義母を介護した子の配偶者は、その関係だけでは相続人にならない。ただし、条件に合う親族なら、相続人へ特別寄与料というお金を求められる場合がある。
無償で療養看護等の働きをし、故人の財産を守ったり増やしたりする特別な貢献があったかを、民法1050条の条件に沿って調べる。
義母の澄江が亡くなり、麻衣は薬の棚を片づけていた。夜中に呼ばれなくなったのに、同じ時間に目が覚める。
病院への付き添いや、通所サービスがない日の介助も、夫の雄介と分担しながら、麻衣が多くを担っていた。
澄江の夫はすでに亡くなり、相続人は息子の雄介と正人の二人だ。雄介は「麻衣が介護した分を考えてほしい」と言った。
弟の正人は「兄さんの取り分を増やす話なのか、麻衣さんに払う話なのか」と聞き返す。
麻衣には、自分のしたことが取り分の交渉の材料にだけ見えるのがつらかった。正人には、どの制度で、誰に、何を求められているのかが分からない。この架空の家族で、介護した人の立場から、使える仕組みを考えていこう。
介護した人が相続人なら、寄与分による取り分の調整を検討する。相続人でない一定の親族なら、特別寄与料になる。
立場を確かめた後、介護の必要性、内容、外部サービスとの分担、対価、財産への効果を資料と結び付けよう。
介護した人が相続人でなければ、本人の寄与分として取り分を増やす制度とは別に、一定の親族の特別寄与料を検討する。相続人との関係と、家庭裁判所への申立期間を先に確認する。
介護した本人と、相続人の立場を分ける
麻衣は「澄江の息子の妻」という関係だけでは、相続人にならない。
麻衣自身への支払いを求める特別寄与料と、雄介自身の取り分を調整する寄与分は別だ。妻の介護によって、夫の取り分が自動的に増えるわけではない。
外部へ全面的に介護を頼むと財産が800万円になったところ、特別な無償介護によって1,000万円を保てたと仮定する。
これは、財産への効果を考える比較だ。差の200万円が、そのまま支払われる計算ではない。
特別寄与料の対象は、相続人でない一定の親族による、特別な無償の働きだ。相続放棄をした人や、欠格・廃除によって相続権を失った人は除かれる。
欠格は、法律で定める重大な行為等によって相続資格を失うこと。廃除は、故人への虐待等を理由に、家裁の手続で相続権を失わせることだ。友人や内縁の相手等、親族に当たらない人も、この制度の対象ではない。
介護した本人が子・配偶者などの相続人である場合の計算と手続は、介護の寄与分の計算方法へ進んでほしい。
五つの項目を、資料で確かめる
話合いや家裁で判断してもらうには、何をしたかと、財産への効果を資料で示す。次の五つに分けて整理しよう。
資料:診療録、診断書、要介護認定、主治医意見書、ケアプラン
確かめること:いつから、どの動作に、どの程度の介助が必要だったか。
資料:介護日誌、予定表、家族・事業所との連絡、写真
確かめること:日付、時間、食事・排泄・移動・服薬等の内容。
資料:利用票、提供記録、請求書、領収書
確かめること:専門職が行った部分と、家族が補った部分。
資料:口座履歴、生活費、給与、贈与、家賃等の資料
確かめること:介護の対価を受け取っていたか、その範囲。
資料:当時の介護報酬、施設見積り、支払実績
確かめること:介護で避けられた、合理的な支出。
五つの項目を、ばらばらに集めるだけでは足りない。要介護認定で必要な介助を調べ、利用票で専門職の担当時間を確認し、家族が実際に補った部分を示す。
お金等を受け取っていたら、その目的と範囲、無償といえるかも調べよう。当時の介護報酬や施設費を参考に、どの程度の支出を避けられたかを、合理的に説明する。
資料が多いほど良いわけではなく、五つの確認事項を資料でつなぐことが目的だ。介護の寄与分を計算するときの資料と考え方では、各資料の使い方と計算への接続を詳しく整理している。
介護の日数だけで、請求額は決まらない
外部に頼めば必要だった合理的な費用と、家族が実際に補った介護を比べる。
同居の全日数を介護日数にせず、専門職の担当時間も重ねて数えない。生活費や給与等を受け取った場合は、介護の対価か、その目的と範囲を資料で確かめよう。
介護年数や要介護度だけで金額が決まる、全国共通の式はない。
献身の深さをそのまま値段にせず、どの無償の働きが、財産を守ったり増やしたりしたかを示そう。
相続人かどうかで、制度が変わる
ここで、手続の入口を確認しておく必要がある。介護をした人が誰かによって、使える制度と相手・手続・期間がそれぞれ異なる。
制度:寄与分(民法904条の2)
相手・手続:遺産分割で話し合う。まとまらなければ家庭裁判所へ。
期間:死亡から10年を過ぎた後の分割では、原則として考慮しない。例外・経過措置がある。
例:子の配偶者
制度:特別寄与料(民法1050条)
相手・手続:相続人へお金を求める。まとまらなければ家庭裁判所へ。
申立期間:相続開始と相続人を知ってから6か月を過ぎる前、かつ死亡から1年を過ぎる前。
寄与分は、相続人の間で取り分を調整する制度だ。そのため、相続人ではない麻衣は、介護で財産を守っても、自分の寄与分を求められなかった。
そこで、一定の親族の特別な無償労務について、相続人へお金を求める道として、特別寄与料が設けられた。
特別寄与料を求めても、相続人になるわけではない。財産を引き継ぐ相続人へ、貢献に応じたお金を求める仕組みだ。
妻の介護で、夫の相続分が自動的に増えるという意味でもない。
条件と資料を別に確かめ、特別寄与料を200万円と認めた仮定例。雄介と正人の相続分は、それぞれ2分の1とする。
200万円×1/2
= 100万円
200万円×1/2
= 100万円
100万円+100万円
= 200万円
前の「財産が200万円残った」という比較だけで、特別寄与料も200万円と認められる意味ではない。
家裁への申立てには、二つの期間がある。相続開始と相続人を知ってから6か月を過ぎる前、かつ死亡から1年を過ぎる前に申し立てる必要がある。
これは、家裁で話合いに代わる判断を求める期間の制限だ。請求権が一律に消えるという説明ではない。2019年7月1日以後に始まった相続が対象になる。
話し合えなければ、期限内に家裁へ
誰へ、どの期間のどの介護について、いくらを求めるかを、資料とともに示す。
麻衣の相続分を、遺産分割の当事者として決める手続とは違う。
話し合えない・まとまらないときは、家裁へ「特別の寄与に関する処分」の調停・審判を申し立てる方法がある。
知ってから6か月と、死亡から1年の制限を確かめよう。介護記録が完成するまで、申立期間が待ってくれるわけではない。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内で、申立先や必要書類を確認できる。相続人の寄与分で問題になる10年の制限と取り違えないようにしたい。
今から介護記録を整理する
介護がまだ続いている段階なら、今日から記録の形を整えることができる。残しておくべき内容は次の六項目だ。
- 日付と時間:開始・終了、夜間対応、通院同行を記録する
- 行為:食事、排泄、移動、入浴、服薬、医療的ケアを分ける
- 本人の状態:できたこと、介助が必要だったこと、急変を記録する
- 専門サービス:訪問介護、看護、通所、短期入所の日時を重ねる
- 費用と対価:立替え、交通費、給与・生活費、贈与を別欄にする
- 裏付け:ケアマネジャー、医療機関、事業所の記録と対応させる
麻衣と雄介は、ケアプランと家のカレンダーを並べた。正人が知らなかった夜間対応も、サービスへ任せていた時間もあった。誰か別の家の例をそのまま使うのではなく、澄江自身がどんな介助を必要としていたかを、記録から確かめる。
介護が終わって日誌がなくても、要介護認定資料、利用票、診療録、通院履歴、連絡、勤務や交通の記録、近親者・専門職の説明から、日付順に整理できる場合がある。
記憶だけで日数を埋めず、確かめられる事実と推定を分けよう。資料を取り寄せる権限と手続も確認する。
三人は、まだ金額まで決められていない。麻衣は、夫の取り分の話としてではなく、自分が担ったことを、自分の記録として整理し始めた。
雄介も、自分の介護と妻の介護を一緒に数えないようにする。正人には、どの資料を見てほしいかを示す。
介護の重さは、家族の呼び方で変わらない。ただし、使える制度と期限は、介護した人の立場で違う。
相続人かを確かめ、特別な働きと財産への効果を調べ、期限を管理する。受け取る人と支払う人の税務も、金額を決める際に別に確認しよう。
続柄・日付・介護の内容をそろえる
介護した人と故人の続柄、相続人かどうか、相続開始と相続人を知った日を確認する。
介護の期間・内容・無償性、外部サービスと家族の分担、財産への効果を、対応する資料と並べよう。日誌や支払記録等には、何を説明する資料かを添える。
話合いがまとまらなければ、家裁への申立期間を確認する。知ってから6か月、死亡から1年という期間を、資料が完成するまで待たせない。
請求先となる相続人、負担の割合、求める金額の根拠も確かめよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、寄与分・特別受益・特別寄与料の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
義母を介護した子の配偶者は相続人になりますか
その関係だけでは相続人にならない。寄与分とは別に、相続人でない一定の親族による特別な無償労務について、特別寄与料を検討する。
長年介護すれば寄与分が認められるか
介護の期間だけでは決まらない。通常の扶養を超える貢献と、亡くなった人の財産の維持・増加への効果を示す。
要介護2以上なら認められるか
全国共通の数字だけで決まる基準はない。介護の内容、必要性、外部サービス、対価、財産への効果を確認する。
相続人でない親族も寄与分を請求できるか
寄与分は共同相続人の制度だ。相続人でない一定の親族の無償労務には、条件と申立期間が異なる特別寄与料を検討する。
亡くなってから10年で必ず寄与分が使えなくなるか
原則として10年経過後の遺産分割では考慮しないが、期限内の裁判所への請求、やむを得ない事由、経過措置の例外がある。相続人全員の合意による分割も可能だ。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



