不動産の相続対策は、誰が受け取るかと、住み方、評価、必要なお金、税、管理を一緒に考える準備だ。生前の本人の生活費を残すことも、出発点になる。
以下の健造・亮太・佳奈は架空の家族だ。健造の妻はすでに亡く、将来の相続人は子二人だけと仮定する。
父の健造は、同居する息子の亮太へ実家を残したいと考えている。娘の佳奈は家に住む予定がなく、自分に何が残るのか知りたい。亮太も「家をもらえば安心」と思っていたが、妹への支払と毎年の修繕費まで考えると迷い始めた。
最初に確認するのは、誰のどの権利を残すか
土地と建物は、同じ人のものとは限らない。登記事項証明書、固定資産税の課税明細、権利関係の契約書を並べよう。
所在地、地番、家屋番号、所有者、持分、抵当権等を確認する。健造のきょうだいとの共有なら、健造の遺言で動かせるのは、原則として本人の持分だ。
境界や道路との接し方、土地や家の貸し借り、隣地へのはみ出し、未登記の建物、住宅ローンや保証も調べよう。
課税明細は調査の手掛かりになるが、それだけで所有関係や売れる価格がすべて確定するわけではない。現地の使われ方と登記・契約が違うと、売却や取得後の利用に支障が出る。
亮太は「実家全部が父のもの」という前提から確認し直した。佳奈は、兄の居住を否定するためではなく、何を分けられるかを共有するために資料を見たいと伝える。準備する資料は相続手続に必要な書類も参照してほしい。
家の価額と、支払に使える現金を分ける
不動産には、売れる見込額、分割で合意する価額、固定資産税評価額、相続税評価額等がある。
目的と時点が違う数字を、そのまま一つの表へ足さないようにしよう。売却査定は根拠と条件を比べ、評価に争いがあれば、追加資料や鑑定が必要かを考える。
将来の相続時に、家と預金だけがある例を考えよう。分割に使う家の価額は3,000万円、預金は1,000万円。借金、遺言、特別受益・寄与分等の調整はないものとする。
合計4,000万円を等しく分けるなら、子二人の目標は各2,000万円だ。ただし、3,000万円の家を受け取ることと、現金3,000万円を受け取ることは同じではない。
亮太が家を、佳奈が預金1,000万円を取るだけでは、均等にならない。亮太から佳奈へ1,000万円を払うと、二人とも差引き2,000万円になる。
ただし、亮太には支払資金が必要だ。自分の生活費、税、修理費を引いた後も払えるか確かめよう。これは仮の分割計算で、相続税額の試算ではない。
現物・代償・換価・共有を、暮らしに合わせて比べる
| 方法 | 考える内容 | 準備すること |
|---|---|---|
| 現物分割 | 家と他の財産をそれぞれ取得する | 価額の偏りと、土地の分筆等が可能かを調べる |
| 代償分割 | 家を受け取る人が他の相続人へ金銭等を支払う | お金の出どころ、支払時期、分割払いなら確実に支払ってもらうための備えを確認する |
| 換価分割 | 売却代金を分ける | 価格、費用、税、転居、引渡しまで決める |
| 共有分割 | 複数人で持分を取得する | 利用、費用、連絡、将来の処分方法を決める |
土地を物理的に分けられる場合もある。ただし、登記上の土地を分ける分筆をした後の面積・形、道路との接し方、法律上の制限、境界、測量費用等を確認する必要がある。
分けても使いにくくなる場合があるため、建物や敷地を分ける案は、登記だけでなく、その後の利用まで考えよう。
代償分割は、家を受け取る人の支払義務を伴う。健造が遺言で「家は亮太、預金は佳奈」と指定するだけの配分と、亮太が佳奈へ代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)を支払う合意は区別する。本人の希望を、どの方式で実現するかを考える。詳しくは不動産を含む遺産分割と代償分割(一人が家などを受け取り、ほかの相続人へ調整のお金を払う分け方)の考え方で確認できる。
家を3,000万円で売れても、その全額が二人の手取りになるわけではない。
仲介、測量、片付け、解体等の費用と、譲渡所得税等の見込みを整理する。父が買った時の費用や時期の資料も残そう。住み替えが必要なら、その費用と時期も含めて比べる。
共有を選ぶなら、必要な同意と管理費を具体化する
財産の現状を維持するための保存行為は、各共有者ができる。
原則として、持分の価格の過半数で決める。人数の多数決ではない。
全体の売却は原則全員の合意。形や使いみちを著しく変える変更も、原則としてほかの共有者の同意が要る。
亮太と佳奈が各2分の1なら、一人の持分は50%で、過半数ではない。
所在不明者等に関する裁判上の制度や、利用者が特別な影響を受ける場合の承諾等も確認する。自分の持分だけを処分することと、家全体の処分も別だ。
各2分の1で持つなら、誰が住むか、使用の対価、保険、固定資産税、緊急修理、通常の修繕、連絡方法を話そう。
管理費等を持分に応じて負担する原則等を踏まえ、個別の合意も記録する。自治体から代表者へ納税通知が届くだけで、すべての負担が代表者に決まるわけではない。
相続後まだ分割していない遺産の共有と、分割を終えて共有にすることも区別する。解消の手続は、遺産分割か通常の共有物分割かなど誰がどんな権利を持つかで異なる。単に「10年たてば全部通常の共有物分割」と処理せず、相続の時期、持分の成り立ち、家裁手続等を確認したい。話合いの進め方は遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)の進め方を参照してほしい。
空き家になるなら、相続直後の管理も決めておく
誰も住まない家も、取得者が決まるまで費用が止まるわけではない。通風、雨漏り、植栽、近隣への影響、防犯、郵便、火災保険等を確認する。鍵を持つ人、点検する人、修理を発注する権限、立替金の領収書と報告先を決める。
佳奈は家を売る案も知りたいが、亮太は転居を急ぎたくない。二人は「空き家ならすぐ解体」「住まないならすぐ売却」と決める前に、現況と維持費、売却条件、利用の可能性を整理する。解体によって税の扱いや売却条件が変わることもあるため、工事を頼む前に確認する。
住む予定がない場合は実家に住まないときの売却、毎年の負担は相続した不動産の固定資産税も確認したい。所有する価値と、持ち続けられる収支は別に見ておく。
税の評価と特例は、受け取る人と申告条件まで調べる
相続税の土地評価は、路線価方式または倍率方式を用い、権利や形状等に応じた調整をする。家屋は原則として固定資産税評価額を用いる。一定の分譲マンションには区分所有補正率を使う評価もある。「不動産はすべて市場価格の8割」で計算するものではない。根拠は国税庁・土地家屋の評価で確認できる。
小規模宅地等の特例のうち、条件を満たす特定居住用宅地等は、330㎡まで、税の計算へ入れる土地等の価額を80%減らせる。
家屋も一緒に80%減る、相続税額が必ず80%減るという意味ではない。配偶者、同居親族、それ以外の人等、受け取る人によっても条件が変わる。
例えば同居親族では、申告期限までの居住継続・保有等を確かめる。適用には申告と必要書類、原則として期限までの分割等が必要になる。未分割のまま期限を迎えるときは、後の適用に向けた手続を含め税理士へ確認する。争いがあるため申告・納付期限も自動的に延びるとは考えない。制度の条件は国税庁・小規模宅地等の特例を参照してほしい。
健造は、亮太が住むから必ず特例を使えるとは決めず、実際の居住、名義、将来の取得方法を資料にする。税が軽くなる案でも、佳奈への支払資金や本人の生活費が不足するなら、家族として実行できるかをもう一度検討する。
遺言・登記・納税資金を、同じ計画へつなぐ
遺言は、亡くなった後の財産の引継ぎ先等を定める制度だ。希望を話すだけでは、法律上有効な遺言ができたことにはならない。
公正証書遺言・自筆証書遺言等の方式、保管、実行する方法、遺留分(一定の近い家族に保障された最低限の取り分)への配慮を検討しよう。遺言があっても、必ず紛争がなくなるわけではない。
不動産を受け継いでも、納税に使える預金が少ない場合がある。金融資産、保険、売却、必要に応じた借入れ等を比べよう。
死亡保険金は、受取人自身の権利となる場合がある。全員の代償金・納税資金へ自動的に使えるとは決めず、受取人、契約関係、税と、実際の使い道を確認する。
相続登記は、自分のために相続が始まったことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請する義務がある。
2024年4月1日前の相続で、その時点より前から取得等を知っていた場合は、原則2027年3月31日までの対応を確認する。
相続人申告登記で義務に対応できる場合もあるが、最終的な所有権を登記する手続ではない。分割した後には、別の登記義務も生じ得る。
健造たちは、まず権利資料をそろえ、家3,000万円という仮の価額と現金1,000万円、亮太の支払えるだけのお金があるかを分けて検討することにした。住み続ける案と売る案を比べ、本人の生活費を残してから遺言へ進める。準備の全体像は生前の相続対策で整理できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前の全体計画の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
権利と登記を確かめる一次資料
よくある質問
実家をきょうだいで半分ずつ共有すれば公平ですか?
持分を同じにすることと、居住利益や費用負担まで公平になることは別だ。利用、修繕、税、将来の売却方法と他の財産を含めて検討する。
家をもらう人に現金がなくても代償分割はできますか?
代償金を払うためのお金と支払条件を確認する必要がある。家の評価額だけで支払えるだけのお金があるかは決まらない。分割払いの受入れや確実に支払ってもらうための備え、売却等の別案も検討する。
小規模宅地等の特例で家の価額はすべて80%減りますか?
条件を満たす一定の土地等の評価の特例だ。特定居住用宅地等では330㎡まで80%減額できるが、家屋や税額全体が一律に80%減るものではない。
土地は分けられないので必ず売るしかありませんか?
分筆等を検討できる場合もある。接道、面積、境界、法律上の制限、測量費用と分けた後の利用可能性を確認し、代償分割等とも比較する。
生前に家の受け取る人を話し合えば準備は終わりますか?
話合いに加え、本人の意思を有効な遺言等へ反映する方法、取得後の管理、税、支払資金を確認する。財産や家族の状況が変わったときの見直しも必要だ。



