相続 不動産が「売れない」とは、相続によって取得した土地や建物が、名義・権利関係の未整理・共有状態・老朽化・立地などの理由により、市場で売却できない、または売却が著しく困難な状態にあることを指します。
結論から言うと、相続不動産が売れない主な原因は「名義変更の未了」「共有状態の放置」「買い手がつかない立地・状態」の3つに集約される可能性があり、それぞれに対応する手順を踏むことで売却できるケースも少なくないとされています。
不動産を相続した人間の、ある共通した反応をご存知だろうか。
最初の一週間は「そのうち売ればいい」。一ヶ月後は「業者に頼めばなんとかなる」。三ヶ月後には、「……なんで、売れないんだ」という、静かな呆然。
相続不動産の「売れない」問題は、降ってくる。突然。しかも、じわじわと。
不動産さえ売れれば相続が片付くと思ってたのに、何ひとつ動かない……。
で、結論から言うと
相続不動産が売れない理由は、大きく分けて「3つの壁」に分類される。
ひとつは、登記・名義の問題。ひとつは、共有持分という地雷。そしてもうひとつが、物件そのものの市場価値だ。
この3つが、絶妙に絡み合うのだ。まるで、ほどこうとするほど固く締まる結び目のように。
「名義変更をしていない」という静かな爆弾
まず、知っておいてほしいことがある。
不動産は、相続が発生したからといって自動的に「あなたのもの」にはならない。民法899条の2、そして2024年4月から義務化された相続登記(不動産登記法76条の2)。これらが示すとおり、相続による所有権移転は「登記」をもって初めて第三者に対抗できるとされている。
登記が済んでいない不動産は、売れない。これは論理的必然だ。売主として買主に所有権を移転できないからである。
さらに言うと、2024年4月1日以降は、相続を知った日から3年以内の相続登記が義務化された。放置すると10万円以下の過料が科される可能性がある(不動産登記法164条)。「そのうちやる」は、もはや通用しない時代になっている。

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共有状態という、売却への最短ルートの封鎖
名義変更を済ませた。よし売ろう。──と思った瞬間に現れるのが、第二の壁。
「共有」だ。
兄弟3人で不動産を均等に相続した場合、その不動産は3人の共有財産になる(民法249条)。そして共有不動産の売却には、共有者全員の同意が必要とされている(民法251条)。
ここで何が起きるか。具体的には、こうだ。
- 兄は売りたい。弟は「もう少し待てば高く売れる」と主張。妹は「実家を手放したくない」と感情論。
- 3者の利害が一致しない限り、その不動産は市場に出せない。
- 業者に相談しても「共有者全員の同意書がなければ動けません」と、即座に返ってくる。
これが、共有状態の持つ破壊力だ。穏やかに見えて、売却という選択肢をガッチリと封じ込める。
なお、自分の持分だけを単独で売ることは法律上は可能だが(民法206条)、市場での買い手はほぼつかないと考えておいたほうがいい。共有持分だけを買いたい一般人は、まず存在しない。
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物件そのものが「売れない理由」を抱えている場合
名義変更も済んだ。全員の同意も取れた。さあ売却だ。──ここで三度、現実が立ちはだかる。
物件の「市場性」の問題だ。

以下は、相続不動産が売れにくい典型的なパターンだ。
- 農地・山林:農地法3条・5条の許可が必要。買い手が農業委員会の許可を前提とする必要があり、一般市場での流通が難しい。
- 再建築不可物件:建築基準法42条の接道要件を満たしていない土地。建物が老朽化しても建て替えができないため、買い手が著しく限られる。
- 過疎地・地方の土地:需要そのものが存在しない場合がある。更地にして売ろうとしても、解体費用が売却価格を上回るケースも。
- 老朽空き家付き物件:特定空き家に指定されると固定資産税の住宅用地特例が外れ、税負担が最大6倍になる可能性がある(空家等対策特別措置法)。
「不動産=資産」という認識が、時として幻想であることを示している。負の側面をきちんと把握しておくことが、次の一手を考えるうえで重要になる。
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では、どう動けばいいか。具体的なアクションを整理する
絶望することなかれ。売れない不動産にも、打てる手はある。順番に確認しよう。
ステップ1:まず登記状況を確認する
法務局またはオンラインで登記事項証明書を取得する。現在の名義人・抵当権の有無・共有者の確認。ここが出発点だ。費用は600円程度。動けない理由にはならない。
ステップ2:遺産分割協議で不動産の帰属を確定させる
遺産分割協議に法的な期限は定められていない。ただし、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内・相続税法27条)に間に合わせると、各種特例が使いやすくなる場合がある。
不動産を誰が取得するかを協議で確定し、相続登記を済ませる。これで「売れる状態」の入口に立てる。
ステップ3:売れない原因を分類する
名義の問題なのか、共有の問題なのか、物件自体の問題なのか。原因が違えば、解決策も変わる。農地なら農地転用の可否を確認する。再建築不可なら隣地との交渉が糸口になる場合もある。
ステップ4:「売る以外の選択肢」も検討する
相続土地国庫帰属制度(相続等により土地の所有権を取得した者が、一定の要件のもと国に土地を帰属させることができる制度・相続土地国庫帰属法)という選択肢も2023年4月から施行されている。全ての土地が対象ではないが、「引き取り手がいない土地」への一つの答えになる可能性がある。
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動き始めた人間に見えてくる景色
「売れない」という状態は、永続しない。多くの場合、原因は「手続きが完了していない」か「全員の意思統一ができていない」か「物件の状態を正確に把握していない」かのいずれかに帰着する。
原因が特定できれば、対処のルートが見える。対処のルートが見えれば、動ける。動けば、状況は変わる。
原因がわかっただけで、頭の中が整理された気がする。あとは一歩ずつ動くだけだ。
売れない不動産を抱えたまま固定資産税だけを払い続ける年月は、思った以上に人間の体力を削る。早めに動いて損をしたケースは、少なくとも筆者の知る限り、ほぼない。
知っておいてよかった、と思える情報だったなら幸いです。
けっこうオススメです。一歩目から始める相続不動産の整理。伝わりましたかね。
関連記事として、こちらも参考になります。
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よくある質問
相続した不動産の名義変更をしないままでも売却できますか
相続登記が未了のままでは、原則として不動産の売却は困難とされています。売却には売主として登記上の所有権を移転する手続きが必要であり、まず相続登記(名義変更)を完了させることが実務上の前提となる場合がほとんどです。なお、2024年4月以降は相続登記が義務化されています(不動産登記法76条の2)。
共有不動産を他の共有者が同意しない場合でも売却できますか
共有不動産の全体を売却するには、共有者全員の同意が必要とされています(民法251条)。自分の持分のみを売却することは法律上可能ですが(民法206条)、一般の買い手がつくケースは少ないとされています。共有状態の解消には、共有物分割請求(民法258条)という裁判上の手続きを利用できる場合もあります。
売れない不動産を相続放棄で手放すことはできますか
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法915条・938条)。相続放棄をすれば不動産を含む全ての相続財産(プラスもマイナスも)を放棄することになります。不動産だけを選んで放棄することはできない点に注意が必要です。
再建築不可の不動産は本当に売れないのですか
再建築不可物件は買い手が限られる傾向がありますが、「売れない」とは必ずしも言えません。隣地所有者への売却交渉や、現状のまま利用できる買い手を探すルートが考えられる場合もあります。ただし、通常の市場価格より大幅に低い査定になる可能性が高いとされています。
相続土地国庫帰属制度はどんな土地でも利用できますか
相続土地国庫帰属制度(相続土地国庫帰属法)は、建物が存在する土地・担保権が設定されている土地・境界が不明な土地などは対象外とされています。また、承認された場合でも10年分の管理費用相当の負担金が必要とされており、全ての「売れない不動産」に適用できるわけではありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





