法人版事業承継税制(特例措置)は、後継者が非上場会社の株式等を贈与または相続で受け継いだとき、一定の条件の下で贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など所定の場合に免除する制度だ。税額が最初から消えるわけではない。
父の俊夫は、長男の航へ会社を継がせたい。航も、取引先と従業員を守りたいが、自社株の税を払う現金がない。
妹の理沙は、兄の納税が猶予されるなら、自分の取り分はどうなるのかと尋ねた。
ここからは、架空の家族で考えよう。この税制は、株式を受け継ぐ際の税負担で、事業の継続が難しくなることを調整するための仕組みだ。
家族の取得分や経営権まで、自動で決める制度ではない。猶予される税と、その後も必要な手続を確かめ、使うかを考える。
特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象となる贈与・相続は2027年12月31日までだ。
計画提出の後も、認定・申告・担保・引継ぎ後の管理が続く。中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」と国税庁No.4148で最新の条件を確認する。
計画提出と、贈与・相続の期限を分ける
2027年には、計画提出と、対象の贈与・相続という、二つの期限がある。別々に管理しよう。
| 手続 | 期限 | 意味 |
|---|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 2027年9月30日 | 都道府県へ提出し、確認を受ける |
| 対象となる贈与・相続 | 2027年12月31日まで | この期間内に株式等を取得する |
計画の提出期限は、2027年9月30日だ。期限までに都道府県へ提出し、審査による確認を受ける。提出と、確認書の発行は、分けて管理しよう。
対象の贈与・相続は、2027年12月31日までとなる。計画を出しただけで、この期限が延びるわけではない。死亡後に計画提出を考えた場合、9月30日の期限に間に合わないこともある。
計画には、後継者、承継予定時期、それまでの経営見通し、引継ぎ後5年間の事業計画等を書く。認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けよう。
この機関は、経営上の支援を行う、国の認定を受けた専門家や組織だ。計画を出しただけでは、税制の適用は決まらない。実際の贈与・相続時に、会社・先代経営者・後継者・株式・申告・担保等の条件を、改めて確かめる。
特例措置と一般措置を比べる
この税制には、特例措置と一般措置がある。対象となる株数や、猶予される割合を、分けて比べよう。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前計画 | 特例承継計画が必要 | 不要 |
| 対象株数 | 議決権に制限のない全株式 | 総株式数の最大3分の2 |
| 相続税の猶予割合 | 100% | 80% |
| 贈与税の猶予割合 | 100% | 100% |
| 後継者 | 最大3人 | 1人 |
| 雇用確保 | 弾力化 | 引き継いだ後5年間平均8割 |
一般措置も、贈与税の猶予割合は100%だ。相続税の80%と、混同しないようにしよう。
特例措置の雇用条件は「弾力化」されているが、条件がなくなった意味ではない。
引継ぎ後5年間の平均雇用が8割を下回った場合は、理由を書いた報告書を都道府県知事へ提出し、確認を受ける手続がある。報告が不要になるわけではない。
猶予と免除を分けて考える
納税の猶予は、税額をゼロにすることとは違う。
猶予は、一定の条件の下で、税の納付を待ってもらう仕組みだ。
後継者の死亡、次の後継者への一定の承継、事業継続が難しい一定の場合等に、所定の免除の理由と手続を満たせば、猶予税額の全部または一部の納付が免除される。
該当するかは、引継ぎの方法と、実際に起きた事実から確かめよう。
猶予が取り消されると、猶予税額と利子税の納付が問題になる。利子税は、猶予された税に加えて、所定の計算で納める税だ。
経営承継期間内に後継者が代表権を失う、対象株式を譲渡する、会社が解散・上場する等が、理由となる場合がある。
代表権等の条件は、期間内と、その後で違う。やむを得ない理由や免除の理由も調べる。猶予後も、手続と条件の管理を続けよう。
説明用の例として、遺産全体から計算した航の相続税が1,000万円、そのうち対象株式について猶予される税が800万円とする。
この場合、残る200万円は、別に納付を考える必要がある。対象株式の猶予割合が100%でも、預金等に対応する税まで、すべて消える意味ではない。
800万円も、直ちに免除されたわけではない。条件を満たして猶予を維持し、所定の免除の理由と手続を確かめる。
実際の猶予税額は、受け取る内容等から計算する。贈与と相続の制度も、区別しよう。
航の相続税が合計1,000万円、猶予税額が800万円と計算された、説明用の仮定例。
800万円
条件の下で、納付を待ってもらう。直ちに免除されたわけではない。
200万円
1,000万円 − 800万円。こちらは、申告期限までの納付を考える。
800万円についても、制度を維持する条件と届出がある。免除は、所定の理由と手続を別に確かめる。実際の猶予額は取得財産等から計算し、この例の金額を一律には使わない。
制度を使うまでの五つの手順
概要が分かったら、自社の状況と照らし合わせる。次の五つの段階で、必要な条件と資料を確かめよう。
①会社と株式を確認する
中小企業者・非上場会社に当たるか、議決権のある株式の構成、株主名簿の現状を調べる。議決権は、株主総会で投票する権利だ。
資産管理会社等の、対象から外れる条件も調べよう。会社の実態によっては、この段階で、制度を使えないことが分かる。
②株価を試算する
特例を使う場合も、株式の評価と、猶予税額の計算は必要だ。決算内容や組織再編で、評価額は変わる。
猶予額を試算し、担保と、後継者の資金計画を準備しよう。
③後継者と承継日を決める
代表権を移す時期、議決権の割合、同族内で最も多くの議決権を持つ株主の条件を、承継の前後で確かめる。
特例措置の後継者は、最大3人まで認められる。ただし、複数なら、各人の条件に合う株式の配分を、申告前に考えよう。
後継者の条件には、引継ぎの時だけでなく、その前の時点で満たすものもある。
いつ、何を満たす必要があるかは、贈与か相続かによっても変わる。
④特例承継計画を作成・提出する
認定経営革新等支援機関の指導・助言を受け、計画を都道府県へ提出する。
計画の「確認」、経営承継円滑化法上の「認定」、税務署への「納税猶予の申告」は、別の手続だ。確認書が届いても、それで税務署への手続が終わるわけではない。
確認書は、計画の確認を受けた記録となる。それだけで、税の猶予まで決まるものではない。
⑤贈与または相続後の認定・申告を行う
贈与・相続後は、期限内に認定申請を行う。認定書の写し等を添えて、贈与税・相続税を申告しよう。
猶予税額と利子税に見合う担保も必要だ。制度の適用を受ける株式等をすべて担保に提供すれば、必要な担保を提供したとみなす扱いもある。
対象株式を担保にする方法、既に担保権がある場合、複数の後継者への株式配分は、申告前に確かめる。
贈与税側の制度の詳細は国税庁No.4439で確認できる。
俊夫と航は、計画の確認書だけで安心しないことにした。
計画の確認、引継ぎ後の認定、税務申告、担保、継続報告の欄を分ける。各提出先の受付と期限を記録し、一つの書類で、ほかの窓口の手続も終わったとは考えない。
申告後も、届出と条件を管理する
申告後も、制度を維持するための管理が続く。
経営承継期間は、原則として、最初の適用に係る申告期限の翌日から5年間だ。この期間内は、都道府県への年次報告書と、税務署への継続届出書を、原則として毎年提出する。
6年目以後も、税務署への継続届出書は、3年に1度の提出を確かめる。提出漏れや、次のような事由があると、猶予税額と利子税の納付が問題になる場合がある。
- 経営承継期間内に後継者が代表権を失う(例外の有無を確認)
- 対象株式を譲渡・贈与する、担保が実行される
- 会社が解散・上場する
- 資産保有型会社等の判定に当てはまる
取消しの理由となる事実が生じると、後から届出を出すだけでは、元に戻せない場合がある。
株式・資本の変更、代表者交代、大型配当、事業譲渡の前に、認定と納税猶予への影響を確かめよう。
贈与と相続で、必要な準備を比べる
生前贈与なら、引き継ぐ時期を選べる。ただし、先代の死亡時に相続税へ切り替える扱いや、相続時精算課税との関係も調べる。
遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分だ。この権利や、経営権を移す時期も、一緒に考えよう。
相続による承継では、死亡時点の条件、相続税の申告期限、遺産分割、ほかの相続人の遺留分、納税資金を、並行して調べる。
死亡後に計画を提出する場合も、2027年9月30日の提出期限があることを、忘れないようにしよう。
制度全体の設計段階では事業承継と相続対策、株式を実際に移す段階では非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)の相続手続も、一緒に確かめよう。
株式を移しても、残る課題を調べる
納税猶予は、税の制度だ。後継者へ株を集める案を、ほかの相続人が自動で受け入れる仕組みではない。
遺留分の計算に関する合意、議決権・種類株式の設計、役員の構成、個人保証の引継ぎは、税とは別に考える。ほかの相続人へ渡す、調整用の財産も準備しよう。
経営承継円滑化法には、遺留分に関する民法特例がある。ただし、納税猶予の認定だけで、その合意が成立するわけではない。
株式を移しても、事業用不動産、会社への貸付金、知的財産等が、先代個人に残る場合がある。許認可、取引先との契約も調べよう。
会社の運営に必要な資産・契約・保証を一覧にし、誰がいつ引き継ぐか、工程表に入れる。
理沙の疑問は、税制の認定だけでは解決しない。航の納税が猶予されても、ほかの相続人の権利と、家族で合意する配分は、別に残る。
生命保険の受取人、株式以外の財産、遺言・遺留分を並べよう。代償金は、遺産を多く受け取る人が、ほかの相続人へ渡す調整のお金だ。その資金も調べ、会社を継ぐ人と、ほかの家族の暮らしを考える。
資料を集め、ほかの案も比べる
まず、手元にある資料を確かめる。すべてそろうのを待つのではなく、ある分を持って相談し、不足する資料と調べ方を整理しよう。
- 直近3期程度の決算書・申告書、株主名簿、定款、登記事項証明書
- 先代・後継者・同族関係者の議決権一覧
- 株価評価の基礎資料(土地・有価証券・保険等の明細)
- 代表者変更、贈与・相続、納税申告までの工程表
- 引継ぎ後5年間の事業計画と、報告担当
資料が集まったら、特例を使わない場合の相続税も試算する。
持株会社・売買・従業員への承継等の別案と、後継者の資金負担を比べ、自社に合う方法を考えよう。
期限と、これからの予定を整理する
計画の作成、支援機関との調整、株価の試算、引継ぎ日の検討には、それぞれ時間がかかる。
特に相続による承継では、死亡後に計画提出を考えても、提出期限に間に合わない場合がある。期限と準備の予定を、先に確かめよう。
次の四つの期限は、別々に管理する。
- 特例承継計画の提出:2027年9月30日(都道府県への提出期限。確認手続も別に行う)
- 対象となる贈与・相続:2027年12月31日まで
- 相続税申告・納付:相続が始まったと知った日の翌日から原則10か月
- 相続放棄・限定承認:自己のために相続開始があったことを知った時から原則3か月
手元にある決算書や株主名簿を取り出し、議決権の構成と、株価を試算するための情報を確かめる。
その資料を基に、会社が制度の条件に合うか、支援機関や税理士と調べよう。計画を作り始める前に、分かることと、不足することを整理できる。
俊夫家は、税の試算、航が代表者となる時期、理沙への配分、引継ぎ後の報告担当を、一つの工程表へ並べることにした。
制度を使う案と使わない案を比べ、将来の売却や廃業の可能性も考える。期限に間に合わせるだけでなく、その後も維持できる計画かを確かめよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
計画提出と贈与・相続の期限は同じか
異なる。現行の特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象の贈与・相続等は2027年12月31日までだ。
納税猶予を使えば税額がすぐ零になるか
猶予と免除は別だ。免除事由・手続がなければ猶予税額は残り、取消時には税額と利子税が問題になる。
担保は要るか
猶予税額と利子税に見合う担保が必要だ。対象株式等をすべて提供する取扱いも確認する。
申告後の届出は何年続くか
原則5年間の経営承継期間内は毎年、その後も税務署への継続届出は3年ごとに必要だ。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



