- 死亡時に存在した被相続人の債務か
- 支払義務と金額が確実といえるか
- 控除できる人が実際に負担するか
- 債務と葬式費用を分ける
- 残高証明・請求書・納税通知等を申告書と照合する
相続税の債務控除は、単に「死亡後に支払ったお金」を財産総額から引く制度ではありません。被相続人の死亡時に現に存在し、確実と認められる債務か、または相続税法上控除できる葬式費用かを項目別に判定します。
根拠は相続税法13条・14条です。現在の基本的な範囲は国税庁No.4126で確認できます。
債務は「死亡時に存在」「被相続人の債務」「確実」を確認する
住宅・事業・カード等の借入金、買掛金、未払医療費、未払家賃、預り敷金などは候補になります。ただし契約名義、資金の使途、死亡時残高、返済状況、相続人との内部負担を資料で確認します。請求書が後日届いたことだけで被相続人の債務と決まるわけではありません。
金額が未確定でも、債務の存在が確実なら相続開始時の現況で確実と認められる範囲を見積もる取扱いがあります。反対に、家族間で形式だけ作った債務、履行予定がないもの、被相続人以外の債務は控除できません。
未払税金は税目と原因を分ける
被相続人に課される所得税、住民税、固定資産税等は、死亡時点で金額が確定していないものでも、死亡後に相続人等が納付・徴収される一定の税額を控除できる場合があります。準確定申告で納付となる所得税も資料を対応させます。
一方、相続人自身の責任で生じた延滞税・加算税、相続税そのもの、相続税申告の税理士報酬等を、被相続人の債務として混ぜません。納税通知書の対象年度、納税義務者、納期限、既納付額を確認します。
葬式費用は債務とは別枠で判定する
国税庁No.4129は、火葬・埋葬・納骨、遺体・遺骨の回送、通常葬式に欠かせない通夜等、読経料等を控除対象の例として挙げています。
香典返し、墓地・墓石の購入・賃借、初七日等の法事費用は葬式費用に含まれません。葬儀社の一括請求は、式費用、飲食、返礼、法事、墓地関係を明細で分けます。領収書がない寺院等への支払は、支払日・相手・目的・金額を記録します。
保証債務は原則控除せず、例外要件を確認する
保証債務は、主債務者が支払えば保証人が履行せず、履行しても主債務者への求償権があるため、通常は確実な債務として控除しません。例外は、相続開始時に主債務者が弁済不能で保証人が履行しなければならず、かつ求償しても返還を受ける見込みがない場合です。
LegalScapeで確認した国税不服審判所平成8年12月11日裁決も、会社が債務超過でも返済を続け、事業継続・追加融資等があった事案で保証債務の控除を認めませんでした。公開裁決が示すとおり、「将来返済できなくなる可能性が高い」「保証契約がある」だけでは足りません。
連帯債務と保証債務を混同しない
被相続人自身が連帯債務者なら、内部の負担部分を確認します。合意があればその内容、なければ資金を誰が利用し利益を受けたか等から被相続人の負担部分を検討します。債権者に対する外部責任の全額と、相続税で控除する内部負担額は一致しない場合があります。
担保提供だけをした物上保証では、担保権実行の可能性と求償権を確認します。登記簿に抵当権があるだけで土地評価額相当を全額債務控除することはできません。
非課税財産に対応する債務は控除しない
被相続人が生前に墓地・墓石・仏壇等の非課税財産を購入し、代金が未払でも、その未払代金は原則として控除できません。プラス財産側で非課税とし、マイナス側でも控除すると二重に課税価格を減らすためです。
事業用借入金、賃貸用不動産の敷金、保険契約者貸付等は、対応する財産・権利の評価と対にして確認します。財産だけまたは債務だけを計上しないよう一覧表で照合します。
誰が債務・葬式費用を控除するか
債務控除は、一定の相続人・包括受遺者等が実際に負担する債務・葬式費用を、その人の取得財産の価額から控除する仕組みです。相続人全体の債務合計を好きな一人へ寄せる計算ではありません。
相続放棄者は原則として相続人としての債務控除を使いません。ただし相続税基本通達13-1は、放棄者が遺贈で財産を取得し、現実に葬式費用を負担した一定の場合に、その財産価額から控除する取扱いを示しています。「放棄者はどの費用も一切控除不能」と一律に書かず、取得原因と実負担を確認します。
相続放棄との選択を税額だけで決めない
債務控除は相続税の課税価格を減らす制度であり、借金自体を消す制度ではありません。プラス財産より債務が多い可能性があるときは、原則3か月の熟慮期間内に、相続放棄・限定承認・単純承認を比較します。
借金調査と期限は相続放棄と借金を確認してください。相続税がゼロでも民事上の返済負担が残る場合があり、反対に控除対象外の保証債務でも民事上承継する可能性があります。
申告前の資料一覧
- 金融機関の死亡日現在残高証明・返済予定表
- 契約書、請求書、領収書、口座明細
- 固定資産税・住民税等の納税通知書
- 準確定申告書と納付・還付計算
- 葬儀社明細、火葬・搬送・寺院等の支払記録
- 保証契約、主債務者の決算・返済・倒産手続資料
- 共同債務者間の合意と資金使途
申告書第13表の負担者、債権者、債務種類、金額、必要経費算入との重複を確認します。自分で申告する場合の全体工程は相続税申告を自分で行う手順も参照してください。
死亡後に判明した債務
申告後に死亡時点の確実な債務が判明し、課税価格・税額が減る場合は、更正の請求の可否と期限を確認します。反対に、控除した債務が存在しなかった、求償可能だった等が分かり税額が増える場合は修正申告を検討します。
後から支払ったという一事で処理せず、死亡時の存在・確実性と、申告時に分からなかった経緯を資料化します。
団体信用生命保険・保険契約者貸付を確認する
住宅ローンに団体信用生命保険が付いており死亡により残債が弁済される場合、死亡時残高をそのまま債務控除するのではなく、保険による弁済と金融機関の確定残高を確認します。保険会社の手続中という理由で二重に計上しません。
生命保険の契約者貸付は、死亡保険金等の支払時に差し引かれることがあります。保険金の相続税評価と貸付残高を別々に重複控除せず、保険会社の支払計算書で処理を確認します。
本記事は一般的な相続税制度の説明です。債務の成立、負担者、求償、相続人の住所・国籍、申告状況により結論が変わります。契約・残高・支払資料を基に国税庁の最新情報と税理士等の確認を併用してください。



