土地の相続税評価は、①評価する範囲、②地域に応じた方法、③形や権利による調整の順に確認する。路線価方式と倍率方式から、安くなる方を自由に選ぶ制度ではない。
以下の架空の姉弟と、最初の土地を評価する流れをたどろう。
父が植えた柿の木を避けながら、真由は庭の奥へ歩いた。道路から家へ入る通路は細く、奥へ行くと敷地が広がる。弟の直人は公図を見て言った。「これ、土地が二つあるってこと?」。図面には二つの地番があるが、父は一つの自宅の敷地として使っていた。
母はすでに亡くなり、父の相続人は姉弟二人。父は自宅のほか、別の町にも土地を持っていた。直人はネットで見つけた路線価を面積に掛け、真由は固定資産税の通知書の金額を見ている。同じ土地の話なのに、数字が合わない。これは架空の家族だ。
土地を金額に直すのは、ほかの財産と同じ土台で税を考えるため
預金なら、残高を確認すれば額が分かる。土地には、相続した日に実際に売った代金があるわけではない。
相続税を計算するには、相続時の土地の状態を確かめ、評価額へ置き直す必要がある。
家族の思い入れや希望する売値だけで決めると、似た財産を受け継いだ人どうしで税負担がそろわない。
財産評価基本通達には、公平に、速やかに評価するための共通の方法がある。土地の形や使い方の違いも、その方法に沿って確認する。
ただし、相続税の評価額と、実際に売れる値段、家族の遺産分割で合意する価額は同じとは限らない。どの数字を出したいのかを先に決める。書類の見分け方は固定資産税通知書・査定額と相続税評価の違いでも説明している。
1.二つの地番でも、一つの自宅敷地として評価する場合がある
登記上の一つの土地の区切りを「一筆」という。相続税の宅地評価で、一つのまとまりとして見る範囲は「一画地」だ。
この二つは、同じとは限らない。宅地は原則として、実際に一つとして使っている区画ごとに評価する。
父が所有する隣り合う二筆を、一つの自宅の敷地として使っていれば、まとめて一画地と見る場合がある。
逆に、一筆でも、自宅部分と別に貸している部分など、利用や権利が違えば、分けて評価することがある。
これは、番号だけでなく、現実に何を一つとして利用しているかを確かめるためだ。父の家の玄関へ通じる通路を図面上だけで切り離し、残りの土地が道路に面していないという理由で、好きなだけ評価を下げられるわけではない。
相続人ごとに取得する土地の区分や、著しく不合理な分割なども関係する。登記の地番、実際の利用、権利関係を合わせて、どこを計算の一つのまとまりとするかを確認する。
真由・直人の架空の例を単純化した模式図だ。父が所有する隣り合う二筆を、一体の自宅敷地として使っていると仮定する。
家・庭の一部
庭の続き
この全体を「一画地」として評価する場合がある
点線は地番の区切り、青い外枠は実際の利用のまとまりを示す。地番だけで別々と決めず、取得者、利用、権利を確認する。自宅部分と貸している部分などは、逆に分けて考える場合もある。
2.路線価がある地域か、ない地域かを確認する
自宅の前の道路には路線価が付いていた。一方、別の町の土地は、路線価図を探しても見つからない。真由は「田舎の土地は評価がゼロなのか」と思ったが、そうではない。路線価が定められていない地域には、倍率方式という計算方法がある。
| 確認する地域 | 主な計算の出発点 | 取り違えやすい点 |
|---|---|---|
| 路線価が定められた地域 | 道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの路線価 | 道路の数字が土地全体の価格なのではない |
| 路線価が定められていない地域 | その土地の固定資産税評価額と評価倍率 | 固定資産税の税額へ倍率を掛けるのではない |
国税庁の路線価図・評価倍率表で、所在地と地目等を確認する。路線価などは相続した年分を使う。古い印刷物や、画面に最初に出てきた別の年分を、そのまま使わないようにしたい。
同じ土地について二つの方式で計算し、安い方を申告するという選び方ではない。自分の土地がどの地域・区分かを確かめてから計算する。
3.路線価の数字を、まず1㎡の円に直す
説明のため、自宅の路線価の数字が「150」、評価する面積が200㎡と仮定する。路線価図の数字は千円単位なので、150は1㎡当たり15万円を意味する。
- 150×1,000円=1㎡当たり15万円。
- 15万円×200㎡=3,000万円。
- ただし、これは形状や接道などの調整を入れる前の、仕組みを見るための数字だ。
直人が最初に出した計算には、父の土地の細い通路や奥行きが入っていなかった。「路線価×面積」で終えると、道路に面して使いやすい標準的な土地との違いを見落とすことがある。
実際の評価では、まず基準にする「正面路線」を判定する。玄関が向いている道路や、数字が最も高い道路を、そのまま選べばよいとは限らない。
奥行き等の補正と、横や裏にも道路がある場合の加算等を確かめる。
4.形の補正は、得をする割引券ではなく使いやすさの違いの反映
同じ200㎡でも、四角く整った土地と、細い通路の先に広がる土地では、家の配置や車の出入りのしやすさが違う。標準的な土地の価額を出発点にするなら、その違いを確認する必要がある。
奥行き、間口の狭さ、不整形、道路との関係などに応じて、決められた条件と率を使って調整する。二つの道路に接して利便性が高いなど、評価を加算する場合もある。「補正」と聞いたら、必ず下がると考えない。
仮に、個別条件を調べた結果、説明用の調整をまとめて0.90と置くなら、3,000万円×0.90=2,700万円となる。
細い通路があれば必ず0.90という決まりではない。実際には、地区・寸法・形や、組み合わせる補正を調べる。
登記の面積、公図の見た目、現地の状況が違うこともある。地積測量図、境界・接道に関する資料、写真などをそろえ、どの前提でどの率を使ったかを説明できるようにする。
5.倍率方式は、価格の欄へ、その土地に対応する倍率を掛ける
父が別の町に持つもう一つの土地について、固定資産税評価額800万円、当てはまる評価倍率1.1と仮定する。この場合、800万円×1.1=880万円という計算になる。
倍率を掛ける800万円は、土地の固定資産税評価額だ。年に払う固定資産税の額や、通知書の課税標準額とは違う。
所在地、地目、評価の区分、対応する評価年度等を、資料で確かめよう。
真由たちの自宅が2,700万円、別の町の土地が880万円だからといって、自宅にも後者の倍率方式を使えるわけではない。別の土地には別の地域の基準があるという例である。
貸している土地や、小規模宅地等の特例は別の確認を加える
他人に貸している土地、賃貸アパートの敷地、借地権を持つ土地では、評価に入れる権利も異なる。
誰が使い、どの契約があり、父は何の権利を持っていたかを確かめよう。
また、居住や事業の土地について、一定の条件を満たすと評価額を減らす小規模宅地等の特例がある。路線価や倍率での土地の評価と、取得者や相続前後の利用を踏まえた特例の判定を、ひとまとめにしないことが大切だ。
自宅に関する特定居住用宅地等なら330㎡まで80%減額されるが、取得者・分割・保有や居住・申告などの条件がある。家族が住んでいたという一言で適用は決まらない。小規模宅地等の特例の条件を確認したい。
相続税は、二つの土地だけでなく、建物、預金、有価証券、債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)や加算の対象となる贈与などを含め、遺産全体で計算する。基礎控除との関係は相続税がかかる目安へ整理している。
評価と分割の話合いは、申告の期限を見ながら進める
相続税の申告・納税が必要な場合は、原則として、死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う。遺産の分け方が決まらなくても、申告は待てない。
未分割での申告と、分割後に税額を直す手続を確認しよう。多く申告した税額等を直すよう求める手続を「更正の請求」という。特例を使うための添付書類と期限も確かめる。
小規模宅地等の特例を後から適用するには、分割見込書の提出や、原則として申告期限後3年以内の分割など、必要な条件がある。見込書を出すだけで、必ず特例を確保できるわけではない。相続手続の期限と、不動産の分け方の準備も合わせて考える。
真由は公図へ自宅の利用範囲を書き込み、直人は二つの土地の所在地と地目を別々の表へ入れた。柿の木のある庭をどう残すかは、まだ決めていない。それでも「高い数字と安い数字のどちらを選ぶか」ではなく、父が持っていた土地をどう使い、どの基準で評価するかという話へ進めた。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
路線価方式と倍率方式は安い方を選べるか
自由に安い方を選ぶものではない。路線価が定められた地域か、所在地や地目等の区分を確認して方法を判断する。
路線価図の150は150円か
路線価図の数字は千円単位なので、150は標準的な宅地の1㎡当たり15万円を表す。実際の土地では補正や接道なども確認する。
登記が二筆なら必ず別々に評価するか
必ずしもそうではない。宅地は原則として利用の単位ごとに評価し、一体利用する二筆をまとめる場合などがある。
不整形な土地なら必ず一定割合で安くなるか
一律の割合ではない。地区、形、間口・奥行き、道路との関係などを調べ、適用できる補正と率を確認する。
倍率を掛けるのは固定資産税の税額か
税額ではなく、その土地の固定資産税評価額だ。課税標準額とも取り違えず、当てはまる倍率を確認する。
特例を使って相続税がゼロでも申告するか
小規模宅地等の特例を使って初めて税額がゼロになる場合には、申告が必要だ。制度を使うための条件と提出書類を確認する。



