遺言は、原則として、本人が亡くなった時から効力を生じる。書き方の条件、作成時の能力、何を誰へ渡すか、撤回・変更、遺留分、名義変更を分けて確かめよう。
検認が済んでも、有効性が確定するわけではない。一方、配分が不満というだけで、無効ともいえない。遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分だ。
父の遺言を見つけた長女の直美は、実家を自分が受け取る内容を読んだ。妹の沙耶は、預金を受け取る一方、家の価額と、父が遺言を作った頃の状態を確かめたいと言う。
母は既に亡く、相続人は二人だ。直美は、検認が終わればすべて決まるのか、と考えていた。
ここからは、遺言の効力と実行を確かめる架空の姉妹だ。人物・金額は、説明用となる。
遺言の方式は、本人の意思を確かめるための条件だ。検認は、書面の状態を明らかにして、改変を防ぐために行う。登記等は、自分の権利を第三者へ主張するためにも必要となる。
それぞれ役割が違う。直美と沙耶は、遺言があるだけで、その後の手続まで終わったとは考えないことにした。
方式、作成時の能力、撤回、条項の意味等を調べる。
誰が何を受け取るかを確かめる。
遺言書の状態を記録し、改変を防ぐための手続。
有効・無効を最終確定するものではない。必要な種類の遺言かも調べる。
銀行の払戻し、登記等を進める。
遺言があるだけで、名義変更や第三者への備えまで済むわけではない。
一つが済めば、残りが自動で終わる関係ではない。遺留分や必要な税の申告等も、別に確かめよう。
作成方法を確認する場合は自筆証書遺言の書き方、公証人を利用する場合は公正証書遺言の作り方も参照できる。
遺言を読むときは、いつ効力が生じ、何を誰へ渡し、誰がどの権限で実行するかを確かめる。
分け方が書かれていても、名義変更まで自動で済むわけではない。
効力が生じる時期を確かめる
遺言は、原則として、本人の死亡時から効力を生じる(民法985条)。作成しただけで、生前の預金や不動産が、受取人へ移るわけではない。
本人は、生前に財産を使ったり、遺言を書き直したりできる。
遺言に停止条件が付いている場合も調べよう。停止条件は、決められた出来事が起きると効力が生じる、という条件だ。その出来事が死亡後に起きた場合は、効力の発生時期も別に確かめる。
「自宅は長女へ」と書いてあっても、遺言にない財産、既に売却した財産、先に死亡した受取人の扱いまで一律には決まらない。現在の財産一覧と、遺言の日付・条項を並べて読む。
自筆・公正・秘密証書という方式の違いを確認したうえで、遺言の効力と対象財産を読む。
遺言書の種類は3つ|自筆・公正・秘密証書と発見後の手続で詳しく確認できる。
作成時点の判断能力が疑われる場合は、診療・生活の資料と遺言の内容を照らし合わせる。
遺言書が無効になる主な原因|方式・遺言能力・偽造と遺留分の違いで詳しく確認できる。
遺言全体と、作成時の事情を読む
妻へ財産を遺贈する条項と、妻の死亡後に弟らへ引き継ぐ条項が、同じ遺言に書かれていた裁判例がある。遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。
一部の条項だけを読むと、妻へ何を取得させるつもりだったかを、取り違えるおそれがある。最高裁は、そのような読み方による判断を取り消し、改めて審理するよう差し戻した。
最高裁は、文言だけを形式的に読むのではなく、遺言全体の記載、作成当時の事情、本人の状況等から、条項の意味を確かめるべきだとした。
後の裁判所の公開判決でも、この考え方が引用されている。
妻の死亡後に、弟らが必ず取得できる、と最終確定した判決ではない。
条項の意味を十分に調べず、単なる希望として扱った判断が、問題とされたものだ。
全体から意味を考えることと、自筆証書の書き方の違反を免除することは、別だ。作成時に必要な能力の条件も、なくならない。
曖昧なら直ちに無効、事情を考えれば方式違反でも有効、という両方の断定を避けよう。
この裁判例は、直美と沙耶の架空の話とは別の、実際の判断だ。
一部だけを切り離さず、全体から意味を考えるために参照する。その事件の取得者や結論を、別の家族へそのまま当てはめるものではない。
直美たちは、実家を長女へ渡す部分と、預金や、最後に残った財産の条項を一緒に読むことにした。
作成後に売った財産や、別の遺言も調べる。両立する部分と、両立しない抵触部分を、一件ずつ照らし合わせよう。
新旧の遺言や後の財産処分があるときは、抵触・撤回の範囲を確認する。
遺言書の書き直し方|新旧遺言の優先・撤回・保管制度の注意点で詳しく確認できる。
検認は有効・無効を決める手続ではない。必要な種類の遺言かと、原本の保管を確認する。
遺言書の検認手続|必要な遺言・申立書類・費用・発見後の順序で詳しく確認できる。
執行者の権限と、対象を確かめる
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、必要な行為をする人だ。
相続人への通知、財産目録、預金・登記等の手続を進める。ただし、無効な遺言を有効にしたり、遺言や法律にない権限を、自動で得たりするものではない。
執行者がいない場合等は、必要に応じて、家庭裁判所へ選任を申し立てる。
遺言で財産を受け取る受遺者、相続人、遺留分を持つ人との関係、債務・税金、売却の権限も確かめよう。
名義変更と、権利を守る手続を進める
遺言が有効でも、銀行や法務局で使う書類は、別に準備する。
公正証書の謄本、法務局保管の遺言書情報証明書、検認済みの原本等、方式に合う資料を確かめる。死亡と相続関係を示す戸籍等も調べよう。
相続で、法律の割合である法定相続分を超える権利を得た場合、その超える部分は、登記等をしないと第三者へ主張できない場合がある(民法899条の2)。
このように権利を第三者へ主張するための条件を、対抗要件という。遺言があるからと放置せず、名義変更と、権利を守る手続を進めよう。
決まった遺産を相続人へ引き継がせる遺言では、執行者が、対抗要件を備えるための手続を行える。
預貯金の払戻し・解約にも、規定がある。ただし、解約は、その預貯金債権の全部が遺言の対象である場合に限る等の条件がある(民法1014条)。
執行者なら、どの口座も自由に解約できるわけではない。遺言の条項、対象の預貯金、本人が別の意思を示していないかも確かめる。
直美が実家を取る例でも、登記と銀行では、提出する資料が違う。
沙耶は預金の払戻し、直美は登記と対抗要件を備える手順を確かめる。必要な相続税の申告・納税期限も、別に管理しよう。
有効性確認の資料
- 遺言書原本、封筒、検認調書、遺言書情報証明書
- 公正証書の謄本、証人・公証人に関する資料
- 作成時の診療録、介護記録、面談メモ、筆跡資料
- 作成時の財産一覧、登記、預金・証券資料
- 前後の遺言、売買・贈与・信託等の処分資料
- 遺言者と受遺者・相続人の関係を示す資料
書き方の条件、作成時の能力、解釈、偽造、相続欠格、遺留分は、別の問題だ。相続欠格は、法律の定める一定の行為により、相続人になれなくなることをいう。
何が争いかを分け、資料を集めよう。
法務局保管と公正証書は別の仕組みであり、取得・検認の扱いをそれぞれ確認する。
自筆証書遺言書保管制度|費用・必要書類・検認不要の注意点で詳しく確認できる。
内容への不満、遺言の効力、遺留分のお金の請求を分けて、必要な手続を選ぶ。
不公平な遺言への対応|遺言無効と遺留分請求を分けるで詳しく確認できる。
争いになったときの整理
- どの遺言・どの条項を対象とするか特定する
- 方式違反、能力、偽造、解釈、撤回、遺留分のどれかを分ける
- 原本と作成時資料を保全する
- 預金払戻し・登記・売却等の実行状況を確認する
- 必要に応じて遺言無効確認、執行停止・保全、遺留分請求等を検討する
検認済みだから争えない、公証人が作ったから証拠はいらない、と決めつけないようにしよう。意見が違う点ごとに、証明する資料を整理する。
遺言が有効でも別に確認する点:遺言の有効性と遺留分侵害は別問題だ。基礎財産、生前贈与、債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)、本人の取得額、相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年の期間等は遺留分の計算方法で確認する。
直美と沙耶は、原本、作成時の資料、ほかの遺言と財産、評価、名義変更の進み具合を並べた。
分かっていることと、未確認のことを分けよう。能力や解釈に疑問があれば、資料を示して相談する。父の意思を尊重するためにも、その意思をどう確かめ、実行するかを調べる必要がある。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺言の作成・解釈・執行の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
公正証書遺言なら必ず有効か
公証人と証人が関与するが、作成時の遺言能力、内容の解釈、詐欺・強迫、後の撤回などの争いが一切なくなるわけではない。
検認を受ければ有効になるか
検認は遺言書の状態を明確にする手続だ。有効・無効や、本人が作成したかを最終判断するものではない。
遺言は作成直後から効力を持つか
原則として遺言者の死亡時から効力を生じる。生前に財産が受取人へ移るわけではなく、本人は遺言を撤回・変更できる。
新しい遺言があれば古い遺言は全部無効か
後の遺言と抵触する部分は撤回されたものと扱われるが、両立する条項が残る場合がある。各原本と財産処分を比較する。
文言が曖昧なら無効か
直ちに無効とは限らない。遺言全体、作成時の事情、本人の状況から意味を検討する。ただし、方式違反や遺言能力の問題を、解釈だけで解消できるわけではない。
有効な遺言があれば登記をしなくてよいか
登記は必要になる。法定相続分を超える取得部分を第三者へ主張するための対抗要件と、相続登記の義務も別に確認する。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



