父の預金と自宅を、子が管理できるように家族信託を考える。相談先の見積りには設計料、公正証書、登記費用が並び、作った後の費用も気になる。ここで必要なのは、一つの相場の数字より、自分の計画で何にお金がかかるかを確かめることだ。
家族信託の費用は、始めるときの費用と、管理・変更・終了にかかる費用に分ける。全国一律の総額はなく、不動産の有無、信託の内容、専門家に依頼する範囲で変わる。公的に決まる手数料や税金と、契約で決まる報酬を分けて見ていこう。
初期費用は四つに分けて見積もる
- 相談・設計・契約書作成などの専門家報酬。
- 公正証書を作る場合の公証人手数料等。
- 不動産を信託する場合の登記の登録免許税と司法書士報酬。
- 証明書の取得、金融機関の手続などの実費。
預金だけを信託する案と、自宅や賃貸不動産まで入れる案では、必要な登記も管理の手間も違う。財産をすべて入れることを前提にせず、何を管理できるようにしたいかを先に整理する。制度の基本は家族信託とはで説明している。
専門家報酬は「財産額の何%」だけで比べない
信託の設計料や契約書作成料に、全国共通の法定報酬はない。定額、財産額を基準にする方式、業務ごとの加算などがあり、同じ表示額でも含まれる仕事が違う。
家族の希望を整理し、受託者・受益者を決め、財産の範囲や売却権限、後任、終了条件まで設計する作業と、契約案の作成だけでは内容が異なる。税務の確認、公証役場との調整、登記、金融機関との手続支援が含まれるかも聞いておく。
比較するときは、税込の報酬、実費、追加報酬が生じる条件、含まれない業務を並べる。基本料金の安さだけでなく、その金額で管理を開始できるところまで進むかが判断のポイントになる。
信託契約は、公正証書が常に必須ではない
契約による信託は、原則として委託者と受託者の信託契約により効力が生じる。家族間の信託契約をすべて公正証書にしなければ無効になる、という仕組みではない。自己信託など、設定方法の異なるものとは区別する。
ただし、本人の意思や内容を明確にし、後の手続で使える形にするため、公正証書で作成する意義はある。金融機関側の取扱条件もあるので、「法律上必須ではない」ことと、「自分が予定する運用先で不要」であることは別だ。契約を確定する前に、利用先へ案を示して確認したい。
公証人手数料は、基本額と加算を分ける
法律行為に関する公正証書の基本手数料は、目的価額に応じて決まる。現行の公証人手数料令では、目的価額が500万円を超え1,000万円以下なら2万円、1,000万円を超え3,000万円以下なら2万6,000円、3,000万円を超え5,000万円以下なら3万3,000円だ。
信託契約の公正証書では、信託財産の価額が1億円以下の場合、同令22条の2による1万3,000円の加算がある。遺言に関する手数料の適用を受ける場合は別に扱われる。
たとえば、基本手数料の目的価額を1,000万円として計算し、この信託加算が適用される例なら、2万円と1万3,000円で3万3,000円となる。これは枚数や交付等に関する費用を含めた最終総額ではない。目的価額の算定も含め、公証役場に契約案を示して見積りを確認する。
専門家が契約を設計・作成する報酬と、公証人へ支払う手数料は別だ。公証人手数料だけを見て「この金額で家族信託が全部できる」と考えないようにしたい。
不動産の信託登記には、土地と建物で税率の違いがある
委託者から受託者へ、信託のために不動産の所有権を移す登記については、登録免許税法7条の非課税規定がある。一方、これと併せて行う信託の登記そのものには登録免許税がかかる。「所有権移転が非課税だから登記の税金はゼロ」とはならない。
所有権の信託登記は原則0.4%。土地については租税特別措置法72条の軽減により、2029年3月31日までの登記は0.3%となる。建物にも同じ0.3%を掛けるのではない。
たとえば、登記の課税標準となる価額が土地2,000万円・建物500万円の例なら、土地は6万円、建物は2万円で、信託登記の登録免許税は合計8万円となる。ここには司法書士報酬や証明書の実費は含まれない。
これは、所有する不動産を信託する場合の例だ。受託者が信託財産で新しく不動産を購入する場合などは、所有権移転の税金の扱いも異なる。担保付き不動産、農地、借入れがある場合も、最初に事情を伝えて確認する。
開始後の管理にも、費用と作業が残る
家族が無報酬で受託者を引き受ける場合でも、管理が無作業になるわけではない。入出金や財産の記録、必要な計算・報告、受益者への給付などを続ける必要がある。管理する人が実際に対応できるか、作成段階で一緒に確認したい。
- 金融機関の口座や送金等に伴う手数料。
- 不動産の修繕、保険、固定資産税、管理委託などの支出。
- 受託者や監督を担当する人へ支払う報酬を定める場合の費用。
- 会計・税務申告や継続相談を依頼する場合の専門家報酬。
固定資産税や修繕費は、信託をしなくても必要となる費用を含む。家族信託にしたことで新たに増える費用と、財産を持っているために必要な費用を分けると、負担を比較しやすい。
また、信託を使うだけで相続税や贈与税が消えるわけではない。誰が利益を受けるか、途中で受益者が変わるかなどに応じて税務を確認する。
変更・交代・終了の費用も、最初に聞いておく
受託者が病気になった、家を売った、当初の受益者が亡くなった。契約を作った後にも、連絡、財産の引継ぎ、登記や税務の手続が必要になることがある。後任や終了後の帰属先を定めるときに、その手続と費用まで確認する。
信託終了後の不動産の移転は、誰に引き継ぐかや受益者の経過によって、登録免許税の扱いが変わる。設定時と同じ税率を当然に使うことはできない。信託登記の抹消や専門家への報酬も含めて確認する。
開始時の契約に、変更や終了の支援まで含まれるとは限らない。継続契約の有無、年間費用、個別対応の料金、依頼先が対応できなくなった場合の資料の引継ぎを聞いておくと安心だ。
見積りを取る前に決めたいこと
- 目的:預金の管理、自宅の売却、賃貸経営など、何をできるようにしたいか。
- 財産:預金、不動産、借入れ等の種類と資料。
- 役割:管理をする人、利益を受ける人、確認する人、後任。
- 期間:いつから始め、どのような場合に終了するか。
- 依頼範囲:設計から管理開始まで、税務、開始後の相談を誰に任せるか。
ペットの飼育費を残す場合などは、財産管理だけでなく世話の引継ぎも必要になる。ペット信託の仕組みと準備で、具体的に決める事項を説明している。
遺言や後見などほかの方法も含め、目的に合う方法を比較したうえで見積りを取る。費用を払って契約書を作るところで終わらず、家族が実際に管理を始め、必要なときに引き継げる内容になっているかを確認したい。
公的資料・根拠
よくある質問
家族信託の費用に全国一律の相場がありますか
一律の法定総額はない。公的手数料と登録免許税、専門家報酬、実費、開始後の費用を分けて比較する。
家族信託は必ず公正証書にしなければ無効ですか
契約による信託が常に公正証書を要するわけではない。ただし、本人意思の確認や金融機関の取扱条件などを踏まえ、作成方法を確認する。
信託の所有権移転が非課税なら登記の税金はゼロですか
所有権移転分と信託登記分は別だ。信託の登記自体には登録免許税がかかる。
土地と建物の信託登記は同じ税率ですか
原則は0.4%だが、土地は2029年3月31日までの登記について0.3%の軽減がある。建物にも同じ軽減を当てはめない。
作成費用に終了手続まで含まれますか
当然には含まれない。変更、受託者交代、終了時の登記・税務・専門家報酬を別に確認する。
本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、相続開始日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。



