相続財産の保全と処分|相続放棄前に避ける行為・できる管理

相続財産の保全と処分|相続放棄前に避ける行為・できる管理

相続放棄を考えている間は、財産を調べること、傷まないように守ること、売るなどの処分を分けて考える。作業の目的、対象、お金の出どころ、費用を確認しよう。「片付けのため」という名前だけでは判断できない。

架空の家族で考えよう。父が亡くなり、陽平は雨漏りする実家を直そうとしている。妹の美穂は、家財を売って片付け費用に充てたいと言う。

しかし、父の借金がまだ分からず、二人は相続放棄も考えている。母はすでに亡く、相続人は兄妹だ。人物と金額は説明用である。

相続財産を処分すると、財産も借金も引き継ぐ選択をしたものとして扱われ、相続放棄が問題になる。これを「法定単純承認」という。

一方、財産が傷むのを防ぐ保存行為には例外がある。陽平は、修理と売却をまとめて頼まず、作業ごとに確認することにした。

処分すると、相続放棄が問題になる

民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、単純承認したものとみなすと定める。ただし、保存行為と、民法602条で定める期間を超えない賃貸は除かれる。

売却や贈与の契約だけでなく、建物の取壊し等、財産の状態や性質を変える行為も問題になる。

一方、一覧を作る、写真を撮る、残高や取引履歴を調べるといった調査・記録は、通常、財産の価値をほかへ移す行為ではない。

また、相続放棄後でも、財産の隠匿や私的な消費、悪意での財産目録への不記載などは、同条3号の問題となる。「受理された後なら何をしてもよい」という意味ではない。

保存と処分は、作業ごとに確認

この表は、行為の名前だけで可否を決めるものではない。目的、金額、財源、本人の認識等で判断が変わる。日付と、実際にしたことを隠さず、資料で確認しよう。

行為の例 先に確かめること
写真・通帳・戸籍等で調べる 照会する権限、原本、取得記録を確認する。出金や売却とまとめて進めない。
換気・応急補修・物の移動 保存に必要な範囲か、工事内容と費用は相当かを確認し、実施前後を記録する。
取壊し・売却・解約・譲渡 処分や法定単純承認の問題がないかを、実行前に確認する。
預金の払戻し・支払い 契約や借金の内容、財源、使い道、財産価値への影響を確認する。引き出せることと放棄への影響は別だ。
遺品の廃棄・形見分け 物の価値、数量、受け取る人を確認する。単なる整理を超えていないかも調べる。
放棄後に占有する物の保管 民法940条の保存義務が関係するか、引渡先と義務が終わる時点を確認する。

崩れそうな塀の補修と、家全体の取壊しでは、財産に与える影響が違う。危険を避ける目的が同じでも、同じ扱いになるとは限らない。

依頼する前に、写真、見積書、工事が必要な理由が分かる資料を用意する。

経済的価値がないように見える遺品にも、売却できる物が混じっていることがある。「少額なら大丈夫」と金額だけで決めず、処分予定の物と方法を一覧にする方が、確認を受けやすい。

陽平の見積りを、応急的な雨漏り補修15万円、建物の解体250万円と仮定する。これは相場の紹介ではなく、比較のための金額だ。

安ければ安全、高ければ必ず処分と決まるわけではない。必要性と、財産に与える影響を確かめる。

美穂の案も、家財を売ることと、代金を修理に使うことを、別々に見る。遺産から払うのか、自分のお金を立て替えるのかも記録する。

修理費、売却代金、家の評価額、相続税は、それぞれ違う数字だ。手元に支払い用の現金があるかも分けて確認する。

葬儀費用も、内容と金額を確認

葬儀は急いで準備する必要があり、故人の預金から支払いたい場面もある。具体的な事情の下で、葬儀費用等への支出が法定単純承認に当たらない場合はある。

ただし、葬儀に関する支出なら、何でも許されるわけではない。

葬儀の内容と金額、故人の財産状況、墓石等への支出、残金の扱いを個別に確認する。高額な支出や私的な流用まで、「葬儀のため」で説明できるわけではない。

支払前に、誰が契約し、誰のお金で、何にいくら払うのかを分けて記録する。すでに払った場合も、領収書、請求書、出金の履歴、残額をそろえ、その経過を正確に伝える。

預金の払戻しと、放棄の関係

民法909条の2には、分割前でも、ほかの相続人の同意なしに一定額を払い戻す制度がある。

各口座について「相続開始時の残高×3分の1×その人の法定相続分」を計算する。ただし、同じ金融機関から払い戻せる額は、合計150万円までだ。口座ごとに150万円ではない。

例えば一つの銀行に600万円があり、法定相続分が2分の1なら、600万円×3分の1×2分の1=100万円となる。

同じ銀行に別口座もあれば、その口座の計算額と合わせて、150万円の上限を確認する。

この制度で払い戻した預金は、その人が遺産の一部を分割して受け取ったものとみなされる。

銀行で引き出せることと、相続放棄に影響しないことは別だ。放棄を考えていれば、利用前にその点を確認する。

法務省の相続法改正案内は、この窓口での払戻しと、家庭裁判所による預貯金の仮分割の仮処分を区別して説明している。緊急の資金が必要な場合も、どの手続を利用し、後の遺産分割でどう扱うかを確認する。

陽平と美穂の法定相続分が各2分の1なら、上の口座から払い戻せる計算額は、一人100万円だ。

ただし、それが放棄前に使ってもよい額とは限らない。美穂は、すぐに出金せず、放棄の選択にどう影響するかを先に相談する。

放棄を考えている間の進め方

  1. 財産の場所・内容・状態を写真や一覧で残す。
  2. 借金や未払金も調べ、相続の開始を知った日と期限を確認する。
  3. すでにした出金・支払い・売却・片付けを日付順に記録する。
  4. これから行う作業は、目的、金額、お金の出どころ、緊急性を示して確認する。
  5. 調査が間に合わなければ、期限前に熟慮期間伸長を検討する。

相続放棄は、原則として、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する。申述は、裁判所に自分の意思を申し出ることだ。

片付けや財産調査をしていても、期限は自動で止まらない。裁判所の相続放棄案内と期間伸長の案内を確認する。

期間を数え始める時点や期限が過ぎた可能性がある場合は、相続放棄の3か月期限も参照できる。借金を後から知っただけで、必ず数え直せるわけではない。

放棄後に占有する財産の保存

現行民法940条によれば、放棄時に相続財産を「現に占有している」人は、その財産を保存する義務を負う。自分の財産と同じ注意を払い、相続人か相続財産清算人へ引き渡すまで続ける。

相続財産清算人は、相続人がいるか明らかでない場合に、遺産を管理し、借金の支払い等を進める人だ。

相続放棄をした全員が、関わっていない全遺産を管理し続ける規定ではない。

一方、現に預かっている財産を、放棄したからといって勝手に捨ててよいわけでもない。保管場所、鍵、対象物、引渡先と引渡日を記録する。

急ぐ作業は、写真と見積りを示す

危険な箇所、迫っている退去期限、すでに頼んだ処分があれば、その事実を先に伝える。

写真、契約書、見積書、出金記録を示すと、急ぐ保存作業と、慎重に判断する処分を分けやすい。

陽平は写真と見積りを残し、必要な応急作業、急がない片付け、売却を別々に並べた。美穂も、すでに動かした物とお金を一覧にする。

放棄が受理された後は、現に占有する財産の引渡先を確かめ、鍵や原本の受渡しまで記録することにした。

ほかにも確認する手続がある場合は、相続放棄・債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

実家の修理なら相続放棄に影響しない?

現状維持に必要な補修か、財産の性質を変える工事かで検討が異なる。目的、範囲、費用を示し、解体等の処分と分けて確認する。

遺産を売ると放棄できなくなる?

相続財産の処分として法定単純承認が問題となる。保存行為等の例外もあるが、売却の対象や経過を確認せず進めない方がよい。

葬儀費用を遺産から払うと必ず単純承認になる?

一律には決まらない。社会的に相当な葬儀費用等への支出が処分に当たらない場合はあるが、金額や内容、財産状況等を個別に確認する。

払戻し制度は銀行の各口座から150万円ずつ使える?

同一金融機関での上限は合計150万円だ。各口座の相続開始時残高に3分の1と法定相続分を掛けた額を計算し、その上限も確認する。相続放棄への影響は利用前に別に確認する。

相続放棄後も保管している財産は捨てられない?

放棄時に現に占有している相続財産は、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務を負う。対象と引渡先を確認し、独断で廃棄しないようにする。

本記事は一般的な情報を示すものである。個別の期限や手続は、相続の経緯と資料を示し、管轄窓口や専門家へ確認する。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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