遺産分割が長引く時は、気持ちと過去の負担、参加者と代理、財産と分け方の三つに分けて調べよう。整理すれば必ず解決するという意味ではない。次に何を確かめるかを決めるための見方だ。
架空の家族で考えよう。父が亡くなって半年。長男の直哉は、母の玲子と妹の加奈に、そろそろ遺産を分けようと連絡した。
加奈は、父が兄に渡した住宅資金を確かめたい。母は財産一覧の説明をもう一度聞きたい。直哉は、父を介護した負担も分かってほしいと思っていた。
誰か一人が反対しているように見えても、確かめたい事実や、必要な支援が違う場合がある。直哉たちは、同じ話を繰り返す前に、未確認のことを並べ直すことにした。
加奈は、兄への住宅資金を知りたい。直哉は、父の介護の負担を分かってほしい。
渡したお金と貢献の資料を分け、取り分を調整できるか調べる。
玲子は、財産一覧の説明をもう一度聞きたい。
説明の不足と、判断能力の問題を分ける。必要な支援と、代理できる人の権限を確かめる。
家を誰が受け取り、ほかの人への支払いをどうするか。
同じ時点の評価額で比べ、現金を用意できるかも調べる。
三つに分ければ必ず解決する、という診断ではない。未確認の項目と、次に調べる担当・期限を決めるための整理だ。
全員の合意と、別に進める手続
遺産分割協議には、相続人全員の有効な合意が必要だ。
声の大きな人や連絡役だけで、ほかの人の権利を変えられないようにするためである。多数決で一人を外すことはできない。
全員が同じ場所に集まる必要はない。資料を郵送し、電話等で意見を聞く方法もある。
遺言の有無と内容によって、話し合いで分ける財産の範囲が違う場合もあるため、先に確かめよう。
合意を待つ間も、家の管理費、税の申告、登記等の対応は必要になる。
話し合いができない、まとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判で分ける方法もある。調停は、調停委員を交えて話し合う手続だ。協議が長いだけで、自動的に一人の希望どおりになるわけではない。
10か月以内に分けなければ、話し合いが無効になるという決まりではない。10か月は、主に相続税の期限だ。
ただし、いつまでも同じ条件で分けられるとは考えない。後で説明する10年経過後のルールや、ほかの期限も確かめよう。
過去の贈与と、介護等の貢献を確かめる
直哉は「自分が父の介護をしていた」と話し、加奈は「兄には家を買うお金を出していた」と答えた。どちらも本人には切実な記憶だが、そのまま金額へ置き換えられるわけではない。
介護や事業への協力で、故人の財産を守る・増やす特別な貢献をした相続人には、取り分に上乗せする「寄与分」が問題になる。
同居や介護の年数だけで、自動的に一定額を足す制度ではない。内容、頻度、必要性、外部サービスとの分担、報酬や費用の負担等を確かめる。
一部の相続人への遺贈や、結婚・養子縁組のため、生活の基盤となる財産としての贈与等を、取り分の計算で考慮するのが「特別受益」だ。
住宅資金が問題になる場合はあるが、日常の扶養や全ての学費が、自動的に当てはまるわけではない。
贈った目的、額、親の経済状況も調べる。故人に、その贈与を取り分の計算へ戻さない「持戻し免除」の意思があったかも検討する。
加奈は、「兄だけ得をした」で終えず、住宅資金がいつ、どの口座から、いくら、何のために渡ったかを確かめることにした。
直哉も、通院の送迎、介護、立替えの期間と資料を整理する。感謝や不満の話と、法律上の取り分の計算を分けると、必要な資料が見えてくる。
葬儀費用や相続後の管理費を、全て自動的に遺産から先に引けるとは限らない。
誰が契約し、誰が負担すると合意したか、財産を守るために必要な費用かを確かめる。葬儀費、父の生前の借金等、相続後の立替えを、一つの合計へ混ぜない。
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本人への説明・支援と、代理の権限
玲子は、家の査定と税の評価の違いが分からず、返事を待ってもらっていた。直哉は、母にはもう難しいのではと思った。
しかし、説明が足りないことと、内容と結果を理解して決める「意思能力」がないことは別だ。病名や年齢だけで、家族が代わりに決めない。
意思能力がない状態でした法律行為は、無効になる。
判断能力の程度により、後見・保佐・補助等の支援を検討し、誰が何を代理し、どんな行為に同意できるかを調べる。任意後見契約があっても、監督人の選任等で効力が生じているか、対象の行為が権限に含まれるかを確かめよう。
後見人自身も相続人なら、本人との取り分が対立する「利益相反」への対応が必要になる。
成年後見監督人が職務として対応する場合があり、監督人がいなければ、特別代理人の選任等を検討する。
親と未成年の子が一緒に相続する場合も、親が両方の取り分を一人で決めないよう、特別代理人等の手続を確かめる。
住所が分かるのに返事がない人と、所在そのものが分からない人は分ける。
返答がないだけで、直ちに不在者財産管理人や失踪宣告を使えるわけではない。不在者のために分割するなら、管理人の選任に加え、具体的な分割案の権限外行為許可等も調べる。
海外に住む相続人がいるだけで、話し合いができなくなるわけではない。
連絡方法、本人の意思の確かめ方、登記や銀行に出す署名・住所の証明等を、提出先へ確認する。手続の負担を減らすために、本人の権利を省くことはできない。
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財産の評価と、払える現金をそろえる
家を4,000万円、預金を2,000万円と合意し、ほかの財産や借金、特別受益・寄与分等の調整はないと仮定する。
相続人が妻の玲子と子二人なら、法律で決められた相続の割合による目安は、玲子3,000万円、直哉と加奈が各1,500万円だ。実際には、遺言、個別の事情と、全員の合意を確かめて決める。
玲子が4,000万円の家を受け取り、子二人が預金を1,000万円ずつ受け取る案を考えよう。
同じ目安にそろえるなら、玲子から子二人へ各500万円、計1,000万円を払う必要がある。家に価値があっても、玲子に払える現金があるとは限らない。住み続ける希望と、お金を用意できるかを一緒に考えよう。
財産をそのまま割り振る「現物分割」、一人が財産を受け取り、ほかの人に調整のお金を払う「代償分割」、売って代金を分ける「換価分割」、共有等を比べる。
土地を分けて登記する分筆が可能な場合もあり、不動産は必ず三択というわけではない。売るなら費用・税・引渡し、共有するなら管理と将来の処分も確かめる。
固定資産税評価額、相続税評価額、売却の査定額は、目的が違う。
分割する財産の評価は原則、分割時が基準だ。一方、特別受益や寄与分を反映した取り分や、税金の計算では、別の時点の価格が関わる。
直哉たちは、どの日付の、何のための価格かをそろえて、分割案を比べることにした。
財産が隠されている疑いは、残高証明、取引履歴、登記、証券会社の資料等で確かめる。
取引履歴を見せてもらうことと、預金を払い戻すことは別だ。民法909条の2による一定額の単独払戻しは、分割前に必要なお金を用意する制度で、隠れた財産を探す制度ではない。
上限と銀行の書類を確認する。払戻額は、遺産の一部を分割して取得したものと扱われる点にも注意しよう。
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確認する担当と、別に守る期限を決める
まず、相続人、遺言、財産・借金等の一覧を共有し、資料の出所と日付を付ける。分からないものはゼロにせず、未確認と書き、担当と調べ方を決めよう。
次に、希望する案と代わりの案について、評価額、受け取る人、金額、支払日、実行の条件を整理する。
相続税の申告が必要なら、原則、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納税する。
未分割でも、法定相続分等で取得したものとして税額を計算する。仮の手続だから、納税を後回しにできるわけではない。
未分割の財産には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を、そのまま使うことはできない。
分割見込書の提出、申告期限から原則3年以内の分割、分割後に税額を直す手続等を調べる。税額が増えるか減るかで、修正申告か更正の請求かも違う。
やむを得ない事情についての承認や、その期限もある。税理士と、分割とは別に管理しよう。
相続放棄は原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内だ。遺留分侵害額の請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年、死亡から10年の制限がある。
相続登記は、自分のための相続の開始と、不動産の取得を知った日から原則3年以内に申請する。2024年4月の義務化前から取得を知っていた未登記の相続は、原則2027年3月31日までの対応を検討する。
相続人申告登記で対応できる当初の義務と、分割成立後の登記義務は分けて調べよう。
死亡から10年を経過した後の分割では、原則、特別受益と寄与分を考慮しないルールもある。
10年が過ぎる前に家庭裁判所へ分割を請求した場合や、満了前6か月以内に請求できないやむを得ない理由があり、その理由がなくなってから6か月以内に請求した場合等は、例外を調べる。相続人全員が合意する場合も別に確かめる。
2023年4月1日前の相続は、死亡から10年経過する時と2028年3月31日の、遅い方までに請求する経過措置を確認する。
直哉たちは、父の援助、介護記録、家の評価、母への説明、税の期限を、別々の欄にした。
次は資料を確かめ、それでも折り合えなければ調停を相談する。長引かせないために必要なのは、誰かを急いで署名させることではない。決まらない理由に合う作業と、期限を決めることだ。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
協議は10か月以内に終える必要があるか
10か月は主に相続税の期限で、協議が自動的に無効になる期限ではない。未分割の申告・納税、登記、遺留分、10年経過後のルール等を別に確認する。
認知症の診断があれば家族が代わりに決められるか
病名だけで代理権は生まれない。意思能力と支援の必要性を確認し、後見等を検討する場合も権限と利益相反を確かめる。
未分割なら相続税は仮申告だけでよいか
期限内の申告・納税が必要だ。分割後に税額の増減と特例の条件を確認し、修正申告や更正の請求等を行う。
家族へ放棄すると伝えれば借金も相続しないか
家庭裁判所への申述による相続放棄と、協議で財産を取得しない合意は違う。合意だけで債権者への責任が消えるとは限らない。
協議中でも登記の対応が必要か
協議中だけで義務の期限は止まらない。相続人申告登記等で当初の義務に対応できる場合があるが、権利の公示や分割後の登記義務は別に確認する。
本記事は一般的な説明である。相続人、遺言、財産・債務、能力と代理、期限を資料で確認し、個別に判断する必要がある。



