賃貸アパートでは、入居者の権利などを反映して、土地や建物の相続税評価が下がる場合がある。ただし、税金が減ることと、経営で現金が残ることは別だ。
貸家の敷地としての評価、建物の借家権割合、賃貸割合、特例、借入れを分けて確認する。評価減だけで判断せず、空室が増えても返済や修繕を続けられるかを試算しよう。
父のアパートを継ぐ話になり、兄の恭介は「評価が下がるから得だ」と言った。妹の沙良が管理会社の明細を見ると、空室があり、次の修繕工事の見積りも届いていた。「税金は下がっても、返済するお金は足りるの?」。二人の見ている数字は違っていた。
ここからは、賃貸アパートの相続を考える架空の例だ。人物・金額は説明用である。借りて住んでいる人の権利等を反映して相続税評価が変わることと、物件の収益性がよいことは別だ。土地、建物、小規模宅地等の特例、借入れを順に整理する。
自分だけで自由に使える土地と、入居者の住まいを支える建物の敷地では、利用の制約が違う。その違いを評価へ反映するのが貸家建付地等の考え方だ。単に節税のための札を貼れば、経営上のリスクまで消えるという仕組みではない。
貸家・敷地の評価が下がる場合でも、投資した現金が戻るという意味ではない。 賃貸マンションの相続税評価|貸家建付地・空室・特例の計算で詳しく確認できる。
空室が増えると、税の評価で使う賃貸割合だけでなく、返済や修繕に回せる家賃収入も変わる。
アパート相続の対策では、家賃が減る場合にも返済・管理・修繕を続けられるかが問題になる。税額だけでなく、空室と支出の増加に耐えられるかを点検したい。
借入れの控除と、相続後の返済を分ける
借入れがある場合は、相続税の計算と、引き継いだ後の返済を分けて考える。
亡くなった時に存在し、確実と認められる借入金などは、債務控除の対象になる。控除できる人や、その人が負担する額などの条件も確認する(相続税法13条)。国税庁の債務控除の案内で、対象債務と控除できる人を確認できる。
家賃で返済を賄えない状態が続けば、相続した家族が別の資金を出す必要がある。税評価が下がる物件でも、維持する負担が軽いとは限らない。
相続税はいくらから?預金・実家・保険と基礎控除を家族の例で考える
相続税は、財産を受け継ぐたびに必ずかかる税ではない。まず、税の決まりに沿って財産…

沙良は、年間家賃300万円、修繕等の支出100万円、年間返済180万円という仮の表を作った。差額は300−100−180=20万円だ。
これは現金収支の簡略例で、所得税の計算ではない。元本の返済がそのまま必要経費になるわけではなく、減価償却等も別に確認する。
収入だけが240万円へ下がると、同じ支出と返済では240−100−180=マイナス40万円になる。恭介は税の試算に加え、返済予定表と修繕計画も確認することにした。
恭介・沙良の説明用の例。支出100万円と年間返済180万円は同じまま、家賃収入だけを変える。
300−支出100−返済180
手元の差額は20万円
240−支出100−返済180
差額はマイナス40万円。40万円を別の資金で補う必要がある。
現金の出入りだけを比べた簡略例で、所得税の所得計算ではない。ローン元本の返済がそのまま必要経費になるわけではなく、税評価・減価償却・ほかの支出は別に確認する。
実際に動くなら、この順番で確認する
まず、次の資料で税の評価を確認する。計算が難しい部分は、資料と不明点を分けて税理士へ確認しよう。
- ステップ1:固定資産税評価額を確認する ─ 毎年届く固定資産税の「課税明細書」に書かれている。土地と建物それぞれの評価額が、計算の出発点になる。
- ステップ2:路線価を調べる ─ 国税庁の「路線価図・評価倍率表」(公式サイトで無料閲覧可)から、土地が面する道路の路線価を確認する。路線価がない地域は倍率方式で計算する。
- ステップ3:借地権割合・借家権割合を確認する ─ 路線価図に書かれたアルファベット(A〜Gで30〜90%)が借地権割合にあたる。借家権割合も、その年の財産評価基準書・評価倍率表で確認する。仮例の30%を根拠なくすべての計算へ流用しない。
- ステップ4:賃貸割合を確かめる ─ 現在の入居状況から「貸している部屋の床面積 ÷ 全体の床面積」を計算する。独立部分ごとの床面積で計算し、部屋の大きさが異なるのに戸数だけで割合を出さない。一時的な空室の取扱いも別に確認する。
- ステップ5:相続税の基礎控除額と照らし合わせる ─ 基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」(相続税法15条)。非課税、債務・葬式費用、生前贈与の加算等を確認した課税価格の合計額と比べる。小規模宅地等の特例等で税額がゼロとなっても、その適用に申告が必要な場合がある。
この手順で、使う資料と、まだ確認が必要な数字を整理できる。評価額だけでなく、下の現金収支の確認も続けよう。
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

関連記事として、こちらも参考になります。
賃貸を使う相続対策|土地・建物の評価と経営・納税資金の確認
賃貸不動産を相続対策に使うなら、税の評価額が下がる可能性と、経営を引き継ぐ負担を…

同じ収支表で、家賃1か月分が減る場合も試す
先の家賃300万円の例で、1か月分の25万円だけ収入が減る場合も試してみよう。支出100万円と返済180万円が変わらなければ、275−100−180=マイナス5万円だ。
家賃が少し減るだけでも、別の現金が必要になる場合がある。同じ前提の表で、空室や金利、修繕の変化を比べる。
これは経営の現金の出入りの説明で、所得税の所得計算ではない。借入元本の返済や積立てを、そのまま税金を計算するときの必要経費とする計算でもない。税の評価減だけでなく、空室、金利、修繕、売却時の費用を変えた資金表を作り、本人の生活費と両立できるかを確認する。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
アパートを相続した場合、必ず相続税がかかりますか
アパートを相続した場合でも、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人(法律で相続人になると決められた人)の数)以下であれば、相続税はかからないとされている(相続税法15条)。評価額の合計が控除額を超えるかどうかを確認することが最初のステップとなる。
空室のアパートでも評価減は受けられますか
空室部分については、原則として貸家建付地評価の対象外となり、賃貸割合の計算に影響する可能性がある。ただし、継続的に入居者募集をしていた一時的な空室については条件次第で賃貸割合に含められる場合があるとされている(財産評価基本通達26)。空室の状況や期間によって判断が異なる場合がある。
小規模宅地等の特例は、相続後でも申請できますか
申告期限までに未分割の土地には、当初の申告で原則として使えない。分割見込書を付け、原則として申告期限から3年以内に分割するなど、決められた条件を満たせば後から適用できる場合がある。税額を減らす更正の請求は、原則として分割を知った日の翌日から4か月以内だ。3年を超える場合の承認手続等も別に確認する。
アパートのローンは相続財産から差し引けますか
亡くなった人が残した借入金(アパートローン残高)は、債務控除として相続財産の評価額から差し引ける場合がある(相続税法13条)。ただし、相続人が誰の債務を引き継ぐかによって控除できる額が変わる可能性があるため、遺産分割の内容と合わせて確認することが重要だ。
相続税の申告期限はいつですか
相続税の申告・納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内とされている(相続税法27条)。遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)が未完了の場合でも、民法上の相続分等で計算した未分割申告を行う必要がある場合がある(相続税法55条)。
—
恭介と沙良は、税評価の表と、現金収支の表を二枚に分けた。前者には土地・建物・特例・債務を、後者には家賃・修繕・返済・税金を書き入れる。税額が下がる案でも、誰が運営し、空室や大規模修繕に備えるかを決めなければ、家族の負担は見えない。
恭介は「得な遺産か」という一言をやめ、維持する案と売る案の手取り、必要資金、分配方法を比べることにした。評価の仕組みを知る目的は、不動産を持つことを勧めるためではない。この家族が、税と生活の両方で続けられる選択をするためである。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。



