相続対策は何から始める?財産・遺言・税金・家族の確認順序

相続対策は何から始める?財産・遺言・税金・家族の確認順序

「遺言は、もう作ってある」。そう聞いて安心したのに、久しぶりに財産の一覧を開くと、そこに書かれた土地は去年売っていた。売却代金の一部は住み替えに使い、残りは預金になっている。

では、その預金を受け取るのは誰だろう。

こんな場面を想像してほしい。書類はきちんと保管されている。作った当時は内容にも納得していた。それでも、暮らしが動けば、対策と現実の間には隙間ができる。相続対策は「作成済み」の印を集めるだけでは終わらない。

確認する順序は、今の暮らしと希望、財産・債務と家族、遺言等の内容、税額と使える現金。そして、それらが食い違っていないか。初めて考える人にも、既に準備した人にも、この突き合わせが役に立つ。

財産一覧の前に、本人がこれから使うお金を残す

子に多く残したいという希望と、自分の今後の生活費を確保することは、同時に考える必要がある。預金を贈与してしまった後で施設の入居費が必要になれば、家族全体の計画が変わる。

毎月の生活費、住まいの修繕、医療・介護、住み替えの可能性。将来の支出を一円単位で予言する必要はないが、家族に渡してよい金額と、本人の手元に置く金額を混ぜないようにしたい。

「家を長男へ」と考えているなら、同居する配偶者はその後どこで暮らすのか。「預金を次女へ」なら、その預金を介護費に使った後も同じバランスでよいのか。誰に渡すかを決める前に、誰のどの生活を守りたいのかを言葉にしておく。

財産の名前だけでなく、現在の名義と資料の日付を見る

古い一覧は、調査の出発点にはなる。しかし、それ自体が現在の財産の証明になるわけではない。

確認するもの 突き合わせる点
不動産 現在の登記名義、持分、売却済みか、借入れの担保か
預貯金・証券 口座の所在、残高の基準日、管理している人
生命保険 契約者、被保険者、保険料負担者、現在の受取人
借入れ・保証 残債、返済条件、保証の有無と対象
生前贈与 相手、時期、金額、実際の資金移動と管理

家族が「父の土地」と呼んでいても、登記が祖父のままということはある。子名義の通帳だから、当然に子の財産とも限らない。名義、所有関係、税務上の扱いを資料で確認する。

財産を探す手順は相続財産調査の進め方に整理している。存命中の確認では、本人の意思と同意を踏まえ、資料の所在を共有するところから始めたい。

家族関係も同じだ。再婚、養子縁組、認知、子の死亡などがあれば、法定相続人の範囲や相続分を確認し直す。家族の認識だけで曖昧なら、必要な戸籍等を確認する。家族図の日付が古いままでは、税の試算も遺言の検討もずれてしまう。

遺言にある土地を売ったら、売却代金も同じ人へ行くのか

冒頭の例に戻ろう。「この土地を長男に相続させる」と書いて、その土地を後に売った場合だ。

民法1023条は、遺言と後の生前処分などが抵触するとき、抵触する部分について遺言が撤回されたものとみなす。土地を売ったから遺言全体が消える、と一括りにはできない。一方で、土地の代わりに残った現金を、その指定だけで当然に同じ人が受け取れるとも限らない。

遺言全体の記載、残余財産の指定、売却後の財産構成を確認する必要がある。「土地を譲りたかった」のか、「土地相当の財産を渡したかった」のか。本人が元気なうちなら、現在の意思を確認して内容を整えられる。

遺言の方式にも注意が要る。自筆証書の余白に思いつくまま追記すればよいわけではなく、加除変更には法定の方式がある。新しい遺言を作る場合も、古い遺言との関係を明確にする。付せんを貼って「ここは変更」としても、それだけで法的な変更ができるわけではない。

受け取る予定の人が先に亡くなった場合も考えておく

財産だけでなく、人の状況も変わる。「この人が先に亡くなっていたら、次は誰へ」という予備的な指定を検討する意味がここにある。

遺贈では、受遺者が遺言者より先に死亡すると原則として効力を生じない。「相続させる」という遺言でも、その人の子へ当然に同じ内容が引き継がれると決めつけない。文言や事情に応じた確認が必要となる。

遺言執行者に頼む予定だった人が対応できなくなっていないかも確認したい。名前が書いてあることと、将来その役割を果たせることは別の問題だ。

遺言、保険、贈与を別々の箱にしまわない

遺言だけを見ると、兄弟でほぼ半分ずつに見える。ところが、一人には既に多額の住宅資金を渡していて、死亡保険金の受取人も同じ人だった。別々に準備した対策を並べて、初めて全体の偏りに気づくことがある。

ただし、これらを機械的に足して「法定相続分どおりに戻す」という話ではない。生前贈与の特別受益、遺留分、保険金の扱いには、それぞれ条件がある。

死亡保険金は一般に受取人固有の権利で、通常の遺産と同じように分割するものではない。一方で、著しい不公平を生む特段の事情があれば特別受益に準じて考慮される場合がある。税務上の扱いも、民法上の帰属と同じとは限らない。

そこで、「誰が」「どの制度で」「いくら程度を受け取る予定か」を横に並べる。そのうえで、本人の希望、遺留分侵害の可能性、家族へ説明できる理由を確認する。遺言に理由を添えることは気持ちの理解には役立っても、遺留分の請求を当然に封じるものではない。

税額の小さい案で、生活と支払いが回るか

相続税の基礎控除は、3,000万円に600万円×法定相続人の数を加えた額。養子を数える人数などには税法上のルールがある。実際の試算では、不動産等の評価、保険、生前贈与、債務控除なども確認する。

ここで欲しいのは税額だけの表ではない。分け方ごとに、残された家族の住まいと生活費、納税に使える現金も並べた表だ。

例えば、自宅を一人が取得し、ほかの相続人へ現金を支払う案。税額が抑えられても、代償金と納税資金を用意できなければ、その案は実行しにくい。保険金を資金に考えるなら、受取人が誰で、実際に誰の支払いへ使う予定なのかも確認する。

配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例には要件があり、適用して税額ゼロになる場合も申告が必要となる。将来の二次相続まで試算する場合も、寿命や資産価格を確定事項のように扱わず、複数の条件で確認する。

本人が暮らすためのお金を削り、家族が支払えない案を作ってまで、目先の税額だけを下げる必要はない。

住宅資金の贈与は、送金する前に確認する

子が家を買うと聞けば、援助したい気持ちが先に立つ。しかし、住宅取得等資金の非課税は、家に関係する支出なら何でも対象という制度ではない。既に借りた住宅ローンの返済資金は、この特例の対象にならない。

対象期間、贈与する人と受ける人の関係、年齢・所得、住宅の床面積や性能、資金の使い道、取得・居住の時期、申告を確認する。2026年の制度を使うなら、資金移動前に住宅取得等資金の贈与税非課税の条件を確認し、個別の適用を税理士へ相談したい。

見直しの合図は、家族と財産が動いたとき

毎年必ず遺言を書き直す必要はない。ただ、土地の売買、住み替え、多額の贈与、保険の変更、家族の死亡や婚姻・離婚、介護費の増加があったら、関係する書類を一緒に開く。

直すものを決めたら、更新日と保管場所も整理する。家族に全文を渡すかは本人の意向によるが、必要なときに遺言や連絡先へたどり着ける準備はしておきたい。暗証番号や認証情報を誰にでも見える一覧へ並べることとは分けて考える。

まだ何も準備していないなら、相続対策の最初の確認項目から始められる。方法の全体像は相続対策の4本柱にもまとめている。

相談には、完成した答えより食い違いを持っていく

弁護士や税理士に相談するとき、家族で結論を決めておく必要はない。財産・債務の一覧、既存の遺言、保険の内容、家族関係、本人の希望を用意し、「ここが今と違う」「この支払いができるか分からない」と示せば、確認すべき問題が見えやすくなる。

遺言の解釈や家族間の調整、税額の試算、登記など、必要な専門家や依頼範囲もそこで整理する。書類を一つ作ってもらう費用だけでなく、関連する案をどこまで照合する依頼なのかを確認したい。

引き出しの遺言は、過去の自分が考えた答えだ。今の財産と家族に、まだ合っているだろうか。まずは日付の違う書類を、同じ机に広げるところから始めよう。

公的資料・根拠

よくある質問

相続対策は節税から始めますか

本人の今後の生活と希望、財産・債務、家族関係を整理し、遺言等と税額・支払資金を突き合わせる。

遺言に書いた土地を売ると遺言全体が無効ですか

全体が当然に無効になるわけではない。後の処分と抵触する部分の撤回や残余財産の指定など、遺言全体を確認する。

受け取る予定の人が先に死亡したらその子が受け取りますか

当然に同じ内容を引き継ぐとは限らない。遺贈や相続させる遺言の内容を確認し、予備的な指定を検討する。

住宅ローンの返済資金に住宅取得等資金の非課税を使えますか

既に借りた住宅ローンの返済資金はこの特例の対象にならない。資金移動前に使途と適用条件を確認する。

本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、相続開始日、本人の状況、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律と税務を分けずに確認

相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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