親に貸したお金は相続人に請求できる?借用書なしの証拠と時効

親に貸したお金は相続人に請求できる?借用書なしの証拠と時効

親に貸したお金は、親が亡くなっても消えない。親の借金として相続人が法定相続分に応じて引き継ぐのが原則なので、他の相続人に各自の負担分を請求できる。ただし、貸した本人が相続人なら自分の負担分は消え、贈与や仕送りではなく「貸した」と示す資料と、時効の確認が必要になる。

実務では、相続人全員で遺産分割協議を行う際に、遺産から返済を受ける形で精算することが多い。この記事では、請求できる金額の計算、借用書がない場合の証拠、時効、協議書の文例を順に確認する。最後に、親が兄弟に貸していた逆の場合も短く扱う。

貸したお金は、相続人が分けて引き継ぐ

子が親に貸したお金は、法律上は親の借金(金銭消費貸借による返還債務、民法587条)だ。相続人は、亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐ(民法896条)。親の預金や不動産だけでなく、この借金も相続の対象になる。

共同相続人は、相続分に応じて権利義務を引き継ぐ(民法899条)。金銭の借金のように分けられる債務は、遺産分割を待たずに、各相続人が法定相続分に応じて負担すると考えるのが一般的な扱いだ。

貸した子自身も相続人である場合、自分が引き継ぐ部分は「貸主」と「借主」が同じ人になる。債権と債務が同じ人に帰属すると、その債権は消滅する(民法520条、混同)。そのため、請求できるのは他の相続人の負担分だけになる。

例:父に600万円を貸していた長男がいて、相続人は母・長男・長女の3人とする。法定相続分は母2分の1、長男と長女が各4分の1なので、母に300万円、長女に150万円を請求でき、長男の150万円分は混同で消える。

親への貸付600万円は、相続でこう分かれる(例)
母(法定相続分2分の1)

300万円の返済義務を引き継ぐ。長男は母へ請求できる。

長女(法定相続分4分の1)

150万円の返済義務を引き継ぐ。長男は長女へ請求できる。

長男=貸した本人(4分の1)

150万円分は、貸主と借主が同じ人になり消滅する(民法520条)。

実際には、遺産の中から600万円を先に長男へ返し、残りを分ける方法で精算することも多い。それには相続人全員の合意が必要だ。

遺言で相続分が指定されていても、貸した側は、法定相続分に応じて各相続人に請求できる(民法902条の2)。貸した側が、指定された相続分に応じた承継を承認したときはこの限りでない。

「遺言で長女が全部もらったから、長女に全額」と決めつけず、どちらで請求するかを確認する。

借用書がないときは、貸した証拠を集める

借用書がなくても、口約束で消費貸借が成立していれば請求できる。ただし、他の相続人が「あれは援助だった」「仕送りだった」と言えば、貸したことを示す側が資料で説明しなければならない。

親子間のお金のやり取りは、贈与(民法549条)や扶養と区別がつきにくい。返す約束があったことを示す資料が大切になる。

特に、生活費や医療費の仕送りは、返済の約束が見えないと貸付とは見られにくい。毎月の定額送金や「生活の足しに」という連絡は、援助と受け取られやすい。

反対に、まとまった金額を一度に渡し、使い道と返し方を話していた場合は、貸付だと説明しやすくなる。

資料 貸付を示す力 確認する点
借用書・念書・メモ 強い 金額、日付、親の署名、返済の約束
振込記録・通帳 お金が渡った事実 送金日と金額。これだけでは贈与と区別できない
LINE・メール・手紙 返済の約束を補う 「返す」「立て替えてもらった」等の言葉
親からの返済記録 強い 一部返済の入金。時効の更新にも関係する
使い道の資料 経緯を補う 入院費・リフォーム等の請求書と送金の対応
家族の認識 補助的 他の兄弟が貸付を知っていたか

親が一部でも返していた記録は、貸付だったことの有力な裏付けになる。親の通帳を相続手続きで確認できる場合は、自分への振込がないかも見ておく。

どの資料も一つだけで決め手になるとは限らない。複数を組み合わせ、いつ・いくら・何のために渡したかを一覧にしておく。

時効と請求先を確認する

親が亡くなっても、貸金の時効が止まるわけではない。2020年4月1日以降に生じた債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年で時効により消滅する(民法166条1項)。

2020年3月31日以前に貸したお金は、改正前の民法の期間が適用される(平成29年改正法附則10条4項)。家族間の貸付なら、原則として権利を行使できる時から10年と考えることが多いが、貸した時期と事情で確かめる。

返済期限を決めていない貸付では、貸主は相当の期間を定めて返還を求めることができる(民法591条1項)。ただし時効は、返還を求めた時からではなく、貸した後に相当の期間が過ぎた時から進むとした裁判例がある(長くても1か月程度とした例もある)。昔の貸付ほど、早めに専門家へ確認したほうがよい。

親が生前に一部を返していた、または「借りている」と認めていた場合は、権利の承認として時効が新たに進み始める(民法152条1項)。

時効が迫っているなら、内容証明郵便による催告(6か月の完成猶予、民法150条)や、調停・訴訟の手続を検討する。

請求先は、相続を承認した相続人だ。相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったとみなされる(民法939条)。兄弟の一人が放棄すれば、その人には請求できず、残る相続人の負担割合が変わる。子の全員が放棄すれば、次の順位の相続人(親の親や兄弟姉妹)が相続人になる。

貸した本人が相続放棄した場合は、相続人ではなくなるので混同は起きず、全額を他の相続人へ請求する立場になる。相続人が誰もいなくなれば、家庭裁判所が選任する相続財産清算人に申し出る(民法951条、952条、957条)。

限定承認がされた場合は、相続人が親に対して持っていた権利は消滅しなかったものとみなされる(民法925条)。放棄後の手続の流れは相続放棄後の手続きも参考になる。

遺産分割協議で精算する方法と文例

借金は相続分に応じて当然に分かれるため、遺産分割で分ける財産そのものではない。それでも、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議の中で「遺産から貸主の子へ返す」「貸主の子の取得分を増やす」と決めて精算できる。

相続人が個別に自分の財布から払うより、遺産の預金から返すほうが話がまとまりやすいことが多い。

精算する場合は、協議書に「貸付金があったこと」「金額」「どの財産から返すか」「これで清算済みとすること」を書いておく。後で「あれは遺産の前渡しだった」と蒸し返されることを防ぐためだ。

文例(遺産分割協議書に入れる条項の例):

「第○条 相続人全員は、被相続人が相続人甲に対し、令和○年○月○日に借り受けた金600万円の返還債務を相続開始時に負っていたことを確認する。
2 相続人全員は、被相続人名義の○○銀行○○支店の普通預金から、相続人甲が前項の金600万円を先に受け取り、残額を第○条のとおり分けることに合意する。
3 相続人全員は、前項の支払により第1項の債務が全額清算されたことを確認し、今後この債務について互いに請求しない。」

文例は、遺産の構成や相続税の申告の有無で書き方が変わる。協議書全体の作り方は、遺産分割協議書の書き方で確認できる。

精算前に確認する項目は、次のとおりだ。

  • 貸した金額・日付・回数を一覧にしたか
  • 振込記録やメッセージなど、返す約束の資料をそろえたか
  • 親からの一部返済があれば、差し引いた残額にしたか
  • 2020年4月前の貸付か後の貸付かを分け、時効を確認したか
  • 相続放棄した人がいないか、相続人の範囲を戸籍で確認したか
  • 遺産から返すのか、各相続人が払うのかを決めたか
  • 相続税の申告で債務として扱うかを税理士と確認したか

相続税の申告が必要な場合、親の借金で確実と認められるものは、債務を負担する相続人の取得財産から差し引ける(相続税法13条、14条)。子からの借入れも債務にあたりうるが、贈与との区別が問われやすく、借入れの事実と金額を示す資料が求められる。

範囲の詳細は相続税の債務控除|借入金・保証債務・未払税・葬式費用の範囲で確認し、具体的な計上方法は税理士や税務署に確かめる。

関連する手続は、遺産分割の方法と進め方|協議・調停・審判と財産の分け方からも確認できる。

逆向き:親が兄弟に貸していた場合

親が子(兄弟の一人)にお金を貸していた場合は、立場が逆になる。親が持っていた「返してもらう権利」(貸付金債権)が遺産になり、相続人が引き継ぐ。借りていた兄弟も相続人なら、その人の相続分にあたる部分は混同で消える。

金銭の貸付金債権も、相続分に応じて分かれると考えるのが従来の扱いだ。実務では、相続人全員の合意で遺産分割の対象に含め、「借りた兄弟の取得分から差し引く」形で精算することが多い。

相続税の計算では、貸付金債権は原則として元本と既経過利息の合計で評価され、回収が不可能または著しく困難な部分は除かれる(財産評価基本通達204、205)。

争いになりやすいのは、そのお金が「貸付」か「贈与」かだ。贈与なら遺産には残らず、婚姻や生計の資本としての贈与であれば特別受益(民法903条)として相続分の計算で考慮する問題になる。

なお、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益の主張ができなくなる(民法904条の3)。

区別 貸付だった場合 贈与だった場合
遺産になるか 貸付金債権が遺産になる 遺産には残らない
扱い 借りた兄弟は他の相続人の相続分を返す 生計の資本等なら特別受益として計算に含める
判断の資料 借用書、返済記録、返す約束の連絡 送金の目的、親の意思、他の兄弟への援助との比較
期限の注意 貸金の消滅時効 相続開始から10年の制限(民法904条の3)

贈与かどうかの資料の集め方は、特別受益の証明に必要な資料|送金・贈与・返済を分けて調べるで詳しく確認できる。

よくある質問

親にお金を貸した場合、相続はどうなるか

貸したお金は親の借金として、相続人が法定相続分に応じて引き継ぐのが原則だ。貸した本人が相続人なら自分の負担分は混同で消え、他の相続人の負担分を請求できる。

借用書がなくても返してもらえるか

口約束でも貸付は成立しうる。ただし、振込記録、返す約束のメッセージ、親からの一部返済の記録などで、贈与や仕送りではなく貸付だったことを示す必要がある。

兄弟が親から借りたお金を返さない場合はどうするか

親の貸付金債権は遺産になり、他の相続人は自分の相続分に応じて返還を求められる。実務では、遺産分割協議で借りた兄弟の取得分から差し引いて精算することが多い。

確認に使える資料

2026年10月31日時点の一般的な説明である。例の金額は説明用。具体的な判断は資料と事情を確認して行う。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ