遺産分割の弁護士費用に、全国一律の料金はない。各弁護士・事務所の報酬基準と契約で決まる。何を任せ、どの結果を基にいくら払うのかをそろえて比べよう。
以下は費用の読み方を考える架空の家族だ。最初の支払額だけでは、同じ範囲の仕事を比べているか分からない。
父の遺産分割が止まり、恵美は弁護士へ頼むか迷っている。兄の祐介は父の家を受け取りたいが、預金の分け方と家の評価額では話が合わない。恵美が取った二つの見積書には、着手金と報酬金が別々に書かれていた。「最初に払う額が安い方でいいのかな」。仕事の休みも限られ、話合いが長引くのはもうつらい。
「相場」より先に、何を頼むかを決める
弁護士費用は、各弁護士・法律事務所の報酬基準と、依頼者との契約によって決まる。必要な業務、事案の難しさ、財産の内容、時間・労力などが違えば、同じ遺産分割でも金額は変わる。
まだ相続人への連絡を始めていない事件と、交渉を続けても解決せず調停(裁判所で調停委員を交えて話し合う手続き)を申し立てる事件では、依頼範囲が違う。財産調査や使い道の分からないお金の返還請求が必要な場合も、分割の交渉だけで足りる場合と分けて考える必要がある。
複数の事務所に見積りを依頼するなら、相続関係、財産一覧、遺言、これまでの話し合い、争われている点を同じ資料で示したい。相手方の人数や不動産の評価方法など、前提をそろえて初めて比較できる。
恵美は「遺産分割を頼む」つもりだったが、一方の見積りは交渉まで、他方は調停の対応も含む前提だった。祐介との連絡窓口だけを任せる場合と、財産資料を調べ直して裁判所へ書面を出す場合とでは、仕事が違う。依頼範囲を言葉にしておくのは、後から「そこも含むと思っていた」を減らすためだ。
相場が一つに決まっていないから、内容を確かめる意味がある。弁護士会の費用案内でも、報酬の説明と委任契約書の確認が案内されている。古い全国アンケートの額を、現在の自分の事件にそのまま当てはめない。
費用を6つに分けると、見積書を読みやすい
法律相談料
依頼する前の相談にかかる費用である。初回無料、時間単位、定額などの方式がある。相談後に依頼したとき、相談料を着手金に充当するかも確認する。無料相談の時間だけで、資料を詳しく調べたり、見積りを出したりすることまで行えるとは限らない。
着手金
事件の処理に着手する際の報酬で、成功報酬の前払いとは別のものとして扱われる。結果が出なかったときや途中で契約を終えたときに、いくら返還されるかは契約の内容を確認する。「不成立なら全額返金」「どんな場合も絶対に返金されない」と先に決めつけない。
報酬金・成功報酬
解決結果に応じて支払う報酬である。取得した財産全体、争いがあった部分、当初の提案から増えた部分など、何を「経済的利益」とするかによって金額が変わる。最低額、定額部分、成功と扱う条件も確認したい。
時間制・定額報酬
作業時間に単価を掛ける方式なら、時間の記録、報告の間隔、概算額や上限の扱いを確認する。定額なら、資料調査、連絡、期日への出席、書面作成など、含まれる業務と含まれない業務を確認する。
日当
出張や裁判所への出頭などについて定められる費用である。交通費・宿泊費とは別に発生するか、移動先や所要時間で変わるかを確認する。遠方の相続人や物件がある場合は、想定する回数も見積りに影響する。
実費
戸籍、登記事項証明書、郵便、収入印紙、記録の謄写、交通費などの費用である。不動産の鑑定・測量が必要なら、その費用も見積りに含むかを確認する。実費の預り金については、追加の入金を求める条件と、残額の精算方法を確かめたい。
報酬の計算例を、同じ財産と結果で出してもらう
「取得額の何%」という表示だけでは、比較に必要な前提が足りない。預貯金と不動産のどちらを含めるか、不動産は売却見込み額と税金を計算するときの評価額のどちらで計算するか、争いのない部分も含むかを確認する。
恵美の取得見込みを2,000万円、そのうち争いのある部分を500万円とする。比較のためだけに、どちらも5%で計算し、消費税やほかの料金は含めない。
2,000万円×5%なら100万円、500万円×5%なら25万円。同じ率でも、計算の基礎が違うと75万円の差が出る。
この5%は全国相場でも当事務所の料金でもない。実際には争いのない部分の扱いや段階的な率なども契約で違い得る。恵美が確かめたいのは、どちらが「何に掛けた5%」なのかだ。取得財産全体を扱う仕事と、500万円の争点だけを扱う仕事が同じ内容とも限らないため、安い数字だけを比べて結論を出さない。
恵美の比較用の仮定。取得見込みは2,000万円、争いがある部分は500万円。5%は全国相場や当事務所の料金ではなく、税やほかの料金も含めていない。
2,000万円 × 5% = 100万円
500万円 × 5% = 25万円
差は75万円だが、仕事の範囲まで同じとは限らない。「率」だけで比べず、計算の基礎、最低額、追加費用、消費税、支払時期を見積書と契約でそろえる。
見積りを受けたら、次の3つの結果について、着手金から実費まで含めた概算を尋ねるとよい。
- 交渉だけで、想定していた財産を取得して終わる場合
- 調停へ移り、合意して終わる場合
- 審判まで進み、当初想定した取得額と違う結果になる場合
さらに、支払時期と消費税を含むかを確認する。財産を取得しても、不動産だけで手元の現金が少ない場合がある。報酬をいつ、どの資金から支払うかも、契約前に確認しておきたい。
交渉から調停・審判へ進んだときの追加費用
交渉、調停、審判、即時抗告のどこまでが、契約に含まれるかを確かめる。「遺産分割を依頼する」という言葉だけでは、最後まで同じ費用で対応する契約か分からない。
調停が成立しないと審判へ進むことがある。その際、追加の着手金や報酬が生じるかも、最初に確認しよう。
財産調査、使い込みの返還請求、遺言の有効性を争う訴訟が、分割の依頼とは別の契約になる場合もある。不動産登記や相続税申告については、他の専門家への依頼・費用も含め、誰が何を担当するかを確かめる。
弁護士を依頼する判断自体は、遺産分割調停で弁護士への依頼を検討する場面でも整理している。期間の見込みは、遺産分割調停が長引く原因と合わせて確認できる。
恵美は、交渉がまとまらなかったときの費用を別の欄に書いてもらった。調停や審判に進むたび何が追加されるのか、使い込みの返還を争う別の裁判は含むのか。誰でも最初に将来のすべてを予想できるわけではないが、追加が生じる条件と、その前に説明を受ける方法は確認できる。
裁判所へ納める費用は、弁護士への報酬と分ける
裁判所の案内では、遺産分割調停の申立手数料は亡くなった人1人につき1,200円で、別に連絡用の郵便料が必要になる。郵便料は申立先の裁判所で確認する。現在の案内では保管金として納付できる場合もあるため、古い郵便切手の組合せをそのまま用意せず、申立先の指定を確認したい。
これらの裁判所の手続費用と、依頼者が弁護士との契約で支払う報酬は別のものである。家事事件の手続費用は原則として各自負担で、事情により裁判所が別の負担を定める制度もある。しかし、相手方が分割案に応じないというだけで、自分の弁護士費用を自動的に全額負担させられるわけではない。
見積書・委任契約書で確認する7項目
- 依頼範囲:調査、交渉、協議書作成、調停、審判、即時抗告のどこまでか。
- 報酬の種類:相談料、着手金、報酬金、時間制、定額、日当のどれがかかるか。
- 計算の基準:経済的利益の定義、不動産の評価額、最低額・上限、消費税の扱い。
- 追加費用:手続の移行、別の訴訟、出張、相続人の人数などで増えるか。
- 実費:資料取得、印紙、郵便、鑑定、測量などの予算と精算方法。
- 成功・終了の条件:合意、審判、財産の受領のどの時点で報酬が発生するか。
- 中途終了の精算:解約、辞任、ほかの弁護士への変更時に、既払金や未払金をどう扱うか。
分からない項目は、契約前に書面へ補ってもらう。総額だけを比較するより、必要な業務が同じ範囲まで含まれているかを確かめる方が、追加費用を予測しやすい。
祐介から「弁護士を入れるなら、その費用も遺産から引けばいい」と言われ、恵美はそれでよいのか迷った。だが、恵美が自分の代理人として依頼する費用と、家族全員が合意して分担する費用は別の問題だ。自分の契約だけで、他の相続人の負担を決めることはできない。家族で分担する話があるなら、その合意も依頼契約とは別に確認する。
相談前にそろえる資料と、先に確認する期限
相談時は、相続人の関係、遺言、財産と負債の一覧、相手方の提案、これまでのやり取り、希望する分け方を示す。まだ資料が全部そろっていなくても、分かっているものと不足するものを区別すると、調査をどこまで依頼するか判断しやすい。
相続人や遺産の範囲、使い道の分からないお金、特別受益・寄与分、不動産や非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)の評価、遺言の有効性などに争いがある場合は、見積りと一緒に解決方法を相談したい。未成年者、判断能力に不安がある人、行方不明者がいる場合も、必要な手続を確認する。
費用の比較をしている間にも、期限は進む。相続放棄の検討や相続税申告などの期限は、遺産分割がまとまるかどうかと別に確認する。亡くなってから長い年月が経過した事件では、特別受益・寄与分の扱いに制限が生じる場合があり、経過措置(新しい制度に切り替わるときの特別な扱い)や例外も含めて確認が必要だ。相続で弁護士へ相談するタイミング、相続人と連絡が取れない場合の進め方も参考になる。
相続放棄は、原則として自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内に判断する。家庭裁判所へ期間の伸長を求められる場合もある。
相続税の申告が必要なら、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月が期限だ。
亡くなってから10年を過ぎると、原則として特別受益・寄与分を考慮する分割に制限が生じる。ただし、例外や経過措置がある。分割自体が一律10年でできなくなるという意味ではない。
恵美は、二つの見積書の総額へ丸を付ける前に、依頼範囲、計算の基礎、追加条件、支払時期を埋めた。家を受け取る結果になっても、それがそのまま報酬を払う現金になるわけではないので、納税や生活費と一緒に資金を考える。
費用を理解して依頼するとは、ただ値引きを求めることではない。どの負担を任せ、どんな説明を受け、どういう結果でいくら払うかを、自分で分かったうえで選ぶことだ。そうすれば、祐介との分け方と、弁護士との費用の話を混ぜずに進められる。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
遺産分割の弁護士費用に決まった相場はあるか
全国一律の公定料金はない。各弁護士・法律事務所の報酬基準と契約で決まるため、依頼範囲と経済的利益の定義をそろえて見積りを比較する。
着手金は不成立なら返金されるか
着手金は一般に事件へ着手するための報酬で、成功報酬の前払いとは別に扱われる。返金や中途終了の精算は契約内容を確認する。
報酬金の経済的利益とは何か
取得財産全体、争いがある部分、当初案から増えた部分など、契約で計算の基礎が違うことがある。不動産の評価方法を含め、具体的な計算例を確認する。
調停や審判へ進むと費用は増えるか
契約によって異なる。交渉から調停、調停から審判への移行が委任範囲に含まれるか、追加の着手金や報酬が発生するかを最初に確認する。
遺産分割調停の裁判所費用はいくらか
申立手数料は亡くなった人1人につき1,200円で、別に郵便料などが必要になる。郵便料と納付方法は申立先の裁判所で確認する。
相手方へ弁護士費用を請求できるか
弁護士との契約に基づく報酬は裁判所の手続費用と別である。相手方が分割案に応じないというだけで、自動的に自分の弁護士費用を全額負担させられるわけではない。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



