株式を相続したら、保有する銘柄と株数だけでなく、どの証券会社や特別口座で管理されているかを確認する。口座を見つける調査、相続人への移管、税の評価と売却時の計算は、それぞれ必要な資料が違う。
架空の家族で考えよう。父の正和が亡くなり、娘の紗季が配当金の通知を見つけた。
兄の圭介は父の株を持ち続けたい。一方、母の久美子は、生活費のため一部を現金にしたい。どの証券会社に口座があるかも、すべては分かっていなかった。
紗季は、口座のある金融機関と死亡時の残高を調べ、圭介は取得履歴を探すことにした。
父が買った額、相続税の評価額、今売って使える現金は、同じ数字とは限らない。目的ごとに、資料を分けて集めよう。
相続した株式の名義変更は、故人の証券口座や特別口座にある株式を、相続人の証券口座等へ移す手続だ。
まず、証券会社や信託銀行等の「口座管理機関」を探し、相続手続を確かめる。口座のある金融機関が分からなければ、JASDECの開示制度を使う。
株の発行会社と、口座のある金融機関は、別の確認だ。複数の証券会社に口座があれば、原則、各社で手続する。
相続税は、通常、故人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告する。名義変更が終わらなくても、期限は延びない。
口座のある金融機関を探す
株式は、持っていること自体が見えにくい。預金の通帳や不動産の登記のように、すぐ確認できる資料がないかもしれない。
評価や分け方を決める前に、まず、口座のある金融機関を調べよう。
手がかりになるのは、次の書類や記録だ。
- 証券会社からの取引報告書、特定口座年間取引報告書
- 配当金計算書、株主総会の招集通知
- 預金通帳への配当金振込や証券会社との入出金履歴
- メール、スマートフォンの証券アプリ、確定申告書
書類を見ても金融機関が分からなければ、証券保管振替機構(JASDEC)の「登録済加入者情報の開示請求」を検討する。相続人の戸籍等と、手数料が必要だ。
2026年10月18日に確認した公式案内では、不備のない書類の受付から、結果送付まで約2か月。状況により、さらに時間がかかる。相続税の期限から逆算し、早めに請求しよう。
添付書類は、案内に従ってコピーを送る。原本は送らない。現在の口座情報を調べる制度であり、過去の口座の履歴は分からない。
開示で分かるのは、原則、口座のある証券会社・信託銀行等の情報だ。銘柄や株数、残高、取引履歴まで、一括して分かるわけではない。
結果が届いたら、各機関へ改めて照会する。金融機関名の判明は、調査の終わりではない。
また、株式の相続では「どの会社の株か」だけでなく「どの証券会社で管理されているか」を確認しなければならない。複数の証券会社に口座があれば、原則として各社で手続が必要になる。配当通知が一枚出てきても、それが全部とは限らない。相続財産の調査方法も合わせて確認しておくと、見落としを減らせる。
証券会社で進める相続手続
金融機関が分かったら、相続の連絡をし、書類を取り寄せる。おおまかな流れは共通しても、必要書類や有効期限は、各社で違う。
- 証券会社へ死亡の連絡をし、相続手続書類を取り寄せる
- 残高証明書を取得し、遺産分割の対象と評価額を確認する
- 遺言または遺産分割協議で受け取る人を確定する
- 戸籍、法定相続情報一覧図、印鑑登録証明書、協議書などを提出する
- 取得者名義の証券口座へ株式を移管する
故人と相続人の口座が、別の証券会社にあることもある。その場合、まず故人と同じ証券会社で相続人の口座を作り、移管してから他社へ移すよう求められることがある。
口座開設から何が必要か、先に確かめよう。
遺産分割の進め方については、遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)の進め方も参照してほしい。
なお、投資信託や株式は、自動的に法定相続分(法律で決められた相続の割合)で分割されるとは限らない。遺産分割前に一人の相続人が単独で売却・払戻しできると決めつけず、遺言、遺産分割、証券会社の手続を確認してから動く。
久美子は売却代金を当てにしていたが、口座が見つかっただけでは、売れる株数や時期は決まらない。
家族は、移管のための口座と資料、手続中に取引できるかを証券会社へ尋ねた。納税や生活費を、処分できるか分からない残高だけに頼らないようにしたい。
古い株券と特別口座を調べる
書類の中から、会社名と株数が印刷された、古い紙の株券が出てくるかもしれない。2009年の電子化により、上場会社の株券は原則、無効になった。
ただし、紙が無効でも、株主の権利が直ちに消えたわけではない。
電子化前に預託されていなかった株式は、発行会社が信託銀行等に開いた「特別口座」にあることがある。
古い株券や配当書類から、発行会社の株主名簿管理人を調べよう。相続手続と、特別口座から証券口座へ移す方法を確かめる。特別口座は、株をそのまま売買する口座ではない。
非上場株式は、証券取引所に上場していない会社の株式だ。定款、株主名簿、譲渡制限があるかを、発行会社へ確かめる。
取引所の市場がないため、買い手の探し方や承認の手続も、上場株式とは違う。
上場株式の評価に使う四つの価格
残高証明書の金額を、そのまま相続税の評価額と考えない。相続税では、別に評価のルールを確かめる。
上場株式は、原則、課税時期の最終価格で評価する。相続の場合は、通常、死亡日の終値だ。
ただし、この価格が、次の三つの月平均のうち最も低い額を超えるなら、その低い額を使う。
- 課税時期の属する月の毎日の最終価格の平均額
- 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の平均額
死亡日の終値と、死亡月・前月・前々月の月平均を並べ、最も低い額を選ぶ、ということだ。
死亡日に向けて値上がりした時と、値下がりした時では、使う数字が変わる。
死亡日が取引所の休業日なら、別の取扱いを確かめる。複数市場への上場、権利落ち、負担付贈与等も、国税庁の通達と資料で確認する。
四つの数字を比べるだけでは、決められない場合もある。
非上場株式は、会社の規模や、どの区分の株主かにより、方法が変わる。似た上場会社との比較や、会社の純資産から評価する方法等を使う。
上場株式の終値と月平均の計算を、そのまま使わない。
含み益のある上場株式を相続した場合の二重課税の問題や、売却時の取得費・特例については、含み益のある上場株式を相続したら二重課税?取得費・売却税・特例で整理している。
説明用に、1,000株を持ち、死亡日の終値は1,200円、死亡月の平均は1,100円、前月は1,050円、前々月は1,080円としよう。権利落ち等の修正はない例だ。
最も低い1,050円を使うと、評価額は105万円になる。105万円が、納める相続税ではない。
後日、1株1,300円で全株を売れば、手数料・税等を引く前の代金は130万円だ。
引き継ぐ取得費を60万円と仮定すると、所得税の利益計算は、この取得費や手数料等から別に行う。相続税評価105万円に、自動で置き換えない。価格と取得費は、説明用の仮定だ。
正和の通常の課税口座にある1,000株。権利落ち等の修正がなく、引き継ぐ取得費は60万円という仮定だ。NISAの例ではない。
死亡日の終値:1,200円
死亡月の平均:1,100円
前月の平均:1,050円
前々月の平均:1,080円
この例の最低額は1,050円。
1,050円 × 1,000株
= 評価105万円
1株1,300円で全株を売ると、
費用・税を引く前の代金は
130万円。
所得の計算は、引き継ぐ取得費60万円や手数料等から行う。評価105万円に、自動で置き換えない。
評価105万円は、納める相続税でも、手元に残る現金でもない。価格・取得費は説明用で、実際の相場や税額を示す図ではない。
申告期限と売却時に必要な資料
名義変更が終わらなくても、相続税の申告期限は変わらない。原則、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内だ。
分け方が決まる前に申告し、後の分割に合わせ、修正申告や更正の請求をする場合もある。更正の請求は、多く申告した税額等を直すよう、税務署へ求める手続だ。
移管や分割が終わるまで、申告を後回しにしない。
単純承認等で相続した株は、原則、故人の取得費を引き継ぐ。限定承認等は、別に確かめる。
買った時の取引報告書等がなければ、利益の計算で不利になる場合がある。早めに書類を探しておこう。
相続等で財産を受け取った本人に相続税が課税され、その財産を所定期間内に譲渡すると、相続税の取得費加算の特例を使える場合がある。対象期間は相続開始の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までだ。売却所得の種類や添付書類も確認し、所得税の申告で適用する。相続税申告の費用や税理士への相談については、相続税申告の税理士費用も参考になる。
紗季たちは、口座管理機関ごとの調査・移管・価格資料の確認状況を一覧にすることにした。圭介の保有希望と久美子の生活資金を並べ、受け取る人と売却方針を具体化する。ほふりの照会は公式の開示案内、評価は国税庁No.4632を確認したい。
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
投資信託は、種類と口座も確認
投資信託は、銘柄と口数に加え、株式投資信託、公社債投資信託、MRF、外国投信等の種類を調べる。一般口座・特定口座・NISA等、口座の区分も確かめる。
相続人へ移せる口座、必要な申請、解約や償還の扱いは、商品と管理する金融機関ごとに確認する。
相続税の評価資料と、後日売却・解約する時の取得費は、別の欄に記す。
通常の課税口座では、原則、故人の取得費等を引き継ぐ。一方、NISAの非課税口座から相続する場合等は、取得価額の扱いが違う。
すべて死亡日の価格に直したり、すべて父の購入額のままと決めたりしない。
紗季は金融機関へ、相続に使う評価資料、移管先の条件、引き継がれる取得価額、相続時の精算や源泉徴収の有無を商品ごとに確認することにした。解約して現金が必要な場合は、申込みから受渡しまでの日数や売却停止等の条件も確認する。国税庁の株式等の取得費の案内では、通常の相続とNISAからの払出しの取扱いが区別されている。
よくある質問
JASDECで残高まで分かるか
分かるのは口座管理機関等の情報だ。銘柄・株数・残高は各証券会社等へ照会する。
開示にはどれくらいかかるか
2026年10月18日に確認した公式案内では不備のない書類の受付から約2か月を要し、更に時間がかかる場合もある。期限から逆算して請求する。
戸籍の原本を送るか
案内に従ってコピーを提出する。原本は送らない。
相続した株の取得費は死亡日の価格か
単純承認等では原則として故人の取得費を引き継ぐ。取得時の取引記録を保管する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



