介護の寄与分は、相続人が、家族の通常の助け合いを超えて介護し、亡くなった人の財産を守り増やす特別な貢献をした時に、取り分へ反映する制度だ(民法904条の2)。
日数だけで金額が自動的に決まる、法律上の計算式はない。
恵子は、父の介護をした日の表を作った。「泊まり込んだ日がこれだけあるから、一日いくらと掛ければ出せるよね」。弟の亮は、表の横に訪問介護の利用票を置いた。「この時間はヘルパーさんが来ていた。ここはどう数えるの?」
母はすでに亡くなり、父の相続人は姉弟二人。恵子は、仕事を減らして父を支えた。父の財産が残ったことに自分の働きもあると思っている。亮は姉の負担を知りたいが、最初に出てきた金額だけでは、何を評価した数字なのか分からなかった。
この架空の家族で、介護の寄与分を考えよう。
苦労した日を、全部同じ単価へ換える計算ではない。特別な介護で、父のどの支出を避け、どれくらい財産を残せたかを確かめる。
必要な介護だったか、通常の助け合いを超えるか、続けた期間と、財産への効果を、資料で示す。
介護した人が相続人でなければ、別の特別寄与料を検討する。相続開始から10年を過ぎた分割には、原則として寄与分等を反映しない制限もある。
例外、新制度への切替えに伴う扱い、全員の合意も確かめよう。
ここで扱うのは、介護した本人が共同相続人である場合の寄与分の計算だ。子の配偶者など、相続人でない親族が介護した場合は、特別寄与料の条件と短い申立期間を先に確認してほしい。使う制度を決めてから、金額の根拠を整理しよう。
「介護した」だけでは足りない理由
長く介護した事実だけで、寄与分が自動的に認められるわけではない。
家族に通常期待される助け合いを超え、その人の財産を守り増やす効果があったかを確かめる。
民法904条の2が定める制度の評価軸を、順に確認しておく。
- 亡くなった人に療養看護の必要があったか
- 介護が親族間の通常の協力を超える「特別な寄与」といえるか
- 相当な期間、継続して介護したか
- 介護サービス費などの支出を免れ、亡くなった人の財産が維持されたといえるか
- 寄与した人が相続人であるか
同居、数回の通院の付き添い、家事の分担だけでは、特別な貢献と認められないことがある。
一方、必要な介護を長く、ほぼ無償で行い、外部サービス費を具体的に抑えた資料は、主張の基礎になる。
介護を続けた年数と、寄与分として評価する期間は、同じとは限らない。
内容や程度が、特別な貢献といえる水準に達したのは、いつからいつまでか。そこも分けて確かめる。
外へ頼む費用と、実際の支出を比べる
寄与分があるのは、特別な働きで守った財産まで同じ割合で分けると、働いた人の貢献が取り分へ反映されないことがあるためだ。1500万円の遺産と500万円の寄与分の例では、その仕組みを説明している。
父に必要な介護を、合理的な外部サービスへ全部頼むと月30万円、実際に父が払った外部サービス費は月10万円と仮定しよう。
その差を、恵子の特別な無償介護で補ったとする。ある一年分について、支出の差を考える説明用の数字だ。
- 全部を外へ頼む仮定:30万円×12か月=360万円。
- 実際の外部サービス費:10万円×12か月=120万円。
- 支出を免れたと考える出発点:360万円−120万円=240万円。
この240万円が、必ず寄与分になるわけではない。
月30万円のサービスが必要だったか、当時の価格として合理的か、差の全部を恵子が担ったかを調べる。通常の助け合いを超えたか、報酬等を受けていないかも確かめよう。
支出の差と、法律上認める寄与分は、分けて考える。数字は相場を示すものではない。
父から十分な介護の対価をもらっていたなら、同じ働きを、相続でもう一度評価してよいかを調べる。
恵子が減らした給料も、そのまま父の財産から取り戻せる額ではない。自分の負担と、父の財産に残った効果を、資料でつなげよう。
「日額×日数×割合」は法定の計算式ではない
実務では、介護職の日当相当額、日数、家族による介護と考えられる割合等を参考に、金額を検討することがある。
だが、法律に一律の計算式や、固定の割合はない。
同じ期間でも、要介護度、介護の内容、外部サービス、本人の負担と、財産への効果で評価は変わる。
根拠のない日額や割合で、高い寄与分を断定すると、かえって話合いを難しくする。
計算式を先に立てるより、「この期間に、この介護をしたから、この費用が発生しなかった」という対応関係を資料で示す順番が先になる。
記録が果たす仕事
「いつ、何を、何時間したか」と、「その結果、父の財産が減らずに済んだか」は、別に確かめる。
二つを対応させる資料が必要だ。
- 介護日誌、カレンダー、メッセージ履歴
- 要介護認定資料、診断書、診療記録、ケアプラン
- 訪問介護・デイサービスの利用記録
- 介護用品、交通費、医療費などの領収書と通帳
- 勤務時間を減らしたことが分かる給与資料
- ケアマネジャー、医療・介護関係者など第三者の記録
恵子の表と利用票を重ねれば、ヘルパーの時間、恵子が引き継いだ夜、短期入所の日を分けられる。
外部サービスを使った日を全部外すのでも、全部を家族だけの介護と数えるのでもない。実際の分担を見る。
当時の記録と、後から思い出してまとめた部分を分ける。誰が費用を払ったかも確かめよう。
日誌がなくても、利用票、病院の記録、家族への連絡等から、補える部分はある。
相続で介護が報われない理由と、寄与分を証明するために今できることでは、資料の集め方と主張の組み立てをさらに詳しく整理している。
相続人でない親族の介護は、別の制度
寄与分を主張できるのは、同じ人の遺産を一緒に相続する、共同相続人だ。
介護した人が、相続人かどうかを先に確かめよう。
例えば、相続人ではない長男の妻が無償で介護した時は、寄与分ではなく、民法1050条の特別寄与料を検討する。
対象の親族、条件と手続が違う。相続人、放棄した人、欠格・廃除で相続権を失った人は、特別寄与料の対象外だ。2019年7月1日以後に始まった相続が対象となる。
特別寄与料を、話合いに代わって家庭裁判所に決めてもらう申立てには、短い期限がある。
原則、相続開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると、申し立てられない。寄与分と、同じ期限ではない。
自分が相続人かどうか。介護をした人が相続人かどうか。この確認が、どちらの制度を検討するかを決める。
寄与分にも、時間の制約がある
時間がたつと、記録や通帳がなくなり、記憶も薄れる。分け方が決まらないままの遺産も残ってしまう。
こうした問題を避けるため、寄与分等を反映する分割には、原則10年の区切りがある。死亡日、手続の状況、例外と経過措置を確かめよう。
相続開始から10年を過ぎた分割では、原則、特別受益・寄与分を考慮しない。特別受益は、遺贈や一定の生前贈与等を、取り分に反映する仕組みだ。
ただし、10年を過ぎる前に、家庭裁判所へ分割を請求した場合は例外となる。期間の満了前6か月以内に、請求できないやむを得ない事情があり、その事情がなくなってから6か月を過ぎる前に請求した場合も例外だ。
2023年4月1日より前の相続には、切替えに伴う扱いがある。制限の適用時期は、相続開始から10年と、2028年3月31日の、遅い方となる。
相続人全員が合意すれば、10年を過ぎても、特別受益・寄与分を反映して分けられる。
相続人の話合いがまとまらなければ、家庭裁判所の、寄与分を定める調停・審判を検討する。審判は、裁判官が事情と資料を調べて判断する手続だ。
寄与分の審判には、遺産分割手続との関係がある。分割審判の申立てがなければ、寄与分の申立ては却下されるため、両方の手続と申立時期を確かめよう。
遺産分割の話合いが長引いているあいだにも、カレンダーは進む。亡くなってからの経過時間を、まず確かめよう。
今、何を確かめれば一歩進めるか
介護をした人が相続人かどうか。手元の記録が、外部サービスとの対応まで示しているかどうか。亡くなってから何年が経過しているか。この三つが、次の手続を決める分岐になる。
記録を日付順に並べ、ケアプランや要介護認定の資料と比べよう。
断片的でも、診療記録や第三者の記録で補える部分がある。そろった資料と不足分を整理すれば、相談で何を確かめるかが見えやすい。
遺産の開示や使い込みの問題が重なっている場合は、遺産を独り占めされたときの取り戻し方と証拠の整え方や遺産の使い込みを取り戻す方法も、あわせて確認しておきたい。弁護士費用の目安と依頼範囲については遺産分割の弁護士費用の確認方法を参照してほしい。
寄与分が認められる条件。「貢献した」だけでは足りない理由
寄与分は、亡くなった人の財産を特別な働きで守ったり増やしたりした相続人について、…

寄与分の証明方法|介護日誌・通帳・記録がないときの集め方
介護日誌がなくても、予定表、医療・介護の記録、家族の連絡、口座等を合わせて、寄与…

計算表に、根拠と未確認の欄も作る
恵子は、日額と日数だけの表に、必要な介助、実際の担当、参考費用、父からもらったお金の欄を足した。
亮には、必要なサービスと、数字のどこに意見があるかを、確かめてもらう。
二人が合意する金額は、まだ出ていない。それでも、姉の苦労を軽く見ている、弟に根拠なく払わせたい、という対立だけで話すのは避けられる。
確認できたことと、これから調べることを、同じ表で見られるからだ。
日額や割合を先に探す前に、「この介護がなければ、父はどんな支払いをする必要があったか」を、当時の状態と費用から考えよう。寄与分の計算が説明したいのは、そのつながりである。
ほかにも確認する手続がある場合は、寄与分・特別受益・特別寄与料の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
介護日数から金額を自動計算できるか
法定の一律計算式はない。合理的な介護費用や日数を参考に、必要性、外部サービス、対価、財産への効果を調整する。
外部サービスと家族の介護を両方計上できるか
同じ時間・内容の負担を重ねて計上しない。ケアプランと家族の介護記録を照らし合わせる。
長男の妻の介護は寄与分か
相続人でなければ寄与分ではない。一定の親族の無償労務には特別寄与料を検討し、短い申立期間を確認する。
亡くなってから10年で必ず寄与分が使えなくなるか
原則として10年経過後の遺産分割では考慮しないが、期限内の裁判所への請求、やむを得ない事由、経過措置の例外がある。相続人全員の合意による分割も可能だ。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



