後継者が決まらない会社は、家族の経営だけでなく、役員・従業員への引継ぎ、第三者への売却、廃業・清算を比べよう。
株式を相続しただけでは代表者にならない。会社の借金が、すべて相続人個人の借金になるわけでもない。
架空の家族で考えよう。父の邦彦が亡くなり、娘の由衣は会社の書類を受け取ったが、自分で経営するつもりはない。
母の美津子は従業員を心配し、息子の隼人は、会社を閉じれば借金も終わるのかと尋ねた。役員からは、従業員が継ぐ案も考えたいと連絡があった。
引き継ぐ人を探すこと、会社の当面の業務、家族個人の相続判断は、並行して進める。
すぐに一つへ決めず、契約と資金の全体を確かめよう。以下の数字は、説明のための仮定だ。
最初に、代表権と資金を確かめる
定款と登記事項証明書で、取締役会があるか、残る取締役と代表者は誰か、誰を選ぶ手続が必要かを調べる。
亡くなった人だけが代表者なら、給与、仕入れ、税の支払い、銀行口座、許認可や取引先への対応を、会社側で整理しよう。
会社印やネットバンキングの情報を持っていても、会社を代表する権限があるとは限らない。
代表者・役員を選ぶ手続、変更登記、金融機関の権限変更は、株式を分ける話とは別に進める。
預金と売掛金等の入金、買掛金、給与、税・社会保険、借入返済等の支払予定を並べよう。
後継者を探す間も、雇用契約や取引先への義務は残る。業務をいつまで続けられるか、誰が責任を持って対応するかを確かめる。
由衣は、株式を相続したから自分が全部決めるのではなく、残る役員と必要な権限を確かめることにした。
美津子が心配する雇用も、会社の担当者と、説明や対応の予定を整える。
会社の財産・負債と、父の遺産
会社の土地、預金、機械、借入金等は、原則として会社の財産と負債だ。
相続人が分けるのは、父の株式、父が会社へ貸したお金を返してもらう権利、父個人の土地等となる。会社の借入額を、そのまま全額、父個人の相続債務にしない。
父が個人保証をしていた場合等は、契約に応じて、相続でどこまで負担するかを調べる。
通常の保証か、一定範囲の取引をまとめて保証する「根保証」か。締結・変更日と、保証の上限額である「極度額」等を確かめる。会社が返済中でも調査は必要だ。死亡後の新規借入れまで、すべて自動的に引き継ぐとも決めつけない。
父が会社へ貸したお金は、会社には負債でも、父には返してもらう権利がある。会社が父へ貸したなら、向きは逆だ。
元帳、契約と送金の記録を調べ、回収できるかも一覧にしよう。
隼人は、心配な借金が、会社の借入れか、父個人の借入れか、保証かを調べることになった。
会社の廃業と、個人の相続放棄は、目的も手続も違う。
税の株価と、売れる価格を分ける
非上場株式の税の評価では、受け取る人がどの株主区分か、会社規模、資産の構成等を確かめる。
経営しない相続人でも、評価は省けない。同族関係者の議決権や、役員かどうか等の条件から、使う方式を判断する。
類似業種比準、純資産価額、配当還元等の方式は、一番安いものを自由に選べる制度ではない。帳簿の純資産や現金残高だけでも決まらない。
定款、株主名簿、決算書と申告書、資産・負債の明細等をそろえよう。
仮に株式の相続税評価を3,000万円、買い手との交渉価格を2,000万円と置こう。その差の1,000万円が、そのまま損害や減税額になるわけではない。
税務評価と、事業や経営権も考えた取引価格、実際に売買する範囲を、分けて確かめる。
納税額は、遺産全体、受け取る内容、基礎控除や特例等から計算する。
由衣の税を300万円、納税へ使える個人資金を100万円と仮定すれば、不足は200万円だ。株価3,000万円を、由衣が今使える現金とは扱わない。
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引継ぎ先と、売却を比べる
役員や従業員が経営を継ぐなら、本人の希望と能力、株式を買う資金、経営権、保証、会社の事業計画を確かめる。
肩書を渡すだけでは、資金や契約の問題まで解決しない。
第三者へ引き継ぐ場合は、株式を売るのか、会社の事業や資産を売るのかを分ける。
同じ価格でも、代金を受け取る人と、その後の負担が違う。
株式を譲る場合は、会社の債権・債務や契約が残ることを踏まえ、帳簿に出ていない債務、保証、許認可や変更の承認等も調べる。
事業を譲る場合は、対象となる資産・負債・契約、個別の引継ぎ、会社法467条等の決議、雇用や許認可の扱いを確かめる。
家族等の株主
↓ 株式を買い手へ譲渡
売主の株主が、2,000万円を受け取る。
株主側の税や費用、保証の扱い等を確かめる。
会社
↓ 事業・資産を買い手へ譲渡
原則、会社が2,000万円を受け取る。
会社側の税や借金の返済、株主へ分配する手続等は、さらに別の段階だ。
価格を置いただけの例で、家族の手取りが2,000万円になるという計算ではない。売る対象、対価を受ける人、各段階の負担を分けて比べよう。
会社を売っても、父個人の保証が自動的に外れるとは限らない。
買い手との約束だけで済ませず、保証先の金融機関と、変更・解除の条件、実際に完了したかを確かめる。取引先、従業員、賃貸人等へいつ説明するかも、秘密保持と契約の条件を踏まえて決めよう。
廃業は、解散登記だけで終わらない
株式会社を通常清算する場合は、解散の決議等、清算人を選ぶ手続と登記、財産・負債の調査を進める。債権を回収して借金等を払い、最後に残った財産を分け、決算報告や清算結了等を行う。
会社法499条では、債権を申し出るよう公告等で求める期間を、2か月以上とする必要がある。
解散登記をしても、借入金は消えない。会社口座の全額を、先に家族へ配れるわけでもない。
借りた物件の原状回復、従業員や取引契約への対応、税・社会保険、許認可等を終える手続と費用を見積もろう。
財産より負債が多い等、通常清算が難しい場合は、特別清算や破産等を考える。
親族へ資金を移したり、特定の人だけへ独断で払ったりする前に、会社、保証人、相続人それぞれの権利を整理しよう。
清算中に資産を売ると、会社側の税が問題になる。残った財産を株主へ分ける時も、税務上、配当とみなす「みなし配当」等を確かめる。
相続税を申告しても、その後の売却や分配がすべて非課税になるわけではない。会社が何を売り、誰へ何を払うかで計算しよう。
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納税・相続放棄の期限も、並行して管理
相続税の申告・納税が必要なら、原則、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内だ。
買い手が見つからない、清算が終わらない、という理由だけでは自動的に延びない。未分割なら、その状態での申告方法と、分けた後の調整を確かめよう。
一括納付が難しければ、延納等の条件、申請期限、担保と利子税を調べる。
延納の最長期間は、財産の構成等で違う。非上場株式を相続すれば、必ず20年使えるわけではない。譲渡制限のある株式は、物納に使えない財産であることも確認する。
法人版事業承継税制は、条件を満たす後継者が、贈与や相続で株式等を受け取る時の制度だ。一般のM&Aで株式を売買する場合に、そのまま使うものではない。
特例承継計画の提出は2027年9月30日、対象の贈与・相続等は2027年12月31日までだ。認定、申告、担保、その後の継続管理等も必要になる。
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相続放棄等は、原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内に判断する。調査が足りなければ、期間内に家庭裁判所へ、期間を延ばす申立て等を考える。
株式だけ、保証だけを選んで放棄する制度ではない。検討中に財産を処分すると、放棄へどう影響するかも確かめよう。
家族と会社で、選択肢を比べる
由衣たちは、家族が経営するかどうかだけで話すのをやめた。
役員・従業員への引継ぎ、第三者への株式や事業の売却、清算を、雇用、契約、保証、税、家族の手取りから比べることにした。
雇用を守りたい美津子の思いと、借金を調べたい隼人の心配は、両方考える。
会社を動かす権限と、直近の支払いを整えよう。個人の相続判断の期限も管理しながら、継ぐ人と、会社を終える方法を検討する。
会社組織を変える案は持株会社による相続対策等も含め、実行前後の税務・法務と資金を確認する。解散・清算の概要は中小機構の案内も参考になる。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
後継者がいない場合、会社の株式は誰が相続しますか
遺言等と相続関係から受け取る人を確認する。協議が必要なら相続人全員で行うが、後継者未定だから株式を相続しないわけではない。代表者の選任とは別に整理する。
自社株の評価はどのように行われますか
受け取る人の株主区分を調べ、会社規模と資産の構成、特別な評価をする会社か等を確かめる。帳簿の純資産を割るだけではない。税の通達に従う評価と、売買の価格も分けよう。
後継者不在でもM&Aで会社を売却できますか
選択肢となるが、買い手・権限・承認・契約等の条件がある。株式譲渡なら株主、事業譲渡なら原則会社が対価を受け取る。家族の手取りや保証の解除まで確認する。
事業承継税制の特例は相続の場面でも使えますか
後継者・会社・株式等の条件を満たす相続等で検討する。一般の株式売却を対象とするものではなく、計画・認定・申告・担保等とその後の管理が必要である。
廃業を選んだ場合、相続税とは別にどんな税負担が生じますか
資産を売る時の会社側の税と、残った財産を株主へ分ける時のみなし配当等を確かめる。借金、終了の費用、税を払った後に、いくら現金を分けられるかを計算しよう。



