遺産分割が揉める原因と対処法|不動産・生前贈与・調停

遺産分割が揉める原因と対処法|不動産・生前贈与・調停

遺産分割でもめたら、誰が何を相続するか、割合、評価額、分け方、実行できる条件を分けて確認する。

一人の希望でほかの人の権利を決めないよう、協議には全員の合意が要る。合意できなければ、裁判所で話し合う調停や、裁判官が判断する審判の道がある。寛と萌も、どこが未解決かを書き出した。

母の相続で、兄の寛は実家を売って現金にしたいと考えた。子の教育費に備えたかったからだ。妹の萌は母と暮らしていた実家に残りたい。「二人で半分」という点では一致しているのに、売るか残すかで止まってしまった。

以下の寛と萌は、遺産分割を考えるための架空の兄妹だ。相続人は二人だけ、遺産は実家と預金だけとする。遺言、特別受益・寄与分、借金等はない単純な例だ。

「半分ずつ」まで決まっていても、分割は止まる

割合が同じでも、受け取る財産は同じとは限らない。現金はそのまま使えるが、家は売却や融資が実現しなければ手元の現金にならない。住む人には住む人の事情があり、現金を必要とする人にも生活がある。

そこへ、「兄は生前に援助を受けていた」「介護は自分がしていた」「通帳を見せてもらえない」という話が重なる。一度に答えようとすると、家の値段を話していたはずが、十年前の出来事に戻ってしまう。

紙を一枚用意して、次の四つを別の欄に書くと、意見が食い違う点が見えやすくなる。

  • 何を分けるか――誰が相続人で、どの財産が遺産なのか。
  • いくらと評価するか――実家や株式などの価格をどう確かめるか。
  • どの割合で分けるか――遺言、法定相続分、特別受益、寄与分をどう扱うか。
  • どう実行するか――売却、代償金、引渡し、登記などを、誰がいつ行うか。

全部が決まるまで何もできないわけではない。合意できている点を記録し、未確定の点について必要な資料や次の手続を決めていく。

寛の「半分」は現金で受け取ること、萌の「半分」は住まいを守りつつ価値を調整することだった。同じ言葉の中身が違う。二人は、母への思いと分割案を別々に説明することにした。

遺言と相続人を、家族の記憶だけで決めない

普段連絡を取っている家族だけが、参加者全員とは限らない。前婚の子、認知した子、先に亡くなった子に代わって相続する人等が関わる場合もある。

戸籍等で相続人を確認し、一部の人を除いたまま分割を進めないようにしよう。

遺言の有無と内容も先に確認する。見つかった遺言が財産の全部を扱っているのか、一部だけなのかで、話し合う範囲が変わる。方式だけでなく、遺言能力や本人の作成かといった問題が生じる場合もある。

自宅等で保管していた自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所の「検認」が要る。遺言の状態や内容を確認し、証拠を保つ手続だ。

公正証書遺言と、法務局の保管制度を使った遺言には検認は不要だ。ただし、検認をしても、有効・無効が最終的に決まるわけではない。

遺言があるのに「兄弟全員で好きに分ければよい」と進めることも避けたい。受遺者や遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な手続きを進める人)がいる場合を含め、誰の関与が必要かを確認する。

通帳の残高に、保険金も借金も一緒に足さない

遺産の一覧には、預貯金、不動産、有価証券などを書き入れる。その際、金額だけでなく、金融機関名、口座、所在地、資料の日付を残す。同じ口座の古い残高と新しい残高を、別々の財産のように数えてしまうのを防げる。

受取人を指定した死亡保険金は、原則としてその受取人自身の財産だ。通常の遺産分割の対象とは違う。

ただし、相続税でも対象外という意味ではない。著しい不公平があれば、取り分を調整する特別受益の問題等も、別に検討する。

借金や未払金も調べる。「家をもらう兄が全部払う」と家族で決めても、その約束だけで、貸した側に対するほかの相続人の責任まで消えるとは限らない。

借金を理由に相続放棄を考えるなら、遺産分割の決着を待たず、放棄の期間を確かめよう。

生前や死後の出金について説明が食い違う場合は、取引履歴と支出先を調べる。生活費や施設費、贈与、貸付け、無断の出金を分けずに「使い込みの合計額」とすると、請求の根拠が曖昧になる。遺産分割とは別の返還請求等が必要かも検討したい。

実家をどう分けるか――四つの方法を、払える条件で比べる

現物分割:家と預金を、それぞれ取得する

一人が家を、別の人が預金を受け取るなど、財産そのものを割り振る方法だ。財産の組合せによっては、売らずに分けられる。ただし、金額の釣合いを確かめるためにも、家の評価が必要になる。

代償分割:家を受け取る人が、お金を支払う

実家に住み続けたい人が家を取得し、他の相続人に代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)を払う方法だ。住まいを残せる一方、支払資金がなければ約束だけが残る。

預金で払えるのか、融資を予定するのか。融資が通らなければどうするのか。分割払いなら、期限や担保、支払が滞ったときの対応をどう定めるのか。金額への合意と、受け取れる見込みは別々に確かめたい。

実家の価額を3,000万円で合意し、預金は1,000万円だったとしよう。合計4,000万円の半分は、各2,000万円だ。

萌が家、寛が預金を取得する案では、萌が寛へ1,000万円を払えば、計算上は二人とも2,000万円になる。税と費用は別に確認する比較例だ。

しかし、萌にはすぐ払える1,000万円がなかった。公平になる計算ができても、払えるとは限らない。寛にも教育費が必要な時期がある。

融資を受けられるか、いつ払うか、分割払いの安全性も確かめてから、ほかの方法と比べる必要があった。

家を残す案には、代償金を払う資金も必要になる

寛・萌の架空の例だ。相続人は二人、遺産は家と預金だけ。遺言・特別受益・寄与分・借金はなく、税・費用は別に考える。

萌:家を受け取る
合意した価額 3,000万円
寛へ 1,000万円を払えれば
差引き 2,000万円
寛:預金を受け取る
遺産の預金 1,000万円
+ 萌からの 1,000万円
合計 2,000万円
ただし、萌にはすぐ払える資金がない
約束する前に、資金調達、支払期限、融資が通らない場合の対応を確認する。

計算が合うことと、実際に払えることは別だ。支払える見込みが立たなければ、売却等のほかの分け方とも比べる。

換価分割:売却して、お金で分ける

売却代金を分ける方法だ。家を残す必要がなく、現金での取得を望む場合などに検討する。

ここでも「売って半分」だけでは足りない。売出価格と値下げの判断、仲介費用や片付け費用、税負担、居住者の退去・引渡し時期を確認する。売却価格の全額が、そのまま手取りで分けられるわけではない。

共有分割:持分を定めて共有する

複数人で持分を持つ分け方もある。共有にすること自体が失敗なのではない。利用方法、管理費用、修繕、将来の売却などについて合意を保てるかが大切になる。

不動産全体を売るには原則として共有者全員の合意が必要だ。自分の持分だけを処分する場合とは区別したい。今の対立を棚上げするためだけに共有にすると、次の修繕や売却で同じ争いが戻ってくることがある。

家の値段は、いつの何の価格か

固定資産税の納税通知書にある数字を見て「これが家の値段」と決めたくなる。しかし、固定資産税評価額、相続税評価額、売却を想定した査定額は、目的の異なる数字だ。

現実に分ける遺産の評価は、原則として分割時の価額が基準になる。必要に応じて複数の査定や不動産鑑定を検討し、比較する時点や条件をそろえる。

一方、特別受益や寄与分を反映した具体的相続分の算定では、亡くなった時点の価額を基礎にする。亡くなった時の割合の計算と、実際に取得する財産の評価を混ぜないことが重要だ。

家の状態、共有持分、賃貸の有無、接道などでも見込みは変わる。「近所がこの値段で売れた」という話から一歩進み、その家の条件を確認したい。

萌が見た固定資産税の資料と、寛が取った売却査定では、額が違った。すぐに相手を疑わず、目的、日付、建物の状態、費用の扱いを並べて確かめる。

先ほどの3,000万円も、こうした確認を経て合意する価額でなければ、代償金を計算する土台にはできない。

生前贈与と介護の話は、資料につながる形にする

「特別受益」は、一部の相続人への遺贈や一定の生前贈与を、取り分の計算に反映する仕組みだ。住宅資金等が問題になるが、日常の扶養やすべての学費が自動的に対象になるわけではない。

贈与の目的や額、親の経済状況、計算から外す「持戻し免除」の意思等を確かめる。

「寄与分」は、介護や事業への協力等によって、亡くなった人の財産を守り、増やす特別な貢献をした場合の制度だ。同居した年数だけで、一定額が加わるものではない。

介護の内容・頻度、外部サービスとの分担、報酬の有無、自分が負担した費用等を調べよう。

思い出をすべて証明し直す必要はない。どの援助、どの期間、どの支出を分け方に反映したいのかを絞ると、通帳や領収書、介護記録のどこを見るべきかが決まる。

書面にする前から、合意の言葉は慎重に扱う

「まだ署名していないから、何を言っても大丈夫」とは限らない。遺産分割協議は、相続人全員の口頭の合意でも成立し得る。単なる提案なのか、最終的に合意したのかは、やり取りの内容や経緯による。

検討中なら、未確認の点や条件をはっきり伝えよう。

合意したら、対象の財産、受け取る人、代償金の額・期限、登記や引渡しへの協力等を書面で残す。登記や金融機関の手続に使う書類も、別にそろえる必要がある。

「今後、互いに一切請求しない」という条項には、とくに注意が必要だ。未調査の出金や立替金の問題を残すつもりなら、何を今回解決し、何を改めて話し合いするかを明確にする。ひな形の結びをそのまま入れる前に、消したくない問題まで含まれていないかを確かめたい。

協議の段取りは、遺産分割協議の進め方でも整理している。

家族だけで進まなければ、調停へ場所を移す

家庭裁判所の遺産分割調停は、相続人の一部から、ほかの相続人全員を相手に申し立てられる。

申立先は、原則として、相手の一人の住所地を担当する家庭裁判所か、当事者が合意した家庭裁判所だ。同じ提案と拒否が続くなら、利用を検討しよう。

調停は、裁判所を交えて合意を探る手続だ。資料をもとに話を進めるが、調停案が出たから必ず承諾しなければならないわけではない。不成立の場合は原則として自動的に審判へ移り、裁判所の判断による分割を目指す。

ただし、相続人かどうか、遺言が有効か、そもそも遺産に属する財産かといった争いは、訴訟などで先に解決する必要が生じることもある。使い道の分からないお金を含め、一つの調停ですべてが終わるとは限らない。相続の調停が不成立になった場合も見据えて、争点と手続の順序を考える。

揉めている間にも、別の期限は進む

  • 相続放棄:原則として、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月。調査が間に合わなければ、期間内の伸長申立てを検討する。
  • 相続税:申告義務がある場合、原則として死亡を知った日の翌日から10か月。分割未了だけでは延びない。未分割での申告と、分割後の手続を税理士に確認する。
  • 遺留分:侵害額請求は、相続の開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年の時効、亡くなってから10年の制限に注意する。古い相続には制度の違いもある。
  • 相続登記:自分のために相続が始まったことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から原則3年以内。2024年4月1日より前の相続についても義務があり、すでに取得を知っていた場合は原則2027年3月31日まで。相続人申告登記等で当初の義務に対応した後も、分割成立後の登記義務を別に確認する。
  • 特別受益・寄与分:亡くなってから10年経過後の分割では原則として考慮しないルールがある。期間内の家裁への請求などの例外、古い相続の経過措置を確認する。

特別受益・寄与分の10年ルールは、2023年4月1日より前の相続にも関係する。この場合、死亡から10年を経過する時と、2028年3月31日のうち、遅い方までに家裁へ請求することが重要だ。

満了前6か月以内にやむを得ない事情で請求できず、その事情がなくなってから6か月を経過する前に請求した場合等の例外もある。

全員の合意があれば、期間経過後も特別受益や寄与分を考慮して分けられる。ただし、「話し合いを続けていた」だけで家裁への請求と同じ扱いになるとは考えない方がよい。

次の一歩は、家を手放す約束でなくてもいい

「売る」「売らない」で止まっているなら、まず査定を取ることだけを話し合う。「代償金を払う」で止まっているなら、資金の見込みと期限を確認する。通帳を見せてもらえないなら、取得できる資料と法的な手段を調べる。

相談には、相手から届いた提案、分かる範囲の財産一覧、遺言、死亡日と期限のメモを持っていけばよい。不足資料も含めて、弁護士に現在地を伝える。家の名義や税額の問題は、司法書士・税理士への確認が必要な部分も分けて考える。

寛と萌は、その日に家を売る約束はしなかった。査定の条件をそろえ、萌は資金調達を確認し、寛はいつまでに現金が必要かを伝えることにした。調べても条件が合わなければ、調停で分割を考える道も残す。

住み続けたい気持ちも、現金で受け取りたい事情も、言っただけで消えるものではない。誰が、何を、いつまでに実行できるかまで確かめることが、家族の案を暮らしの中で使える約束に変える。

公的資料・根拠

ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

遺産分割は多数決で決められますか

協議による分割には相続人全員の合意が必要だ。一人の反対を多数決で押し切ることはできず、合意できなければ調停などを検討する。

実家に住み続けたい人がいれば売却できませんか

居住の事実だけで結論は決まらない。権利関係と遺産分割の方法を確認し、代償金、売却、引渡し時期などの条件を検討する。

署名していなければ協議は未成立ですか

そうとは限らない。相続人全員の口頭の合意でも成立し得る。最終合意か検討中の案かは、内容や経緯を確認する。

遺産分割調停が不成立なら、改めて審判を申し立てますか

遺産分割調停の不成立では、原則として自動的に審判へ移る。遺言の有効性など、別の手続で解決すべき意見が食い違う問題がある場合もある。

揉めている間は相続税の申告を待てますか

分割未了だけでは申告期限は延びない。申告義務がある場合は未分割での申告を検討し、分割後の税務手続も確認する。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の対応は、死亡日、遺言や財産の資料、当事者間のやり取りを示して、弁護士等へ確認しよう。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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