家族信託とは|仕組み・できること・口座凍結との関係

家族信託とは|仕組み・できること・口座凍結との関係

母が施設へ入ることになったら、実家を売って費用に充てたい。母も、そのつもりでいる。ところが、そのとき母自身が売買の内容を判断できるとは限らない。

「娘なんだから、代わりに売ればいい」。そう簡単にはいかない。家族であることだけで、本人の不動産を処分する権限が生まれるわけではないからだ。

こうした将来の財産管理を、本人が内容を理解して決められるうちに準備する選択肢の一つが、家族信託である。財産を管理する人と、その財産から利益を受ける人を分け、目的と権限を決めておく。ただし、契約書一枚で本人の全財産や生活上の手続が一斉に娘へ引き継がれる制度ではない。

母のための財産を、娘が管理する仕組み

家族信託は、家族を中心に民事信託を利用する際の呼び方だ。基本となる信託法2条・3条は、信託と当事者の役割、設定方法を定めている。ここでは、母が娘へ財産管理を託す契約の例で考える。

役割 この例の人 何をするか
委託者 財産を託し、管理の目的や内容を定める
受託者 信託財産を目的に従って管理・処分する
受益者 信託財産から給付等の利益を受ける

母が自宅や一定の金銭を信託し、必要な管理・売却権限を娘へ与える。娘は契約に従って管理し、売却した場合には、その代金を母の生活や介護のために使う。これが一つの設計だ。

不動産の所有権を受託者へ移すことと、その不動産を娘へ贈与して自由に使わせることは違う。娘は信託目的に従って扱う義務を負い、利益を受けるのは受益者である母となる。

つまり、「名義が娘なら娘の財布」とはならない。管理を任せる話なのか、経済的な利益も渡す話なのかを分けておくことが、制度を理解する最初のポイントだ。

どの財産について、何を任せるのかを決める

自宅の維持管理、賃貸物件の修繕や賃料の受領、必要に応じた売却、生活費の給付などが検討対象となる。実際の権限は、信託の目的、契約の内容、信託財産の範囲によって決まる。

例えば「管理する」とだけ考えていたら、建替えや売却、借入れが必要になった。そうした場面に対応できるかを契約前に検討する。担保や借入れのある不動産なら、金融機関との調整も欠かせない。

また、母名義の預金すべて、今後取得する財産すべてが自動的に信託へ入るわけではない。何を信託し、何を本人名義で残すか。財産一覧に印を付けて区別すると、管理の穴が見えやすくなる。

口座凍結との関係は、本人の口座と信託のお金を分けて考える

「家族信託をすれば口座が凍結されない」という説明だけでは足りない。母が従来使っていた普通預金と、信託財産として管理する金銭は別だからだ。

金融機関が本人の判断能力低下を把握した場合の取引対応は、状況、代理権、取引の内容等で異なる。認知症の診断と同時にすべての口座が機械的に止まる、と決めつける必要はない。しかし、家族が本人の意思確認なしに自由な払戻しをできるわけでもない。

信託では、金銭をどの口座で、誰の権限により管理するかを金融機関と事前に確認する。信託口口座の取扱い、必要な契約内容、公正証書の要否、後継受託者への変更手続などは、金融機関によって異なる。

契約を完成させてから「この内容では口座を作れない」と分かると、作り直しになる。口座の確認は最後の事務作業ではなく、設計中に行う作業だ。

なお、信託法34条は金銭等について計算を明らかにする方法による分別管理を定めており、すべての信託に特定名称の銀行口座を法律上一律に要求しているわけではない。ただ、娘の生活費口座へ混ぜると管理や証明が難しくなるため、契約上の管理方法と金融機関での扱いを具体的に整える。

契約を作った後にも、受託者の仕事が続く

修繕代を払った。母の施設費を送金した。家賃が入った。それぞれの動きについて、信託のお金と娘個人のお金を区別し、資料を残す。

信託法は、信託目的に沿った事務処理、受益者への忠実義務、分別管理、帳簿等の作成・保存、報告などを定めている。家族の信頼だけで帳簿を省いてよいわけではない。

受益者への給付、費用の精算、報告の時期、必要な専門家の支援まで決めておく。将来、母が自分で報告を確認しにくくなった場合のため、信託監督人や受益者代理人等を置くかも検討する。

家族信託で、医療や介護の判断まで任せられるのか

施設費用を信託財産から支払うことと、母に代わって入居契約を結ぶことは、同じではない。受託者だからという理由だけで、本人の医療同意や身上保護の権限が当然に生じるわけではない。

信託していない財産の管理、本人が当事者となる契約や相続手続など、別の支援・代理権が必要な場面は残る。法定後見や任意後見、ほかの代理の仕組みを含め、本人に必要な支援を確認する。

制度 中心となる役割
家族信託 信託した財産の管理と承継を設計する
成年後見・任意後見 本人の判断能力に応じた財産管理や法律行為等の支援
遺言 死亡後の財産承継等を法定方式で指定する

任意後見は、契約だけで後見が始まるものではなく、家庭裁判所による任意後見監督人の選任で効力が生じる。いずれの制度も、名前だけで医療のあらゆる同意までできると考えないことが大切だ。

母が亡くなった後、娘が管理できなくなった後も考える

母の死亡で信託を終え、残った財産を誰かへ帰属させるのか。信託を続け、別の人を受益者とするのか。契約と法律の範囲で設計する。

死亡後の承継まで定めても、信託していない財産は残ることがある。遺言が不要になるとは限らない。信託契約と遺言で、同じ財産について食い違う指定をしていないかも確認したい。

受託者である娘が先に亡くなった場合には、娘の受託者としての任務は終了するが、それだけで信託全体が必ず直ちに終わるわけではない。後継受託者、選任方法、口座や登記の変更、帳簿の引継ぎを準備する。受託者不在のまま一定期間が続く場合などには、法定の終了事由も問題となる。

税金は「名義を変えただけだから」で判断しない

母が委託者・受益者で、娘が管理を担う形と、娘が利益も受け取る形とでは、課税の確認が違う。適正な対価を負担せずに受益者等となる場合などには、相続税法9条の2による贈与・遺贈のみなしが問題となる。

設定時だけでなく、受益者を変更した時、誰かが亡くなった時、信託終了時に残余財産が移る時まで確認する。不動産所得などの税務も別途検討する。家族信託を使うこと自体が、一律に相続税を減らすわけではない。

契約、公正証書、登記、専門家への依頼などの費用は、家族信託の費用内訳に整理している。公正証書が常に契約成立の必須条件というわけではないが、証拠や金融機関の取扱いも踏まえて検討する。

相談前に、家族で三つのことを言葉にする

一つ目は、何に困ることを心配しているか。自宅の売却か、賃貸物件の管理か、生活費の支払いか。

二つ目は、誰が管理を続けられるか。頼みたい家族がいることと、その人が長く事務を担えることは分けて考える。

三つ目は、信託へ入れる財産と、本人名義で残る財産。遺言、保険、借入れも一緒に見せると、制度の組合せを相談しやすい。

導入するか迷う場合は家族信託のメリット・デメリット、金融機関等の「遺言信託」との違いは民事信託と遺言信託も確認してほしい。

母の家を、母の暮らしのために使えるようにしておきたい。その希望から始めれば、必要なのは制度名のついた契約書ではなく、実際に管理と支払いが続く仕組みだと分かる。本人が内容を理解して決められるうちに、その仕組みを相談したい。

公的資料・根拠

よくある質問

家族信託で財産を渡す人は誰ですか

財産を託す人が委託者、管理等を担う人が受託者、利益を受ける人が受益者となる。委託者本人を受益者とする設計もある。

家族信託をすれば本人の全口座を使えますか

使えるわけではない。信託した金銭と本人の従来の預金を分け、契約と金融機関の手続を確認する。

家族信託の契約は公正証書が必須ですか

契約が常に公正証書でなければ成立しないわけではない。ただし証拠や金融機関の要件等から公正証書化を検討する。

信託があれば遺言や後見は不要ですか

一律に不要にはならない。信託外財産の承継や本人の法律行為・身上保護など、残る課題を確認する。

本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、相続開始日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

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相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

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