実家をどうするか、預金をどう分けるか。兄弟で何度話しても同じところに戻り、次の連絡をするのも気が重くなる。遺産分割調停は、こうした話合いを家庭裁判所の手続に移し、資料とそれぞれの希望を整理する方法だ。
申立てに、他の相続人の事前の同意は要らない。ただし、対立している兄弟だけを相手にすればよいわけでもない。まず遺産分割の当事者を全員確認し、提出先と必要書類をそろえる。ここでは申立ての準備から、成立・不成立後の手続までを順に見ていく。
調停を申し立てる前に、対立点を分けておく
民法907条2項は、協議がまとまらない場合や協議できない場合に、家庭裁判所へ分割を求めることを認める。「話合いを何回したか」「何か月待ったか」という一律の条件を満たすために、協議を続ける必要はない。
ただ、申立書に家族への不満をすべて並べても、どの財産をどう分けたいのかは伝わりにくい。不動産を売るか残すか、預金額に認識の違いがあるのか、生前贈与や介護の貢献を考慮してほしいのかを分ける。
たとえば「兄だけが得をしている」を、送金の時期と額、その資料、分割への反映を求める理由に整理する。事実と希望を区別しておくと、裁判所にも他の当事者にも説明しやすくなる。
1.申立人と相手方を確定する
共同相続人の1人又は複数人が申立人になり、ほかの遺産分割の当事者全員を相手方にする。包括受遺者や相続分譲受人も当事者になり得るため、戸籍だけでなく遺言や相続分譲渡の有無も確認する。
相続放棄をした人は、通常の相続人として分割に参加する立場ではない。死亡している子の代襲相続、養子、相続開始後に相続人自身が亡くなった場合なども、関係を整理する必要がある。
「こちらの案に賛成しているから」という理由で、申立人にも相手方にも入れずに済ませない。未成年者と親権者がともに相続人となるなど、利益が対立する場合には、特別代理人等の対応を確認する。行方不明や判断能力の問題がある場合も、先に裁判所や弁護士へ事情を伝えたい。
2.申立先の家庭裁判所を確認する
遺産分割調停の申立先は、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定めた家庭裁判所だ。被相続人が最後に住んでいた場所や、実家がある場所へ当然に提出するという基準ではない。
相手方が複数の地域に住んでいるなら、そのうち1人の住所地に管轄があるかを確認する。別の裁判所にしたい場合は、合意管轄の書面など必要な手続を確認する。提出前に裁判所の案内を見て、書式と郵便料の納付方法をそろえる。
3.申立書と資料を準備する
申立書・事情説明書等
裁判所の標準案内では、申立書1通と相手方人数分の写し、事情説明書、進行に関する照会回答書などが必要になる。当事者、被相続人、遺産、申立ての理由を、添付資料と食い違わないように記載する。
申立先の書式を使い、分からない欄は何が未確認かを整理する。裁判所に伝えたい事情と、遺産の内容を示す目録を混ぜず、資料の番号と対応させると確認しやすい。
戸籍・住所の資料
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍。
- 相続人全員の戸籍謄本。
- 相続人全員の住民票又は戸籍附票。
- 死亡した子や代襲者がいる場合、直系尊属・兄弟姉妹が相続する場合などに必要な追加の戸籍。
必要な戸籍の範囲は相続関係で変わる。法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合もあるので、申立先へ確認する。裁判所の案内では、申立前に入手できない戸籍等を申立後に追加提出することも認めている。資料が一部そろわないからと、期限の検討まで止めないようにしたい。
遺産と主張を裏付ける資料
不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、通帳の写しや残高証明書、有価証券の資料等を用意する。遺産目録には、資料で分かる内容と、調査中の内容を分けて記載する。
評価額に争いがあるなら査定等の資料、生前贈与を問題にするなら送金記録、寄与分を主張するなら具体的な貢献とその裏付けを整理する。取引履歴は、誰がいつ何をしたかを確認するために役立つが、出金の事実だけで横領や贈与と断定しない。
4.印紙・郵便料を用意して提出する
裁判所の案内による申立手数料は、被相続人1人につき収入印紙1,200円分だ。相続人1人につき1,200円という計算ではない。別に連絡用の郵便料が必要で、額は裁判所ごとに異なる。
郵便料は保管金として納付でき、郵便切手での納付も可能とされている。申立先の最新案内で方法を確認する。戸籍等の取得費、不動産の鑑定が必要な場合の費用、弁護士へ依頼する場合の報酬も、申立手数料とは別に見込む。
提出した後に補正や追加資料を求められたら、何をいつまでに出すかを確認して対応する。申立書を出すことは出発点であり、裁判所がすべての財産や使途不明金を代わりに調査してくれると考えないことが大切だ。
5.調停では、分け方を実行できる条件まで話し合う
調停では、当事者から事情や希望を聴き、資料や評価を確認しながら合意を目指す。実家を取得する人が代償金を払うなら、金額だけでなく支払える資金と時期も問題になる。売却するなら、売却方法や費用負担も整理する。
調停委員会に説明する際は、譲れない点、調整できる点、追加確認が必要な点を分けておく。対立している相手への感情と、分割条件を判断する資料を分けることで、次に解決すべき問題が見えやすくなる。
相手が協議に応じない段階の対応は遺産分割を拒否された場合、進行が止まりやすい理由は遺産分割調停が長期化する場合も参照してほしい。
成立すれば調停調書、不成立なら原則として審判へ
遺産分割の合意が成立し、調停調書に記載されると、その記載は確定した審判と同一の効力を持つ。取得する財産や支払条件を確認し、登記・払戻し等に必要な手続を進める。
話合いがまとまらず調停不成立で終了した場合は、原則として自動的に審判手続へ移り、裁判官が分割方法を判断する。通常、新たに遺産分割の訴訟を起こすという流れではない。審判へ移れば資料不足が解消されるわけではないので、調停中から主張と根拠を整理しておく必要がある。
一方、そもそも財産が被相続人のものかという争いや、使途不明金の返還請求などは、別の民事訴訟が必要になる場合がある。死亡前の出金、死亡後の処分、現に残っている預金を区別し、遺産分割で扱う範囲を確認する。
死亡後に処分された遺産を、民法906条の2の同意の仕組みにより分割対象に含める方法などもある。「出金があれば全部分割で解決できる」「必ず全部別訴」という両極端には考えない。残っている預金の扱いは死亡後の口座凍結と払戻し制度に整理している。
相続開始から10年が近い場合は、申立時期も確認する
民法904条の3は、相続開始から10年を経過した後の分割について、原則として特別受益・寄与分を反映した具体的相続分による扱いを制限する。遺産分割そのものができなくなる期限ではない。
10年経過前の家庭裁判所への分割請求や、やむを得ない事由がある場合には法律上の例外がある。2023年4月1日より前に開始した相続については経過措置もあり、相続開始から10年が経過する時と、2028年3月31日までの猶予の関係を確認する。古い相続だから既に主張できない、と自己判断しないでほしい。
全員の合意により特別受益等を考慮して分ける余地と、裁判所で主張を反映できるかは分けて考える。期限が近いなら、協議だけを続けず申立ての要否を相談する。取り下げた後の影響も含めて判断したい。
相談には、遺産一覧と「合意できない理由」を持っていく
弁護士への依頼は一律に必須ではないが、当事者の範囲、使途不明金、特別受益・寄与分、不動産評価に争いがあると、手続と主張の組立てが複雑になる。
相続関係、分かっている遺産、手元の資料、これまでの協議案、自分が希望する分け方をまとめて相談する。申立書の準備だけか、調停の代理から審判まで頼むかも確認するとよい。家族で同じ話を繰り返す状態から、資料をもとに判断できる手続へ移すことが、申立ての意味になる。
公的資料・根拠
よくある質問
他の相続人が反対していても申し立てられますか
事前の同意は申立ての要件ではない。申立人以外の遺産分割当事者全員を相手方として、必要な資料をそろえる。
申立先は亡くなった人の最後の住所地ですか
調停は相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、又は当事者が合意で定めた家庭裁判所が原則だ。
費用は相続人1人につき1,200円ですか
申立手数料は被相続人1人につき収入印紙1,200円分だ。別に郵便料、資料取得費等がかかる。
戸籍が全部そろうまで申し立てられませんか
裁判所の案内では、入手できない戸籍等を申立後に追加提出することも認めている。不足内容と申立時期を申立先に確認する。
調停が不成立になったら訴訟を起こしますか
遺産分割は原則として自動的に審判へ移る。ただし、遺産の帰属や返還請求等の別の争いについて民事訴訟が必要になる場合がある。
10年過ぎたら遺産分割を申し立てられませんか
分割そのものができなくなるわけではない。特別受益・寄与分に関するルール、法定例外、施行前の相続に関する経過措置を確認する。
本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、相続開始日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。



