相続時精算課税を選ぶと、同じ贈与者について暦年課税へ戻れない。贈与した財産の価額も、原則として相続時の税計算へ加える。
生前にまとまった財産を移す方法の一つだが、贈与税だけで決めると、後から不利益に気づく場合がある。
父の啓吾は、賃貸不動産を娘の紗良へ生前に渡したい。紗良は年110万円の基礎控除に関心がある。弟の悠は、父が後で自宅も渡す場合や、物件が値下がりした場合が気になる。
架空の家族で、贈与、相続、生活資金を同じ条件で比べよう。
2024年以後の年110万円の基礎控除で、少額の贈与にも使いやすくなった。
制度を一律に避けるのではなく、財産、家族関係、値動き、相続まで含めた税負担を比べ、選んだ理由を残そう。
1 同じ贈与者について、暦年課税へ戻れない
父について選ぶと、その年以後の父からの贈与は、原則として精算課税になる。翌年だけ暦年課税を使ったり、贈与のない年を挟んで選び直したりはできない。
養子縁組を解消し、今相続が始まれば相続人となる推定相続人の地位を失っても、選択が自動的に消えるわけではない。
父について選んでも、母の贈与へ自動的に広がるわけではない。贈与者との組合せごとに、過去の届出と今後の予定を調べよう。
年110万円だけが目的でも、後に同じ父から自宅や自社株を受け取る可能性まで考える。
2 2,500万円の特別控除は、相続税の非課税枠ではない
2024年以後の贈与は、年110万円の基礎控除を引いた残額を、原則として相続時に加える。
贈与税で使う累計2,500万円の特別控除は、この加算額を減らす控除ではない。
紗良が2026年に父から2,000万円を受け、ほかに精算課税の贈与がなければ、110万円を引いた額は1,890万円だ。
特別控除が十分残り、期限内に申告すれば贈与税は0円でも、父の相続時には原則として1,890万円を加える。
精算課税の加算には、暦年課税の3年・7年という期間を当てはめない。長く持てば対象から外れるとは限らない。
納めた贈与税を相続時に引き、引ききれない分の還付を受ける仕組みはあるが、贈与時と相続時の両方で計算が要る。
贈与税0円と、将来加える1,890万円は別の数字だ。1,890万円を、そのまま相続税として払う意味ではない。
生前に移す財産を将来の相続税で精算する仕組みで、相続税まで2,500万円を免除する制度ではない。
3 値下がりすると、贈与時の価額が重くなることがある
相続時に加える額は、原則として贈与時の価額を基にする。2,000万円の財産が相続時に1,200万円へ下がっても、通常の値下がりだけで加算額を1,200万円へ変えることはできない。
贈与時期や、年110万円をどう分けたかに応じた元の計算が残る。
値上がりした場合は、贈与時の価額を基に加える点が有利に働くこともある。
将来の価格は確実ではない。「必ず上がる」と決めず、上昇、横ばい、下落の三つで試算しよう。
賃貸不動産なら、贈与後の家賃を誰が受け取るかも比べる。財産を本当に移せば、その後の収益を子が得る形になる。子の所得税、修繕、空室、管理の負担も調べよう。
所有権を贈るだけで、親の借入金も自動的に子へ移るわけではない。借金を引き受ける合意、担保、金融機関の承諾等は別に確認する。収入だけを節税の効果として数えないことが大切だ。
災害による損失は、所定の特例を別に検討する
2024年以後の災害で、贈られた土地・建物に一定の物理的損失が出た場合は、別の特例がある。税務署長の承認を受ければ、相続時に加える額を調整できる場合がある。
所定の被災割合10分の1以上、贈与日から災害日までの継続所有等が条件だ。被害を受けた時期や、申請期限等も確認する。
単なる市場価格の下落や周辺環境の悪化による値下がりは、この特例の対象ではない。被災写真、修復見積、保険金の資料等を残し、国税庁の災害特例の案内で申請期限と必要書類を確認する。
2026年に2,000万円の財産を贈り、年110万円を引いた前の例だ。通常の値下がりで1,200万円になったとする。
1,200万円
将来の売却で得られる額は、価格や費用も含めて別に確認する。
2,000万円 − 110万円
= 1,890万円
通常の値下がりだけでは、1,200万円へ変わらない。
差の690万円は、そのまま追加で払う税額ではない。課税の基になる価額と、計算した税額を分けよう。
4 贈与した土地には、小規模宅地等の特例を使えない
精算課税で贈与された宅地等には、贈与者の相続税を計算するとき、小規模宅地等の特例を使えない。
相続税の計算へ加えることと、相続で取得した土地として特例を使うことは、同じではない。
自宅の土地を相続で受け継ぎ、特定居住用宅地等の条件を満たすなら、330平方メートルまで80%の減額を受けられる場合がある。
生前贈与と比べるときは、評価額だけでなく、取得者や居住・保有の条件も調べよう。
ただし、精算課税を一度選ぶと、別に相続するすべての土地まで小規模宅地等の特例が使えなくなるわけではない。対象外となるのは精算課税の贈与で取得した宅地等であり、別の土地を相続した場合には、その土地ごとに条件を判断する。根拠は国税庁の小規模宅地等の特例にある。
5 贈与税以外の費用と、申告の手間が生じる
不動産を贈るなら、登録免許税、不動産取得税、登記・評価の費用も調べる。精算課税は、贈与税の計算方式だ。これらを一律に免除するものではない。
相続で移す場合の税率や非課税との違いも、見積りへ入れよう。
最初の選択届出は、原則として贈与の翌年2月1日〜3月15日に必要だ。特別控除2,500万円を使うには、期限内申告も要る。
税額0円だから何も出さない、資料がそろった後で届ければよい、とは考えないようにしよう。
110万円以下と判断して申告を省き、後で土地や株式の評価が上回ると分かる場合がある。期限後の申告では、特別控除を使えない問題が生じる。
現金と違って価額が分かりにくい財産は、贈る前から評価資料をそろえよう。
6 贈与を受ける人が先に亡くなると、権利と義務の引継ぎが問題になる
子が父から贈与を受け、父より先に亡くなる場合も考える。精算課税に伴う納税の権利と義務は、原則として子の相続人等へ引き継がれる。
贈与者の父自身は引き継がない。父だけが相続人の場合等には、別の扱いがある。
子の配偶者と子供が引き継ぐ場合、後に父が亡くなった際の精算手続にも関係する。子が先に亡くなれば制度が自動的になくなると考えず、国税庁の納税義務の承継の説明に沿って確認する。
贈与契約、年別計算、選択届出、評価資料を、受け取った本人だけが知っていると、家族が後で申告しにくい。
資料の場所と相談先も伝えておこう。
悠は、自分の取り分や遺留分も、父の希望と合わせて確かめたいと話した。遺留分は、一定の近い家族に保障される最低限の取り分だ。
紗良が収益物件を受け取ること、家族の配分、贈与税の方式は別の問題だ。税の試算だけで配分まで決まったと考えず、各人の権利と父の意思を整理しよう。
選択前に、三つの方法を同じ条件で比較する
| 方法 | 比較する点 |
|---|---|
| 暦年課税 で贈与 |
年ごとの贈与税、亡くなった時の取得財産と加算期間、将来の贈与計画。 |
| 精算課税 で贈与 |
年110万円、特別控除残額、贈与時評価による精算、撤回不可、収益と管理の移転。 |
| 相続まで 保有 |
亡くなった時の評価、小規模宅地等の特例、遺産分割、承継までの収益と管理。 |
試算には、父の財産・借金全体、相続人、贈る財産の評価、過去の贈与、納税資金、ほかの家族への配慮を入れる。
税理士へ税負担と申告条件、弁護士へ契約や特別受益・遺留分との関係を確認し、選択の影響を整理しよう。
基本条件は相続時精算課税の仕組み、数値の比較は2,500万円の計算例で確認できる。
啓吾と紗良は、贈与時の価額2,000万円、贈与税の見込み、将来の加算1,890万円、収支と管理負担を別の欄にした。
悠も、自宅を相続まで残す案を一緒に比べる。戻せない選択の前に、父の生活資金と後の手続まで考え、理由を残そう。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前贈与の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
精算課税から暦年課税へ戻れるか
同じ特定贈与者からの贈与については戻れない。別の贈与者については、それぞれの選択状況で判断する。
精算課税を選ぶと全不動産で小規模宅地特例が使えないか
一律には使えなくならない。精算課税で贈与取得した宅地等は対象外だが、別に相続する土地はその土地の条件を確認する。
贈与した株や土地が下落したら税負担も下がるか
通常の値下がりでは、贈与時の価額を基にした相続時加算が残る。一定の災害による物理的損失には別の特例がある。
贈与税0円なら費用はかからないか
不動産なら登録免許税、不動産取得税、登記・評価等の費用を確認する。精算課税はこれらを一律に免除する制度ではない。
贈与を受ける人が先に死亡すると精算は不要か
通常は贈与を受ける人の相続人等が納税の権利と義務を引き継ぐ。特定贈与者は承継せず、その人しか相続人がいない場合などは別の扱いとなる。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



