結婚・子育て資金の一括贈与は、金融機関の管理契約と申告等を条件に、受け取る人一人につき累計1,000万円までを非課税にする制度だ。結婚費用の300万円は、その内枠になる。
2026年10月現在、新たに資金を入れられる期限は2027年3月31日だ。既存契約で全額を使い切る期限とは違う。
架空の家族の例で考える。父の義明は、28歳の娘・明日香に結婚と子育ての資金として800万円を渡したい。母の詩織は自分たちの介護費が心配で、明日香の夫・徹也は「結婚の費用なら何でも口座から出せるのか」と尋ねた。
この制度は、若い世代が結婚・出産・育児を進めるための資金を、親や祖父母から早めに移す仕組みである。将来分をまとめて普通預金へ渡すだけでは、必要な都度の生活費支援と同じ非課税扱いにはならない。そこで、対象支出を金融機関が確認する専用の管理を行う。
専用口座に入れれば、最後まで非課税と決まるわけではない。領収書の提出、50歳等で終わる時の使い残し、贈与者が亡くなった時の管理残額も確かめる。
実際に使う予定に合わせて、渡す額を決めよう。
制度の基本条件を確認する
| 項目 | 現在の条件 |
|---|---|
| 贈与者 | 贈与を受ける人の父母・祖父母などの直系尊属。 |
| 贈与を受ける人の年齢 | 管理契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満。 |
| 所得 | 贈与を受ける年の前年の合計所得金額が1,000万円以下。 |
| 拠出期限 | 2027年3月31日まで。個々の管理契約の終了日とは異なる。 |
| 非課税枠 | 総額1,000万円。結婚費用300万円は、この1,000万円の内枠。 |
| 管理・申告 | 取扱金融機関との契約、同機関を通じた非課税申告、支出確認が必要。 |
契約時の年齢は、18歳以上50歳未満だ。昔の20歳以上という基準とは違う。
所得は額面の年収そのものではない。前年の源泉徴収票や確定申告書で合計所得金額を確認する。追加で資金を入れる場合も、その贈与について所得の条件を確かめる。
配偶者の父母から自分への贈与や、叔父・叔母からの贈与は、直系尊属(父母や祖父母など、自分より前の世代に当たる直系の親族)からの贈与には通常当たらない。養子縁組がある場合は親族関係を確認する。基本制度は国税庁No.4511で確認できる。
都度支払う支援と、一括贈与を比べる
扶養義務者から通常必要な生活費・教育費を必要な都度受け取り、直接その費用に充てる場合には、この一括贈与特例を使わなくても贈与税がかからない扱いがある。数年分をまとめてもらって預金として残す場合とは異なる。
そのため、親が支払のたびに支援できるなら、専用口座の手数料や領収書管理を伴う一括贈与を選ぶ必要性も比較したい。一方、将来の支援資金を今のうちに分けておく目的があるなら、支出見込みと残額課税を合わせて検討する。通常の非課税扱いは国税庁の生活費・教育費の説明を参照できる。
贈与者自身の生活費、介護費、予備資金を残したうえで、子や孫の今後の予定に合わせて金額を決める。1,000万円を入れること自体を目標にしない。
義明が考える800万円は上限より少ない。それでも、対象となる支出が少なければ残額は生じる。
明日香たちは、婚礼の予算、出産・保育の見込み、制度の対象かを分けて書いた。父母の生活・介護費と、贈与後に残るお金も同じ表で確かめる。
普通預金へ振り込む前に、専用の契約と申告を進める
普通預金へ送金するだけでは、この特例は使えない。金融機関等との管理契約に基づき、信託を利用したり、書面による贈与のお金を預けたりする、所定の方法が必要だ。
非課税申告書は、原則として資金を信託・預入れ等する日までに、金融機関へ出す。そこで受理された日に、税務署長へ出したものと扱われる。
契約日、送金日、申告書の受付を一緒に確認しよう。戸籍、本人確認、所得の資料も事前に聞いておく。
父と祖父から受けても、それぞれ1,000万円ずつが非課税になるわけではない。受け取る人の累計枠で管理し、複数の管理契約を重ねて使わない。
追加の資金には、追加の非課税申告が必要だ。氏名や住所が変わった場合も、金融機関で手続を確認する。
対象費用は、名称だけでなく支払先・日付・名義で確認する
主な対象は、婚礼、新居・転居、不妊治療・妊婦健診、出産・産後ケア、子の医療・保育に関する一定の費用である。ただし、それぞれに対象範囲と書類の条件がある。
結婚費用は300万円の枠内
挙式・披露宴の会場費や衣装代等が対象になり得る。婚約指輪・結婚指輪、新婚旅行などは、結婚に関連する支出でも対象に含まれない。婚礼費用は婚姻の日の1年前の日以後という支払時期の条件もある。
新居の家賃等には、契約と支払時期の条件がある。婚姻の日の1年前から、その婚姻の日以後1年を経過する日までに、受け取る本人が結んだ一定の賃貸借契約に基づく支払いが対象だ。支払いの対象期間は、その契約日以後3年を経過する日までになる。
「1年を経過する日」は、翌年の同じ日付の前日だ。何年分の家賃でもよいわけではない。家具の購入等も、家賃と一緒には数えない。
妊娠・出産・育児の費用
不妊治療、妊婦健診、出産、産後ケア、小学校に入る前の子の医療費や一定の保育料等が、対象になり得る。
診療内容、施設・事業者、費目を領収書で確かめよう。学校や習い事など、教育費全般へ自由に使える制度ではない。
対象費用と必要な記載事項は、こども家庭庁のQ&A・費目リストを、支払前に金融機関と照らし合わせる。対象と対象外の費用が一つの請求書に混在するときは、内訳の分かる明細を残すと確認しやすい。
父の800万円から、婚礼350万円と対象育児費150万円を全額この口座で支払ったと仮定する。婚礼は費目・時期・書類の条件を満たし、ほかの調整や運用損益、手数料はない架空の例だ。
800万円 − 婚礼350万円
− 育児150万円
= 300万円
婚礼は上限300万円まで
800万円 −(300万円+150万円)
= 350万円
350万円は、税額ではない。今すぐその全額に課税されるという意味でもない。明日香たちは、実際の支払額、制度で認められる支出額、現金残高を分けて記録する。
領収書の期限は払出方法で異なる
金融機関は、領収書等で支払の事実を確認・記録する。払出し済みというだけでは、税金を計算するときの「結婚・子育て資金支出額」に認められない。
| 選んだ方法 | 領収書等の提出期限 |
|---|---|
| 実際の支払後に、支払額を口座から払い出す方法のみ | 領収書等に書かれた支払年月日から1年を経過する日。 |
| 上記以外の方法 | 領収書等に書かれた支払年の翌年3月15日。 |
払出方法は、選んだ後に変更できない。表の「上記以外の方法」では、引き出した年と支払った年も対応させる必要がある。
12月に引き出し、翌年1月に使った場合、領収書を翌年3月15日までに出すだけでは、前年の払出しに対応する支出とは認められない。
最初に資金を入れる前の支出は対象外だ。
50歳到達等で契約が終わる時は、未提出の領収書等を、終了した月の翌月末までに出す必要がある。普段の1年等の期限とは別に、契約の終了日も管理しよう。
まだ婚姻前で戸籍等を出せない場合は、所定の婚姻予定を届け出る。そのうえで、支払日から1年を経過する日までに婚姻を証明する書類を出す扱いがある。
式の日程が変わったら、出した領収書の扱いも金融機関へ確かめよう。
50歳等で契約が終わると、使い残しの課税を確認する
契約が終わる主な理由は、本人が50歳になること、本人の死亡、残高がゼロとなり金融機関と終了に合意することだ。
2027年3月31日は、資金を新たに入れる制度上の期限だ。既存契約が、その日に一律に終わるわけではない。
50歳到達等で終わると、非課税で入れた額から対象支出等を引いた残額を、その年の贈与税の課税価格へ入れる。
贈与者の死亡時に、すでに相続や遺贈で受け取ったものとされた管理残額には、同じお金へ課税を重ねないための調整がある。
2023年4月1日以後に取得した分の残額を暦年課税で計算する場合は、直系尊属からの贈与の特例税率ではなく、一般税率を使う。
申告が必要なら、原則として翌年2月1日〜3月15日に行う。本人の死亡で終わる場合は、その終了時の贈与税の課税価格に残額を入れない。
贈与者が亡くなった場合は、管理残額を相続税へ反映する
契約中に贈与者が亡くなったら、その人に対応する管理残額を、相続や遺贈で受け取ったものとして相続税を計算する。
速やかに金融機関へ死亡を届け出て、死亡日以前の支出の未提出領収書も出す。計算に使う管理残額を確かめよう。
相続税額の2割加算が必要な孫等には、2021年4月1日以後に取得した分の管理残額についても、加算が関わる。
親に代わって相続する代襲相続人か、いつの資金かを確認しよう。孫ならすべて加算される、この口座なら加算はない、と一律に判断しない。
管理残額以外に、相続や遺贈で何も受け取っていなければ、一定の生前贈与加算をしない特則もある。
ただし、死亡保険金等も受け取った人は、その場合に当たらない。通常の遺産と、税法上の相続財産とみなすものを合わせて確認する。
教育資金や遺産分割上の扱いも分けて考える
教育資金の一括贈与は年齢、限度額、利用できる費用、終了事由などが異なる制度である。教育資金制度の新規拠出への適用は2026年3月31日で終了している。同じ支出の領収書を両方で使うことはできない。既存の教育資金口座がある場合も、どの口座からどの費用を出したか分けて記録する。
贈与税の非課税制度を使えたことと、後の遺産分割で特別受益として扱うかは別の問題となる。家族間の公平や持戻し免除(生前の援助などを相続の取り分の計算に戻さないという意思表示)については、特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)と生前贈与も確認したい。
実行前には、①今後の対象支出、②口座の手数料、③書類の管理担当、④50歳到達時の残額、⑤贈与者が亡くなった時の相続税を整理する。詳細な手続と計算例は国税庁の制度案内・Q&Aに掲載されている。
義明たちが最後に確認したのは、「800万円を非課税で渡せるか」だけではない。実際の支出は誰がするか、明日香が領収書をいつ出すか、残額をどう確かめるかまで決めておく。詩織の不安にも答えられるよう、父母に残す資金と娘へ渡す資金を並べてから金額を決める。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前贈与の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
2027年3月31日までに全額を使う必要があるか
2027年3月31日は現在の制度の拠出期限である。既存の管理契約が同日に一律に終了するわけではなく、50歳到達など個々の終了事由までの使途・書類管理が必要になる。
祖父と祖母から1,000万円ずつ受け取れるか
この制度の非課税枠は贈与を受ける人ごとに累計1,000万円であり、贈与者ごとに1,000万円ではない。結婚費用300万円も、その1,000万円の内枠である。
普通預金へ送金すれば非課税になるか
送金だけではこの特例を使えない。金融機関等との管理契約と、所定の期限までの非課税申告等が必要である。
使い残しても非課税か
50歳到達等で契約が終了すると、対象支出等を差し引いた残額の贈与税を確認する。贈与者が契約中に死亡した場合は、対応する管理残額について相続税の計算が必要になる。
同じ領収書を教育資金口座でも使えるか
同じ支出について両制度を重複適用することはできない。費用ごとに利用する口座と提出資料を分ける。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



