- 写真・残高・契約・領収書で現状を記録する
- 保存行為か、売却・消費等の処分かを分ける
- 相続放棄の可能性と3か月の起算点を確認する
- 緊急資金は預貯金払戻し制度も比較する
相続開始直後の「保全」と「処分」は、行為の名称だけでは決まりません。目的、財産価値、金額、使用先、緊急性、相続放棄との関係を資料から判断します。善意の支出でも、後から説明できる記録を残すことが重要です。
法定単純承認と保存行為
民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合に単純承認したものとみなす一方、保存行為と民法602条所定期間を超えない賃貸を除いています。
| 行為の例 | 確認点 |
|---|---|
| 財産目録・写真・残高証明・取引履歴の取得 | 調査・記録であり、通常は財産価値を移転しない |
| 雨漏りの応急修理、腐敗・散逸の防止 | 価値維持に必要な範囲か、費用と領収書を確認 |
| 売却、贈与、消費、解約 | 処分や取得意思の表れと評価される可能性 |
| 葬儀・墓・遺品の支出や処理 | 社会的相当性、金額、財産価値、目的を個別判断 |
相続人が財産の存在を隠したり、相続債権者を害する意図で財産目録に記載しなかったりした場合は、民法921条3号も問題になります。
葬儀費用は判例の結論を広げない
大阪高裁平成14年7月3日決定は、葬儀費用や墓石等への支出を具体的事情の下で扱った下級審例です。「葬儀費用なら遺産からいくら使っても放棄できる」という一般ルールを示したものではありません。支払前に、請求書、支払者、原資、金額、必要性を記録します。
遺産分割前の預貯金払戻し
法務省の相続法改正案内は、家庭裁判所の判断を経ない払戻しと、仮分割の仮処分を区別しています。民法909条の2の金融機関窓口での上限は、相続開始時の預金額×3分の1×その相続人の法定相続分で計算し、同一金融機関で150万円までです。
払い戻した金銭は、その相続人が遺産の一部分割で取得したものとみなされます。使途、払戻日、金融機関、残額を記録し、最終的な遺産分割で精算します。
相続放棄を検討するときの手順
- 財産・債務と行った行為を時系列で一覧化
- 相続開始を知った日と3か月の満了日を確認
- 財産を動かす前に家庭裁判所・弁護士へ確認
- 調査が間に合わない場合は期間伸長を期限前に検討
裁判所の相続放棄案内と期間伸長案内を確認します。起算点と期限後申述は相続放棄の3か月期限も参照してください。
放棄後の保存義務
民法940条は、放棄時に相続財産を現に占有している人について、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまでの保存義務を定めています。現に占有している財産、鍵、保管場所、引渡先を記録します。
よくある質問
相続財産を売ると相続放棄できませんか?
相続人が相続財産の全部または一部を処分すると法定単純承認が問題になります。保存行為等の例外もありますが、売却・消費・解約は事実関係を確認するまで避けます。
葬儀費用を遺産から払うと必ず単純承認ですか?
一律には決まりません。大阪高裁平成14年7月3日決定など、身分相応の葬儀費用等を事案に即して扱った下級審例はありますが、金額、支出先、目的、遺産との関係で評価が変わります。
預金の払戻し制度ではいくらまで受け取れますか?
各金融機関について、相続開始時の預金額×3分の1×払戻しをする相続人の法定相続分で計算し、法務省令上の上限は150万円です。口座・金融機関ごとに確認します。
相続放棄後も財産を保管し続けますか?
民法940条は、放棄時に相続財産を現に占有している人に、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで自己の財産と同一の注意による保存を求めています。全ての放棄者に無期限の管理義務が残るという規定ではありません。
本記事は一般的な制度の説明です。単純承認、相続放棄、任意後見の効力、代理権、必要資料は個別事情で変わります。財産を動かす前、または契約を作る前に、条文、裁判所・公証役場の最新案内と専門家の確認を併用してください。



