孫による相続放棄とは、祖父母などの被相続人が亡くなった際に、代襲相続や遺贈などで相続人となった孫が、民法上の手続きを経て相続の権利・義務を放棄することを指します。
結論から言うと、孫が相続放棄できるかどうかはその立場(代襲相続人か否か等)によって異なる場合があり、家庭裁判所への申述(民法938条)は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行う必要があるとされています。
孫というのは、相続の世界では「脇役」だと思われがちだ。主役は子ども。配偶者。そういう認識で動いていると、ある日突然、想定外の請求書が孫の元に届くことがある。
「え、おじいちゃんの借金、なんで私が?」
そう、孫にも相続が降り注ぐ瞬間が、確かに存在するのだ。
孫なのに相続人になるって、どういうことなんだ……?
で、結論から言うと
孫が相続人になるケース、そして孫が相続放棄を選ぶべきケースは、大きく分けて「2つのルート」から発生するとされている。
ひとつ目は「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」。親(被相続人の子)が被相続人より先に亡くなっていた場合、その子ども、つまり孫が「代わりに」相続人の席に座ることになる(民法887条2項)。
ふたつ目は「遺贈」。遺言書に「孫に財産を渡す」と書かれていた場合だ。
そして、ここに「負債」が絡んでくると、話は一気にシリアスな様相を帯びてくる。

孫が相続人になる2つのルート、それぞれの注意点
ルート①:代襲相続
たとえば、祖父が亡くなった時点で、父(祖父の子)がすでに他界していたとする。この場合、父の代わりに孫が相続人の席に座ることになる。これが代襲相続だ(民法887条2項)。
ポイントはここからだ。代襲相続で孫が相続人になった場合、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ可能性がある。祖父の財務状況を把握していなかった孫が、突如として「負の遺産」の受取人に変身してしまうわけだ。
ただし、父が「相続放棄」をしていた場合は話が変わる。父が生前に相続放棄をしていれば、最初から相続人でなかったことになり(民法939条)、代襲相続は発生しないとされている。この点はよく誤解される箇所なので、記憶の引き出しに入れておいてほしい。
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ルート②:遺贈
遺言書に「孫Aに〇〇を遺贈する」と書かれていた場合、孫は相続人ではなく「受遺者(じゅいしゃ)」という立場になる。この場合、民法上の相続放棄の手続きとは別の話になり、遺贈を「放棄する」という選択肢が認められている(民法986条)。
受遺者としての放棄は、家庭裁判所への申述ではなく、相続人への意思表示で足りるとされている。手続きの入り口が違う、という点を把握しておくだけで、動き方が大きく変わってくる。
相続放棄の「3ヶ月」は孫にも容赦なく迫ってくる
さて、代襲相続で孫が相続人になったとして、もし「放棄したい」と思ったならば。その期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(民法915条)とされている。
これが孫にとって特に注意が必要な理由、お分かりだろうか。
祖父が亡くなったことを、孫がすぐに知るとは限らない。疎遠な家庭では「亡くなってから数ヶ月後に知らされる」というケースも、決して珍しくない。その場合の起算点は「孫が相続開始を知った日」からカウントが始まるとされている。祖父の死亡日ではない、という点が重要だ。

具体的なアクションはこうだ。
- 祖父(祖母)が亡くなったことを知った日を、メモしておく
- その日から3ヶ月以内に「放棄するか・受け入れるか」を判断する
- 放棄する場合は家庭裁判所への申述が必要(民法938条)。親族間の口頭の約束だけでは法的効力がない
- 3ヶ月では調査しきれない場合、「熟慮期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てる(民法915条1項但書)選択肢もある
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孫が放棄したとき、次に誰に回るのか
ここが、家族全体を巻き込む重大ポイントだ。
相続放棄をすると、その人は「最初から相続人でなかった」ことになる(民法939条)。では、放棄された分の相続権は誰に移るのか。
代襲相続の場合、孫が放棄した相続分は他の相続人に戻る形になる可能性がある。ただし、具体的にどう移転するかは相続人の構成によって変わってくるため、全体の相続人マップを確認しておく必要がある。
たとえば、祖父の子どもが複数いて、うち一人だけが先に亡くなっていて孫が代襲した……というケースでは、その孫が放棄すれば、生きている祖父の他の子どもたちの取り分に影響が出てくる。まさに、一人の選択が全員の算数を変えるドミノ倒しだ。
だからこそ、孫単独で判断するのではなく、他の相続人と「誰が何をするのか」をすり合わせておくことが、後々の関係を穏やかに保つコツになる。なお、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり(民法907条)、一人でも欠けると協議自体が無効になるとされている。
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孫が相続放棄を検討すべき「チェックポイント」
判断に迷ったら、以下のリストを使ってほしい。

- 祖父・祖母の借金(消費者金融・銀行ローン・連帯保証)の有無を確認したか
- 信用情報機関(JICC・CIC・全国銀行個人信用情報センター)への照会で負債の全貌を把握したか
- プラスの財産(不動産・預貯金・株式)の総額と、マイナスの合計を比較したか
- 自分が「代襲相続人」なのか「受遺者」なのかを確認したか(手続きの入り口が違う)
- 3ヶ月の熟慮期間が迫っている場合、期間の伸長申立てを検討したか
「そもそも調べ方がわからない」という場合でも、動き出す前に全部わかっている必要はない。まず「放棄の期限だけは死守する」という意識を持つことが、何より大事だ。期限だけは、一秒たりとも待ってくれない。
ちゃんと期限を把握して動いたら、思ったよりクリアに整理できた。
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よくある質問
孫は必ず相続人になるのですか
孫が相続人になるのは、主に親(被相続人の子)が被相続人より先に亡くなっていた場合の代襲相続(民法887条2項)とされています。親が生きている場合、孫は原則として相続人にはならないとされています。ただし、遺言による遺贈がある場合は受遺者として財産を受け取る可能性があります。
親が相続放棄をしていたら、孫も代襲相続しますか
親が生前に相続放棄をしていた場合、親は最初から相続人でなかったことになるため(民法939条)、代襲相続は発生しないとされています。代襲相続が発生するのは、親が「死亡・欠格・廃除」によって相続権を失った場合に限られるとされています(民法887条2項)。
孫が相続放棄をする期限はいつまでですか
相続放棄の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内とされています(民法915条)。孫の場合、祖父母の死亡日ではなく「自分が相続人となったことを知った日」が起算点になる可能性があります。疎遠な場合は特に、この起算点を正確に確認しておくことが重要です。
相続放棄は家族間の話し合いだけで成立しますか
なりません。相続放棄は家庭裁判所への申述が必要であり(民法938条)、親族間での口頭の約束や書面の取り交わしだけでは法的効力が認められないとされています。必ず家庭裁判所への正式な申述手続きを行う必要があります。
3ヶ月以内に財産調査が終わらない場合はどうすればいいですか
家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てることが可能とされています(民法915条1項但書)。期間内に申立てを行えば、裁判所の判断により熟慮期間が延長される場合があります。3ヶ月の期限が迫っている場合は、早めに申立てを検討されることをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





