実家を相続したが、兄弟の返事がそろわず登記が進まない。相続人が複数いる場合でも、全員の署名が集まるまで、どの手続も一切できないわけではない。
まず、全員の法定相続分を登記する方法、自分が相続人であることを申し出る相続人申告登記、遺産分割や遺言に基づく登記を区別する。「1人でできる」の意味と、その後に残る手続がそれぞれ異なる。
3つの方法は、登記される内容が違う
| 方法 | 1人で進められる範囲と結果 |
|---|---|
| 法定相続分の共同相続登記 | 相続人の1人が、全員の法定持分をまとめて申請できる。全員の氏名・住所・持分が登記される。 |
| 相続人申告登記 | 自分が相続人である旨を申し出る。原則として申出人の基本的義務を履行するもので、持分や最終取得者は公示しない。 |
| 遺産分割・遺言による登記 | 有効な協議や遺言に基づき、取得者が申請できる類型がある。合意の成立や遺言の内容を示す資料は必要。 |
登記申請を1人で提出できることと、遺産分割の配分を1人で決められることは別だ。遺産分割協議に基づいて自分だけの名義へ移すなら、その前提となる全員の合意を示さなければならない。
法定相続分による登記は、1人から全員のために申請できる
分割前の遺産は共同相続人の共有となり、法定相続分による共同相続登記は、財産の状態を守る保存行為として、相続人の1人が全員分を申請できる。
例えば、遺言がなく、父の相続人が子2人だけで、各2分の1の法定相続分となる単純な例では、子の1人が「子A持分2分の1、子B持分2分の1」とする登記を申請できる。これは手続を説明するための例であり、実際には戸籍、遺言、相続放棄等を確認して割合を確定する。
自分の2分の1だけを登記し、残り2分の1を亡くなった父の名義で残すという申請はできない。相続人全員の氏名・住所・相続分を確認する必要があり、他の相続人の協力が不要な場面でも、戸籍や住所資料の収集は省略できない。
具体的な申請人の記載は、法務省の法定相続編ハンドブックで確認できる。相続関係が複雑な場合は、取得済みの戸籍と不足箇所を示して、司法書士等へ確認する。
申請しない相続人への登記識別情報も確認する
法定相続分の登記で名義人になることと、その人に登記識別情報が通知されることは同じではない。相続人の1人だけが申請人となる場合、申請人とならなかった相続人には登記識別情報が通知されない。
登記識別情報は、将来の売却や担保設定等で、名義人本人であることを確認するために使う情報だ。通知されなかったから所有権がないという意味ではないが、後の手続では、識別情報に代わる本人確認の方法を検討する必要がある。
全員が申請人となり、代表者に申請を委任する方法と、1人だけが保存行為として申請する方法では、代理権限や通知の扱いが異なる。単に「代表者が提出する」と決めず、誰を申請人とし、何を委任するかをそろえる。
相続人申告登記は、自分の義務を簡易に履行する方法
相続人申告登記は、登記名義人が亡くなり相続が開始したことと、自分がその相続人であることを、戸籍等を添えて申し出る制度だ。2024年4月に始まり、相続人全員と持分を確定する通常の相続登記とは異なる。
- 特定の相続人が1人で申し出られる。
- 自分の相続関係を証明し、基本的には申出人について申請義務を履行する。
- 自分が申し出ただけで、他の相続人全員の義務まで履行したことにはならない。
- 複数人の連名や、委任を受けた代理申出で、まとめて手続することもできる。
- 所有権や持分を公示しないため、これだけで売却や担保設定を進めることはできない。
例えば子Aが自分について申し出ても、子Bについての義務が自動的に済むわけではない。家族で手続を分担する場合は、誰の申出が受け付けられたかを確認する。詳しくは法務省の義務化Q&Aを参照する。
基本の3年と、分割成立後の3年を分けて管理する
基本的な期限は、自己のために相続が開始したことと、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内となる。一律に死亡日から全員同じ期限ではない。2024年4月より前から取得を知っていた未登記不動産は、原則2027年3月31日までという経過措置も確認する。
法定相続分で登記した後に分割した場合
法定相続分による登記の後、遺産分割で法定相続分を超えて所有権を取得した人は、分割の日から3年以内にその内容を反映する登記を申請する(不動産登記法76条の2第2項)。
先の子A・子B各2分の1の例で、その後の分割によりAが全部取得すると決まった場合には、Aの取得内容に合わせた登記が必要になる。法定相続分の登記をしただけで、分割が完成するわけではない。
相続人申告登記の後に分割した場合
相続人申告登記をした人が、その後の遺産分割で所有権を取得した場合は、原則として分割の日から3年以内に登記を申請する(同法76条の3第4項)。こちらを「法定相続分を超えて取得した場合だけ」と限定して考えない。
相続人申告登記は、既に成立した遺産分割に基づく登記義務や、分割後の追加義務を代わりに済ませる制度ではない。詳細は現行の不動産登記法と法務省の義務化案内で確認する。
遺言・協議があるときは、その内容に基づいて申請する
遺産分割協議によって1人が取得すると決まっているなら、協議書等を用いてその取得者への登記を検討する。相続人に対する遺贈も、2023年4月から受遺者の単独申請が可能になった。ただし、相続人以外への遺贈などは申請構造が違うため、同じ説明をそのまま当てはめない。
遺言の有効性や相続人の範囲が争われている場合は、書類をそろえれば必ず登記できるという問題ではない。必要に応じて、調停・訴訟や適法な代理人の選任を検討する。連絡に応じない相続人の署名を、他の人が代わりに書いてはいけない。
申請方法を決める前に共有する資料
- 物件一覧と登記事項:名義、住所、持分、担保の有無。
- 相続人一覧:戸籍で確認した関係、死亡・放棄・海外居住等。
- 遺言・協議の状況:有無、原本、未合意の点。
- 期限表:取得を知った日、過去相続の経過措置、分割成立日。
- 今後の予定:居住を続けるか、売却するか、誰が費用を負担するか。
いったん法定相続分で登記してから取得者を変えると、追加の申請や費用が生じる場合がある。一方、最終合意だけを待って期限を放置することも避けたい。売却予定と合意の見込みを踏まえ、通常の相続登記と申告登記の役割を選ぶ。必要資料は相続登記の必要書類で確認できる。
よくある質問
相続人の1人だけで共同相続登記を申請できるか
全員の法定相続分をまとめて申請できる。自分の持分だけを登記する方法ではなく、全員の相続関係や住所等を確認する必要がある。
申告登記を1人がすれば全員の義務が済むか
その人が自分について申し出ただけでは、他の相続人の義務は済まない。連名や代理申出を含め、誰について手続したかを確認する。
1人で登記申請できるなら、配分も1人で決められるか
決められない。遺産分割による取得には全員の合意等が必要で、登記申請人の人数とは別の問題だ。
登記識別情報が通知されない相続人に権利はあるか
通知の有無と所有権の有無は別だ。ただし、将来の売却等では、識別情報に代わる本人確認の方法が必要になる場合がある。
申告登記後の分割は、法定相続分を超えたときだけ登記するか
そう限定しない。申告登記後に分割で所有権を取得した人には原則として分割から3年の登記義務があり、法定相続分で登記した後の追加義務とは規定が異なる。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、相続開始日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



