音信不通の兄弟がいる相続では、戸籍・附票で住所を調べ、連絡の結果を残す。住所は分かるが返事がない場合と、調査しても所在が分からない場合では、次の手続が違う。兄弟を外して協議を済ませることはできないが、探している間にできる準備はある。
ここからは、姉の直子と弟の健一をめぐる架空の家族を通して、その順番を考える。実際の相談を紹介したものではない。
父の四十九日が終わった日、直子は実家の食卓に、銀行から届いた封筒を並べた。母は既に亡くなっている。父の入退院に付き添っていた直子には、まだ捨てられない診察券も、返し忘れた病院の洗濯袋もあった。
銀行の相続手続の案内を読んで、手が止まる。必要なのは、何年も話していない弟の協力だった。
最後に健一と会ったのは、父を施設へ移すかどうかで言い合ったときだ。「仕事を休めない」と言う弟に、直子は「私は休んでいるけど」と返した。それから電話は短くなり、やがて、かからなくなった。
葬儀の連絡は、昔の携帯番号にも、最後に聞いていた住所にも届かなかった。直子は、今度も無視されたのだと思っていた。けれど、戻ってきた封筒に書かれていたのは「転居先不明」だった。
怒る相手がどこにいるかさえ、直子は知らなかった。父の世話をしてきた自分が、なぜ今から弟を探すのか。その気持ちは残る。それでも、銀行に出す紙に、健一の名前だけを書かないことはできない。
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不在者に当たるかは具体的な事情で判断される。管理人が遺産分割をするには家庭裁判所の権限外行為許可が必要。住所調査中も、放棄・税務などの期限は自動で止まらない。
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- 1 戸籍で相続人と本籍を確認
まず相続人の範囲を確かめる。住所の手掛かりとなる戸籍の附票は、請求できる立場・目的・必要書類を本籍地の市区町村へ確認する。
- 2 住所の手掛かりと連絡の結果を残す
手紙が届いたか、返送されたか、いつ何を伝えたかを整理する。返事がないだけで相続放棄や同意と扱わない。
- 3 状況に合う手続を選ぶ
住所が分かるが話合いが進まない場合は調停等を検討する。調査しても所在が分からない場合は、不在者財産管理人の選任等を検討する。
兄弟を探す前に、その相続の当事者を確かめる
親の相続で兄弟姉妹が共同相続人(同じ人の遺産を一緒に相続する人たち)になる場合と、亡くなった兄弟姉妹の相続人を探す場合では、戸籍で確認する範囲が違う。まず、誰が亡くなり、誰が相続人なのかを確定する。遺言や相続放棄の有無も確認したい。
父の財産について、弟にも相続人としての権利がある。もし「返事をしない人は、残った人が外してよい」としたら、知らない間に自分の取り分まで決められてしまう。全員の合意を確かめるのは、手続を面倒にするためだけではなく、一人の財産の権利を、ほかの人が勝手に失わせないためでもある。
必要な共同相続人を外して遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)を成立させることはできない。「昔、財産はいらないと言っていた」「ずっと親の面倒を見ていない」という事情だけでは、その人を外す理由にならない。
一方、すべての相続手続で必ず全員の同じ署名が必要なわけでもない。有効な遺言に基づく手続など、協議とは別の方法が使える場合がある。銀行や登記の手続を一括して「兄弟が見つからなければ何もできない」と決めず、遺言の内容と必要な手続を確認する。
直子は初め、父の戸籍を一通取れば弟の住所も分かると思っていた。窓口で、戸籍と住所の履歴は別の資料だと知る。取り寄せた紙を読み直すと、健一が結婚した時期や、その後に本籍を移した記載があった。自分が知らない間にも、弟の生活は続いていた。
ただ、「弟だから全部取れるはず」と押し切ることはできない。直子が説明すべきなのは家族への不満ではなく、父の相続で何を進めるために、誰の住所を確認する必要があるのか、ということだった。
音信不通の兄弟姉妹の住所を調べる順番
1.戸籍をたどり、現在の本籍を確認する
手元にある親の戸籍だけでは、兄弟姉妹の現在の本籍まで分からないことがある。婚姻や転籍などの記載を手がかりに、必要な戸籍を順にたどる。現在の戸籍に記載がなければ、除籍や改製原戸籍が必要になる場合もある。
戸籍の住所欄を探しても、現住所が書かれているわけではない。住所の履歴を確認する資料が戸籍の附票だ。本籍地の市区町村で管理され、その戸籍が作られてからの住所の履歴が記録される。
2.附票の請求理由と、相続関係の資料をそろえる
兄弟姉妹というだけで、別戸籍の相手の附票を本人等請求として自由に取得できるわけではない。同じ戸籍に書かれている場合と、別の戸籍に移っている場合を区別する必要がある。
遺産を分ける話し合いのために、ほかの相続人の住所が必要になることがある。その場合は、本人以外が資料を求める「第三者請求」が使えるかを確認する。
市区町村には、「父の相続で、ほかの相続人と分け方を話し合うために住所を知りたい」など、使う目的を具体的に伝える。本人確認書類のほかに、家族関係や住所を調べる必要があることを示す戸籍などが求められる場合もある。
請求先の市区町村へ、必要資料と請求方法を確認してから送付する方が手戻りを減らせる。横浜市の案内でも、第三者請求では利用目的を明らかにし、正当な理由を確認できる資料を求めることがあるとしている。
戸籍の広域交付が始まったからといって、別戸籍の兄弟姉妹や附票まで最寄りの窓口で自由に取れるわけではない。広域交付の対象・請求資格と、附票の請求は分けて確認する。
3.住所が分かったら、届いたかどうかを記録する
附票にある住所が、必ず現在の生活場所と一致するとは限らない。相続の用件を記した手紙を送り、発送日、送付先、配達や返戻の状況を保存する。
古い附票が既に廃棄されているなど、書類だけではつながらない場合もある。そこで調査を断念したり、取得できない理由を推測したりせず、市区町村へ保存状況や次に確認できる資料を尋ねる。弁護士へ依頼する場合も、取得済みの戸籍と止まった箇所を渡すと重複を減らせる。
最初の手紙は、署名を迫るより連絡経路を作る
附票をたどって新しい住所を確認した夜、直子は手紙を書き始めた。「父のことは全部こちらでやりました。あとは書類に署名してください」。書いてから、ペンを置いた。何も間違ったことは書いていないつもりだった。けれど、弟が受け取るのは父の最期の報告と、自分の知らない財産について署名を求める紙である。
直子には、また説明を最初からする気力がなかった。健一の側からすれば、説明を受ける最初の機会だった。このずれを放置すると、こちらが「事務連絡」のつもりで送った封筒が、相手には「もう決まったことへの同意要求」に見えてしまう。
長く会っていない相手に、いきなり印鑑証明書と実印を求めても、不安や不信感が先に立つことがある。まず、誰の相続について、何を確認したくて連絡しているのかを短く示す。
- 亡くなった人の氏名・死亡日と、差出人との関係。
- 遺言の有無や、現時点で分かっている財産・債務。
- 資料を共有して遺産分割について話したいこと。
- 返答先と、電話・手紙・代理人経由など選べる連絡方法。
- 申告等の予定がある場合は、その日程。
内容証明郵便は最初から必須ではない。送った文面等を記録する必要性、相手との関係、期限の近さで選ぶ。返答期限を書いたとしても、無回答を同意や相続放棄として扱うことはできない。
分割案を添える場合も、確定した内容として署名を迫るのではなく、資料と一緒に検討してもらう案として示す。連絡がついた時点で、相手が財産や負債を初めて知ることもある。
直子は手紙を書き直した。父の死亡日、いま分かっている口座と実家のこと、まだ確認できていない財産。分割案は決定事項ではなく案だと書き、手元の資料の写しを添えた。電話が難しければ、手紙でもメールでもよいことも伝えた。
発送記録を残した二通目は配達された。だが、一週間たっても返事はない。直子は、今度こそ無視だと思った。ここで「返事がない」と「どこにいるか分からない」を同じにすると、次に選ぶ制度まで間違えてしまう。
返事がない場合と、手紙が届かない場合を分ける
住んでいる住所が分かり、返事だけがない
協議をすることができないなら、遺産分割調停を申し立てる方法がある。家庭裁判所を通じて話合いを進め、不成立なら原則として審判(裁判官が事情や資料を調べて判断する手続き)へ移る。申立人以外の共同相続人等を適切に当事者にする必要がある。
単に気まずくて連絡しない、手紙に返事をしないというだけで、不在者財産管理人を選んでもらえるとは限らない。調停の呼出しを無視された後の流れは、調停の不成立・審判への移行で詳しく整理している。
手紙が戻り、居住実態も確認できない
返戻された封筒は捨てず、理由を確認する。「転居先不明」「あて所に尋ねあたりません」なのか、「留置期間経過」なのかで意味が異なる。後者は郵便局での保管期間が過ぎたということで、そこに住んでいない証明にはならない。
不在者財産管理人の選任を考える段階では、附票だけでなく、郵便の結果や所在調査の経緯を資料にする。大阪家庭裁判所の手引きも、親族への照会等の調査を挙げ、留置期間経過で戻った場合には現地確認を求めている。必要な調査の範囲は申立先へ確認し、対立が強い場合は代理人に相談して進めたい。
直子が知りたいのは、弟の代わりに誰かが署名してくれないか、ということだった。しかし、本人の所在が確認できるのに返事がないという事情だけでは、不在者の制度に乗せられるとは限らない。調停を含め、協議ができない状態に対応する方法を考える。
逆に、附票の住所へも届かず、必要な調査をしても居場所が分からなかったなら、話は別の対応が必要になる。下の制度は、弟の意思を省略するための近道ではない。本人が現れない間も、その人の利益を守りながら財産を扱う仕組みだ。
所在が分からない場合の不在者財産管理人
不在者は、従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みがない人をいう。生死不明が7年続くまで待つ制度ではない。本人が財産を管理する人を置いていない場合などに、共同相続人等の利害関係人が家庭裁判所へ選任を申し立てる。
管理人は本人の利益のために財産を管理する。遺産分割協議や調停を成立させるには、通常の管理権限を超えるため、家庭裁判所の許可が必要になる。分割案、遺産の範囲と評価、不在者が取得する額などを説明することになる。
たとえば遺産が預金1200万円だけで、姉弟が2分の1ずつ相続し、特別受益や寄与分(遺産を守ったり増やしたりする特別な貢献に応じて、相続の取り分に上乗せする額)などの調整事情もないとする。
弟が見つからないからといって、姉が1100万円、弟側が100万円という案を自動的に通せるわけではない。本人がここにいたら確かめるはずの権利を、本人がいなくても守る。そのために、管理人と裁判所の確認が入るのである。
したがって、「連絡がつかない兄の取り分を他の兄弟で分ける」ためには使えない。大阪家庭裁判所の手引きでは、特別受益・寄与分等の例外的な事情がなければ、少なくとも不在者の法定相続分(法律で決められた相続の割合)を確保する必要があるとしている。
費用も選任時だけで考えない方がよい。申立費用のほか、管理費用や報酬のための予納金(手続きの費用として先に納めるお金)が必要になる場合がある。同裁判所の手引きには予納金50万円程度との案内があるが、全国一律の金額ではなく、事案に応じて決まる。
遺産分割が終わっても管理が直ちに終了するとは限らないため、管理の終了方法まで確認する。
7年連絡がないだけで、死亡した扱いにはならない
普通失踪は、不在者の生死が7年間明らかでないことが条件になる。単に自分と7年間会っていないというだけでは足りない。裁判所への申立てと宣告が必要で、7年が過ぎた日に家族が自由に死亡したことにできるわけではない。
普通失踪の宣告による死亡の擬制時点は、その7年間が満了した時だ。もとの亡くなった人の死亡より前か後かによって、代襲相続や数次相続など、確認すべき相続関係が変わり得る。失踪者を除いて残りの人だけで分ければよいとは限らない。
死亡の原因となる危難に遭遇した場合の特別失踪には別の条件がある。いずれも、遺産分割を急ぐための形式的な手段として選ぶのではなく、実際の消息と資料に基づいて判断する。
兄弟を探している間にも、申告などの期限は進む
相続税の申告が必要なら、遺産が未分割でも原則として相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。兄弟が見つかるまで自動で延期されるわけではない。
未分割財産は、法定相続分等に従って取得したものとして計算する。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を後から使う可能性がある場合は、分割見込書の添付や分割後の手続を確認する。特例のための分割時期にも条件があるので、所在調査と並行して税理士へ相談したい。
相続放棄の熟慮期間や、不動産の相続登記の義務も別に進む。誰か一人が「兄弟が見つからないから全部待つ」と判断すると、自分の期限まで過ぎてしまうことがある。死亡日、相続を知った日、不動産の取得を知った日などを分けて記録しておく。
その後、健一から短いメールが来た。「父の通帳を見せてほしい。どの書類に何のために署名するのか、まだ分からない」。直子は腹が立った。こちらは病院でも役所でも、何度も説明をしてきたのに、最後に弟にまで疑われるのか。
ただ、父の世話をしてきたことと、弟が財産の内容を確かめたいことは、同じ問いへの答えではない。直子は入退院の記録や立替えた費用と、父の口座・実家の資料を別々に整理した。自分の負担をなかったことにするためではない。「何を分けるか」と「何を考慮してほしいか」を、互いに確かめられる形にするためだ。
これで仲直りしたわけではない。実家をどうするかも、まだ決まっていない。それでも、相手を探すだけだった段階から、何について意見が違うのかを確認する段階へは進んだ。相続の手続が進むことと、家族の関係が元に戻ることは、いつも同時ではない。
相談には「探した結果が分かる一式」を持っていく
弁護士へ相談するとき、住所が分からないという結論だけでなく、どこまで調べたかが分かると次の方針を決めやすい。取得した戸籍・附票、戻った封筒、最後の連絡日、親族への照会結果、遺産と債務の一覧をそろえる。裁判所の手続が始まっていれば、その書類も必要だ。
弁護士の職務上請求も、受任した事務に必要な範囲で使う制度であり、どんな目的でも住所を取得できるものではない。相続手続で何を進めるための調査なのかを明確にして依頼する。
直子は、最初に戻ってきた封筒も、書き直す前の手紙も、資料のファイルへ入れた。父の死後に起きたことを、一つずつ日付の順に並べる。何年分ものわだかまりを今日解くことはできなくても、次に確かめることは決められる。
同じところで止まっているなら、まず戻った封筒の理由と、最後に住所を確認した資料を見直してほしい。相手に求めている返事は、資料なしでも答えられる内容だろうか。住所の問題なのか、情報の不足なのか、それとも分け方への対立なのか。そこが分かると、「連絡がつかない」の次にすることが変わる。
次の手続を詳しく確認する
公的資料・根拠
- 横浜市:戸籍の附票の写しの請求
- 法務省:戸籍証明書等の広域交付
- 大阪家庭裁判所:不在者財産管理人選任の手引き
- 裁判所:遺産分割調停
- 民法:25条・28条・30条・31条等
- 国税庁:未分割の相続財産の申告
ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
兄弟の住所を戸籍だけで調べられますか
戸籍から現在の本籍をたどり、住所の履歴は戸籍の附票で確認する。請求資格や目的を示す資料が必要で、現在の居住場所と一致するとは限らない。
別戸籍の兄弟の附票を自由に取得できますか
兄弟姉妹という関係だけでは自由に取得できない。遺産分割のための権利行使等を具体的に示し、第三者請求の条件と必要資料を市区町村へ確認する。
手紙が戻ってきたら不在者と判断できますか
返戻だけで直ちには判断できない。理由や居住実態、他の調査結果を確認する。留置期間経過はそこに住んでいない証明にはならない。
不在者財産管理人を選ぶには7年待ちますか
7年待つ制度ではない。従来の住所等を去り容易に戻る見込みがないことや、財産管理人の有無等に基づいて検討する。普通失踪とは別の制度だ。
連絡が取れない間は相続税申告を待てますか
申告が必要なら未分割でも原則10か月の期限は延びない。所在調査と並行して、未分割申告や後の特例適用を確認する。
本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、亡くなった日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。



