任意後見と法定後見の違いが、将来の選択肢を変える

任意後見と法定後見は、どちらも判断能力が低下した人を法的に支援する「成年後見制度」の一形態とされています。任意後見は本人が判断能力のあるうちに将来の支援者を自分で選んで契約する制度、法定後見は判断能力がすでに低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度です。

結論から言うと、2つの最大の違いは「誰が・いつ・どのように後見人を決めるか」にあり、自分で選べるかどうかが将来の自由度を大きく左右する可能性があります。

「もし自分が認知症になったら、財産はどうなるんだろう」──そう考えたことが、一度くらいはあるはずだ。

頭の隅に浮かんでは、「まあ、まだ先の話だな」と追いやる。そして翌日には忘れる。これが人間の、実にやさしい自己防衛本能というやつである。

だが現実は待ってくれない。判断能力というものは、ある日突然「本日をもって終了です」と宣告されるわけではなく、気付いたときにはもうすでに、手遅れということが起こり得る。

困り顔

任意後見?法定後見?どっちが自分に関係あるのか、さっぱりわからない……

で、結論から言うと

で、結論から言うと、任意後見と法定後見の違いは「自分で決められるか、他人に決められるか」という一点に尽きる。

シンプルすぎて拍子抜けするかもしれない。が、この差が、将来の自由度をシュッと決定的に変えてしまうのだ。

もう少し正確に言う。任意後見は、まだ判断能力がある「今」のうちに、「将来こういう人に支援してほしい」と自分で契約を結んでおく制度だ(任意後見契約に関する法律第2条)。法定後見は、すでに判断能力が低下した「後」に、家庭裁判所が後見人を選任する制度(民法838条)。この順番と主導権の差が、すべてを変える。

「あとから決める」と何が起きるのか

法定後見が始まるシーン。想像してみてほしい。

家族が「もう一人では無理だ」と家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる。書類を集め、医師の診断書を用意し、財産目録を作成する。そして裁判所が後見人を選任する──その「後見人」が、必ずしも家族になるとは限らない点が、なかなかのサプライズポイントだ。

財産の多い案件では、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれることがある。毎月の報酬が発生し、家族がやりたかったことにブレーキがかかることも。「親の財産だから自由に使えるはず」という思い込みが、ここで静かに砕け散る。

法定後見には3種類ある。判断能力の残存度合いによって分かれているのが特徴だ。

図解
  • 後見(民法838条・843条):判断能力がほとんどない状態。後見人が財産管理・法律行為のほぼすべてを代理する
  • 保佐(民法876条):判断能力が著しく不十分な状態。重要な法律行為(不動産の売買など)に保佐人の同意が必要
  • 補助(民法876条の2):判断能力が不十分な状態。同意権・代理権の範囲を個別に設定できる

いずれも一度開始されると、原則として本人の判断能力が回復しない限り終了しない。つまり、始まったら「やっぱりやめた」ができないのだ。これが法定後見の、知っておくべき現実のひとつである。

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「今のうちに決める」任意後見の仕組み

一方、任意後見。こちらは「準備が早ければ早いほど選択肢が広がる」制度だ。

具体的な流れはこうだ。

図解
  • ステップ1:後見人を自分で選ぶ 信頼できる家族、友人、あるいは専門家と任意後見契約を結ぶ。公正証書による作成が必須(任意後見契約に関する法律第3条)
  • ステップ2:契約の内容を自分で決める 財産管理の範囲、医療・介護に関する意思決定支援の範囲を、契約書に落とし込む。「この範囲だけお願い」という指定が可能
  • ステップ3:判断能力が低下したら発動 本人または後見人候補者が家庭裁判所に申し立て、「任意後見監督人」が選任された時点で任意後見が開始する(任意後見契約に関する法律第4条)

ポイントは「監督人がいる」という点だ。任意後見人が暴走しないよう、裁判所が選んだ監督人がチェックする仕組みになっている。「信頼できる人に任せる」だけでなく、「仕組みとして安全装置がある」のが任意後見の設計思想である。

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2つの制度、どちらを選ぶかの判断基準

では、どちらを選ぶべきか。シンプルに整理しよう。

  • 今、判断能力がある → 任意後見が選択肢に入る。自分の意思を契約に反映できる。支援者を自分で選べる。将来の自由度が比較的高い
  • すでに判断能力が低下している → 法定後見しか使えない。家庭裁判所に申し立てるルートしか残っていない
  • 緊急性が高い(今すぐ財産管理が必要) → 法定後見の方が対応が早い場合がある。任意後見は「発動」まで一定のプロセスが必要なため

注意したいのは、任意後見契約を結んでいても、契約の内容によっては法定後見が別途必要になるケースがある点だ(任意後見契約に関する法律第10条)。たとえば、本人保護のために法定後見の方が適切と判断された場合、家庭裁判所の判断によって法定後見が優先されることがあるとされている。

また、両制度を補完する仕組みとして「家族信託(民事信託)」という選択肢もある。成年後見制度だけが唯一の答えではない、という発見は、早い段階で持っておいて損はない。

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今日から動けるアクション

難しく考えなくていい。まずは以下の確認から始めればいい。

  • □ 今現在、自分(または家族)の判断能力の状況はどのくらいか
  • □ 将来の財産管理や生活支援を「誰に頼みたいか」のイメージはあるか
  • □ 任意後見を希望するなら、公証役場への相談を具体的に検討できるか
  • □ 財産の内容(不動産・預貯金・負債)を大まかに把握しているか

この4つに答えが出ているだけで、次のステップが驚くほどクリアに見えてくる。任意後見契約は公証役場で作成するが、事前に内容を整理しておくと手続きがスムーズになる可能性がある。

ホッとした顔

違いがわかった。まだ判断能力があるうちに、自分で決めておけばよかったんだな。

数週間後、「あのとき動いてよかった」と、清々しい気持ちで朝を迎えるために。情報を知っているだけで、選べる未来の幅がガラッと変わる。

けっこう大事な話だったと思います。伝わりましたかね。

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よくある質問

任意後見と法定後見は同時に使えますか

原則として同時には使えないとされています。ただし、任意後見契約が締結されていても、本人保護のために特に必要があると家庭裁判所が認めた場合は、法定後見が開始されることがあります(任意後見契約に関する法律第10条)。どちらが適用されるかは状況によって異なる可能性があります。

任意後見契約はいつでも解除できますか

任意後見監督人が選任される前(つまり任意後見が発動する前)であれば、公証人の認証を受けた書面によって解除できるとされています(任意後見契約に関する法律第9条)。発動後の解除は家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。

法定後見の後見人に家族はなれますか

家族が後見人候補者として申し立てることは可能ですが、必ず家族が選ばれるとは限りません。財産が多い場合や親族間に対立がある場合などは、弁護士・司法書士などの専門職後見人が選任されることがある点に留意が必要です(民法843条)。

任意後見契約の費用はどのくらいかかりますか

公正証書作成にかかる公証人手数料(1万1,000円程度)のほか、登記費用(1,400円程度)が必要とされています。また任意後見が発動した後は、任意後見監督人の報酬(月額1〜3万円程度が目安とされることがある)が継続的に発生する可能性があります。具体的な金額はケースによって異なります。

親がすでに認知症の場合、任意後見は使えますか

任意後見契約は「有効な意思能力がある状態」で締結する必要があるとされています(民法3条の2)。判断能力がすでに低下している場合は任意後見契約の締結が難しく、法定後見の申し立てを検討することになる可能性があります。判断能力の程度は医師の診断が参考になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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