知らない人や疎遠な叔父・伯母の相続について手紙が届いたら、無視せず、まず差出人が本物か、自分が本当に相続人か、何を求められているかを確かめる。相続放棄を考えるなら、期限は原則として「自分が相続人になったと知った時」から3か月なので、手紙の到着日を記録しておく。
子のいない叔父・伯母が亡くなると、甥・姪が相続人になることは珍しくない。署名や返送を急がず、資料を受け取ってから判断すればよい。
なぜ面識のない人の相続人になるのか
相続人の順位は民法で決まっている。第1順位は子、子がいなければ第2順位の親などの直系尊属、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹が相続人になる(民法887条1項、889条1項)。
付き合いの有無や、何十年も会っていないことは、相続人になるかどうかに関係しない。
兄弟姉妹が先に亡くなっていると、その子である甥・姪が代わりに相続人になる(民法889条2項による887条2項の準用)。これが代襲相続だ。兄弟姉妹の場合、代襲は甥・姪までで、その子へは続かない。
先の順位の人が全員相続放棄した結果、順番が回ってくることもある。相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされるからだ(民法939条)。
相続放棄では代襲相続は起きない。放棄した人の子ではなく、同じ順位のほかの人が、いなければ次の順位の人が相続人になる。
いない、または全員が相続放棄すると次へ。
いない、または全員が相続放棄すると次へ。
疎遠な叔父・伯母の相続で、甥・姪に手紙が届くのはこの段階が多い。
配偶者は順位とは別に、常に相続人になる。配偶者と兄弟姉妹が相続人なら、兄弟姉妹側の相続分は合わせて4分の1だ(民法900条3号)。
例:叔父に配偶者・子・親がなく、兄弟姉妹が3人で、そのうち自分の父が先に亡くなっていた場合。父の相続分3分の1を自分ときょうだい1人で分け、各6分の1になる。父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹は、相続分が半分になる(民法900条4号ただし書)。
順位と相続分の全体は法定相続人の範囲と順位で確認できる。
手紙が本物か、何を求めているかを確かめる
手紙が届くのは、ほかの相続人や依頼を受けた弁護士・司法書士などが、戸籍をたどって相続人を調べ、住所を突き止めたためであることが多い。
ただ、相続を装った詐欺もありうる。返信や連絡の前に、差出人を公式の情報で確かめる。
弁護士なら日本弁護士連合会の「弁護士検索」、司法書士なら日本司法書士会連合会の「司法書士検索」で、氏名と事務所の所在地を照らし合わせられる。
電話をかけるときは、手紙に書かれた番号ではなく、公式の検索結果や弁護士会・司法書士会で確認した番号を使う。
次のような点があれば、特に慎重になる。
- 手数料・調査費用・税金などの名目で、先に振込みを求める
- キャッシュカード、通帳、暗証番号、マイナンバーカードの送付を求める
- 「今日中に」「返事がなければ法的措置」と、根拠を示さずに急がせる
- 亡くなった人の氏名・死亡日・自分との続柄が書かれていない
- 連絡先が携帯電話やフリーメールだけで、事務所名を確認できない
本物と分かったら、何を求められているかを特定する。主なものは、遺産分割協議書への署名押印、相続分の譲渡、相続放棄のお願い、相続登記への協力、遺言執行者からの遺言内容の通知(民法1007条2項)、債権者からの支払請求だ。
同じ「相続の手紙」でも、求められる行動と、署名した後の効果はまったく違う。
「何も受け取らない」という内容の書類でも、種類によって効果が違う。特別受益証明書のように、相続放棄とは別の書類を求められることもある。違いは特別受益証明書に署名する前にで確認できる。
3か月の期限は「知った時」から数える
相続放棄や限定承認は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内にしなければならない(民法915条1項)。亡くなった日から一律に数えるわけではない。
疎遠な親族の場合、亡くなったことも、自分が相続人になったことも、手紙で初めて知ることが多い。その場合、手紙を読んだ日が起算点を考える重要な事実になる。
封筒は捨てず、消印と到着日、開封した日をメモしておく。
ただし、親族から先に聞いていたなど、手紙より前に知っていた事情があれば、その時点から数えられる可能性がある。いつ何を知ったかは、記憶に頼らず記録で残す。
財産や借金の調査が3か月で終わらないときは、家庭裁判所に期間の伸長を請求できる(民法915条1項ただし書)。承認か放棄かを決める前に、相続財産を調べることもできる(同条2項)。
期限の数え方の詳細は相続放棄の期限は3か月にまとめている。
手紙を無視した場合に起こりうること
返事をしなくても、相続人である立場はなくならない。無視を続けると、次のことが起こりうる。
3か月が過ぎ、相続を承認したとみなされる。期間内に相続放棄も限定承認もしなければ、単純承認をしたものとみなされる(民法921条2号)。後から借金が分かっても、原則として相続分に応じて負担することになる。
例外として最高裁は、相続財産が全くないと信じ、交流の乏しさなどから財産の調査を期待するのが著しく難しく、そう信じたことに相当な理由がある場合には、財産や借金の存在を知った時から3か月を数えるとした(最高裁昭和59年4月27日判決)。ただし認められる場面は限られるので、手紙が届いた時点で期限を意識しておく。
遺産分割調停を申し立てられる。ほかの相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てられ、あなたは相手方になる。正当な理由なく期日に出頭しないと、5万円以下の過料の対象になりうる(家事事件手続法258条1項、51条3項)。
調停が成立しなければ審判手続に移り(同法272条4項)、自分の意見を出さないまま分け方が決まることもある。
なお、住所が分かっている相続人が返事をしないだけでは、行方不明者のための不在者財産管理人(民法25条)の対象にはならない。そのため、相手方は調停などの手続で進めることになる。
不動産の税金と管理の問題が残る。1月1日の時点で登記名義人が亡くなっていると、固定資産税はその不動産を現に所有している者、つまり相続人に課される(地方税法343条2項)。共有物の税金は、共有者が連帯して納める義務を負う(同法10条の2第1項)。
相続登記は、相続の開始を知り、かつ不動産の取得を知った日から3年以内に申請する義務があり、怠ると10万円以下の過料の対象になりうる(不動産登記法76条の2、164条1項)。相続人申告登記で義務を果たす方法もある(同法76条の3)。
承認・放棄を決めるまでの間も、相続人は自分の財産と同じ注意で相続財産を管理する必要がある(民法918条)。空き家の傷みや近隣への影響が問題になる前に、状況を聞いておく。
返信の文例と、選べる三つの対応
最初の返信は、結論を書かなくてよい。資料の提供を求め、検討中であることを伝えれば十分だ。
文例1:資料の提供を求める
〇〇〇〇様
令和〇年〇月〇日付のお手紙を、〇月〇日に受け取りました。故〇〇〇〇様の相続について、判断のため、次の資料をお送りください。1. 私が相続人であることが分かる戸籍の写しと相続関係の説明図
2. 相続人全員の氏名と、各自の相続分
3. 預貯金・不動産・借金・保証債務を含む財産の一覧と、その根拠資料
4. 私に求める手続の内容と、署名をお願いする書類の案資料を確認するまで、署名・押印・印鑑証明書の送付は控えます。
文例2:検討期間を伝える
資料をお送りいただき、ありがとうございます。内容を確認し、専門家にも相談したうえで、〇月〇日ごろまでにお返事します。相続放棄も含めて検討しています。それまでの間、私の名前で手続を進めないようお願いします。
返信は、手元に控えを残せる方法で送る。電話で話した場合も、日付と内容をメモしておく。
| 比べる点 | 相続放棄 | 相続分の譲渡 | 協議に参加して受け取る |
|---|---|---|---|
| 方法 | 家庭裁判所に申述する(民法938条) | 譲り受ける人との合意(相続分譲渡証書など) | 相続人全員で遺産分割協議書を作る(民法907条1項) |
| 期限 | 原則、知った時から3か月(民法915条1項) | 遺産分割の前に行う | 協議自体に期限はない。ただし3か月が過ぎると承認したとみなされる |
| 借金 | 引き継がない(民法939条) | 債権者との関係では負担が残りうる | 相続分に応じて引き継ぐ |
| 遺産の取得 | なし | なし、または合意した対価 | 協議の内容による |
| やり直し | 受理後は撤回できない(民法919条1項) | 合意の内容による | 全員の合意がなければ難しい |
借金の心配があるなら、相続放棄が最も確実に負担を断てる方法だ。相続分の譲渡は手軽に見えても、借金の負担が残りうる。違いは相続分の譲渡・放棄と相続放棄の違いで詳しく比べている。
協議書への署名で遺産を処分したと扱われると、単純承認とみなされ(民法921条1号)、後から相続放棄ができなくなるおそれがある。放棄を考えているなら、署名の前に順序を決める。
署名・押印の前に確認するチェック表
- □ 亡くなった人の氏名・死亡日・最後の住所が書かれている
- □ 自分が相続人である根拠を、戸籍の写しで確認した
- □ ほかの相続人全員の氏名と相続分が分かる
- □ 預貯金・不動産・借金・保証債務の一覧と根拠資料がある
- □ 書類の種類(協議書、相続分譲渡証書、特別受益証明書、委任状など)を確認した
- □ 自分が受け取るもの、負担するものが書面に書かれている
- □ 印鑑証明書の使い道と、必要な通数を聞いた
- □ 差出人の資格と、誰の依頼で連絡しているかを確認した
- □ 手続の費用を誰が負担するかが決まっている
- □ 返送の期限と、自分の3か月の期限を比べた
一つでも空欄があれば、署名を保留して質問してよい。
関連する手続は、相続放棄の手続き方法|3ヶ月期限・必要書類・家庭裁判所への申述からも確認できる。
よくある質問
相続に関する手紙が届いたのはなぜか
亡くなった人に子や親がいない、または先の順位の人が相続放棄したため、兄弟姉妹や甥・姪であるあなたが相続人になった可能性がある。ほかの相続人や専門家が戸籍で相続人を調べ、連絡してきたと考えられる。
相続の手紙を無視するとどうなるか
相続人の立場はなくならない。3か月が過ぎると相続を承認したとみなされ、借金も相続分に応じて引き継ぐおそれがある。遺産分割調停を申し立てられたり、不動産の固定資産税を求められたりすることもある。
相続放棄をすれば空き家の管理もしなくてよいか
放棄の時にその家を現に占有していなければ、放棄した人に保存の義務は生じない。占有している場合は、ほかの相続人や相続財産の清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する必要がある(民法940条1項)。
確認に使える資料
- e-Gov法令検索:民法(887条、889条、900条、915条、921条、939条、940条ほか)
- e-Gov法令検索:家事事件手続法(51条、258条、272条)
- e-Gov法令検索:不動産登記法(76条の2、76条の3、164条)
- 裁判所:相続の放棄の申述
- 裁判所:遺産分割調停
- 日本弁護士連合会:弁護士検索
- 日本司法書士会連合会:司法書士検索
2026年10月31日時点の一般的な説明である。例の相続分は説明用である。具体的な判断は資料と事情を確認して行う。



