- 信託の目的と当事者を定める
- 信託財産を特定し、移転方法を決める
- 受託者の権限・義務・同意事項を定める
- 口座・帳簿・報告による分別管理を設計する
- 受託者交代、変更、終了、残余財産まで決める
家族信託の契約書は、ひな型の空欄を埋めれば完成するものではありません。誰のどの財産を、誰が、何のために、どこまで管理・処分し、いつ誰へ引き継ぐかを一つの仕組みにする文書です。
信託法3条は信託契約、遺言、自己信託の3方法を定め、4条は効力発生時期を分けています。委託者と受託者の信託契約は、法律上すべて公正証書でなければ成立しない制度ではありません。ただし、対象財産の移転・登記、金融機関の手続、後日の立証まで考えると、契約書を作成し、事案に応じて公正証書化を検討する実務上の意味があります。
信託の成立と書面・公正証書を分ける
| 方法 | 効力発生 | 書面の位置付け |
|---|---|---|
| 信託契約 | 委託者と受託者の契約締結時 | 公正証書は一律の成立要件ではない |
| 遺言による信託 | 遺言の効力発生時 | 民法所定の遺言方式が必要 |
| 自己信託 | 公正証書等による意思表示時など | 信託法3条3号・4条3項の特則がある |
「家族信託は必ず公正証書」「契約書さえ署名すれば全財産が自動的に信託財産になる」という説明は、方法と財産移転を混同しています。不動産なら所有権移転と信託の登記、金銭なら信託財産としての送金・管理、株式なら会社法・定款・株主名簿等の手続を別に確認します。
最低限確認したい契約項目
- 委託者、受託者、受益者と後継受託者
- 信託目的と受益者への給付内容
- 不動産、金銭、株式等の信託財産目録
- 管理、賃貸、修繕、売却、借入れ、担保設定等の権限
- 重要行為に必要な受益者・信託監督人等の同意
- 帳簿、計算期間、報告、費用、報酬、税務申告
- 受託者の辞任・解任・死亡・能力低下時の交代
- 変更方法、終了事由、清算、残余財産の帰属先
信託法26条は、受託者が信託目的達成のため必要な行為をする権限を有し、信託行為で制限できると定めます。したがって「契約に個別列挙がない権限はすべてゼロ」とは限りません。一方、金融機関・買主・登記実務で権限を説明するため、重要な管理処分権限は具体化しておく方が安全です。
信託財産は特定し、実際に移す
不動産は登記事項、預金原資は金額・送金元・管理口座、株式は会社名・種類・株数などで特定します。「現在および将来の一切の財産」のような包括表現だけで、未移転の財産まで当然に信託財産になるとは限りません。
契約締結日、財産移転日、信託登記日、口座開設日がずれる場合もあります。契約書と登記・送金・株主名簿等を照合し、信託財産目録を更新します。追加信託を予定するなら、追加できる財産、手続、受託者の受領、目録更新を定めます。
口座名ではなく分別管理の実態を作る
信託法34条は分別管理義務を定め、金銭についてはその計算を明らかにする方法を掲げています。信託口口座は有力な手段ですが、全ての信託契約の一律の成立要件ではありません。
契約で信託口口座の使用を定めた場合は、その条項に従う必要があります。金融機関がどの名義・内部管理で扱うか、受託者死亡・交代・差押え時にどう処理するかを開設前に確認します。詳しくは家族信託の口座管理を参照してください。
受託者の義務と監督を設計する
受託者には善管注意、忠実、利益相反の制限、分別管理、帳簿・報告等の法定義務があります。家族だから監督不要とはせず、年1回などの報告時期、領収書・通帳・帳簿の保存、重要行為の同意、受益者代理人・信託監督人の要否を決めます。
名古屋高裁平成25年4月3日判決は、受益者に指示権があることだけで受託者の管理処分権限が否定されるわけではないと判断した事案です。各契約の権限配分は条項全体と実態から確認し、この判例だけで任意の契約が有効と断定しません。
終了時から逆算する
委託者・受益者の死亡、目的達成、信託期間満了、合意などの終了事由を定めます。終了後は直ちに財産が自動移転して全手続が終わるわけではなく、清算受託者による債務弁済、残余財産の給付、不動産登記、口座解約、税務確認が必要です。
後継受託者が就任しない場合、受託者が欠けた状態が1年続くと終了事由になり得ます。第一候補だけでなく予備候補と選任方法、連絡先、引継資料を定めます。家族信託全体の基本は家族信託とはも併せて確認してください。
財産別に契約後の手続を決める
| 財産 | 契約後の主な手続 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 不動産 | 所有権移転・信託登記、保険、管理会社への連絡 | 登録免許税、抵当権、売却・借入権限 |
| 金銭 | 専用口座等への送金、帳簿開始 | 固有資金との混在、生活費の給付方法 |
| 株式 | 会社・証券会社の取扱い、名義・議決権確認 | 定款、譲渡制限、配当・議決権行使 |
| 賃貸物件 | 賃料口座、管理委託、賃借人・保証会社対応 | 敷金、修繕、税務申告、売却権限 |
契約書作成と財産移転を別担当者が行う場合、誰がどの完了資料を確認するかを決めます。契約書だけ完成して登記・送金が未了という状態を残さないため、財産ごとの完了日と証拠を一覧にします。
税金と信託の会計を契約前に確認する
家族信託を設定しただけで相続税が当然に下がるわけではありません。委託者・受託者・受益者の組合せ、受益権の移転、信託終了後の帰属により、所得税、贈与税、相続税、不動産取得税、登録免許税等の検討が必要です。
賃料・配当等の収入、固定資産税・修繕費等の支出、受益者への給付を帳簿で追えるようにします。受託者個人の確定申告だけを見ても信託財産の計算が分からない状態を避け、法定調書や税務署への提出の要否も確認します。
変更条項と合意権者を明確にする
信託期間中に、施設入所、建替え、売却、受益者の変更、受託者交代、税制・金融機関取扱いの変更が起こり得ます。委託者・受託者・受益者の合意で変更するのか、信託目的に反しない範囲で誰が決めるのかを定めます。
委託者が認知症等で意思表示できなくなった後に、当初契約の不足を単純な三者合意で直せるとは限りません。将来必要になり得る処分・給付・交代を契約時に洗い出し、信託法149条以下の変更規定と契約条項を照合します。
締結前の最終チェック
- 財産目録と登記・通帳・株主名簿が一致しているか
- 信託目的と受託者の権限が対応しているか
- 金融機関・公証人・登記担当者へ事前確認したか
- 受託者の報告先と重要行為の同意者が決まっているか
- 後継受託者と残余財産帰属者が実際に就任・取得できるか
- 税務試算と信託を使わない代替案を比較したか
本記事は一般的な信託法と契約設計の説明です。契約方式、金融機関、登記、税務、受託者交代は個別事情で変わります。実行前に最新法令・取扱いと専門家の確認を併用してください。



