり得るとされています。

結論から言うと、遺言書の偽造は刑事・民事の両面で重大なリスクを伴う行為であり、偽造を疑う根拠がある場合は筆跡鑑定や検認手続きの活用など、具体的な対抗手段が存在するとされています。

遺言書という紙切れ一枚が、家族という名の構造物を、根元からグラつかせることがある。

もっと言えば──その「紙切れ」が、本当に故人の意思で書かれたものかどうか、誰も最初は確信を持てない。金庫の奥から突然現れた遺言書。見慣れない筆跡。やけに都合のいい内容。そのとき頭に浮かぶ、あの疑念を、あなたは経験したことがあるだろうか。

困り顔

父の筆跡に似てるけど……これ、本当に父が書いたのか?

その直感、あながち間違っていない可能性がある。そして「間違っていないかもしれない」と気づいたとき、次に何をすべきかを知っているかどうかで、その後の展開はまるで変わってくる。

で、結論から言うと──遺言書の偽造は「バレる」構造になっている

遺言書の偽造。これは、やった側にとっては「うまくやれば通る」と思いがちな行為だ。しかし現実は違う。日本の法制度は、偽造という名の侵入者を弾き飛ばすための仕掛けを、複数重ねて用意している。

具体的には、こうだ。

  • 刑事罰:私文書偽造罪・同行使罪(刑法159条・161条)。法定刑は3ヶ月以上5年以下の懲役とされている。
  • 民事効果:偽造が立証されれば、その遺言書は無効。遺産分割はゼロからやり直しになる可能性がある。
  • 信頼の消滅:法廷の場で偽造が明らかになった瞬間、その人物が家族の中で占めていた立場は、二度と元には戻らない。

「バレなければいい」という発想が、いかに脆弱な土台の上に立っているか。これだけでわかるはずだ。

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遺言書の偽造が「疑われるとき」に何が起きるか

問題は偽造した側だけではない。「これ、偽造じゃないか?」と疑う側にとっても、この状況は相当にタフだ。

想像してほしい。父が亡くなって数日。悲しみがまだ身体の奥に残っているうちに、兄が「遺言書が出てきた」と言い出す。全財産を兄に、という内容だ。筆跡は似ているが、なんとなく違和感がある。署名の部分だけ、妙に力が入っている気がする。

このとき、あなたの脳内では「疑念の対流」が発生し始める。問い詰めれば家族関係が壊れる。黙っていれば不当な相続が成立してしまうかもしれない。どちらに転んでも、穏やかな未来が遠ざかっていく感覚。

この状況で知っておきたいのが、「検認(けんにん)」という手続きだ。

図解

検認とは何か──偽造を疑ったときの第一手

自筆証書遺言が発見された場合、相続人は家庭裁判所に「検認」の申立てをしなければならない(民法1004条)。検認は遺言書の内容・形状・筆跡を相続人立会いのもとで確認し、記録に残す手続きだ。

重要なのは、検認は「遺言書の有効・無効を判定する場ではない」という点だ。ただし、この手続きを経ることで遺言書の状態が公的に記録される。後から「中身が改ざんされた」という主張を封じる効果がある。

さらに、検認を経ずに遺言書を開封した者は、5万円以下の過料に処せられる可能性がある(民法1004条3項)。「開封してしまった」という既成事実を作られる前に、速やかに申立てを行うことが、偽造対策の第一歩になりうる。

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偽造を疑ったとき──自分で動ける具体的なアクション

「疑わしい」だけでは何も変わらない。法律は、動いた者の味方をする仕組みになっている。以下に、読者が自分で踏める具体的なステップを示す。

図解

ステップ1:筆跡の比較材料を集める

故人が生前に書いた手紙、年賀状、契約書、日記。こうした筆跡サンプルをできる限り集めておく。後に筆跡鑑定を依頼する際の「比較資料」になる。捨てる前に、まず確保。これだけで大きく違う。

ステップ2:公証役場で「公正証書遺言」の有無を照会する

日本公証人連合会の遺言検索システムに照会すれば、故人が公正証書遺言を作成していたかどうかが確認できる。「自筆遺言だけが全て」と思い込まず、公正証書遺言が別に存在しないかを確認する。公正証書遺言は公証人が関与するため偽造の余地がほぼなく、後から出てくれば「自筆遺言の有効性」を揺るがす材料にもなりうる。

ステップ3:遺言無効確認訴訟という選択肢を知る

筆跡鑑定などで偽造の疑いが強まった場合、「遺言無効確認訴訟」を提起することが可能とされている。この訴訟で偽造が認定されれば、当該遺言書は無効となり、法定相続分に基づく遺産分割に戻る可能性がある。提起の期限については民法上の明文規定はないが、長期間の放置は事実認定を困難にする場合があるため、早期の判断が望ましいとされている。

ステップ4:遺留分侵害額請求の期限を把握する

仮に遺言書が有効だったとしても、相続人には「遺留分」という最低保証分が認められている(民法1042条)。遺留分を侵害されたと知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ、時効により消滅するとされている(民法1048条)。「諦めるしかない」と思う前に、この権利の存在を確認してほしい。

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偽造リスクを「事前に」潰す方法──残す側ができること

ここまでは「疑われる側」「疑う側」の話をしてきた。しかし視点を変えれば、これは「遺言書を残す側」にとっての問題でもある。

自筆証書遺言は、一人で書けるがゆえに「後から偽造・変造を疑われやすい」という構造的な弱点を持つ。対して公正証書遺言は、公証人と証人2名が関与し(民法969条)、原本が公証役場に保管される。偽造の余地がほぼゼロに近いとされている。

また、法務局における自筆証書遺言書保管制度(令和2年施行)を利用すれば、法務局が遺言書を保管し、検認手続きも不要になる。「家族に疑われたくない」という思いがあるなら、この制度の活用を検討する価値は十分にある。

ホッとした顔

公正証書遺言にしておけば、子どもたちに余計な疑念を持たせずに済むんだな。

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よくある質問

遺言書の偽造が発覚した場合、どのような刑事罰がありますか

遺言書の偽造は私文書偽造罪(刑法159条)に該当する可能性があり、3ヶ月以上5年以下の懲役が科せられる場合があるとされています。さらに偽造した文書を行使した場合は同行使罪(刑法161条)も成立し得ます。ただし実際の刑事立件には捜査機関の判断が伴うため、個別の事情により結果は異なる可能性があります。

検認手続きとは何ですか。自分で申立てできますか

検認とは、自筆証書遺言の内容・形状を家庭裁判所が公的に確認・記録する手続きです(民法1004条)。相続人であれば申立て人となることが可能とされており、申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。検認は遺言書の有効・無効を判断する場ではありませんが、改ざん防止という実務上の意義は大きいとされています。

遺言書が偽造と疑われる場合、筆跡鑑定はどこに依頼できますか

筆跡鑑定は、民間の鑑定機関や大学の研究機関などに依頼することが可能とされています。費用や精度は機関によって異なり、裁判で証拠として用いる場合は鑑定書の信頼性が問われることがあります。訴訟を視野に入れる場合は、提訴前に鑑定機関の選定を慎重に行うことが望ましいとされています。

遺留分の請求期限を教えてください

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければ、時効によって消滅するとされています(民法1048条)。また、知らなかった場合でも相続開始から10年が経過すると同様に消滅する可能性があります。

公正証書遺言も偽造されることはありますか

公正証書遺言は公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管されるため(民法969条)、自筆証書遺言と比較して偽造・変造のリスクは極めて低いとされています。ただし、公証人を欺く形での虚偽の意思表示による作成(いわゆる「意思能力の欠如」を利用したケース)については、別途無効の主張がなされる場合もあるとされています。

遺言書の偽造という問題は、誰かの「悪意」が引き金になる話だ。しかし知識がなければ、悪意の前に無力なままになるのも事実。検認という手続きを知っているかどうか、遺留分の時効を把握しているかどうか。それだけで、あなたが取れる選択肢の数が、まるで変わってくる。

「知っておいてよかった」という感覚は、こういう場面でこそ、静かに、しかし確実に効いてくる。

けっこう大事な話でしたよ、これ。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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