兄弟の相続で不公平が生まれる仕組みと、修正できる2つの制度

兄弟間の相続における不公平とは、法定相続分(民法900条)と実際の貢献・事情との間にズレが生じることで、相続人間に不満や対立が生まれる状態を指します。

結論から言うと、兄弟間の相続で不公平感が生まれる場合、特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)という制度を活用することで、実態に即した遺産分割ができる可能性があります。

「うちの兄弟は仲いいから、相続で揉めるなんてありえない。」

そう言っていた人間が、親の死後わずか数週間で互いの連絡をブロックし合う──。これは、珍しい話ではない。むしろ、この業界では「あるある」として語られる、ありふれた光景だ。

問題は、感情ではない。「仲がいい」「絆がある」は関係ない。問題は、「公平に見えていたものが、実は公平ではなかった」という事実が、相続の瞬間に一気に噴き出すことにある。

困り顔

親の介護、ずっと俺だけが引き受けてきたのに……なんで均等割りなんだ。

で、結論から言うと。兄弟相続の「不公平」には、ちゃんと対処する手段がある

民法は、法定相続分という「デフォルト設定」を用意している(民法900条)。子ども2人なら50%ずつ。3人なら33.3%ずつ。一見、これ以上なく公平に見える。

ところがどっこい。人間の人生は、そんなにシンプルではない。

「長男は親の介護を10年間ひとりで抱えていた」「次女だけ、生前に自宅購入の頭金を出してもらっていた」「三男は海外にいて、親とほぼ無関係だった」──こういう事情が重なると、均等割りという名の数字が、じわじわと凶器に変わっていく。

だが、安心していい。民法には、この「現実のズレ」を修正するための道具が、ちゃんと存在する。その名も、特別受益寄与分。この2つを知っているか知らないかで、遺産分割の結果が、パカっと変わる。

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「特別受益」と「寄与分」──不公平を修正する2枚のカード

順番に整理しよう。

特別受益(民法903条)── 生前にもらっていた人間を「巻き戻す」仕組み

特別受益とは、被相続人から生前に受けた「特別な利益」を相続分の計算に組み込む制度だ。

  • 住宅購入資金の援助
  • 留学費用・事業資金の贈与
  • 結婚の際の持参金・支度金

これらが「特別受益」に該当する可能性がある。該当した場合、相続財産にその金額を「持ち戻し」て計算する。つまり、先にもらっていた分は「前払い」として扱われるわけだ。

ただし、被相続人が「持ち戻し免除の意思表示」をしていた場合は、この計算を省略できる(民法903条3項)。生前に親が「あれはあげたもの、相続と別に考えてくれ」と明示していた場合は、除外される可能性がある。

図解

寄与分(民法904条の2)── 貢献した人間が「追加で受け取る」仕組み

一方の寄与分は、逆方向の修正装置だ。

親の介護を長年にわたってひとりで担い、療養看護に特別の貢献をしたと認められる相続人は、その貢献に見合った分を「先取り」できる可能性がある(民法904条の2)。

ただし、ここには重要な壁がある。「普通の親孝行」では足りない。「特別の貢献」という水準が求められるのだ。具体的には以下のような要素が考慮されるとされている。

  • 専業で介護に当たっていた(仕事を辞めた、または大幅に減らした)
  • 長期間・継続的に療養看護を行っていた
  • 介護施設への入所を回避させる程度の貢献があった

「毎週顔を出していた」程度では、残念ながら認められにくい。この線引きは、曖昧でもあり、シビアでもある。

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では、実際に「不公平だ」と感じたとき、何をすればいいのか

感情に任せて「納得できない」と叫んでも、法律は動かない。必要なのは、動くための「順序」だ。

図解

ステップ1:まず「遺産の全体像」を文書化する

特別受益や寄与分の話し合いをするには、そもそも「何がいくらあるか」が確定していなければならない。不動産の評価額(固定資産税評価額または路線価)、預貯金残高、負債の総額。これらを一覧にまとめることが、議論の出発点だ。

ステップ2:特別受益の「証拠」を集める

生前贈与の事実は、証拠なしには主張が通りにくい。通帳の入出金履歴、贈与税の申告記録、不動産の登記履歴などが、説得力ある根拠になる。「たぶんそうだ」という記憶だけでは、力不足だ。

ステップ3:遺産分割協議で主張する

特別受益・寄与分は、相続人全員が参加する遺産分割協議(民法907条)の場で主張する。ここが最初の話し合いの場だ。なお、遺産分割協議には法定の期限は設けられていないが、相続税の申告期限(相続開始を知った翌日から10ヶ月以内)を意識しておくと、手続きがスムーズになる可能性がある。

ステップ4:協議が整わない場合は家庭裁判所へ

話し合いが平行線をたどった場合は、家庭裁判所への遺産分割調停(家事事件手続法244条)という選択肢がある。調停委員が間に入り、中立的な立場で話し合いを整理してくれる。調停でも決着しない場合は、審判(家事事件手続法284条)へと移行する流れだ。

なお、遺留分侵害額請求権(民法1048条)については、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、または相続開始から10年という時効があるため、早めに判断することが望ましい。

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よくある質問

兄弟間の相続で、一人だけ多く相続することは可能ですか

遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で相続することも可能とされています(民法907条)。全員の合意が必須であり、一人でも欠けると協議は無効となります。

親の介護をしていた兄弟は、相続で多く受け取れますか

「特別の貢献」があったと認められる場合、寄与分として相続分に上乗せできる可能性があります(民法904条の2)。ただし、通常の扶養義務の範囲を超えた療養看護が必要とされており、貢献の程度によっては認められない場合もあります。

生前に親から多くの援助を受けた兄弟の相続分は減りますか

特別受益(民法903条)に該当する場合、その金額を相続財産に持ち戻して計算するため、結果的に相続分が少なくなる可能性があります。ただし、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていた場合は除外される場合があります(民法903条3項)。

遺産分割協議に期限はありますか

遺産分割協議そのものに法定の期限はありません。ただし、相続税の申告期限(相続開始を知った翌日から10ヶ月以内)までに分割が整っていると、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)の適用がスムーズになる場合があります。

兄弟の一人が遺産分割協議を拒否した場合、どうなりますか

遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であるため、一人が拒否した場合は協議が成立しません(民法907条)。この場合は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが、次の選択肢として考えられます(家事事件手続法244条)。


で、手続きを終えた数週間後。「制度を知っていてよかった」と、清々しいほど落ち着いた顔で食卓につける日が、ちゃんとやってくる。

特別受益と寄与分。この2枚のカードを知っているだけで、「不公平だ」という感情が、具体的な「主張」に変わる。感情ではなく、制度の言葉で話せるようになる。それだけで、協議の空気は変わる可能性がある。

ホッとした顔

特別受益って制度があったのか。感情じゃなく、ちゃんと数字で話せるじゃないか。

兄弟仲が悪いから揉めるのではない。制度を知らないまま、感情だけで話し合うから揉めるのだ。

けっこう大事なことです、これ。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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