重加算税は、申告額が足りなかったという結果だけでは決まらない。事実を隠す「隠蔽」や、事実と違うように見せる「仮装」があり、それに基づいて申告等をしたかを確かめる。
財産が誰のものか、相続人が何を知り、何をしたか、税額がいくらかを順に調べよう。以下は、綾と兄の拓也の架空の例だ。
申告を終えた数か月後、妹の綾は、父の机の奥から古い通帳を見つけた。名義は兄の拓也。入金していたのは父らしい。「これを出したら、35%の重加算税になるの?」。綾は、兄へ連絡する前に不安になった。
拓也も、その口座が申告に入っていたかはっきり覚えていない。誰のお金か、兄が何を知っていたか、税理士に何を渡したかは、まだ別々に確かめる必要がある。ここからは、発見後の整理を考える架空の兄妹で、通帳の発見だけで不正と結論付ける例ではない。
重加算税の条件は四つの柱で成り立っている
国税通則法68条1項は、過少申告加算税の前提条件を満たす場合に、さらに次の要素が重なったとき、過少申告加算税に代えて重加算税を課すと定めている。2項は無申告の場合を対象にする。整理すると、次の四つを個別に確認する必要がある。
- 過少申告加算税または無申告加算税の前提条件があるか
- 課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を隠蔽または仮装したか
- その隠蔽・仮装に基づいて過少申告・無申告になったか
- 誰の行為を、その納税者の行為として評価できるか
この四つは、どれか一つが欠けても条件を満たさない。「申告書に財産を書かなかった」という結果だけで決まるのでも、「書類を改ざんしていなければ重加算税はない」と決まるのでもない。
また、過少申告加算税について「正当な理由」がないことと、重加算税の「隠蔽・仮装」があることも別の判断だ。単なる計上漏れ、計算違い、法令解釈の誤り、評価上の見解の違いだけでは、直ちに隠蔽・仮装にはならない。
同じ「通帳が申告に入っていない」でも、たどる経緯は違う
綾も拓也も、口座の存在や父の財産であることを知らなかった場合を考えてみる。一方で、拓也が父の財産だと知りながら通帳を隠し、税理士へ「ほかに口座はない」と説明した場合はどうか。
申告から漏れたという結果が同じでも、調べる行動は違う。この家族がどちらに当たるかは、記録を見て確認する。
もし単なる見落としも事実の隠匿もすべて同じ扱いにすると、何が重い加算税の理由なのかが見えなくなる。逆に、あとから申告を直しさえすれば、隠した行動も常に問題なくなるという制度でもない。普通の計算上の不足と、隠蔽・仮装という行動を、別の条件として調べる必要がある。
また、現行の国税通則法68条は、一定の更正請求書も対象としている。最初の申告書だけを正しくしておけば、その後に虚偽の事実で税を減らす請求をしても関係ない、とは考えない。
「申告に書かなかった」という結果と、「隠蔽・仮装」という条件は別の話
では、何が隠蔽・仮装として問われるのか。国税庁の事務運営指針は、相続税関係の不正事実の例として次の行為を挙げている。
- 財産に関する帳簿・契約書・領収書等の改ざん、偽造、破棄、隠匿
- 課税財産の隠匿、架空債務の作出、事実のねつ造による財産価額の圧縮
- 関係者と通謀して資料を改ざんさせ、または虚偽答弁をさせること
- 自ら虚偽答弁をし、他の事情と合わせて、財産を知りながら申告しなかったと合理的に推認できること
- 他人名義・架空名義・無記名・遠隔地などの状態を認識し、その状態を利用して申告しなかったこと
これらは例示であり、一つの言葉に当てはめるだけで結論が決まるわけではない。
子の名義の口座へ親が入金し、その口座が相続税の申告から漏れた。この事実だけでは、重加算税の条件を満たすかは分からない。
相続人が口座の存在と持ち主をどう理解していたか、税理士へ何を伝え、通帳をどう保管し、税務調査にどう答えたかを調べる。名義だけでなく、申告前後の具体的な行動を確かめる必要がある。
書類の改ざんの有無だけで結論を決めない。財産の存在を知っていたか、他人名義等の状態を認識して利用したか、虚偽の回答や資料の隠匿があったかを、申告前後の記録から具体的に確認する。申告書の記載だけでなく、税理士への説明、資料の管理、税務署への回答を整理する。
亡くなった人・共同相続人・税理士、誰の行為が問われるか
亡くなった人が生前に他人名義の口座を使っていた場合でも、相続人がその事情を知らなかった場合と、知って利用し申告から外した場合を区別する。国税庁の取扱指針も、その状態を認識し利用して申告しなかったことを確認事項としている。故人の名義状態だけで相続人の隠蔽・仮装が自動的に決まるとは考えない。
共同相続人(同じ人の遺産を一緒に相続する人たち)の一人が財産を隠していた場合も、他の相続人全員へ自動的に同じ結論になるわけではない。各納税者が何を知り、申告を誰に任せ、資料をどこまで確認し、隠蔽・仮装行為とどのような関係にあったかを分けて検討する。
税理士が関与したというだけで行為の帰属を決めない。誰が資料を用意し、誰が虚偽の説明をし、申告内容をどこまで共有・確認したかを整理する。本人と税理士との連絡、提出資料、申告書の確認記録を残し、納税者本人の行為として評価できるかを個別に確認する。
35%・40%は、何に掛かる数字か
過少申告に係る重加算税は原則35%、無申告に係るものは原則40%だ。ただし、この割合は税額全体に一律に掛かるのではない。
国税庁の事務運営指針は、更正等の後の税額から、隠蔽・仮装されていない事実だけに基づく税額を控除して計算する考え方を示している。正しく申告した財産に対応する税額まで35%または40%の対象になるという説明は正確でない。
過去5年以内に同じ税目で無申告加算税等を課された場合など、10%加重される規定もある。相続税は課税期間のない税であるため、反復無申告に関する別の加重規定の適用場面は限定される。本税、延滞税、配偶者の税額軽減への影響なども別に計算する。延滞税の仕組みは相続税の延滞税は日割りで増える。申告期限から始まるコストの仕組みで整理している。
財産300万円の35%ではなく、対象となる「税額」を見る
必要な計算をして、重加算税の基礎となる税額が100万円と確認されたとする。過少申告にかかる通常の35%を使い、加重などがない例なら、100万円×35%=35万円となる。
隠された財産の額に、いきなり35%を掛ける計算ではない。
また、最終的な相続税額が500万円でも、そこへ一律35%を掛けて175万円と決めるわけではない。正しく申告した部分と、不正事実に基づく部分を所定の方法で分ける。無申告に係る通常の40%で基礎税額100万円なら40万円だが、35%と40%を同じ100万円へ両方足す計算でもない。本税や延滞税、加重規定の有無は別に確認する。
必要な計算の結果、重加算税の基礎となる税額が100万円と確認され、加重などもないと仮定する。
100万円×35%
重加算税は35万円
100万円×40%
重加算税は40万円
この35万円と40万円を足す計算ではない。本税・延滞税・加重規定は別に確認する。隠された財産の額や相続税全額へ、そのまま割合を掛けない。
調査前に修正申告すれば重加算税を免れるか
国税通則法68条は、調査があったことにより更正・決定があるべきことを予知してされたのではない修正申告(少なく申告した税額などを、自分で直す手続き)・期限後申告を、重加算税の対象から除く規定を置いている。真に自発的で、調査による更正等を予知する前の申告かどうかが重要だ。
「実地調査の訪問日前に出した」「自分から修正申告書へ署名した」という外形だけでは決まらない。すでに税務署から具体的な連絡を受け、資料を指摘され、更正を予知した後であれば、同じ扱いになるとは限らない。
調査・行政指導の連絡時刻、通知内容、誤りを発見した経緯、専門家へ相談した時期を記録しておくことが、後の判断に直結する。税務調査の通知と実地調査の流れは相続税の税務調査とは|実地調査82.3%の読み方・通知・修正申告で確認できる。調査の対象になりやすい申告の特徴については相続税の税務調査は8割超?統計の正しい読み方と申告前の備えも参照してほしい。
綾は、発見日、通帳の保管場所、父の入金記録、申告時に税理士へ渡した資料を残す。拓也には、過去の管理と申告前後のやり取りを確認する。兄妹で都合のよい説明を一つにまとめるのではなく、一人ずつが何を知り、何をしたかを確かめる。
後から財産が出てきたことが怖くても、通帳を処分したり、以前から贈与があったような日付の書類を新しく作ったりしない。今分かった事実と、当時の資料を分けて保存する。誤りを直す必要と、重加算税の条件を判断する必要の両方がある。
申告前後に残しておく資料と、発見後の整理の順番
申告漏れに気づいたとき、最初に確認するのは財産の評価額だけではない。なぜ当初申告に入らなかったのかを時系列で整理することが先決だ。単なる見落としか、隠蔽・仮装と評価される行動があるかを混同しないことが重要になる。
手元に残しておくべき資料を整理すると、次のようになる。
- 金融機関別の残高証明、過去の取引履歴、解約口座、証券、保険
- 家族名義財産のお金の出どころ、贈与契約、管理者、利息・配当・払戻金の利用記録
- 現金、貸付金、未収金、国外財産、暗号資産の確認記録
- 税理士へ渡した資料一覧、質問と回答、評価根拠、申告書確認記録
- 後から財産を発見した日、修正判断、税務署との連絡経過
タンス預金や現金の扱いについては相続のタンス預金は申告が必要?発見後の記録・分割・修正申告も確認してほしい。過少申告全体の流れは相続税の過少申告と修正申告で整理している。
「35パーセント」という数字が頭にある状態で動き始めると、財産の持ち主や評価額の確認に集中しがちだ。ただ、重加算税が問うのはその数字の前にある行動だ。申告に入らなかった財産があるなら、財産の内容・申告に入らなかった理由・税理士への説明内容・調査との接触経過、この四つを時系列で書き出すことが、最初の一歩になる。手元の資料と経緯を整理してから、税理士や弁護士に相談の場を設けてほしい。
綾は、兄を問い詰める前に「何が見つかり、申告にはどう扱われていたか」を一覧にした。拓也も、税理士とのメールを取り出す。35%という数字だけを恐れて資料を出せなくなるより、確認できる事実を一つずつ増やす方が、必要な修正と今後の対応を判断しやすくなる。
条件と計算の公的説明は、国税庁の相続税・贈与税の重加算税取扱指針、国税通則法68条で確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、相続税の申告・納付・調査の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
35%は相続税全額に掛かるか
一律ではない。隠蔽・仮装に基づく税額を計算し、正しく申告した部分と分ける。
故人が他人名義にしていたら重加算税か
相続人の認識や利用、申告行為などを個別に確認する。故人の状態だけで自動適用とはならない。
財産を見落としただけで重加算税か
単なる漏れと、隠蔽・仮装に基づく申告を区別する。発見経緯と資料を残す。
現地訪問前に修正すれば免除か
訪問日前というだけで決まらない。更正等を予知する前の自発的申告かなどを確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



