遺言書の内容で変わる相続手続き、確認すべき5つの分岐点

遺言書の内容とは、被相続人が自らの意思で財産の分配方法や相続人への希望を記した法的文書に記載された事項のことで、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があるとされています。

結論から言うと、遺言書の内容は相続人全員の権利関係に直接影響を及ぼす可能性があり、内容を正確に把握したうえで遺留分侵害の有無や手続きの順序を確認することが、その後の手続きをスムーズに進める鍵になるとされています。

遺言書が、出てきた。

その瞬間、部屋の空気がピタッと止まる感覚を、経験した人間にしかわからないだろう。押し入れの奥から、引き出しの底から、あるいは公証役場から送られてきた書類の中から。封筒一枚が、その場にいる全員の表情を、一変させる。

問題は「出てきた」その後だ。

焦り顔

遺言書が見つかったのはいいけど、これ、どうすればいいんだ……?

で、結論から言うと──遺言書の「内容」が、すべての分岐点になる

遺言書があった。よかった、と思うのは早い。遺言書の内容によっては、手続きの複雑さが3倍にも5倍にも跳ね上がる可能性があるからだ。

いいだろうか。遺言書というものは、「あればいい」ではなく「何が書かれているか」が本質なのだ。

内容を正確に読み解くこと。これが、相続における最初の、そして最も重要な作業になる。

遺言書の「内容」が引き起こす、3つの分岐

遺言書の内容は、大きく分けると以下の3パターンに収束していく。そしてそれぞれ、次に踏むべきステップが、まったく異なる。

  • ①すべての財産を法定相続分どおりに分ける内容:比較的シンプル。とはいえ、財産の評価額の確認は必須。
  • ②特定の相続人に財産を集中させる内容:遺留分(民法1042条)の問題が浮上する可能性がある。他の相続人が遺留分侵害額請求権(民法1046条)を行使するかどうか、時計が動き始める。
  • ③相続人以外の第三者(内縁の配偶者・NPO等)への遺贈が含まれる内容:遺産分割協議に第三者が加わる構図になり、全員合意の難易度が跳ね上がる。

遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年とされている(民法1048条)。この「知った時」という起算点が、けっこう曲者だ。遺言書の内容を確認した瞬間から、カウントダウンが始まると考えておいたほうがいい。

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遺言書の種類で「開封の作法」が変わる、という現実

遺言書が見つかった。さあ開けよう。──待て。

自筆証書遺言が封されていた場合、家庭裁判所での「検認」(民法1004条)を受けなければ開封できない。勝手に開封すると、5万円以下の過料が科される可能性がある(民法1005条)。内容を一刻も早く知りたい気持ちはわかる。が、ここは手順を守るのが得策だ。

一方、公正証書遺言は検認不要。法務局に保管された自筆証書遺言(法務局遺言書保管制度を利用したもの)も検認不要とされている。

つまり、「どの種類の遺言書か」を確認することが、開封前の最初の判断になる。

  • 自筆証書遺言(封あり):家庭裁判所へ持参 → 検認申立 → 開封
  • 自筆証書遺言(封なし):開封は可能だが、検認手続き自体は必要
  • 公正証書遺言:検認不要。即内容確認へ
  • 法務局保管の遺言書:検認不要。交付請求で内容確認可能
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内容を把握したあと、具体的に動く5ステップ

内容が判明した。ここからが本番だ。「把握した」と「動いた」の間には、恐ろしいほどの溝がある。以下の順番で、着実に踏んでいくことが肝要だ。

ステップ1:財産・負債の全体像をリストアップする

遺言書に「全財産を長男に」と書いてあっても、その「全財産」がいくらなのかを把握しなければ話が始まらない。不動産は権利証または役所で名寄帳を取り寄せ、預貯金は通帳・残高証明書、負債は信用情報機関(JICC・CIC)への照会で把握する。

ステップ2:遺留分の計算をする

遺言書の内容が特定の人物への財産集中であれば、他の相続人に遺留分が発生していないかを確認する。配偶者・子どもは法定相続分の2分の1が遺留分として保護されている(民法1042条)。

ステップ3:遺産分割協議の必要性を判断する

遺言書がすべての財産の帰属を指定していれば、原則として遺産分割協議は不要となる場合がある。ただし、遺言書に記載のない財産が存在した場合は、その財産についてのみ協議が必要になる。なお、遺産分割協議には法定の期限は存在しないが、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)を意識して動くと、手続き全体がスムーズになる。

ステップ4:相続税の申告要否を確認する

基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える遺産がある場合、相続税の申告が必要になる可能性がある。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内だ(相続税法27条)。遺産分割協議が未了でも、法定相続分で仮申告(未分割申告)ができるとされており(相続税法55条)、協議成立後に修正申告または更正の請求が可能だ(相続税法32条、国税通則法23条)。

ステップ5:遺言書の内容に異議があるなら「期限」を確認する

遺留分侵害額請求は「相続開始と遺留分侵害を知った時から1年以内」が原則(民法1048条)。感情の整理を待っていると、権利が自然消滅する。異議があるなら、早めに意思表示することが得策とされている。

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遺言書の内容を「読んだだけ」で終わらせない

遺言書が出てきたことで、ひとまず「方向性」は見えた。が、その内容を消化して、次の行動に落とし込むまでの作業が、実は最も骨が折れる部分だ。

遺言書は、故人が残した「意思」の結晶である。その意思を尊重しながら、同時に相続人それぞれの権利を守る。このバランスを取ることが、相続手続きの核心といっても過言ではないかもしれない。

内容を確認したら、財産リストを作る。遺留分を計算する。申告期限を手帳に書き込む。それだけで、数週間後の自分が、驚くほど落ち着いた顔をしていることに気がつくはずだ。

ホッとした顔

内容さえちゃんと把握すれば、次に何をすべきかが見えてきた。やっとスタートラインに立てた気がする。

よくある質問

遺言書の内容に納得できない場合、どうすればいいですか

遺留分を侵害されている場合は、遺留分侵害額請求権(民法1046条)を行使できる可能性があります。相続開始と遺留分侵害を知った時から1年以内に意思表示をすることが必要とされています(民法1048条)。ただし、遺言書全体の無効を主張するには別途遺言無効確認訴訟が必要になる場合があります。

自筆証書遺言を検認なしで開封してしまいました。遺言書は無効になりますか

検認を経ずに開封しても、遺言書自体の効力は無効にはならないとされています(民法1005条)。ただし、5万円以下の過料が科される可能性があります。開封後も速やかに家庭裁判所へ検認の申立てを行うことが望ましいとされています。

遺言書に書かれていない財産が見つかった場合はどうなりますか

遺言書に記載のない財産については、相続人全員による遺産分割協議で帰属を決める必要があるとされています(民法906条)。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要で、一人でも欠けると協議は無効になる点に注意が必要です。

公正証書遺言と自筆証書遺言が両方見つかった場合、どちらが有効ですか

原則として、作成日付が新しいほうの遺言書が優先されるとされています(民法1023条)。ただし、内容が一部重複・矛盾する場合は、重複・矛盾する部分についてのみ新しい遺言書が前の遺言書を撤回したものとみなされる可能性があります。

遺言書の内容どおりに分割しないと、相続税の特例は使えなくなりますか

配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)は、原則として申告期限までに遺産分割が完了していることが適用要件とされています。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、分割確定後に遡って適用できる場合があるとされています。

遺言書の内容を把握する。財産リストをつくる。期限を確認する。この3つだけで、相続という名の長距離走の、最初の1キロは確実に走り切れる。

けっこうオススメです、早めの確認。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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