多数の相続放棄が必要になるケース|順位・連絡・3か月の起算点

多数の相続放棄が必要になるケース|順位・連絡・3か月の数え方

相続放棄を検討する人が増えても、親族全員が一度に放棄しなければならないわけではない。先の順位の人が全員放棄した場合などに、次の順位を確認する。

亡くなった人を中心にした家族関係と、各人が自分の相続人としての立場を知った日を整理しよう。

圭介に、姪の綾から電話が来た。「父の借金が多くて、私と誠は相続放棄したの」。亡くなったのは圭介の兄、史郎だ。葬儀は数か月前。圭介は、兄の子どもが手続をしていると思っていたので、自分も相続人になると聞いて驚いた。

電話を切った後、圭介は自分の子まで放棄させなければならないのかと心配になった。一方の綾は、叔父へ借金を押しつけたようで、連絡するのがつらかった。ここからは、順位の移り方を考える架空の家族だ。

相続放棄が必要な人を、家系図と順位で確かめる

配偶者は、放棄等がなければ常に相続人となる。これと組み合わさる血族相続人には、次の順序がある。

順位 基本となる相続人 確認すること
第1順位 子。一定の場合には孫などの代襲相続人 前婚の子、養子、先に亡くなった子の子など
第2順位 父母、祖父母などの直系尊属 親等が近い人が優先。父母の次に祖父母が存命か
第3順位 兄弟姉妹。一定の場合にはおい・めい 父母の一方だけが同じ兄弟、先に亡くなった兄弟の子など

これは「自分から見た親族」の順番ではない。亡くなった人の子、亡くなった人の父母という順番だ。関係が複雑なときは、氏名だけの連絡網より、戸籍に基づく相続関係図を作る方が整理しやすい。

子が一人放棄しても、すぐ兄弟へ回るわけではない

亡くなった人に子が3人いて、そのうち1人だけが放棄した場合、ほかの子が相続人として残る。これだけで亡くなった人の兄弟が相続人になるわけではない。

子やその代襲者など第1順位の相続人がいなくなった場合に、第2順位を確認する。父母が亡くなっていても、祖父母が存命なら、直ちに兄弟姉妹へ進むとは限らない。

また、子が全員放棄したから配偶者だけが必ず全部を相続する、というわけでもない。配偶者とともに相続する次順位の血族相続人がいないかを確認する。

子二人が放棄した後、誰を確認するのか

この例では、史郎の妻、父母・祖父母などは全員先に亡くなり、子は綾と誠の二人だけとする。きょうだいは、圭介と、史郎より先に亡くなった姉の春子だ。

春子には存命の子が二人いて、ほかに相続権が変わる事情はない。この条件で、次の表を見よう。

段階 確認する人 この家族では
最初 史郎の子 綾と誠の二人。二人とも放棄した。
次の順位 史郎の直系尊属 存命者がいない。
その次 史郎のきょうだいと、先に亡くなったきょうだいの子 圭介と、春子を代襲する子二人の計三人。

綾と誠の後に、圭介と春子の子二人もそれぞれ放棄を選ぶなら、この例の申述人は合計五人になる。一人が「親族一同で放棄します」と伝える手続ではない。

圭介が放棄しても、そのことだけで圭介の子へ順番が進むわけではない。「先に亡くなった春子の子」と「放棄する圭介の子」を分けて確認する。

「放棄」と「先に亡くなっていたこと」は違う

ここが、必要な人数を大きく取り違えやすいところだ。

子が親より先に亡くなっている場合、その子の子が代襲して相続人となることがある。一方、生きている子が相続放棄したことは、代襲相続の原因にならない。

例えば父が亡くなり、娘が相続放棄した場合、その放棄を理由に娘の子が父の相続人になるわけではない。娘と孫をセットで放棄させる、という対応は通常必要ない。

兄弟姉妹についても同じ区別がある。兄が先に亡くなっていれば、その子であるおい・めいが代襲する場合がある。しかし、兄が相続放棄したことを理由に、その子へ順番が回るわけではない。兄弟姉妹の代襲は、おい・めいまでで、その子への再代襲はない。

なお、相続が始まった後に相続人が亡くなる場合は、別の相続が重なる問題となる。「先に亡くなっていた場合」と同じ図にはできないため、死亡日の前後を必ず確認したい。

3か月は、一族共通の締切ではない

相続放棄の熟慮期間は、原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月である。

後の順位の人では、死亡したことに加え、先の順位の人がいない、または全員放棄したなどの事情から、自分が相続人になったと知った時を確認する。

葬儀から数か月後に初めてその事情を知ったなら、葬儀の日から一律3か月で終わりとは決めない。

反対に、正式な受理証明書を受け取るまで、必ず期間が始まらないわけでもない。電話や書面で何を知ったのか、その日付と内容を残しておく。

  • 亡くなったことを知った日
  • 先順位の人が全員放棄したと知った日と、連絡内容
  • 借金や保証債務を知った日、届いた請求書
  • これまでに財産を引き出したり、処分したりした経緯

借金を後で知ればいつでもそこから3か月になる、という扱いでもない。既に期間が経過したように見える場合は、財産がないと信じた事情や調査の困難さなどを含めて、個別に検討する必要がある。

調査が間に合わない場合には、期限内に家庭裁判所への熟慮期間伸長の申立ても検討する。親族間で調整中、書類待ちという理由だけで自動的に延長されるわけではない。詳しくは相続放棄の3か月と期間を数え始める時点を確認してほしい。

放棄は、その人が相続人の立場から離れる選択だ。その子にまで自動で同じ選択を強制する制度ではない。一方、先に亡くなった春子の子が代襲するのは、春子が取得するはずの立場を法律が子へ引き継がせる場合だからだ。似た家系図でも、「死亡」と「放棄」の印を入れ替えると結論が変わる。

綾が父の死亡時から手続を始めていたとしても、圭介が同じ日に自分の相続開始を知ったとは限らない。ただし、正式な書類を受け取らなければいつまでも始まらない、と考えることもできない。電話で知った内容と日付を残す。

手続は各人の申述。代表者が「全員分を放棄」と言うだけでは足りない

相続放棄は、家庭裁判所への申述によって行う。家族内で「遺産はいらない」と話すことや、遺産分割協議書(遺産の分け方について相続人同士で合意した内容を書く書類)に受け取る額ゼロと書くこととは異なる。後者だけでは、相続債務の責任を自動的に免れるわけではない。

複数人で相談や戸籍収集をまとめることはできるが、誰が申述するのか、各人の意思と期限、必要な添付資料を確認する。兄が申し立てれば弟も自動的に放棄したことになる、という手続ではない。

同じ死亡に関する申述でも、子と兄弟では必要な戸籍の範囲が異なることがある。先順位の放棄の情報を含め、提出先の家庭裁判所へ確認する。戸籍が集まらないまま期限が近づいたら、そろうまで黙って待たず、追完の扱いや伸長を相談する。

未成年の子がいる場合は、親が代わる範囲を確認する

未成年者については法定代理人による手続や利益相反の確認が必要になる。親も子も放棄する場合と、親が相続する一方で子だけ放棄する場合を、同じようには扱えない。

親が先に放棄する場合や親子が同時に放棄する場合には、通常、放棄についての利益相反とならない扱いがある。一方、子だけの放棄などでは特別代理人が必要になる場合がある。複数の子がいるときも、誰が残るのかを含めて確認する。

未成年者の熟慮期間は、法定代理人がその子のために相続が始まったことを知った時から数えるのが原則だ。本人が幼いから成人まで放置してよい、とは考えない。

裁判所の収入印紙を一人800円で考えると、例の五人が申述する場合の印紙部分は計4,000円、子二人の後に追加となる三人分は2,400円だ。ただし、これで全部の費用が済むわけではない。郵便料、戸籍の取得費、依頼する場合の専門家費用等は別になる。

複数人で同じ書類を使える場合や、先の事件で提出した資料を再提出しなくてよい場合もある。家族で資料を集める作業はまとめつつ、申述の意思と期限は一人ずつ確認する。手続をまとめることと、本人の判断をまとめて決めることは違う。

次の人への連絡は、結論を押しつけず事実を渡す

後順位の人に連絡するなら、「あなたもすぐ放棄して」という一言より、判断に必要な情報を渡す方が役に立つ。

亡くなった人の氏名・死亡日、自分たちが放棄した範囲、受理された裁判所や日付、分かっている財産・借金、連絡先を整理する。受理通知書等の写しを共有する場合には、関係のない個人情報まで広げないようにする。

放棄するかどうかは、それぞれが判断することだ。「全員で放棄しないと自分の放棄も無効になる」と説明して、同意を迫る必要はない。個々の放棄の効力と、次順位の人の判断は別である。

疎遠で直接話しにくいときは、資料の伝え方も弁護士へ相談できる。誰にいつ何を伝えたかを残すことは、期限の認識違いを減らす助けにもなる。

綾は「絶対に放棄して」と迫る代わりに、受理された裁判所、日付、分かっている財産と借金、資料の所在を圭介へ伝えた。

綾の放棄の効力を保つために、圭介まで同じ選択をする必要はない。圭介は、受け取った情報と自分の期限を確認し、どうするか判断する。

全員が放棄した後も、空き家や荷物をそのまま処分しない

子、直系尊属、兄弟姉妹や代襲するおい・めいなど、法定相続人(法律で相続人になると決められた人)がいなくなっても、いとこへ無制限に順番が回るわけではない。必要に応じて相続財産清算人の選任等を検討する。全員の放棄と同時に、裁判所が自動で清算人を付けてくれるわけでもない。

放棄した人が、放棄時に相続財産を現に占有していた場合には、相続人や清算人へ引き渡すまで保存義務が問題になる。放棄者全員が一律に、見たことのない家まで管理するという規定ではない。

放棄を考えている段階で預金や家財を処分すると、法定単純承認の問題が生じることもある。借金の請求、鍵、残置物、空き家の危険などがある場合は、何をしてよいかを先に確認する。

相続人がいなくなった後の流れは相続人がいない場合の手続に整理している。

人数が多いときほど、一枚の表で相談する

親族の氏名、亡くなった人との関係、存命かどうか、放棄の有無、自分が相続人になったと知った日。この5項目を並べるだけでも、確認すべき人が見えてくる。

全員の話がまとまるまで、期限の近い人まで待つ必要はない。借金の資料と相続関係、これまでの行動を示して、各人が間に合う手続を弁護士へ相談したい。

圭介は、自分の子の名前を申述人の欄へ足す前に、史郎を中心とした関係図を作った。綾と誠の放棄、春子の死亡、自分が電話を受けた日を別々に書く。親族が増えたように見えても、誰にどの理由で相続人の立場があるかが分かれば、必要な手続と不要な手続を区別できる。

公的資料・根拠

ほかにも確認する手続がある場合は、相続放棄・債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

子が放棄すると、その子の子も放棄が必要ですか

放棄は代襲相続の原因ではない。放棄したことだけを理由に、その子へ相続人の地位が移るわけではない。

子全員が放棄すると兄弟姉妹が相続人になりますか

直ちにそうなるとは限らない。次順位の直系尊属がいないかを先に確認する。父母がいなくても祖父母が存命の場合がある。

後順位の人も死亡から3か月で放棄しますか

死亡から一律ではない。自分のための相続開始を知った時が期間を数え始める時点となり、先順位の全員放棄をいつ知ったか等を個別に確認する。

一人が親族全員の放棄を宣言すれば足りますか

足りない。放棄する各人について家庭裁判所への申述が必要となり、意思、期限、代理人に任せられるかどうか等を確認する。

全員放棄すると、いとこが相続人になりますか

法定相続人の範囲がいとこへ無制限に広がるわけではない。相続人がいなくなった場合には、必要に応じて清算人の選任等を検討する。

本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、亡くなった日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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